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26話 おにいと一緒

「それじゃ、いってきます」


「いってきます!」


「いってらっしゃい、偶には兄妹水入らずで楽しんできな」


 アルマおばさんがあたしたちに声を掛けてくれる。

 向こうの方ではディンおじさんとヴァン兄、レイチェル姉もあたしたちに微笑み掛けて手を振ってくれている。あたしたちも手を振り返す。

 そう言えば、昨日は大声で泣いちゃった所を皆にも見られたんだよね。うぅ……思い出したらちょっと恥ずかしいな。


 よし、気持ちを切り替えよう。

 今日は久し振りにずっとおにいと一緒にいられるんだ。

 あまり我儘言っておにいを困らせたくないけど……今日は思いっきり甘えよう。


「リディ、何処か行きたい所はあるか?」


「うーん、この町どんな所があるか分からない」


「あー……そう言えば俺も宿とギルド以外はあまり知らないな。細かいものも亜空間に収納してたから買う必要無かったし。それじゃ、今日は一緒に町を色々見て回るか」


「うん!」


 おにいと手を繋いで歩き出す。

 おにいの暖かくておっきな手があたしは大好きだ。凄く安心する。


 まず、あたしたちは雑貨屋に入る。

 ここでは色んな生活必需品を売っているんだけど、大体のものは亜空間に入れているもので困ってないんだよね。

 ママが家が片付くから、と言ってあたしの『亜空間収納』に色んなものを入れた時は、人のこと箪笥扱いして! って思ったりもしたんだけど、今はそのお陰で助かってる。


「あ、おにい、このハンカチかわいい!」


 ピンクの布地にお花の刺繍がされたハンカチが目に留まる。

 村では実用性が重視されて、あまりこう言ったかわいいものって無かったんだよね。

 そう考えると、今の服を作ってくれたシリンおばさんとエリン姉には感謝しなきゃ。


「おう、好きなの選んでいいぞ」


「やったー! あ、そうだおにい。パパとママにも何かお土産買った方が良くないかな?」


 昨日ママの料理を食べていっぱい泣いて……今日はおにいが一緒にいてくれる。だからかな、ちょっとだけ心に余裕が出来たような気がする。

 今はパパとママのことを考えても涙は出ない。絶対おにいと一緒に家に帰るんだ! って気持ちになる。


「そうだなあ。他にもエリン姉とかグレンとか、折角だし色々買って帰ってびっくりさせてやろう」


「うん!」


 あたしたちはパパとママと、村の親しい人たちの分のお土産も見て回ることにした。

 あ、このお皿凄く綺麗な色。ママ喜ぶかな? パパはお酒の方がいいかな。


「ねえおにい。あたしがお土産って言っておいてあれなんだけど……お金は大丈夫?」


「おう、心配するな。それなりに稼いでるからな。いざとなればゴブリンの魔石もあるし」


 そうしてあたしたちは色んなものを買って店を出る。

 それなりの量が売れたからか、店主のおじさんもニコニコ顔だった。


 あたしたちはまた手を繋いで町をぶらぶらする。

 すると、ふいにとてもいい匂いが漂って来た。

 匂いを辿ってみると、近くの屋台からだった。

 どうやら肉の串焼きを売っているようだ。タレが焦げる香ばしい匂いが空腹を誘う。


「よお、白黒の兄ちゃんと嬢ちゃん、一本どうだい? うちの自慢の串焼きだ」


 白黒……確かに二人とも髪の毛も服装も大体が白黒だった。


「どうするリディ?」


「食べてみたい」


「分かった。おっちゃん、二本……いや、三本くれ」


「おう! 今焼き立てが出来るからちょっと待ってな」


 三本……あ、ポヨンの分か。

 ほんとはポヨンも外に出してあげたいんだけど……念の為町中では鞄の中に入れている。

 ポヨンはこの辺でも見たことの無いとても珍しいスライムらしく、あたしみたいな子供が下手に連れ歩いているとトラブルの元になり兼ねない、とレイチェル姉に教えられた。


 それと、町の人たちも練習次第で魔術が使えると言うことも秘密にするそうだ。

 あたしたちにとっては魔術は当たり前の存在なんだけど、どうやらこの辺りの人たちにとってはそうではないらしい。

 もし、自分も魔術を使える! なんてことになったら、それを教えることが出来るあたしとおにいがどんな目に遭うか分からないんだって。

 レイチェル姉には、例えレイチェル姉の家族だろうと教えちゃ駄目って言われてる。余計な騒動を避ける為なんだとか。

 あたしにはよく分からないんだけど、レイチェル姉にはお世話になってるし、ちゃんと言うことを聞いておこう。


「よっし、いい焼き上がりだ! 代金は……三本分ぴったりだな。熱いから気を付けろよ」


 おにいが代金を渡し、串焼きの入った紙袋を受け取る。

