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5話 ジェット9歳③

「そうだジェット、村長が来週から魔術の授業をしてくれるそうだぞ。ちょっと事情が事情だからな。リディのことも一緒に見てくれるそうだ」


 父さんが風魔術を使いながら話し掛けてきた。

 涼しい風が俺たちの方に吹いてくる。


「本当? やったぜ!」


「やったぜ」


 リディが俺に合わせて声を上げる。

 うん、多分あまり何のことか分かってないな。


「ジェットと同い年は村に居ないから、村長としては都合が良かったみたいだな。それでしばらくは俺たちにも授業を手伝って貰いたいそうだ」


「ええ、分かったわ」


「俺も狩りが休みの時は出来るだけ手伝いに行く」


 父さんに風魔術を見せて貰った後、俺も風魔術を使ってみる。

 まあ予想通りゆるーい風が吹くだけだった。


「はっはっは、お前の年なら使えるだけでも十分凄いんだぞ。まあ練習あるのみだ」


 風魔術に関しては今度どうにかしなきゃな。

 闇魔術は両親が使えないから今は保留だ。村長が使えるらしいので授業の時聞いてみよう。


「次は無属性だが……そう言えばジェット、俺も少しだけだが『身体活性』が使えるようになったぞ」


 そう言って父さんが『身体活性』を発動する。

 すると、父さんの体の中を魔力がゆっくり流れ始めた。


「まあ、まだまだ実戦じゃ使えたもんじゃないけどな。これに関しては俺も練習あるのみだ」


 そう言いながら父さんが棒切れを俺に渡してきた。


「お前の場合、『身体強化』に関しては問題無く使えているからな。むしろ『身体活性』を俺が教えてもらっているくらいだ。だからこれに関しては単純に剣や槍の稽古をすることにした」


 父さんは自分に『身体強化』を施す。


「『身体強化』でも『身体活性』でも好きに使っていい。ただし、それ以外は禁止だ。もし俺に一発でも攻撃を当てることが出来たら今日の晩御飯のおかずをお前にあげてもいいぞ」


「本当? よーし、今日の父さんの分のおかず貰った!」


 俺は『身体活性』を発動させる。


「はっはっは! そう上手くいくかな?」


 それから今日一日ずっと父さんと稽古をしたんだけど、結局一発も当てることは出来なかった。逆に俺は何度も叩きのめされた。

 ……悔しい!



 ◇◇◇



 一週間後、俺とリディは母さんに連れられて村長の家前の広場にやって来た。

 そこには村長と他に数人の大人、それと俺より少し年上の子供が十人近くいた。

 あ、近所に住むエリン姉がこっちに手を振っている。俺とリディも手を振り返す。


「おお、こっちだこっち」


 村長が俺たちを手招きする。

 村長はかなりの大男だ。母さんの倍はあるんじゃないかってくらい体が大きい。少し小さめの服を着ているのか動く度にはち切れそうになっている。

 髪や髭に少し白髪が混じってはいるが、精悍な顔つきで気力に満ち溢れている。

 そして俺たちを見てニカっと笑う。それを見てリディが母さんの後ろに隠れた。

 ……村長はちょっとショックを受けているみたいだ。


「うおっほん。えー、少し前にも話したが、今日からここにいる二人にも魔術の授業を受けてもらう。男の子の方がジェットで女の子の方がリディじゃ。皆仲良くな」

 

「ほら、ジェット、リディ、自己紹介しなさい」


 母さんに言われ、リディと一緒に一歩前へ出る。

 全員の視線が一気にこちらに集中する。うー、緊張する。


「ジェットです。えーと、今日からよろしくお願いします」


「リディです。よろしくおねがいしましゅ」


 リディがちょっと噛んじゃった。

 俺たちは揃ってペコリとお辞儀する。


「えー、こんなチビたちも一緒かよ」


 声の方を見てみると俺よりかなり体が大きな奴がいた。

 その声を聞いてリディが俺の後ろに隠れてしまったのでそいつを睨み付けてやる。


「何だよ、チビのくせに生意気な奴だな」


「グレン、儂が許可を出しとる。問題無い」


 村長が間に入る。


「だってよー」


「見た目で判断すると痛い目を見るぞグレン。この子は既に自力で『身体強化』を身に着けておる。それにな、『身体活性』を編み出したのは何を隠そうこの子なんだぞ」


 そう言って村長が俺の頭を撫でる。

 力加減が下手糞でちょっと痛い。


「嘘だあ。そんなチビに出来る訳ないじゃん」


 ちょっとイラっとしてきた。


「嘘じゃない」


「へっ、口では何とでも言えるよな」


「おにいはうそいってないもん」


「豆チビは黙ってろよ」


 リディが涙目になる。

 この野郎……うちの可愛い妹が豆チビだと!?


