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33話 危機を乗り越えた先に

 ゴブリンキング討伐の緊急依頼と、別のゴブリンキングのカーグ襲撃があった日から数日後――


「あ、師匠! もう動いても大丈夫なんですか?」


「ああ、どうにか回復したよ。お昼を食べたらギルドに顔を出そうと思ってるんだけど」


「ああ……呼び出しの件ですか。今日は休んで明日でもいいんじゃ」


「いや、面倒なことは早く終わらせたいからな」


「……分かりました。お昼用意してきますね」


 あの日の無茶な『限界突破(オーバードライブ)』使用の代償に、俺はここ数日満足に動くことすら出来なかった。

 ヌシの時と違って意識はちゃんとあったけど……まあ、その影響で動けない時の世話をしてもらうのがかなり恥ずかしかったり。


 リディが魔力切れで倒れた後、あの場にいた冒険者たちや住民たちと共に残ったゴブリンどもを殲滅し、俺も魔力切れを起こし倒れた。

 その後の顛末は、目が覚めてからレイチェルに聞いている。


 あの後、日が暮れてから救援部隊が町に到着。町中と町の周囲に潜んでいたゴブリンどもを殲滅したそうだ。

 で、俺とリディはその時の状況を説明してもらいたい、とギルドから呼び出しをされたんだけど……

 魔力切れだった俺とリディは、翌日には目を覚ましたけど、俺はまともに動くことが出来ない。

 『限界突破(オーバードライブ)』の後遺症には光魔術の治療も効果が薄いしな。

 リディだけを行かせる訳にもいかないので、ギルドには暫く待ってもらっていたのだ。



 昼食を食べた後、俺たち三人は宿を出てギルドへ向かう。

 レイチェルは特に呼び出されてはいないけど、一緒に来てもらって構わないとのことなのでついて来てもらっている。

 その道中、


「お、白黒兄妹! ゴブリンどもから町を救ってくれてありがとうよ! もう体は大丈夫なのか?」


「え、白黒兄妹だって? うおおおおお! この町の救世主だ!」


「きゃああああ! 妹ちゃん可愛いいい! お兄さんもいい男じゃない!」


  ……なんか滅茶苦茶声を掛けられる。白黒兄妹って……

 ま、まあいい男って言われるのは悪い気はしないけどな。

 その中でも特に、


「おおリディちゃん! 今日はポヨンってスライムは一緒じゃないのかい?」


「リディちゃん! この間はお陰で助かったよ! ほら、これ皆で食べてくれ! スライムにもよろしくな!」


「うおおおおおおおお! リディちゃああああああああああん!! 俺の嫁になってひぃぃいいいいいいいい」


 直接町中で奔走していたリディとポヨンの人気が凄まじい。

 まあ、俺の自慢の妹だしな。

 とりあえず最後の奴は睨み付けておいた。

 周囲からも袋叩きにされてるな。南無。


 その後も様々な人たちからお礼を言われ、色んなものを貰う。

 ギルドに到着するまでに、普段の数倍の時間を費やすこととなってしまった。はぁ……疲れた。

 その間レイチェルは、極力自分の存在感を消して俺の後ろに隠れてたそうな。


「実は、宿の方にも何人もお礼を言いに来てたんですよ。師匠が動けない状態だから流石に帰ってもらってましたけど。この町の救世主だから当然と言えば当然なんですけど……凄い人気ですね二人とも」


