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38話 次の目的地は?

 エルデリアの手掛かりの入手と、レイチェルの旅の同行の申し出があった翌日、ディンおじさんとアルマおばさんから「娘をよろしくお願いします」と頭を下げられた。

 レイチェル、ちゃんと家族と話をすることが出来たんだな。レイチェルたち家族の雰囲気も、昨日までと比べどことなく柔らかくなったように思う。

 俺は二人に頭を上げてもらい、「レイチェルの事は必ず守るから安心してほしい」と伝えた。


 ヴァンさんからは、「くれぐれも()()()をよろしく頼むよ?」と妙に力強くお願いされた。

 分かっているさヴァンさん。

 あんたも言っていた通り、俺もあんたと同じく妹を持つ兄だ。俺の妹(リディ)あんたの妹 (レイチェル )もどっちもちゃんと俺が守るさ。

 そうヴァンさんに伝えると、少し苦笑いをしていた。

 妹が心底心配なんだろうな。同じ兄としてその気持ちはよく分かる。


 こうして俺、リディ、レイチェルの三人は正式に冒険者パーティー『モノクローム』として活動することになった。

 今日はこれから冒険者ギルドに赴いて、パーティー結成の届け出をする予定だ。


 ちなみに、パーティーリーダーは俺が務めることになった。

 リディは兎も角、俺としてはこっちの常識が分かるレイチェルにお願いしようかと思ったんだけど……「弟子が師匠より上の立場になるなんてとんでもない!」と断られてしまった。

 リディからも、「一番強いのはおにいなんだからおにいがやればいい」と言われてしまい、二対一で俺の意見は却下されたのだった。



 三人+ポヨンで大通りを歩いてギルドに向かっていた所、前から見知った顔の冒険者の男とお腹の大きくなった女性が歩いて来た。

 男は俺たちに気付くと笑みを浮かべて挨拶をしてきた。


「よお、これからギルドか?」


「アルゴスさん、おはよう。俺たち三人、ギルドで正式にパーティー申請しようと思って」


「ありゃ、ジェットとレイチェルの二人はパーティーを組んでたんじゃなかったのか」


「あ! あの時の」


 リディがアルゴスさんの隣の女性を見て声を出す。

 その女性はリディに向かって柔らかい笑みを浮かべた。


「あの時は本当にありがとう。お腹の子共々あなたのお陰でこうやって無事に町を歩けているわ」


「妻のモリーだ。話は聞いている。妻と子供を救ってくれてありがとう」


 そう言ってアルゴスさんはリディに頭を下げる。

 リディは照れくさそうにしている。

 その後、俺たちはモリーさんに自己紹介をした。


「はっはっは、俺たち夫婦は揃ってお前たち兄妹に命を救われたって訳だ。ああ、ここで会えたから丁度いいな」


「そうね。えっとね、あなたたちが良ければなんだけど、この子の名前、男の子だったらジェットさん、女の子だったらリディちゃんから字を貰いたいなって思ってて。お願い出来ないかしら?」


 モリーさんがお腹を撫でながら聞いてくる。

 勿論何も問題なんて無い。

 俺とリディは力強く頷いた。


「ふふ、ありがとう。これでこの子もあなたたちみたいに強く優しく成長してくれると思うわ」


 リディはモリーさんのお腹を撫でに行った。

 モリーさんはリディの頭の上のポヨンに興味津々な様子だ。


「おお、それとCランクになったんだってな。おめでとさん。いきなり並ばれちまったな、はっはっは」


「えっと、ありがとう。でも、Cランクになったのは運が良かっただけで、まだまだ分からないことばかりだよ」


「そんなのはこれから色々経験していけばいいさ。レイチェルも一緒ってことは、パーティー組んだ後もカーグで活動を続けるのか?」


「いや、近いうちにライナギリアって国目指して旅に出ようと思ってて」


「確か……ずっと東に行って海を渡った国か。……寂しくなるな。と言うことはレイチェル、お前も」


「はい、師匠たちについて行くことにしました」


「そうか……頑張ってこいよ!」


「……はい!」


 レイチェルが力強くアルゴスさんに応えた。


「東ってことは、岩窟都市にも立ち寄ったりするのか?」


「がんくつとし?」


「なんだ知らなかったのか。洞窟型ダンジョンで賑わう『ヴォーレンド』って町だ。お前みたいな魔物討伐や素材採取メインの冒険者にとってはいい稼ぎ場所だぞ。ライナギリアまでは海も渡らなきゃならんし、道中の宿泊費なんかも考えるとかなり金が掛かる筈だ。ダンジョンに立ち寄って旅の資金を稼ぐのも悪くないと思うぞ」


