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184話 村人たちの恩返し

「成程……確かにそれなら一気に問題を解決出来そうな気もしますけど……」


「だが、それではリディが……」


「あー、それに関しては頼んでみるから大丈夫だ」


「それじゃサリヴァンさんと『念話(テレパス)』を繋げるよ」


 全部を正確に伝える訳にはいかないけど、サリヴァンさんにもきちんと話を通しておかないと駄目だろうな。

 幸い、サリヴァンさんは『念話(テレパス)』のことを知っているし、さっきのグリムオーク討伐で俺たちが来ていることにも気付いてるだろうからそこまで混乱は無いだろう。


《サリヴァンさん、ジェットだ。今リディの『念話(テレパス)』で声を届けてもらってる》


 サリヴァンさんは周囲の冒険者に指示を出した後外壁の上を移動し、俺たちの姿が確認出来る場所までやって来た。 

 問題無く『念話(テレパス)』は届いているみたいだな。

 でも、一応確認はしておこうか。


《多分大丈夫だと思うけど、俺の声が聞こえているなら左手を上げてくれ》


 すると、サリヴァンさんは俺たちに向かって左手を上げた。

 よし、それじゃサリヴァンさんに作戦の一部を伝えておこうか。


《俺たちはこの魔物の大群をどうにかする為に一旦ここを離れる。暫くしたらある程度の魔物が移動をし始めると思うけど安心してくれ。それを殲滅したら今度はこっちを助けに来る。だから、それまでどうにか耐えていてくれ!》


 外壁の上でサリヴァンさんが困惑した様子を見せるけど、ちょっと色々と秘密にしておきたいこともあるから全部を説明出来ないんだよな。

 まあ、伝えることは伝えたし俺たちも作戦を実行に移そう。

 魔物が外壁を突破する前にどうにかしなきゃな。


「それじゃ、俺たちも移動して作戦の準備に掛かろう!」


「うん!」 「はい!」 「あ、ああ」


「キュッ!」 「ニャン」


 そうして、俺たちは全速力で町の南へ向けて走って行った。



 ◇◇◇



「この辺りの平原なら丘に隠れてライナスからは見えないし、周辺に農村も無い」


 ライナスの南へ移動すること数分、俺たちは丁度ライナスからは死角になる丘の斜面へと到着した。


「周辺に気配はありません。ここなら誰にも見られることは無いと思います」


 レイチェルの報告に頷く。

 よし、それなら急いで準備を始めようか。


 まず俺はこの場に地下空間を造り出す。

 今回は時間が惜しいからな。細かい所は大雑把に、最低限崩れ落ちないように広めに造る。


「よし、それじゃリディ頼んだ!」


「うん、任せておいて!」


 リディは地下空間に普段より大きめの転移陣を設置する。

 そして、『転移陣魔術(テレポータル)』で一人この場から飛んで行った。


「レイチェルとアガーテはこの場に残って説明役を頼む。お前たちもここでリディを待ってるんだぞ」


「はい! 任せて下さい!」


「わ、分かった」


 従魔たちも俺に頷く。

 それを確認した俺は地下空間を出て、ここからライナスまで続く平原に向かう。


 さあて、もし想像より魔物をこっちに引っ張って来れなかった時のことを考えると、あまり大量に設置したら邪魔になるだろうな。

 それなら、ある程度大きなものを幾つか設置する方がいいか。


 考えをまとめた俺は、平原の要所要所に氷、地属性、雷属性の『設置魔術(マイントラッパー)』を仕掛けていく。

 一個一個にそれなりの魔力を込めておく。


 念の為視力を強化してライナスの方を確認しておく。

 外壁から何本もの矢が射かけられ、時折サリヴァンさんの火魔法が飛んでいるのが見える。

 よく見ると、外壁に黒い何かがポツポツ見える。

 どうやら外壁をよじ登ろうとする魔物が増えてきているみたいだ。


 リディたちの方もそろそろ準備が終わった頃だろうか。

 急いで戻るか!