「町の救世主って言われてもなあ……俺はただリディを助けようとしてただけだし」


「えへへ、いっぱい美味しそうなもの貰っちゃったね」


 そんなことを喋りながら冒険者ギルドに入る。

 するとここでも、


「ん? おお! 白黒兄妹!」


「おおお! この間はあんたらのお陰で命拾いしたぜ! ありがとうよ!」


「是非俺たちのパーティーに入ってくれ!!」


「あ!? ふざけんな! 俺たちの方だろ!」


「いや、むしろ俺を入れてくれ!」


 俺とリディを取り囲み騒ぎ始める冒険者たち。

 中には俺たちを巡って睨み合いを始める奴らまで……


「はいはい、そこまでです。ジェットさんとリディさんはマスターがお呼びです。ほら、あなたたちも早く自分たちの依頼に出発しなさい」


「ちぇ、メリアさんにそう言われたんじゃしゃーないな。またな、白黒兄妹。今度ちゃんとお礼させてくれ」


 どうしたもんかと思っていると、メリアさんがこの騒ぎを収めてくれた。

 メリアさんの後ろにはレイチェルが控えている。どうやら俺たちが囲まれる寸前に素早く逃げ出し、メリアさんを呼んできてくれたみたいだ。

 ちなみに、パーティー参加云々については丁重に断っておいた。


「お待ちしておりました、ジェットさん、リディさん。体調が回復されたようで私も一安心です。マスターの部屋まで案内しますのでこちらへ」


 俺たちはメリアさんの案内でギルドの奥へと向かう。


「なあメリアさん。ブルマンさんからの呼び出しって、一体何の用で?」


「それは私の口からは控えさせてもらいます。ただ、悪い話ではない筈ですよ」


 そう言ってメリアさんは微笑む。

 仕方ない、今は黙ってついて行くしかないか。



 その後、俺たちは以前も案内された部屋へと通される。

 そこでは以前と同じように、禿げ頭で髭面の筋肉男が豪快に笑いながら俺たちを迎えてくれた。


「だっはっは! よう、元気になったみたいだなぁ坊主!」


「えっと、おかげ様で」


 メリアさんが一礼してから退室していった。

 まあ座れ、と促されたので俺たちは席に着く。


「既にレイチェルから聞いてるだろうとは思うが、今回の緊急依頼は無事成功。町の方も住民や建物に多少の被害はあったものの、幸いなことに死者は出なかった。結果だけを見ればこの上ないものだ」


 そう、これについても既にレイチェルから聞いている。

 町中での俺たちに対する救世主って言葉も、多分死者が出なかったことからそう呼ばれるようになったんだと思う。


「今回の結果に関しては、正直お前たち兄妹の働きが占めるウェイトがでけぇ。ジェット、お前がいなけりゃ討伐部隊はあの黒いゴブリン相手に全滅してたかもしれねえ。リディ、お前の働きが無ければ確実に町の被害はもっと広がってただろうな」


 その言葉に俺とリディは笑顔で頷く。

 メリアさんが言ってた悪い話ではないってこのことだったのかな?

 態々俺たちを褒める為にここに呼び出したのか。


 「だが」、とブルマンさんが口を開く。


「ギルドマスターとしては手放しで褒める訳にもいかねえ」


 あれ?


「ジェット、お前は周囲の指示を無視し過ぎだ。勝手にゴブリンの住処に踏み込む、アルゴスの言う事を聞かず戦闘を開始する、挙句一人で町まで突っ走る。確かに結果だけを見れば、お前のお陰でアルゴスは生き残り、黒いゴブリンの被害も無く、町のゴブリンどもの殲滅も出来た。だがな、毎回そう上手くいくとは思うな。お前の勝手のせいで、お前以外の全員が危機的状況に陥ることだってあるかもしれねえ。周囲をもっと信用してちゃんと相談しろ」