 ……確かに。

 この前の報奨金や黒いゴブリンの魔石もあるけど、それとは別に旅の資金を稼ぐことも必要になるだろうしな。

 それに、目的地の『黒獣の森』も確か森林型ダンジョンだって言ってたし、ダンジョンがどんな場所なのか先に見ておくのも悪くないだろう。


「ああ、そうだ。お前たちのパーティー名はもう決まってるのか?」


「ああ。『モノクローム』ってパーティー名にしようかと」


「『モノクローム』か。成程、お前たちにピッタリなパーティー名だ」


 俺とリディを見ながらアルゴスさんがそう言った。


「あなた、これ以上引き止めるのも悪いわ」


「おお、すまんな。ジェット、モノクロームの活躍楽しみにしてるぞ。それと、何かあったら俺たちにも言ってくれ。力になるからよ」


 そう言ってアルゴスさんとモリーさんは、俺たちに手を振って去って行った。

 勝手なことをして少し叱られもしたんだけど、あの家族を救うことが出来て本当に良かったな。



 それから俺たちはギルドへ辿り着き、いつもの様にメリアさんに声を掛ける。


「おはようございます。三人でここに来たと言うことは」


「おはようメリアさん。この三人でパーティー『モノクローム』を結成したい」


「はい。パーティー結成おめでとうございます。幾つか書類に必要事項を記入してもらいますのでこちらへ」


 そう言って俺たちは、最初に冒険者登録を行った個室へ案内された。

 メリアさんから受け取った書類に、パーティー名、メンバー等必要事項を書き込んでいく。


 ああ、そうだ。

 さっきアルゴスさんに教えてもらったことをメリアさんに聞いてみようか。


「メリアさん、さっきアルゴスさんに岩窟都市って町の話を聞いたんだけど。そこに洞窟型ダンジョンがあるって」


「ヴォーレンドですか。ここカーグからは東へ馬車で一週間程の町ですね。道なき道を行く、とかでなければライナギリアを目指す場合はそこを通ることになりますね」


 そう言ってメリアさんが何やら思案顔になる。


「ライナギリアへの旅の資金を考えると、確かにヴォーレンドのダンジョンはジェットさんたちには最適なのかもしれませんね。ジェットさんの強さなら余程の無茶をしなければ大丈夫でしょうし」


 ダンジョン……やっぱり気になるよなあ。

 俺たちの目指す『黒獣の森』って場所もダンジョンなんだしな。

 洞窟型と森林型って違いはあるけど。


「なあ、リディ、レイチェル、どう思う?」


「……おにい、ダンジョンが気になってるんでしょ?」


 はは、我が妹にはしっかりバレてるようだ。


「えっと、わたしは師匠が行ってみたいならいいと思います」


 確かに『黒獣の森』のあるライナギリアまで最速で行くのも一つの選択肢だろう。

 だけど、それをするのなら色々切り詰めなきゃならなくなるだろうし、移動ばかりと言うのもそれはそれで辛いものがある。

 俺一人だったら多少無理な旅路も考えるけど、リディやレイチェルにそんなことさせたくないし。

 それならば、旅の途中でも何かしら資金の調達はしたい。

 そう考えると、ダンジョンの予習も兼ねてまずはヴォーレンドって町を目的地にするのもいいんじゃないかと思う。


 まあ、ライナギリアにエルデリアが存在しない可能性もあるんだけど……それについては今は考えない。

 そんなことを考えてたら身動きが取れなくなってしまうし。


「じゃあ、まずはヴォーレンドを目指そうと思うんだけど、いいか?」


「うん。ポヨンみたいに友達になれる子はいるかな~?」


「はい! わたしもダンジョン探索頑張ります!」


「それなら……あ、先に皆さんのカードをお預かりします。ちょっと待ってて下さいね」


 メリアさんは俺たちのカードを受け取ると、一度個室を出て行った。

 俺たちはダンジョンの話題を中心にたわいない会話をしながら暫くメリアさんを待つ。


「お待たせしました」


 俺たちのカードと、何かの依頼書? を持ってメリアさんが戻って来た。


「先にカードをお返ししますね。どうぞ」


 俺たちは自分のカードを受け取る。

 カードにはパーティー『モノクローム』所属、の文字が刻まれていた。


「わたしがパーティーに所属出来るなんて……えへへ」


 レイチェルが嬉しそうに呟く。


「これ以降は依頼をパーティーで受領可能になりますので活用して下さいね。それで、早速ですがヴォーレンドを目指すのであればこちらの依頼を受けてみてはどうでしょう?」


 そう言ってメリアさんがさっき持って来た依頼書を俺たちに見せる。

 なになに……護衛依頼?

 行先は……ヴォーレンドか。

 五日後出発予定みたいだ。よく見たら二日後と言う文字が斜線で消されている。


「メリアさん、護衛依頼って?」


「文字通り依頼者を道中魔物等から護衛するものです。条件は依頼者によって様々ですが、今回のものは道中宿場にも立ち寄るので比較的楽な部類ですね。何日か野営も挟むようなので、自分たちの食料や水、野営道具なんかの準備も必要ではありますが。その時には夜の交代での見張りも必要になりますね」


 成程。

 護衛をすればヴォーレンドへ確実に行けるのは、道を知らない俺たちにはありがたい。


「実はこの依頼、現在受け手がいなくて少々困っていたのですよ。おそらくモノクロームの皆さんだけで受けることになるので人数的に少々大変な部分もあるとは思いますが……報酬も悪くないですし、ジェットさんたちならこちらも安心して任せられます。いい経験にもなると思いますし、いかかでしょうか?」


 俺はリディとレイチェルを見る。

 二人は俺を見て頷いた。


「それじゃあ、その依頼受けてみる」


「はい、よろしくお願いします」


 こうして俺たちは、初めての護衛依頼に臨むのだった。

 五日後にはこのカーグを発たなければならない。

 それまでに色々今出来る準備もして、お世話になったレイチェルの家族たちにもきちんと感謝を伝えておかなきゃな。

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