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43話 岩窟都市ヴォーレンド

 風呂は特に女性陣から大好評で、ヴォーレンドに辿り着くまでにまた入りたいとお願いされてしまった。

 あと、何故かリディから憐れんだ目で見られたり、レイチェルが俺の顔を見るとあわあわ言って焦ったりしてたんだけど、一体何があったんだろう?

 まさか、覗きでもしたと勘違いされたとかか!?

 流石に妹の風呂を覗いたりはしないぞ! リディが入ってなかったら? も、勿論そんなことしないさ!


 風呂でスッキリしてからの旅路は順調で、偶に魔物が現れる以外は平和そのものだった。



 それから……更に数日の馬車での移動を経て、途中もう一度風呂に入ったりしつつ、俺たちはついに岩窟都市ヴォーレンドへと辿り着いたのだ。


「うわぁ……カーグでも大きいと思ったけど、ここはもっと大きいんだね」


「ヴォーレンドはダンジョン目当てに多くの冒険者や商人、職人なんかが集まりますからね。その分少々荒くれ者が多かったりもしますが……賑やかで面白い町ですよ」


「レイチェルは来たことあるのか?」


「いえ、わたしもヴォーレンドは初めてですよ。カーグより東の方は少なくとも記憶には無いですね」


 俺たちは町の入り口に向かう。

 そこには俺たち以外にも馬車や旅人、冒険者たちが列を作って順番待ちをしていた。

 その最後尾に俺たちも並ぶ。

 暫くすると、俺たちの順番が回ってきた。


「おお、おかえりなさい、テオドールさん。予定より遅かったようですが、何かトラブルが?」


「ただいま。いえ、少々道中の護衛を見付けるのに手間取ってしまって。ですが、そのお陰でいい出会いがありました」


「そうですか、それは良かった。……はい、皆さん通って大丈夫です。ようこそヴォーレンドへ」


 俺たちはヴォーレンドの中に足を踏み入れる。

 おおー、カーグに比べると少々雑多な感じもするが、商人たちの客引きの声が響き、冒険者だと思われる恰好をした人たちが多くとても賑やかな町だ。

 ただ、その分酔っ払いや見るからに近付き難い人物も多く、穏やかな町だったカーグに比べると治安は良くなさそうだ。

 勿論ここではポヨンは鞄の中だ。


「それではまずはこのまま冒険者ギルドに向かって、依頼完了の手続きをしましょうか。あ、道中に私の店がありますので、先に妻と娘を帰します」


 テオドールさんの案内に従って、俺たちは冒険者ギルドへと向かう。

 道中、何人もの人たちがテオドールさんやダグラスさんに話し掛けてくる。

 どうやらこの二人はヴォーレンドで有名みたいだな。


 途中、大通りから脇道に逸れそのまま少し移動する。そして、その先にあった二階建ての建物の前でテオドールさんが馬車を止めた。


「ここが私たちが経営している商店です」


 レイチェルの実家『満月亭』を少し小さくしたくらいだろうか。

 小綺麗な外観の親しみ易さを感じる商店だ。

 確かテオドールさんは食料品や生活雑貨を主に扱っているんだったな。

 成程、目の前の商店なら入りにくさは全く感じないし、不衛生な印象も一切無い。その証拠に町の住民であろう子供連れの人たちが買い物をしている姿が目に入る。


「旦那様、おかえりなさい。予定より遅かったので心配しましたよ」


 馬車に気が付いた店員が商店から出てきてテオドールさんに声を掛けてくる。


「ただいま。遅くなってすまなかった。護衛を見付けるのに少々手間取ってね」


「そうでしたか。あれ? 仕入れた商品は何処に?」


「ああ、そうか。すみませんジェットさん、先に荷を倉庫に出して頂いてもよろしいでしょうか?」


「分かりました。俺たちはそれで問題無いです」


「それでは倉庫へ案内しますのでお願いします。オルト君、馬と馬車頼む」


「畏まりました」


 ダグラスさん、オリアーナさん、サニーちゃんを馬車から降ろし、オルトと呼ばれた店員に馬車を任せ、俺たちは商店の裏手にある倉庫へと移動した。


