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27話 ゴブリンの王

「あ、お待ちしてましたジェットさん。ジェットさんの冒険者ランクがDランクへ昇格することが決定しました。おめでとうございます!」


 リディと久々の休日を過ごした翌日、レイチェルと共に冒険者ギルドを訪れると、メリアさんにそう声を掛けられた。

 レイチェルからギルドに呼ばれてる、とは聞いていたけど……これのことだったのか。


 ちなみに、リディは今日から宿の手伝いをしてお昼代くらいは自分で稼ぐ、と言っていた。自分でも出来る事を何かやりたいそうだ。

 元気が出て前向きになってくれたようで一安心だ。ヴァンさんが仕事内容を教えてくれるそうなので、それも大丈夫だろう。


 それと、レイチェルたちに米のことも聞いてみた。

 すると、そんなもの聞いたことも無い、と言う答えが返って来たのだった。醤油や味噌と言った調味料も知らないらしい。

 うーん……まあ俺たちもパンのことは全然知らなかった訳だし、改めてエルデリアとは全く違う場所なんだな、と思い知らされた。


「ありがとうございます? えーと、それって何かお得だったり?」


「あはは……最初に説明しました通り、これまでより上のランクの依頼を受けられるように……そう言えば、ジェットさんは特に依頼を受けてはいませんでしたね」


 この辺は全く土地勘が無いからな。それに、普通の人なら知っていることでも俺の場合知らない可能性がある。

 そんな状態で、どこそこで何かをしてくれ、と言われても正直困る。これについてはレイチェルにも説明している。

 だから、レイチェルと一緒に魔物退治、今は実質ゴブリン退治と薬草の採取くらいしかやっていない。

 一つ一つはそこまで大きな儲けではないけど、それは数で補えばいいのだ。


「Dランクって言われてもどうにもピンと来ないんだよなあ。ゴブリン退治と薬草採取くらいしかやってないし」


「え、ええ。本来ならばもう少し実績を積んでから、と言うことになりますが……マスターが『手下を率いたゴブリンリーダーを単独で倒せるような奴をEランクにしとけるか!』と判断いたしました」


「師匠、実はわたしもDランクに昇格になったんですよ! ……一年掛けてですけど」


「レイチェルさんの場合は今まで魔物討伐実績が全く無かったのが問題でして。冒険者はどうしてもある程度魔物に対する戦闘力が求められますので。勿論、それだけがあればいい、という訳でもないのですが」


