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23話 ジェット師匠の魔術講座

 わたし、レイチェルにとって、昨日は何てことの無いいつも通りの一日になる筈だった。

 いつも通り一人で町の外に出て、いつも通り魔物を避けながら、いつも通り薬草の採取をして……

 でも、そのいつも通りは不思議な兄妹に出会うことで変貌を遂げていった。



 わたしはどうしてか、昔から周りの視線や気配に凄く敏感だった。

 元々自分に自信の無い性格なのもあるし、更にちょっと色々事情があって塞ぎ込んでたりした時期もあって、周囲の全てがわたしを卑しめてる様な気になっちゃって……

 特に最近は男の人からは舐め回すような視線が……

 はぁ、余計に目立っちゃうから胸とかもこんなに無駄に育たなくて良かったんだけどなぁ……


 わたしには夢があって、その実現の為に冒険者になったんだけど、そんなだから誰ともパーティーを組めずにソロで活動している。

 本当は何処かのパーティーに参加した方がいいんだろうけど……周囲に馴染めずにいるわたしには特別親しい相手もいないし。

 うぅぅ、我ながら悲しくなってくるなぁ……


 わたしは魔物との戦いなんてしたことないし、出来るイメージが湧かない。

 だから、薬草採取依頼を主にこなしながら、魔物の気配がするところは極力避けて活動していた。そのせいもあってか、一年活動しても未だにEランクのままなんだよね。

 正直、こんな調子じゃいつまで経っても夢なんて実現出来る訳もなく。

 いつかは魔物退治もしなきゃとは思いつつ、結局今までずるずると……


 昨日も普段通りわたしは南の森の方へ薬草採取に赴いていた。

 南の森は魔物が少ないから私にとってはぴったりなんだよね。

 ただ、あの時は大きな気配、今思えば恐らく師匠たちの気配に気を取られちゃって……ゴブリンたちに気付かず見付かってしまった。


 本当に恐かった。醜悪な顔でわたしのことを餌として見てきて……それで腰が抜けちゃって。

 ナイフを構えはしたけれど、どうにもならなくて。

 わたしここで死んじゃうのかなぁ、とか考えてたら師匠たちが現れて、あっと言う間にゴブリンたちを倒してしまった。


 最初二人を見た時は驚いた。

 この辺りでは見たことのない、わたしと変わらないくらいの男の子と多分妹だと思う女の子。どっちとも珍しい黒髪で前髪だけ一部が白い。

 いきなりそんな二人が森の奥から出てくるんだもん。

 しかも、十万人に一人使えたら凄い、と言われる魔法、本人曰く魔術を使いこなし、剣や槍も得意。

 わたしはそれを見て、絶対高ランクの冒険者だと思い込み、珍しく我を忘れて舞い上がってしまった。今思い返すとかなり恥ずかしい。


 それに、二人とは不思議と視線とか気にすること無く話せるんだよね。

 なんだろう、雰囲気が周りの人たちと違うと言うか、すれてないと言うか。

 とても純粋な印象なんだよね二人とも。

 まあ、師匠が時々わたしの胸の方に視線を向けて、その後誤魔化そうとしたりしてるのは気付いてるけど……


 ただ、色々話してみると、二人がとんでもない世間知らず……いや、それ以上の存在だと判明した。

 冒険者も聞いたことがないって言うし、お金を知らないのには本当に驚いた。

 その後二人がここへ来た理由を聞いて色々と納得はしたけれど。

 師匠の話はとても突拍子の無いものばかりだったけど、不思議と信じたいと思えたんだ。




 今日は、冒険者となった師匠と、早速町の外で活動してる。

 登録の為に訪れたギルドでも色々大変だったけどね……

 ちなみにリディちゃんはお留守番です。


「あ、そこに薬草が生えてます。この種類は葉っぱだけを採取するんですよ。その時全部取らずに幾つか残しておくと、またそのうち採取出来るようになるんですよ」


「へぇ、村でも薬草採取は教えてもらったけど、やっぱりここでも似たような感じなんだな」


「ん? ……師匠、このまま進んだら魔物がいそうですけど、どうします?」


「そうだなあ。お金も稼がないといけないし、それにレイチェルに魔術を教えないといけないしな。行ってみるか」


 魔術、師匠たちが使う魔法に似た凄い能力。それがなんとわたしにも使えるそうなのだ!

 それを聞いた時は心臓が飛び出そうなくらい驚いた。

 それと同時にとても嬉しかった。もしかしたら、何も自慢出来ることの無い今の自分を変えるきっかけになるかもしれないって。

 興奮し過ぎて、つい勢いで「師匠!」とか言っちゃって弟子入りしちゃったんだけど……大丈夫だよね?


 昨日、リディちゃんの不思議な魔術でわたしの潜在能力について教えてもらった。

 その時にわたしが気配に凄く敏感だった理由も分かったんだけど……

 魔術については、どうやらわたしは水属性と風属性に適性があるらしい。


 ただ、師匠に聞かれたけど、私は魔力なんてものは今まで一切感じたことが無い。

 そうしたら、普段リディちゃんと一緒にやってるって言う、魔力を巧く扱う為の訓練をわたしにもやってくれたんだけど……


 師匠の手が私の手に触れて、その手から熱い何かがわたしの中に入って来て、最初はゆっくり、段々と激しくわたしの全身を無理矢理まさぐる様に……

 うん、思い出しただけでも顔が赤くなりそうだ。なんか変な声もいっぱい出ちゃった気がするし……終わった後も、全身が敏感になり過ぎて色々と大変だったし……

 え? よく考えたら普段リディちゃんにもアレやっているの!?