「いい加減にせんかグレン! 半年足らずで『身体強化』を身に付けたからと天狗になりおって!」


 な、村長たちに教えて貰ったからとは言え半年だって!?

 俺なんか自力ではあるけど三年もかかったってのに……

 偉そうな奴だけど実力は本物みたいだ。だけど、


「おいデカブツ。誰が豆チビだって? 取り消せよ」


 ここで怒らなきゃ兄貴失格だ。


「何だよ、本当のことじゃねえかよチビと豆チビ」


「このデカブツ、一度ならず二度までも……来いよ、ぶっ飛ばしてやる!」


「上等じゃねえかチビ」


「止めなさいジェット! グレン君、あなたもいい加減にしなさい!」


 母さんが止めに入って来た。


「うるせえクソババア!」


「……ジェット、大怪我させちゃ駄目よ」


 母さんの表情が抜け落ちた。背後に鬼が見えた気がする。

 グレンって奴もビビってる。勿論俺も。


「ナタリア、お前まで煽ってどうするんだ……」


「あら、子供の喧嘩ですもの。お互い一発殴り合った方がスッキリすると思いますよ村長? 怪我しても私がきちんと治しますし」


「はあ、落ち着いたかと思ったがお前も相変わらずだのう。仕方ない……グレン、ジェット、こっちへ」


 俺たちは村長に呼ばれ端の方に移動する。

 他の皆もついて来る。

 リディはエリン姉に抱っこされてるみたいだ。


「今回は特別だからな。またやるようなら儂のスペシャルメニューを受けてもらうぞ」


 何だろうスペシャルメニューって?

 グレンの奴がちょっと青褪めてる。こいつ経験者か。


「『身体強化』か『身体活性』以外使用禁止。武器の類や金的みたいな危険行為も禁止じゃ。これが終わったらお互い禍根は残さんこと。いいな?」


「おお、いいぜ」


 俺も頷いておく。


「それではグレン対ジェットの一本勝負、始め!」


 村長の声が響く。


「ふんチビが、後悔させてやるからな! うぬぬぬぬ……うおおおおおおお!!」


 気合と共にグレンが『身体強化』を発動する。

 正直父さんのと比べるとかなりしょぼく見える。

 だが、悔しいがこいつはたった半年でこれを身に付けた天才だ。

 体も俺より大きいし決して油断してはいけない。


「おにいがんばれー」


 リディの声が俺に勇気をくれる。

 俺も素早く『身体活性』を発動させる。勿論筋肉痛を誘発させるようなへまはしない。

 こっちは凡才なりにずっと練習してきたんだからな!


「いくぞオラァーーーー!!」


 グレンの奴がこちらに向かって走って来る。

 簡単に避けられそうなスピードだけど多分これは罠だ。実際父さんにも何度も騙された。

 ギリギリまで引き付けるとグレンは右腕の大振りで俺を殴りつけてきた。

 俺はそれを左側に素早く避けつつ、がら空きになった腹に一発ぶち込む。

 急いで腕を戻しそのままグレンと距離を取る。

 もう少し遅かったら腕を掴まれていたかもしれない。父さんにはそれで何度も投げ飛ばされた。


「おぶぇぇえええ」


 口からゲロを吐きつつグレンが蹲った。

 しばらく警戒して様子を見るが全く動く気配が無い……あれ?


「それまで! ジェットの勝ちだ」


「おにいーーーー!」


 村長の終了宣言と共にリディがこっちに走って来る。

 ああ、転びそうで冷や冷やする。

 足元まで走って来ると両手を広げて来たので抱っこしてやる。


「おにい、かっこよかった!」


 興奮してちょっと鼻息が荒くなっているみたいだ。

 グレンの奴は村長が抱き上げている。その隣で母さんが光魔術を使って回復しているようだ。


「おうジェット、お前そんな強かったのかよ!」


 エリン姉もこっちに寄って来て俺の頭をわしゃわしゃ撫でる。

 うん、ちょっと照れ臭いなこれ。

 他の子供たちからも興味津々だったりちょっと怖がられたり。


「ほれ、少し予定と違ったが授業を始めるぞー」


 俺たちは村長の声を受けて再び移動を始めるのだった。

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