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25話 故郷を想う

「ししし師匠! 何なんですかこのナイフ! すっごい切れ味なんですけど!?」


 今治療中なんだからちょっと落ち着け弟子よ。


「そいつは俺の成人祝いに作ってもらったミスリル製のナイフだ。よし、治療終わりっと」


「みみミスリル!? そんな超高級品を成人祝い!? 師匠って実はすっごい身分の人なんじゃ……」


「そんな訳ないだろ? 普通の村人だよ。うちの村の近くでミスリルが採れる所があってな。そこで集めたんだよ」


「魔術と言いミスリルと言い師匠たちの村ってとんでもない所なんじゃ……」


「うーん、別に普通だと思うんだけどな。ほら、魔石剥ぎ取るぞ」


 慌てるレイチェルを宥めつつ、ゴブリンたちの魔石の剥ぎ取りを始める。

 しっかし、ほんとこの辺りってゴブリンだらけだな。

 ゴブリンは魔石以外素材にならないからあまり嬉しくない相手なんだよなあ。


「ああそうだ、しばらくそのナイフ使っていいぞ。元々魔術の修業で貸す予定だったし。前にお楽しみだって言ったろ?」


「え゛っ!? ええええええええええええ!! こんな高価なもの借りるの怖いんですけどっ!?」


「その代わり魔物退治もある程度任せるからな。怪我しても治すから安心しろ」


「うううう……出来るだけ頑張ります」


 魔石の剥ぎ取りと死体の処分を終え、俺たちは昼食に持って来たサンドイッチを頬張る。

 その後、見掛けたゴブリンを倒しながら帰途に就く。

 帰りは主にレイチェルにゴブリン退治を任せた。勿論俺もサポートに回りながら。

 ひいひい言いながらもレイチェルは順調にゴブリンを倒していく。

 『身体強化』も少し効果が上がったんじゃないかな。



「ふぅ、ひぃ、ふぅ、よ、ようやく帰って来れました……」


「お疲れ。結構良くなってきたんじゃないか?」


「そ、そうですかね? よく考えたらわたし、今日だけで二十以上もゴブリン倒したんですね」


「毎日これだけ倒しても全然減らないってやっぱり異常だよな」


 俺たちはたわい無いことを話しながら、門の衛兵にギルドカードを見せカーグに入る。

 最初に町に入った時に貰った許可証は、リディの分を含め既に返却している。


「ギルドにリーダー討伐は報告した方が良さそうですね」


「それじゃさっさとギルドに行っ「おにいっ!!!」てぐふぉっ!?」


 俺の腹に誰かが勢いよく突っ込んで来る。

 くっ、油断してたせいでいい所に入ったぜ……


「リディ!? お前、どうしてここに!?」


 リディは俺に力強くしがみ付いたまま動かない。

 すると、近くのベンチから誰かがこっちに近付いてきた。


「二人とも、おかえり」


「兄さん? ただいま、って何で兄さんとリディちゃんが?」


 レイチェルの兄のヴァンさんだったか。


「リディちゃんがジェット君を迎えに行きたいって言ってね。一人で行かせるのも心配だから俺がついて来てたのさ。少しでも早くジェット君に会いたかったんだろうね」


 俺はしがみ付いたままのリディの頭を撫でる。


「それは……ヴァンさん、態々ありがとう。リディ、迎えに来てくれたのは嬉しいけど、ヴァンさんたちに迷惑掛けちゃ駄目だろ?」


「はは、別に迷惑なんかじゃないよ。俺も君と同じく妹を持つ兄だ。毎日寂しそうにしてる妹を放ってはおけないよ」


 ……そう言えば、ここ何日もリディを一人にしたままだったな。

 どうにか早くこの子を村に帰してあげたくて、必死に俺の今出来る事を頑張って……その結果、ずっと寂しい思いをさせてしまっていたんだな。


「兄妹二人だけでこの町に訪れて来たんだ。君たちにも何か事情はあるんだと思う。それを聞くつもりは無いけど……偶には兄妹でゆっくりと過ごすのもいいんじゃないかな? リディちゃんの兄はジェット君、君だけなんだからね」