「流石にそれは駄目ですよ師匠!」


「え!? あ、やっぱり魔物の方へ行くのは止めとくか?」


「へっ? あああ、いえ、違います何でもないです! このまま行きましょう!」


「?」


 ううう、つい口に出しちゃった。

 き、兄妹の事だし他人が口を挟むのは違うよね! そう言うことにしておこう。

 ちなみに、あの修業は寝る前に毎日行うことになった。……今日は先に替えの寝間着と下着は用意する、絶対にだ。


 でも、あの羞恥プ……んんっ、修業のお陰か自分の中にある何だかドロっとしたものを感じることが出来た。

 師匠曰く、普段使ってないから魔力が固くなってるんじゃないかって。

 実際、私自身で動かそうとしてもどうにもしっくり来ない。師匠のはあんなに激しく私の中で暴れ回っていたのに。


「見えた。小さいゴブリンが三体か」


「え? わたし全然分からないんですけど……」


「あー、うん、そうだな。折角だし魔術の実演をしてみるか。今、俺の周りを魔力が覆ってるのは分かるか?」


 師匠がそう言うと、師匠の全身から何か強い気の様なものが溢れ出してきた。


「はい。師匠から何かが溢れ出ているのが見えます」


 これが師匠の魔力……これがわたしの全身を激しくまさぐって……って違う!


「これが『身体強化』って言う無属性魔術だ。言葉通り身体を強化出来る。で、この外に溢れ出てる魔力を、体の外じゃなく中で全身を巡るように使うと、『身体活性』って言う魔術になる」


 あ、さっきまで溢れ出ていた師匠の魔力が見えなくなった。

 師匠が手を出してきて、触ってみろだって!? ま、まさかこんな外であれをやると!?

 わたしがおろおろしていると、師匠が首を傾げている。

 うううううううう……女は度胸! えいっ!


「わわっ、師匠の手凄く熱い」


「これが『身体活性』の状態だ。こっちは魔力効率がいい代わりに体への負担も大きいから注意が必要だけど。それと、強化の方法がどっちともちょっと違ったりとか、両方を一緒に使ったりとかもあるけど、それはまた追々な」


 わたしが昨日汗びっしょりになっちゃったのはこれの影響なのかな。


「さっきは『身体活性』で目とか耳を重点的に強化してたんだ。そうすればより遠くまで警戒することが出来る」


 ほんとにわたしもこんなこと出来るようになるのかなあ? 全然出来る気がしないんだけど……


「よし、それじゃもう少し近付くぞ」


「は、はい!」


 ううう、緊張する。わたしの方から魔物に近付いていくなんて初めてだしなあ……


「……こっちには気付いてないな。それじゃ実際に倒してくるからよく見てろよ」


 師匠はそう言うとゴブリンたちの背後から近付いて……あ、もう全部倒しちゃった。

 凄い……全部剣の一振りで倒しちゃった。

 でも何だか首を傾げてるけど……もしかしてあれでもまだまだ満足出来ない倒し方だったのかな。


「凄いですね師匠。一太刀でゴブリン三体も倒しちゃうなんて……」


「え? あ、ああ。 ……やっぱりなんかこのゴブリン異常に弱いよな……」


 後の方は聞き取れなかったけど、やっぱり今の結果に満足してないみたいだ。

 わたしには雲の上過ぎて、何が駄目だったのかもさっぱり分からないけど……


「レイチェルは普段ナイフを武器にしてるのか?」


 師匠が魔石を剥ぎ取りながら聞いてくる。


「はい、軽いし細かい作業にも使えて便利ですし。まあ、戦いには使ったことない……と言うか戦い自体したことないですけど」


「そっか。それなら丁度いいか」


「何がです?」


「後のお楽しみだ。まずは無属性を扱えるようになってからだな。それから魔物退治も修業の一環としてやっていかないとな」


「うううう……が、頑張ります」


「よし、処理も終わったしもう少しこの辺り案内してくれ」


「はい。それじゃあ、とりあえずこのまままっすぐ進みましょう」



 ◇◇◇



「それではジェットさんがゴブリン討伐……二十七体分、レイチェルさんが薬草採取十回分ですね。こちらが報酬です」


 こんなに数をこなせたのは初めてだ! しかも今日は午後だけだったのに。

 普段は魔物の気配を避けながら慎重に移動してたけど、今日はお構いなしにどんどん移動してたのが良かったのかなあ。


「えっと、ジェットさん、午後だけでこの数のゴブリンを?」


「ああ。この近くを軽く回っただけで。本当にゴブリンが多いんだな。他の魔物なんて全然見掛けなかったんだけど」


「現在幾つかのパーティーに周辺の調査をお願いしています。原因を特定し次第ギルドから発表があると思います。今は可能な範囲でゴブリンの数を減らしていただけたら助かりますね」


 どうも暫くは師匠によるゴブリン退治が続きそうな予感。

 わたしたちはギルドを後にして宿に戻る。


「今日はお疲れ。それじゃ夕飯の後にまた修業の続きだ」


「お疲れ様です師匠。で、ではまた後程」


 うう、今日も頑張ろう。

 ……まずは着替えの用意をしなきゃ。

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