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22話 訳アリの兄妹

「おおおお! 本当に何も無い所から火を出しやがった! すげえな坊主!」


「ま、まあな! こっちのリディだってこれくらい事は出来るんだぞ。な?」


「うん!」


 そう言ってリディも俺と同じように火を出した。

 そのリディの頭の上ではポヨンが上下運動を繰り返している。


「だっはっはっはっは! テイマーな上魔術師でもあるってか! おうおう、こりゃ嬢ちゃんの方も将来が楽しみだ。レイチェル、お前いい新人を連れて来てくれたなあ、おい!」


「は、はぁ。あはは……」


 禿げ頭で髭面の筋肉男が豪快に笑う。


 俺たちは今、ギルドの奥にある一室に通されている。

 俺の取り出したゴブリンの魔石を見て固まっていたメリアさんが、再起動と同時に魔石を引っ掴んで物凄い勢いで奥へと走って行った。

 周囲の視線に晒されながら暫く待っていると、戻って来たメリアさんに今いる場所へと案内されたのだ。

 するとそこには禿げ頭で髭面の筋肉男が待っていた。


 筋肉男はブルマンと言う名で、カーグの冒険者ギルドのマスターだそうだ。半引退状態の冒険者でランクはB。時折前線に出て冒険者として働いたりもするらしい。

 ここカーグの町の周辺は比較的安全な地域らしく、冒険者も高ランクの者が少ないのだとか。今一番高いランクはブルマンさんを除いてCランクパーティーが一組。

 そんな理由もあって、冒険者だけでの解決が難しい場合は彼自らが出るのだそうだ。


 俺たちをここへ案内した後、メリアさんはまた慌てて何処かに走り去っていった。

 メリアさんが戻ってくるまで少し話がしたいとブルマンさんに言われ、今のような状況になっているのだ。


 丁度そこへメリアさんが戻って来た。

 手にはさっき引っ掴んで行ったゴブリンの魔石も持っている。


「すみません、お待たせしました」


「おう。それでメリア、どうだった?」


「はいマスター。これはゴブリン種の魔石で間違い無いそうです。ただ、この辺りでは見たことのない種だそうで」


「あー、だろうな。俺も昔キングの魔石なら見たことあるが、そいつはそれよりも更にデカい」


 魔石を手に取って繁々と眺めていたブルマンさんが俺の方に顔を向ける。


「坊主、こいつぁお前さんが倒したもんで本当に間違いは無いのか?」


「ああ。真っ黒で俺と同じくらいの大きさのゴブリンだ」


 その言葉に俺とリディ以外の全員の顔が引き攣る。


「ぞっとしねえ相手だな、おい」


「確かに力は物凄く強いけど、頭は良くないから慣れたら大丈夫かな。群れたりはしないみたいだし。俺としてはこの辺で見た群れる小さいゴブリンの方がびっくりしたんだけど……」


 騙し討ちや怯えたふりとか狡猾な奴らだったしな。

 その分防御は大したことなかったから助かったけど。


「成程……。それで坊主、こいつを倒したのは何処でだ?」


「えっと、俺たちの村の周辺の森。エルデリアって村なんだけど……」


「……聞いたことねえ村だな。それはこの周辺なのか?」


「……多分違う」


「……今カーグ周辺ではな、ゴブリンが異常発生している。もしこの魔石のゴブリンがこの周辺にいたんだとしたら、俺はギルドマスターとしてちゃんと情報を纏めて対処しなきゃならねえ。だから正確な情報が欲しいんだ」


「俺も村の正確な場所を知らないんだ。だからそれを調べる為、レイチェルに教えてもらって冒険者になったんだ。それに、その魔石は三年前に倒したゴブリンのだ。異常発生とは全く関係ないと思う」


 俺とブルマンさんはお互いに目を見続ける。

 部屋に緊張感が漂う。

 暫くそうしていると、その緊張感が緩んだ。


「ああ、分かった。ただ、もしお前の倒したゴブリンと同じ奴をこの辺で見掛けたら、すぐにギルドに知らせてくれ。いいな?」


「分かった」


「で、こいつを買い取ってもらいたいんだってな? この辺りでは見たことも無いもんだから、正直どれくらいで買い取ればいいのか分からんのだ。キングで金貨十枚だから、とりあえず暫定だが、金貨二十枚で買い取ろうと思う。それでいいか?」