 倉庫の中でテオドールさんに指定された場所へ、リディが亜空間から荷物を出していく。

 ダグラスさんの分もここで預かるとのことなので一緒に出しておく。


「ははは……こんなにも運んでいたんですね。これ程の量の荷を何の手間もなく運べるとは……」


「折角だからとあなたが追加注文したからでしょ。それにしても……今回は何から何まであなたたちのお陰で本当に助かりました。ありがとうございます」


「リディちゃん、ジェット兄ちゃん、レイチェル姉ちゃん、ありがとうございます。ポヨンちゃんもありがとうね」


 リディが鞄からポヨンを出してサニーちゃんがポヨンを撫でる。

 ポヨンは撫でられて機嫌がいいのか小刻みに揺れている。


「いえ、そう言う依頼だったので……俺たちもいい経験をさせてもらいました」


「ふふ、もし冒険者を辞めて何処かで働きたいと言うのなら、是非皆さん全員うちで雇いたいわ」


「これ、オリアーナ。まぁ……私も同意見ですがね、ははは」


 こうやって評価してもらえるのは嬉しいな。

 大変なこともあったけど、この依頼を受けて良かったと思う。


「ここは私がやっておきます。あなたはモノクロームの皆さんをギルドに案内してあげて」


「バイバーイ。また遊ぼうねー!」


 オリアーナさん、サニーちゃんと別れ、俺たちは商店を後にする。

 そして、再びテオドールさんに案内され、冒険者ギルドへと向かう。


 一度大通りまで戻り、町の入り口と反対方向に進むと、カーグでも見た剣と魔物のシルエットの看板を掲げた大きな建物が見えてきた。


「おお、カーグのギルドより大きいな」


「ここはよそからも冒険者が多く集まりますからね。その分ギルドも大きいのですよ」


「まあその反面、人が多いだけあって問題のある奴も多いがの」


 ギルドの扉を開け、俺たち三人、テオドールさん、ダグラスさんの順で中に入る。

 すると、ギルド内にいた冒険者たちが一斉に俺たちの方へと視線を向けた。


 ああ、カーグのギルドでも最初は同じような感じだったな。ギルド内に酒場が併設されているのも同じだ。まあ、こっちの方が酔っ払いの数は圧倒的に多いけど。

 俺たちを値踏みする者、すぐに興味を失くす者、リディやレイチェルに舐め回すような視線を向ける者、何故か俺に敵意を向けるような視線も感じた。

 なんでだ? ここに来るのは初めてだし、勿論知り合いもいないのに。


 まあいいや。考えても仕方ない。

 リディとレイチェルを出来るだけ目立たない位置に立たせ、俺たちは受付へと進む。


「こんにちは。今日はどうされましたか?」


「こんにちは。彼らの護衛依頼完了の手続きをしてもらいたい。報酬はここに記した口座から」


 そう言ってテオドールさんは、懐から何やら書類を取り出しそれを受付嬢に渡した。

 少しボーイッシュな印象のショートカットの美人だ。

 落ち着いていたメリアさんと比べると、少しだけ勝気な印象を受ける。

 胸は……断崖絶壁が、って初対面なのに失礼だろ俺!


 受付嬢は、テオドールさんから書類を受け取りそれを精査していく。

 一瞬、俺とリディの頭の方に視線を向けて驚いた表情を見せたけど、すぐに元の表情に戻っていた。


 しかし……他の受付も見回してみたんだけど、見事に美人の女性ばかりだ。

 ギルドの受付は美人の女性じゃないと駄目って決まりでもあるのか?

 あ、でも出張所の受付は男の人だったな。


「……はい、確認いたしました。それでは依頼完了の手続きを行いますので、皆さんのカードをこちらへ」


 どうやら問題は無かったようだな。

 俺たち三人はカードを受付嬢へ渡す。


「えっ? Cランク? こっちの子はDランク!? はっ! し、失礼いたしました!」


 俺たちのカードを見て、思わず声を出してしまったみたいだ。

 周囲にもその声は聞こえていたらしく……


「おいおいおいおいおい、ジャネットちゃん、冗談キツいぜ。どう見たって駆け出しのぺーぺーと乳臭いちびっ子がそんなランクな訳ねーだろ。パパとママのカードでも持って来ておつかいでもやってんじゃねーか?」