 ……そのブルマンさんの言葉に、俺は二年前の父さんの悔しそうな顔を思い出していた。


 勿論、俺としては上手くいったんならそれでいいじゃないか、と言う思いが無い訳ではない。

 そうしなければ、何人もの人が死んでただろうし、何より……リディがゴブリンどもにどうにかされていたんじゃないか、と思えば尚更だ。


 だけど……二年前、同じように俺を叱ってくれた父さんの顔が脳裏を過り、俺を冷静にしてくれる。

 あの時の父さんにも同じようなこと言われたっけ。

 そう考えると、ブルマンさんも俺のことを考えて今回のことを言ってくれてるんだと思う。


 確かに今回の俺の行動は、集団として見ると褒められたものではないだろう。

 俺自身は最善の行動をしたつもりでも、周囲にとってはそれが最善とは限らない。


 それでも……それでも、もしまた同じように大切な人に危機が迫った時、俺は……


「リディ、お前もだ。Fランクってのはな、お前みたいな子供が危険をかえりみず無茶なことしないようにと作られてるランクだ。お前自身は戦える力があるんだから不満もあったろうとは思う。だけどな、周囲の心配もちゃんと理解してやれ。まあ、お前を戦わせちまったギルドの俺が言っても説得力はねぇだろうけどな」


 リディが町でゴブリンども相手に大立ち回りしたことは俺も聞いている。

 そうしなきゃ危ない状況にあったのは理解出来るんだけど、本音としてはやはり妹に危ないことはしてもらいたくはない。

 ただ、俺自身二年前に同じようなことをしてるから強くは言いづらいんだけども。


 リディはブルマンさんの言葉を聞いて押し黙ってしまった。


「お前たちにとって俺の言ってることは納得のいかない言い分だとは思う。だがな、集団ってのはどうしても秩序ってヤツが必要になる。そうじゃないとそれはただの烏合の衆だ。そう言う考え方があるってことは覚えとけ。いいな?」


 俺とリディはその言葉に神妙に頷いた。

 それを見たブルマンさんは、ニヤッと口元を緩めた。


「よし、ギルドマスターとしての話は終わりだ。こっからはカーグの一住民ブルマンとしての言葉だ。お前たち兄妹のお陰で、この町は誰一人犠牲を出すことなく今回の危機を乗り切れた。本当に感謝する。ありがとう」


 そう言ってブルマンさんは俺たちに頭を下げた。


「え? あ、その、どういたしまして?」


 あまりに突然のことに俺とリディは困惑する。

 レイチェルはそれを見て優しく笑っていた。


「だっはっは。責任ある立場になるとな、自分が言いたいことを言うのにも苦労するんだよ」


 丁度そのタイミングでメリアさんが戻って来た。

 手にはカップやポットの乗ったトレーと、何かの入った布袋を持っている。そしてそれらをテーブルの上に置く。


「さて、俺自身の言いたいことも言ったしな。次は冒険者ギルドとしての仕事をするか。そいつはお前たちへの今回の報奨金だ」


「え? でも緊急依頼の報酬ってもっと少なかったんじゃ……」


 袋の膨らみ方を見るに、明らかにそれ以上入っている筈だ。


「ジェットの方は、緊急依頼の報酬に黒いゴブリンの討伐報酬、キング含むゴブリン上位種の討伐代金、それとアルゴスたちからの謝礼だ。命を救ってくれてありがとう、だとよ」


 そうか、アルゴスさんたちが。


「メリア、ゴブリンの襲撃があった時、リディは確かにEランクの冒険者だったんだな?」


「はい。緊急時でしたので、私の判断でそうさせてもらいました」


「よし。リディの方は、ゴブリンどもの討伐、壁の補修、最前線での魔術による治療、これらをEランクの依頼達成と言う形で処理した。その達成報酬と、町の住民たちからの謝礼だ。何人もお前に渡してくれって持ってくるもんだから対応が大変だったぜ」


 ブルマンさんは大変だったと言いながらも嬉しそうだ。


「えっと、ありがとうございます」


「ありがとうございます!」


 俺たちはそう言って報奨金の入った布袋を受け取る。

 単純なお金の重さだけではない重さを感じた。


「それと、二人ともギルドカードをメリアに渡せ。今回の諸々の功績でジェットはCランクに、リディはDランクに昇格だ」


「うわぁ、師匠! リディちゃん! おめでとうございます!」


「お二人とも、おめでとうございます」


 レイチェルとメリアさんの拍手が鳴り響く中、俺とリディは皆から貰った感謝の言葉を思い出し、お互いに喜びを噛みしめるのだった。

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