 ポヨンの分は後で亜空間に入れておこう。


「あれ? おっちゃん、四本入ってるんだけど」


「おう、そいつは俺からのサービスだ。可愛い妹にいっぱい食わせてやんな! そんで気に入ったらまた買ってくれや」


 あ、やっぱりあたしたちって言わなくても兄妹って分かるんだね。


「おっちゃん、ありがとう」


「ありがとう!」


「へへっ、いいってことよ」


 屋台のおじさんがいい笑顔であたしたちを見送ってくれる。

 少し歩いた所にベンチがあったので、そこで串焼きを食べることにした。


「お待たせ、ほらリディ」


 おにいが近くで飲み物を買ってきてくれた。

 ほんのり甘い香りがして美味しそうだ。


「ありがとう、おにい」


「そんじゃ食べようか。残り二本はこっそり亜空間に仕舞っておいてくれ」


「うん、いただきます」


 ポヨンの分は宿に帰ってからだ。ちょっと我慢しててね。

 あたしは手渡された串焼きに齧り付く。

 噛めば噛むほど香ばしいタレの風味と肉の旨味が口の中に広がる。


「美味しい!」


「おお、確かにこりゃ美味いな! また今度買いに行くか」


 美味しくてあたしもおにいもペロリと平らげてしまった。

 そして、ほのかに甘い飲み物で喉を潤す。


「ねえおにい、他の食べ物も色々見てみよう」


「おう、美味そうなものがあったら買っていくか」


 おにいと一緒に色んな屋台やお店を見て回り、美味しそうなものがあったら確保していく。

 途中、パパへのお土産用のお酒も買っておいた。

 買ったものはこっそりあたしの『亜空間収納』で仕舞っておく。

 こうすれば、後で出来立てのまま美味しく食べられるのだ。


 ただ、色んなお店を回ってみたんだけど、お米や醤油、味噌なんかは何処にも見当たらなかった。


「何処にもお米無かったね」


 今、あたしたちは昼食用にと買ったサンドイッチを頬張っている。

 今日は何だか凄くお腹が減ってるんだよね。


「確かこの町は小麦が名産だってレイチェルが言ってた気がするけど、その影響かねえ」


「レイチェル姉たちだったら何処で売ってるか知ってるかな?」


「パンも美味いんだけど、やっぱり食べ慣れた米が恋しくなるもんな。後で聞いてみようか」


 そんなたわいも無いことを話しながら昼食を食べ終える。

 その後も特に目的地を決めることなく二人で町をぶらつき、空が茜色に染まり始めた所であたしたちは宿へと戻ることにした。


「リディ、今日は楽しかったか?」


「うん! 今日は一緒に遊んでくれてありがとね、おにい」


 おにいが優しい笑顔であたしの頭を撫でてくれる。

 あたしはこの心地いい時間が大好きだ。

 でも……ずっとこうやっておにいに甘えてばかりじゃ駄目なんだ。


「ねえ、おにい。もうあたしは大丈夫だから」


 おにいの目をじっと見詰める。


「絶対一緒に村へ帰ろうね」


「……おう!」




 その後、おにいと一緒に部屋へは戻らず、あたしは宿を一人歩く。

 えーと、この時間だったら多分この辺に……あ、いた。


「ヴァン兄」


「ん? リディちゃんか、おかえり。今日は楽しかったかい?」


「ただいま。ヴァン兄のお陰で今日はとっても楽しかった! ありがとう」


「別に俺のお陰ってことはないよ。それで、どうしたんだい? 夕飯ならもう少しだから」


「あ、夕飯は関係なくて。ヴァン兄にちょっと頼みたい事があって」


「頼みたい事? 何だい?」


「えっと……おにいが冒険者のお仕事をしてる間、あたしにもここのお手伝いをさせて下さい」


 あたしは勢いよく頭を下げた。


「えーと、理由を聞いても?」


「あたし、ずっとおにいに甘えてばかりで……今もおにいは頑張ってるのにあたしは何も出来てなくて……だから、あたしも自分でも何かしたい! って思ってそれで……」


 上手く言葉には出来ていないけど、あたしの精一杯を伝える。

 ヴァン兄はすこし驚いたような表情を浮かべ、その後優しい笑顔になる。


「……一緒に父さんと母さんにお願いに行こうか」


「うん!」


 その後、無理しなくてもいいんだよ? と言うディンおじさんをヴァン兄が説得してくれて、あたしは明日からここでお手伝いをすることになった。

 更に、ディンおじさんはちゃんと給料は払う、あたしは割引分をお手伝いしたいだけで給料はいらない、でまた一悶着あり、アルマおばさんの提案で、給料の代わりにあたしとポヨンの分のお昼のまかないも用意してくれる、と言う形で落ち着いた。


 よーし、あたしも明日から頑張ろう!

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