「金貨二十枚……って多いのか?」


「……普通のゴブリンの千倍、ウチの宿だったら二百日分です」


 レイチェルが目を点にしながらそう説明してくれた。


「あー、じゃあそれで」


「おう。そんじゃあメリア、後は頼んだ。お前たちも態々呼び出して悪かったな」


「畏まりました。ではジェットさん、先程のゴブリン討伐の報酬と共にお支払いしますのでこちらへ」


 俺たちはブルマンさんに頭を下げて部屋を後にする。


「レイチェル、少し残ってくれ」


「は、はい。師匠、先に行ってて下さい」


「分かった。お金貰ったら資料室の方に行ってるから」


 そこでエルデリアについて何か分からないか調べてみようと思う。

 ただ、メリアさんやブルマンさんを見るに、望みは薄そうだけど……



 ◇◇◇



 ジェットたちが部屋を出た後、その場にはレイチェルとブルマンだけが残った。

 緊張するレイチェルにブルマンが穏やかな表情で語りかける


「お前さんも漸くパーティーを組める相手を見付けたみてぇで安心したぞ」


「あ、私と師しょ……ジェットさんはパーティーを組んではいませんよ」


「お? そうなのか」


 レイチェルはジェットから既にパーティ-は組まないと聞いている。

 ジェットの目的は、あくまでも村を探してそこへリディと共に帰ることだ。この町の冒険者であるレイチェルとパーティ-を組んでも、それは短い間のことになるだろう。

 その代わり、と言う訳ではないが、ジェットはこの町に滞在する間は師匠としてレイチェルの魔術の腕を出来るだけ鍛えてやるつもりなのだ。


「はい。ただ、暫くは一緒に行動する予定です。二人とも、この辺りについては詳しくないようなので」


「分かった。呼び止めて悪かったな、もう行ってやれ」


「はい、失礼しますね」


 そう言ってレイチェルは、ブルマンに頭を下げて部屋から出ていった。


 一人残ったブルマンは手に持ったままだったゴブリンの魔石を眺める。

 そこへ、ジェットたちを資料室に案内し終えたメリアが戻って来た。


「失礼します。マスター、いかがでしたか?」


「ああ、間違いなくありゃ訳アリだろうな。兄妹揃って無詠唱で魔法……じゃなくて魔術だっけ? が使える。更に妹の方は見たことも無い珍しいスライムをテイムしている。あと、兄の方が持ってた剣は、ありゃミスリル製だ」


「この辺りでは見かけない珍しい黒髪、しかも兄妹揃って前髪の一部だけが白い。見た目だけでも目立つ上に魔術だテイマーだ謎のゴブリンの魔石だ、ですからね……今日だけでどれ程驚いたことか」


 メリアは自分の醜態を思い出し、頬を赤く染める。


「教育もちゃんとされてるみてぇだしな。だが、どこぞの貴族のボンボンって感じでもない。エルデリア、だっけか? さっきも坊主は嘘を吐いている様子は無かった。それぐらい嘘が上手って可能性もあるにはあるが……少し調べてみるか。お前の方でもそれとなくあいつらの様子を見ていてくれ」


「はい、分かりました。それと、ゴブリンの異常発生についてはいかがいたしますか?」


「確か、この前ガンドフがジェネラルを仕留めたって言ってたよな?」


「はい。ただ、死体の回収は出来なかったとも。右目を潰して左腕を斬り落とし、全身傷だらけで崖から落ちた、と報告が来ております」


「そうか。それでも異常発生が収まるどころか寧ろ増えてやがる。下手すりゃキング辺りが出て来てるのかもしれねえな」


 ブルマンのその言葉にメリアは息を呑む。

 ゴブリンの上位種が発生した場合、ゴブリンは急激に数を増やし、その上位種を筆頭に組織だった行動を開始する。

 キングはその中でも最上位の存在とされている。

 キング率いるゴブリンの軍団によって滅ぼされた町や村も存在するほどだ。


「改めてもう一度周辺の調査をするしかないな。ガンドフ以外にも数パーティーに指名依頼を出す。仮にキングを確認した場合、緊急依頼案件だ。今回うちの場合はDランク以上が対象になるな。その時は俺も出る。そっちの準備も進めておいてくれ」


「了解しました。他の職員にも伝えておきます。それでは業務の方に戻ります」


「おう」


 メリアが退室し、残ったブルマンは自分の机の引き出しから資料を取り出す。

 そしてそれを熱心に眺めるのだった。



 ◇◇◇



「結局、なんにも分からなかったな」


 あの後資料室で合流した俺たちは、エルデリアについて何か少しでも情報が無いか探した。

 だけど、今日の結果は見事に空振り。全てを調べた訳じゃないから、当面はお金を稼ぎつつ、時間を見付けて資料室を漁る予定だ。

 ちょっとした騒ぎになったこともあって、俺たちはそそくさとギルドを後にした。

 丁度いい時間になってたから、今はレイチェルに教えてもらった店で、サンドイッチと呼ばれるパンに色んな具材を挟んだものを買って、宿に戻り食べている所だ。


「ねえおにい、あのゴブリンの魔石もっと持ってるんでしょ? 出さなくて良かったの?」


「あー、俺も考えたんだけどな、確かに一時的にお金は手に入るけど、それ以降が困るだろ? だから今はこっちのやり方でお金を稼ぐことを覚えようと思ってな。残りの魔石はいざとなった時用だ」


 ちなみに、手に入れた金貨のうち一枚はレイチェルに押し付けた。

 レイチェルはこんなに受け取れないし、そもそも返してもらう必要は無いって言ってたけど……

 金貨を押し付けて、「返そうとしても俺は受け取らないからな!」と言って、半ば無理矢理な形になってしまった。


「やっぱりあたしも一緒にお金稼いだ方がいいと思うんだけど。おにいみたいには無理だけど、ちょっとくらいなら戦えるし」


「リディが無理することはないって。お兄ちゃんに任せとけ。それに、外に行ったらゴブリンの集団に腰布を投げ付けられるかもだぞ~」


「うっ……それは嫌だけど」


 サンドイッチを食べ終え、俺は立ち上がった。


「それじゃ、ちょっとレイチェルに案内してもらってこの近辺を探索してくる。リディはここでポヨンと留守番してるんだぞ」


「……うん。早く帰って来てね」


「ああ、行ってくる」


「いってらっしゃい、おにい」


 リディに見送られ、俺は宿の外でレイチェルと合流する。

 さーて、可愛い妹の為に頑張りますか。

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