 ああそうか、俺はこの子の為と言いながら、ちゃんとこの子のことを見てなかったんだな。

 今リディには俺しか頼れる相手がいないのに……


「リディ、寂しい思いさせてごめんな……」


 リディをぎゅっと抱き締める。

 リディのしがみ付く力がより強くなるのを感じた。


「……師匠、ギルドへの報告はわたしが行って来ます。師匠はリディちゃんと一緒にいてあげて下さい」


「分かった。ありがとなレイチェル。これ、リーダーの魔石だ」


 ここはレイチェルの厚意に甘えさせてもらおう。


「レイチェル、兄さんが代わりに一緒に行ってあげようか?」


「わ、わたし一人で大丈夫だから! 兄さんはさっさと宿の仕事に戻って!」


 そう言ってレイチェルは顔を赤くしながらギルドに走って行った。

 あー……ヴァンさんが軽く落ち込んでる。妹に冷たくされて辛い気持ちはよく分かるぞ、うん。


「リディ、一緒に帰ろう」


 しがみ付いていたリディが俺を見上げ、太陽の様な笑顔を浮かべた。


「……うん!」


 リディと手を繋ぎ、俺たちは宿へと帰る。

 ヴァンさんが俺たちを見て、微笑ましいものを見る表情を浮かべているのがちょっと恥ずかしいけど……

 今はこのちっちゃな手を絶対に離したくない。そう思った。



 ◇◇◇



「ねえおにい、勝手に食べちゃっていいのかなあ?」


「また作ってもらったらいいんだし大丈夫だろ」


 今、俺たちの目の前には母さんの作った料理が並べられている。

 ヴァンさんに、今日の俺たちの夕食は用意しなくても大丈夫だと伝えている。

 リディの『亜空間収納』から取り出した料理の数々は、まるで今作られたばかりのようだ。


 今日の夕食はリディの寂しさを少しでも紛らわそうと思い、母さんの料理を食べることにした。

 最近焦ってたせいもあって、リディの亜空間に保存してたのをすっかり忘れてたのもあるけど。

 久々に見る母さんの料理を前に、俺たちはそわそわしている。ポヨンも何処となく嬉しそうに見える。


「お米食べるの久しぶりだね」


「そう言えば、こっちで米食べたことなかったな。明日町で一緒に探してみるか?」


「うん!」


 明日は冒険者の仕事は休んで、リディと二人で町を色々見て回る予定なのだ。

 そのことはレイチェルにも話している。

 レイチェルも、折角だから明日は久々に宿の手伝いをする、と少し恥ずかしそうに言っていた。


「それじゃ食べようか。いただきます」


「いただきます!」


 まず俺は味噌汁から口をつける。

 久し振りの味噌の風味が口の中に広がっていく。小さい頃からずっと食べ慣れた、我が家の母さんの味だ。

 次に肉汁の滴る猪肉に齧り付く。確か父さんが大物が獲れたって自慢げに話してたっけ。口中が暴力的なまでの肉の旨味に支配されていく。

 そして、きれいな三角形のおにぎりを頬張る。噛めば噛むほど米の甘味が引き出される。ほんのり塩味がまたいいアクセントになっている。


 はぁあああ、美味い。

 ここで食べているパンや料理も美味しいのは確かなんだけど、それでも食べ慣れた我が家の味には敵わない。

 村にいる時は当たり前のように食べてた味なんだけど、今はそのありがたみがよく分かる。

 ……父さんと母さん、今頃どうしてるのかなあ。


 リディの方を見てみる。

 さぞ喜んで食べているんだろうなあ、と思っていたけど……一口齧ったおにぎりを持ったまま俯いていた。

 よく見ると少し震えているようだ。


「どうしたんだリディ?」


「……うぅ、ぐすっ、ひっく」


 ……どうやら久し振りに母さんの料理を食べて、今まで抑えていた郷愁を抑え切れなくなったようだ。


「ぐすっ、うぅマ゛マ゛ぁ……パパぁあ、えぐっ」


「……馬鹿、泣く奴があるか。ほら、早く食べないと冷めちゃうぞ」


「うぅぅ、うあああああああああああああああああああああああああああ」


 遂には大泣きを始めてしまった。

 俺はリディの隣に移動し、そっと抱き締めてやる。

 リディは俺に涙と鼻水に塗れた顔を埋めて泣き続ける。

 そんなリディの頭を俺は優しく撫で続ける。



 ああ、くそ。


 ずっと我慢してたのに。


 俺がしっかりしてなきゃこの子が不安がるからって。


 この子にかっこ悪いとこ見せちゃ駄目だって。


 でも……それももう無理だ。


 俺も……もう我慢出来そうにない。



「ぅぐっ、うう……どうざん゛、があざん゛……ううぅううぐっ、あああああああああああああああああああ」


「うあああああああああああああああああああああああ」


 俺たちは身を寄せ合って泣き続けた。




 その後、どうにか泣き止んだ俺たちはすっかり冷めてしまった夕食を食べ終えた。

 リディは泣き疲れたようで、そのまま眠ってしまった。

 俺たちの泣き声を聞いて、レイチェルたちが慌てて部屋を訪ねて来たりもしたんだけど、俺たちの様子を見て事情を察したらしく、何も言わず出ていってくれた。迷惑掛けちゃったな。明日謝っておこう。


 夕食の片付けも終え、俺も床に就くことにした。


「おやすみ、リディ」


 リディの布団を掛け直し、俺も自分の布団に潜り込む。

 今日は父さんと母さんの夢が見れるといいな……

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