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4話 ジェット9歳②

「あっぢあつあっづ!!!」


「ちょっ、何やってんのジェット!」


 火傷した手を母さんが水魔術で冷やしてくれる。

 どうしてこんなことになっているのか、それは……



 ◇◇◇



「魔術を見せてくれ?」


 昨日、泣き疲れて眠ってしまったリディを布団に運んだ後、俺は父さんと母さんに頼み込んでいた。

 あの後、光以外の魔術も使ってみようと試してみたんだけど、どれもいまいちしっくり来ない。

 恐らくリディの書いたあの紙は本物だ。だとすると、俺は他の属性の魔術も使える筈なのに……


「お前も来年十歳になったら村長から魔術の基礎を習うことになる。それからでもいいんじゃないか?」


「でもあなた、あなたも見たでしょうさっきの光魔術。下手をすれば目に何かあってもおかしくないものだったわ。もしあれが火魔術だったりしたら……」


 母さんに言われて俺はぞっとしてしまう。

 もしかしたら俺は大好きな家族を危険な目に遭わせてしまうかもしれなかったんだ。


「……確かに。さっきのリディが書いたものが本物だとして、ジェットは他の魔術もあの規模、下手をすればもっと危ない規模で暴発させる可能性もあるわけか……」


「それにジェットのことだもの。放っておいたら『身体強化』の時みたいに自分でどうにかしようとしてしまうんじゃないかしら」


「知らない所で勝手なことをされるくらいなら目の届くところで練習させた方が安心って訳か。まったく、誰に似てこんな無茶苦茶な子に育っちまったんだか」


 父さんが俺の頭に手を置きながら苦笑する。


「あら、それは私に似てしまったからって意味かしら?」


「え? い、いや違うぞ! うん」


 めっちゃ慌ててるな父さん。

 まあ、父さんが自分に似てないって言うんなら自動的に母さんに似ているってことになるもんな。

 ちなみに俺たちには爺ちゃんや婆ちゃんは居ない。俺が生まれる前に流行り病で亡くなったらしい。父さんも母さんも一人っ子だったみたいだから親戚も全然いないんだよな。


「まあいいわ。それじゃあ明日、まずは母さんが見せてあげる。それまで自分でどうこうしようとしちゃ駄目よジェット」


「うん、ありがとう母さん」


「俺も狩りが休みの時に見せてやる。それと、村長にも掛け合ってみる。こうなってくると、ジェットには早めに基本的なことを色々教えておいた方がいいだろうからな」


「父さんもありがとう!」


「可愛い息子のことだからな。気にするな」


「そうよジェット。さあ、今日はもう寝なさい」


「おやすみなさい!」


 俺は早く明日になれ、と思いながら布団に潜り込むのだった。



 ◇◇◇



 で、今日の朝御飯の後、庭で母さんに火魔術を見せて貰っていた時についやっちゃったんだよね。


「もう、火に手を突っ込んだら熱いに決まってるでしょ! 下手したら火傷じゃ済まなかったわよ! それにリディが真似したらどうするの!」


 火傷した手がじんじんして涙が出そうになる。


「うー……でも母さんは熱くないんでしょ?」


「そりゃ母さんが使った魔術だからね。母さんの魔力で出来た火だから母さんは熱くないのよ。まあ、他に燃え移っちゃったら駄目だけどね」


 火傷した手を母さんの手が包み込む。

 すると、優しくて暖かい光が母さんの手から溢れ出る。


「確か光魔術は癒しの力を使うことも出来るのだったわね。これでいいのかしら? どうジェット、少しは痛みが引いてきた?」


 そう言われて自分の手を見てみる。

 すると、火傷がゆっくりと治っていくのが分かる。


「うん、大丈夫みたい」


「そう、良かったわ。初めて使うからこれでいいのかちょっと不安だったのよね」


「……おにい、だいじょぶ?」


 びっくりして母さんの後ろに隠れていたリディが顔だけを出してこちらを覗き込んでくる。

 父さんと母さんで話し合った結果、リディにも魔術を見せることになった。


 小さい子が真似して危険な目に遭わないように、魔術を教えるのは十歳からみたいなんだけど、うちの場合俺が既に魔術を使ってしまっているから、下手にリディにだけ教えなかったら逆に危ないと判断したみたいだ。勿論絶対に一人で危ないことをしないよう言い聞かせている。

 リディ自身の人を視る力のこともある。あれについても恐らく本物だろうと判断したようだ。

 あれを見る限りだと、リディも俺と同じ数の属性が扱えるみたいだしな。

 リディのことも含め、村長に相談してみるからこのことは誰にも喋るなと言われている。


「大丈夫だよリディ。ほら、もう痛くない」


 綺麗になった手を握ったり開いたりしてみせる。

 どうやら安心したようで、リディが母さんの後ろから出て来た。


「はあ、心臓に悪いわねぇ……とりあえず、予定とは違っちゃったけど、今のが火と水と光の魔術よ。地もここで見せてもいいんだけど、畑の方が色々やり易いしそっちに行ってからにしましょうか」


「あ、母さん。試しに火魔術を使ってみてもいい?」


「本当は駄目って言いたいんだけど、そうするとジェットの場合はこっそり危ないことしそうだからねぇ……それじゃあ何も無い所に、そう、その辺りね。母さん水魔術の準備しておくからそこで使ってみなさい。ただし、ゆっくりやるのよ」


 よし、お許しが出た!

