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34話 掴んだ手掛かり

「それとな、今回お前たちを呼び出したのはそれだけじゃねえ。あの黒いゴブリンのことだ」


 メリアさんがお茶を用意し、俺とリディのカードを持って退室した後、ブルマンさんが用意されたお茶を飲みながらそう切り出す。


 あのゴブリンのことは既にリディにも話している。

 何と言っても俺たちにとって、数少ないエルデリアとの共通点だ。

 リディはそれを聞いた時、驚きながら喜んで嫌な顔をする、と器用なことをしていたけど。


「お前たちの住んでたエルデリア、だったか。そこじゃあのゴブリンが当たり前のように出没して、他のゴブリンは見掛けない。それで間違いは無いんだな?」


 俺とリディが同時に頷く。


「ああ。ただ、この前の黒いゴブリンは、エルデリアのゴブリンと違って頭も悪くないし、魔術を使うしで手強かったけど……」


「あのゴブリンの魔石とお前が前に持ち込んだ魔石、うちの職員が調べてみた所同種のものだと確認された。推測になるが、あのゴブリンが強かったのは、多くの実戦をこなし、何らかの特殊な条件を満たして異常進化を果たしたゴブリンだったからだろう」


 それについては俺も同じ意見だった。


「アルゴスの証言と実際に死体を見たり解体したりからの見立てだが、あのゴブリンは俺とガンドフたちのパーティーが協力して戦って、多大な被害を出しながらどうにか勝てるかどうかって所だ。あれより多少劣るとは言え、そんなゴブリンが普通に出没する場所にあるお前たちの村ってのは、俺の常識じゃ俄かに信じられねえ話になっちまうな」


 ブルマンさんが難しい顔になる。

 確かに、ここカーグと俺たちの村エルデリアではあらゆるものが違い過ぎる。

 多分、カーグのことを父さんや母さんが聞いても、そんな場所のことはすぐには信じられないだろう。

 でも、エルデリアもカーグも確実に存在する場所だ。そのことを知ってるのは俺とリディだけだけど間違いは無い。


 そこへメリアさんが更新した俺たちのカードを持って戻って来た。

 そのカードが俺とリディに手渡される。

 Dだった部分がCに変わっていた。

 メリアさんはカードを渡した後は、ブルマンさんの後ろに控えている。


「でだ。可能なんだったらお前たちの事情が知りたい。勿論話したくなかったり話せない事なら話さなくてもいい。他には口外もしねえ。もし、俺たちを信用して事情を話してくれるんなら、出来る限りの協力を約束する」


 ブルマンさんとメリアさんが真剣な眼差しで俺たちを見る。

 俺はリディとレイチェルを窺う。

 二人は俺を見ると頷きを返す。信用してもいい、ってことかな。


「……分かった。俺たちの事を話すよ。多分ブルマンさんとメリアさんにとっては突拍子も無いことばかりだと思うけど、最後まで聞いてほしい」


 二人が頷いたのを確認して、俺は今までの経緯を語った。


 エルデリアのこと。

 村人全員が魔術を扱えること。

 周囲の森に出没するゴブリンを始めとした黒い魔獣たちのこと。

 そして、俺たちが謎の光に包まれて、よく分からないままカーグへとやって来たこと。


 時に目を見開き、時に何かを考えながら、二人は最後まで黙って俺の話を聞いてくれた。




「あー……正直お前たちの非常識っぷりを知らなきゃとてもじゃねえが信じられねえ話ばかりだったな」


「ええ……村人全員が魔法……いえ、魔術を扱う村ですか……」


「5メートル級の黒い大猪だと? それを十三の時一人で倒したとか……だっはっはっは! お前は無茶なことばかりしてやがんなあ!」


 ブルマンさんが豪快に笑う。


「で、嬢ちゃんは以前にもゴブリンに腰布を投げられてたってのか。確かゴブリンのその行動は……」


「……求愛行動、と言われていますね」


「嬢ちゃんはテイマーだからな。その辺の何かがゴブリンの琴線に触れたのかもなぁ」


 それを聞いたリディの顔が嫌悪に歪む。

 まさか、あの行為にそんな意味があったなんて……

 ちっ、あの変態クソゴブリンどもめ。うちの妹はお前たちには絶対にやらん!


「レイチェルさんはお二人の事情を知っていたのですか?」


「はい……丁度こっちに来たばかりだった二人に助けてもらって、そのお礼にウチの宿に泊まってもらってその時に。それで、他の人にはむやみに話さない方がいいってわたしが」


「ああ、賢明な判断だ。普通はこんな話聞かされた所で誰も信じないだろうよ。むしろ頭の中身を疑われる」


「ですが、二人のデタラメさを見た後なら納得出来ます。色々腑に落ちたと言うか」


「あの~……」


 ここでリディが口を開いた。


「二人はお米って知らないですか? レイチェル姉たちは聞いたことが無いって……」


「お米……ですか。マスター、確か」


「ああ、ここより……ずっと東の地域だったっけか、一部でパンの代わりに食べられていると聞いたことがある。俺は食ったことは無いが、お前たちの村だとそれが主食なんだったか」


 おお! まさかここで米について聞けるとは!