 酒場の方から酔っ払いが大声を出す。

 その声を聞いて、周囲から笑い声が聞こえてきた。


 あー、カーグではそんなこと無かったから忘れてたけど、最初にレイチェルが言ってたな。ギルドではもしかしたら絡まれたりすることがあるかもしれないって。

 これがそれか。

 さっきの酔っ払いの言葉を聞いて、リディとレイチェルは俺の後ろに隠れてしまった。

 テオドールさんとダグラスさんは少しムっとした表情をしている。


「す、すみません。つい声を出しちゃって……」


 ジャネットと呼ばれた受付嬢が申し訳なさそうに頭を下げてくる。


「いや、別に大丈夫」


 もし、最初にこんな奴らに出遭ってたら、冒険者や冒険者ギルドへの印象は物凄く悪かっただろうな。

 それに、野盗に出遭った後のモヤモヤしてた時だったら、ますます泥沼に陥っていたかもしれない。


「ぎゃはははは、女の前だからってかっこつけてんのか~?」


 そう考えると、カーグを良くしようとしていたブルマンさんたちや、視野が狭くなってた俺を立ち直らせてくれたダグラスさんたちには感謝だな。

 お陰であの程度の野次なら全く気にもならない。


「あ、俺たちダンジョンに行ってみたいんだけど、何かやっておかないといけないことってあるか?」


「は、はい! ダンジョンは当ギルドで管理を行っており、入場はDランク以上とさせてもらってます。申請をして頂ければカードに入場許可の手続きを行います」


「おい、無視してんじゃねーぞ!!」


「なあリディ、やっぱりダンジョンに入りたいか?」


「うん!」


「あー、やっぱりか……」


「え? 駄目なの?」


 正直、リディには危険な場所に近付いてほしくない。

 村の外に連れ出してしまったせいで巻き添えにしちゃったのもあるしなあ……


「えっと、師匠」


「どうした?」


「師匠はリディちゃんを危険な場所に連れて行きたくないんでしょうけど、一人でお留守番させるより、師匠のそばの方が安全なんじゃないでしょうか?」


 さっきから喚き散らしている酔っ払い冒険者をちらりと見て、レイチェルが俺に提案する。

 あー……確かに。

 それに、万が一ダンジョン内で秘密基地と同じようなことが起こったとしたら……ここにリディ一人を残していってしまうことになる。一応ポヨンはいるけどそれだけじゃ流石に……


「……分かった。絶対一人で行動するのは駄目だぞ」


「うん! レイチェル姉もありがとう!」


「それじゃあ、俺たち全員分のダンジョン入場許可も頼む」


「分かりました! 報酬の用意もありますので少しお待ちを!」


 少し早口でそう言って、ジャネットさんは俺たちのカードを持って奥の方へ何やら作業しに向かった。


「おいゴラァ!! 無視してんじゃねえっつってんだろっ!!」


 ……まだ喚き散らしてたのか。

 そんなことする暇があるなら、依頼の一つでもこなせばいいのに。


 顔を真っ赤にした酔っ払い冒険者は、俺たちの方へ向かって来ようとしていた。

 周囲にも特に止める人はいない。

 はぁ、面倒くさい奴だな。


 リディとレイチェルを庇い、酔っ払い冒険者を適当にあしらおうかと思っていたら、


「全く、さっきから黙って聞いておったら、大の大人がみっともないのう」


 ダグラスさんが間に入ってきた。


「なんだと!? 髭親父! もういっぺん言ってみろ!!」


「お、おい、よせ! あれはダグラスさんだ! あの人に喧嘩売ったらこの町じゃ武器の調達なんて出来なくなるぞ!」


「なっ!?」


 パーティーメンバーであろう他の冒険者が酔っ払いを止めた。

 ダグラスさん……凄い影響力だ。


「ふんっ。その程度のことで拳を収めるくらいなら、最初から喧嘩なんぞ売るでないわ」


「……ちっ」


 酔っ払いは舌打ちをして足早にギルドから出て行った。

 パーティーメンバーの数人の男たちも、急いで会計を済ませ、ダグラスさんに頭を下げ、酔っ払いを追いかけてギルドを出て行った。


「お、お待たせしました! カードお返ししますね。ダンジョン入り口でカードを見せて頂けたら入場可能です! それと、こちらは今回の報酬です! お確かめ下さい」


 ジャネットさんが、申し訳なさそうな顔でカードと報酬の入った布袋を渡してきた。

 カードを受け取り、報酬を全員で確認する。

 ……あれ?


「テオドールさん、報酬がやけに多いような」


「ええ、それは私たちからの気持ちです。正当な報酬ですので受け取って下さい」


 その言葉に、俺たちはテオドールさんとダグラスさんに頭を下げ、報酬を受け取った。

 それを見て、テオドールさんたちは満足そうに頷いていた。

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