「ふーん。まあ、別にDランクになったからって今までとやること変わらないからなあ」


 元々身分証の代わりとエルデリアに関する情報、それと村へ帰る為の資金稼ぎが目的だったんだしな。


「それでですねジェットさん。カードをDランクに更新しますのでこちらへ」


 俺はメリアさんにカードを渡す。

 少々お待ち下さい、とのことなのでその場で暫く待つ。


「もう、師匠は感動が無さ過ぎです。一週間そこらでDランクに昇格なんてそうそう無いことなんですよ!? わたしなんて嬉しくてつい大きな声を出しちゃったんですから!」


「って言われてもなあ。俺としてはEランクで特に困ってなかったし」


「ランクの高さは冒険者の信用にも繋がるんですよ? もしかしたらそのお陰で師匠の欲しい情報が手に入る可能性だってあるかもですよ」


「あー、確かにそう言った側面もあるのか」


 そんなことをレイチェルと話していると、カードを持ったメリアさんが戻って来た。


「お待たせしました。カードお返ししますね」


 俺はメリアさんからカードを受け取る。

 前にEと書かれていた所がDに変わってるな。


 さて、ギルドでの用事も終わったし、今日もゴブリン退治と薬草採取にでも行くか。

 そう考え、ギルドを出ようとした所で勢いよく入ってきた男とぶつかる。


「おっと、すまんな。ちょっと急いでてな」


「あ、いや、大丈夫」


「ガンドフさん!」


 どうやらガンドフと言う名の冒険者らしい。


「おう、メリアちゃん。マスターは奥に?」


「はい、こちらです」


 メリアさんとガンドフと言う冒険者とその仲間たちがギルドの奥へと入っていく。


「師匠、さっきのカーグ唯一のCランクパーティーの人たちですよ! 何かあったんですかね」


「急いでたみたいだしな。まあ俺たちがここにいても仕方ない。それじゃ行くか」


 今日は、普段通り南の森を中心にゴブリン退治と薬草採取をしていく予定だ。

 ゴブリンの相手をある程度多めにレイチェルに任せる予定でもある。

 もう少し魔力の扱いが巧くなれば、『身体活性』や水・風属性についても教えたい所だ。

 『亜空間収納』も教えたいけど、レイチェルがそこまで出来るようになるまでカーグに滞在するかどうかは分からない。

 まあ、今すぐにカーグを離れるって訳でもない。出来る所までは師匠として頑張ろう。



 ◇◇◇



「後半は結構動き良くなってきてたな」


「はぁ、はぁ、本当ですか!?」


 今日レイチェルは三十体程のゴブリンを一人で倒した。

 少しずつ魔力の出力も上がってきているようで、最後の方は怪我を負うことも少なくなっていた。


 俺たちは遅くならないうちに町へ帰ることにした。

 宿を手伝っているリディの様子が気になる、と言うのもある。


 町へ辿り着き、今日の成果を換金する為に冒険者ギルドへと赴いたんだけど、普段に比べどうにも騒がしい。

 依頼の貼り出された掲示板の前に人だかりが出来ている。


「こんな時間に掲示板に人が集まるって珍しいですね」


「ああ。何か割のいい依頼でもあったのかねえ」


 人だかりを横目に、俺たちは買い取りカウンターで魔石と薬草の換金を終える。

 すると、丁度奥から出てきたメリアさんと目が合った。


「あ、ジェットさん、レイチェルさん。丁度良かった」


「メリアさん、どうしたんですか?」


 レイチェルの問いにメリアさんは真剣な顔つきになる。


「ガンドフさんたちが調査した結果、北の山の麓にゴブリンキング率いる数百ものゴブリンの大群が発見されました」


「ゴブリンキング!? 数百!? え、でも前に調査した時はキングはいなかったって」


「どうやらその後に移動して来たようですね。キング以外にも複数の上位種が確認されたようです。今は動く気配は無いそうですが、このままでは近いうちに町まで到達される恐れがあります。当ギルドでは緊急依頼を出して、明日の朝からDランク以上の冒険者でゴブリン軍団を殲滅する予定です。お二人も参加よろしくお願いします」


 成程。その緊急依頼があって妙に騒がしかったんだな。

 数百体のゴブリンか……リディが見たら発狂しそうだな。


「うわわわわ、ししし師匠! 大変ですよ!」


「落ち着けレイチェル」


「回復薬等はギルドでも用意しますが、恐らく数は不足すると思われます。お二人の方でも用意出来る分は用意をお願いします」


「は、はい! 師匠! 早く準備しなきゃ! 父さんたちにも伝えとかないと!」


 確かに準備は大切だ。剣以外の武器は……亜空間に仕舞ってるな。回復薬は……光魔術があるから亜空間の中にある分で十分だ。食料……も亜空間に、ってあれ? 準備するようなこと無いような。



 レイチェルに急かされ宿へと戻る。

 どうやらレイチェルの家族は、宿を利用している他の冒険者から既に緊急依頼のことは聞いていたようで、帰るなりとても心配された。


「ああ、あんたたちこんな時にDランクに上がっちまうなんてねえ……もうあたしゃ心配で心配で」


「っだっだだ大丈夫だよ母さん! わわわたし、師匠のお陰でゴブリンになら負けないから」


「だがレイチェル、相手は数百もの大群なんだろう? 上位種に統率された群れは相当手強いと聞く。ああ……私に戦う力があれば娘の代わりになれるのに」


「とっとっ父さんも落ち着いて! わたしはちゃんと覚悟した上で冒険者になったんだから……大丈夫だから」


「……ジェット君は落ち着いてるね?」


 そうなんだよなあ。

 ゴブリンには魔術がよく効くし、それはリーダーに率いられた集団でも変わらなかった。

 仮に上位種に効きが悪くても、群れの大半には効果があるだろうしそこまで大変に思えないんだよなあ。

 仮に俺一人だと数の多さに苦労するだろうけど、明日は多くの冒険者が参加するみたいだし。


「うーん、どうにもピンと来ない、と言うか」


「うー……師匠のミスリル製メンタルが羨ましい」


 そんな大層なもんでもないけどな。


「ああもう考えてたって始まらないよ! あたしらに出来るのは、美味いもんでも作ってあんたらの無事を信じて送り出してやることくらいだ! 今日は沢山食べて明日絶対に無事に帰って来るんだよ!」


「……うん!」


 そう言ってアルマおばさんたちは気合十分に夕食の準備を始めた。

 ディンおじさんとヴァンさんもそれに続いていった。


「……師匠、少し魔術の訓練見てもらってもいいですか?」


「おう、分かった」


 レイチェルも家族の様子を見て気合が入ったようだ。


「ねえおにい」


 さっきまで黙っていたリディが不安げに俺を見てくる。


「絶対大丈夫だよね?」


「ああ、ゴブリンなんか俺が全部やっつけてやる。だからリディは安心して待ってろ」


 俺はリディの頭を撫でながらそう言う。

 すると、不安げだったリディの表情が晴れやかになっていく。


「うん!」


 大丈夫だリディ。

 俺はお前を一人残していったりはしない。絶対にだ。

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