 それなら、


「もしかして、醤油や味噌もそっちの方だと使われてたり?」


「うーん……そこまで詳しいことは分からねえな」


「ですが、こちらとは食料事情が違うことを考えると、その可能性はあるのではないでしょうか? もしかしたらお二人の住んでいた村、エルデリアはここよりずっと東方にあるのかもしれませんね」


 これはありがたい情報だ!

 そうか、米が東の方で食べられているのなら、確かにエルデリアも東に存在する可能性が高い。


「よし! 俺たちの方でもお前たちの村について色々調べといてやる。まずはあの黒いゴブリンについて、各地域のギルドに問い合わせてみるか。ここら辺じゃ見たことも無い種だったが、お前たちが住んでる村に近い地域だと見られるのかもしれねえ」


「はい。少しお時間は頂くとは思いますが……ギルド間には通信用の道具が存在します。魔石が大量に必要になるので滅多なことでは使いませんが、今回はそれを使って各地から情報を集めてみます」


「えっと、いいのか? そんなものを俺たちの為に使って……」


「出来る限り協力を約束するって言っただろ? それにお前たちはこの町の恩人だ。何より俺がお前たちを気に入った!」


 ブルマンさんとメリアさんが俺たちに笑いかけてくる。


「……ありがとうございます」


「ありがとうございます!」


 俺とリディが同時に頭を下げる。

 レイチェルたちと言い、ブルマンさんやメリアさんと言い、この町の人たちには親切にしてもらってばかりだ。

 飛ばされた先がカーグで本当に良かった。俺もこの人たちの厚意に恥じないように応えよう。

 自然とそう思えた。


「何か分かり次第お二人にお伝えします。それまでは是非カーグでの生活を楽しんで下さいね」


「まあ、俺としちゃこのままカーグに住んでくれたって一向に構わないんだけどな!」


 そう言いながらブルマンさんは豪快に笑った。


 確かにそれも悪くはないのだろう。

 でも、俺たちには帰りを待つ家族がいる。

 せめて、父さん母さんには無事な姿を見せてやりたい。


 ふとレイチェルを見ると、どこか寂しげな表情を浮かべていた。


「どうしたんだレイチェル?」


「へ? ああ、いえ、何でもないですよ! 良かったですね! これで村のことが何か分かるかもしれませんよ」


「ああ、そうだな」


 レイチェルは慌てて表情を取り繕う。

 その後はリディと手を合わせて一緒に喜んでいた。

 うーん……



 こうしてブルマンさんたちに事情を語った後、俺たちは冒険者ギルドを後にする。

 今日は大事を取ってこのまま宿に帰って休むことにした。

 帰り道でもまた多くの人に囲まれ、やはり普段の数倍の時間を費やしながら移動することとなった。

 ……いつまで続くんだろ、この状況?



 ◇◇◇



「お疲れ様でした、マスター。態々嫌われ役を買って出るとは……」


「ん? ああ、大人の務めってやつだ。さっきも言ったが単にあいつらを気に入ったのもある」


 ジェットたちが退室した後の部屋で、カップやポットを片付けながらメリアがブルマンに話しかけた。


「あのぐらいの年代は、大きな成功に得てして調子に乗っちまうもんだ。そんでそのうち何か取り返しのつかないことをやらかしちまう。そうなる前に誰かがちゃんと矯正してやらんとな」


 メリアは手を止め少し難しい顔になる。


「六年前のあの時ですか……確かレイチェルさんの……」


「ああ。二度とあんなことを起こさない為にも……な」


「マスターはよくやってくれていると思いますよ。マスターが新人教育に力を入れ始めたお陰で、カーグの冒険者は他の地域に比べ、格段に問題行動が少ないですし」


「だはは、だといいんだがな。まぁ正直、今日は怒鳴り合いにでもなると思ってたんだがなぁ。若いやつが成功にいい気分になってるとこに冷や水をぶっ掛けたんだからな。あそこまで素直に話を聞くとは思わなかった。やはり、育った環境の影響なんだろうな」


 そう言ってブルマンは残っていた茶を一気に飲み干し、カップをメリアに渡す。


「よし、それじゃあいつらとも約束したし、俺たちも働くか。まずはあの黒いゴブリンについて纏めた書類を用意する。その後はそれを各地のギルド宛てに送ってくれ。送るギルドについても後で指示する」


「分かりました。それでは一旦失礼します」


 退室したメリアを見送ったブルマンは自分のデスクに戻り、手元の書類にペンを走らせるのだった。

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