 早速俺は手に魔力を集中させる。そしてさっき火の中に手を突っ込んだ時のことを意識する。


 料理に使ったり明かりの代わりだったりしか知らなかったけど、火ってあんなに熱いんだな。あのまま母さんが火を消さなかったら俺の手は炭にでもなってたかもしれない……


 ふいに母さんの手伝いをして炭にしてしまった肉のことを思い出す。

 ちなみにその肉だったものは泣きながら食べ終えた、父さんが。


 冬だと火の近くってとても暖かいんだけど、扱い方を間違ったら凄く危なかったんだな。


 そんなことを考えながらさっき触れた火をイメージする。

 そして手に集めた魔力を放出する。すると、俺の掌の上に拳くらいの大きさの火が現れた。


 うおおおおおおおおおおおお!! 出来た! 不思議だ、本当に手が熱くない。


 しばらく自分の火魔術を眺めた後、ふと母さんの方を見る。

 すると母さんが慌てて手に水魔術を集中させている姿が目に入る。


「ジェット!! もっと魔力を抑えて!!」


 って、うわっ!

 拳ぐらいだった大きさの火が、何時の間にか俺の顔くらいの大きさになっている。

 慌てて母さんに言われた通り魔力を抑える。すると、火は少しずつ小さくなって最後には消えていった。


「もう、ちゃんと集中していないと危ないでしょ!」


「ごめんなさい」


 その後、水魔術も試してみたんだけど、光や火と違って小さな水の塊を出すのが限界だった。


 うーん、何が駄目なんだろう……ちゃんと水を意識出来ていないのがいけないのかな。


 その後、母さんに連れられて俺たちは村の畑の方へと移動を始めた。



 ◇◇◇



「で、他の属性もそうだけど、こうやって直接そこにあるものに自分の魔力を馴染ませて動かしたりも出来るのよ……はぁ」


 何故母さんが溜息をついているのか……それは俺が今パンツ一丁で頭から下が土に埋まっているからだ!


「あっはっはっは、ナタリアのとこの息子は面白いねえ」


「おほほ……主人に似てか腕白に育ってしまって」


「おにいがやさいになった~!」


 畑仕事に来ていた村のおばちゃんが豪快に笑う。

 ここは村で管理している畑で、母さんも時々ここで働いているそうだ。


 何故俺が畑に埋まっているのか。

 それは土に対しての理解を深めようとした結果だ。決して野菜ごっこをして遊んでいる訳ではない!


 ここでは母さんに地魔術を見せて貰ったんだけど、一番得意とするだけあってとても凄かった。

 火や水みたいに土を生み出したり、それから地面に手を付けたかと思うと大きな穴を掘ってみたり。

 母さんが魔力を地面に流し込み、目の前の土が一気に動く様は壮観の一言だった。


 それを見て俺も自分で地魔術を使ってみる。

 だけど、やっぱり水魔術と同じく大したことは出来ない。


 やっぱり何かが足りない。……よし!


 俺は一気に服を脱ぎ捨て母さんの掘った穴に飛び込む。

 唖然とした母さんにこのまま埋めてくれと頼み込む。

 最初は反対していた母さんも最後には諦めて折れてくれた。


 もう一度地面に地魔術を使って俺の頭から下を埋める。


 そしてリディ曰く野菜となった俺が完成したのだ。

 あ、こらリディ! 土を掛けるんじゃない! うへぇ、口に入った……


「うぇ、変な味だしジョリジョリする……ん、土の中に魔力がある?」


「ええそうよ、魔術で生み出した土を混ぜ込んでるの。そうすると野菜が良く育つのよ」


「そこに魔獣の糞なんかを肥料にして混ぜてるからねえ。栄養満点さ」


「げえ! ぺっぺっ!!」


 おばちゃんの一言に戦慄が走る。

 早く口を漱ぎたい。


 気を取り直して……よし、やってみるか。


 埋まった状態のまま、自分の周囲の土に魔力を馴染ませていく。

 さっきより明らかに何か手応えがある!

 そしてそのまま自分の周囲の土を押し退けていく。すると、俺の周りの土が無くなり大きな穴になっていく。


「おにいをしゅうかくだー」


「へえ……流石村一番の地魔術の使い手の息子だ。こりゃ将来が楽しみだねぇ!」


「あはは、ありがとうございます。ほらジェット、早く出て来なさい」


 穴から這い出ると母さんが穴を埋め直した。

 とりあえず口を漱いで体を洗わないと……そうだ!


「母さん、俺川で体洗ってくる!」


「え? あ、こら待ちなさい!」


 俺は村の中を流れる川に向かって走り出す。

 そして川の中に勢いよく飛び込んだ。さあ、水魔術の練習だ!

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