 俺がリディたちの元へ戻ると、何人もの見知った顔が俺を出迎えてくれた。


「おお、戻ったかジェット。いやぁ、本当にこんな場所があったんだなあ」


「もう大丈夫だから、私たちが必ず助けるから、ね」


「うぅ……はぃ」


「父さん! 母さん!」


 初めて見る景色に、父さんは興味深々な様子で辺りを見回す。

 母さんはアガーテを優しく抱き締めなだめているようだ。


「はっはっは。レイチェルから大体の事情は聞いている。ジェット、今度は儂らが助ける番だな!」


「村長!」


 村長は力強く頷く。


「そうそう。『転移陣魔術(テレポータル)』については儂が使ったことにしておくからな。そう易々とは使えん魔術だと言っておけば大丈夫だろう。今回のことについても儂が『念話(テレパス)』でお前たちの無事を確認した時に知った、と言うことにする。いいな?」


「うん、分かった! ありがとう村長!」


 村長は再び力強く頷く。


「先生!」 「せんせ~」


「カエデ! ゴーシュ! なんでお前たちまで……」


「あー、二人ともどうしてもついて来ると言って聞かなくてな……まあ、二人とも今年で十五だ。問答する時間も惜しいし、儂と一緒に行動することを条件に今回は特別に許可した」


「アタシ頑張るからね! ここで少しでも実戦に慣れて先生たちと一緒に行くんだから!」


「僕も少しでも皆の役に立てるようになりたいから頑張ってみるよ~」


「おお、そうかそうか! 流石は俺の自慢の教え子だ!」


 二人の頭を撫でると、二人とも少し照れ臭そうにしていた。


「ジェット、カエデは来月には十五だ。儂らはカエデの意見を尊重して、お前たちと共に行くことを許可した。まあ、言っても聞かんだろうしな。くれぐれもかわいい孫のことよろしく頼むぞ?」


 村長の視線が鋭くなる。

 俺は真っ直ぐ村長の目を見て頷いた。


「はっはっは。最終的にはジェットに責任を取ってもらうとするか!」


「も、もう! おじいちゃん!」


 ドフッドフッ


 カエデが村長の分厚い胸板を叩く。

 なんか凄い音がしてるけど……村長は笑ってるし大丈夫だろう。


「おう、ジェット! どっちが多く魔獣を倒せるか競争しよあいたっ!?」


「馬鹿グレン! 遊びに来てるんじゃねえんだぞ!?」


「グレン! エリン姉!」


 エリン姉が軽く跳んでグレンの頭をはたいていた。

 二人も来てくれてたみたいだ!


「ジェット、あたしらも協力するからな! 本当は父さんたちも来たがっていたけど、村を空っぽにする訳にもいかねえからな」


「うちの親父も来てるぞ! 今何人かの大人と一緒に、リディの黒猫の案内で偵察に出てるけど」


 成程。

 ちゃんとレイチェルは説明をしておいてくれたようだな。


「おう、ありがとう二人とも。お礼に今度カレーをご馳走するよ」


「おっしゃああああ! 気合入れてくぜ!」


「ジェット! あたし甘口な!」


 二人は俺たちがご馳走したカレーが物凄く気に入ったんだよな。

 更にやる気を出してくれたみたいだし、今度腹いっぱい食わせてやろう。


 そう言えば、さっきからリディとレイチェルの姿が見えないな。

 どこにいるんだ?


「あ、師匠! すみません、遅くなりました!」


 そう言ってレイチェルが地下空間から出て来る。

 何をしてたんだろうと思っていると、その後ろから更に何人もの人たちが出て来る。

 なんと、その全員がエルデリアの大人たちだった。


「えええ!? こんなに来てくれてたの!?」


「あっはっはっは! 何かあったらしいってのはナタリアから村長に伝わってたからね! 村長の指示であたしらはいつでも動けるようにしてたのさ!」


 畑のおばちゃんがそう語る。

 後ろからも続々と奥様方が出て来る。


「アガーテちゃんには色々と助けてもらってるからな。次は俺たちの番だよ」


「「「おう!」」」


 見張りのおじさんがそう言うと、後ろから野太い声が響いた。


「お待たせ、おにい! ウィタにもちゃんと説明しておいたよ」


 最後にリディが地下空間から出て来る。

 その後にはウィタが少し戸惑いながらついて来ていた。


 よし、これで準備は全て整った。

 俺たちモノクロームも含め、想定していたより多い五十人近い魔術師が集まったんだ。

 負ける気がしない!


「えっと、集まってくれてありがとう! ただ、もうそれ程余裕が無い。早速作戦を始めようと思う。手順はレイチェルに聞いた通りだ。皆、よろしく!」


「「「「「おう!!」」」」」


 早速始めるか。

 俺たちはライナスから見えないギリギリの場所まで進む。

 そして、ウィタに命属性の魔力を渡し、この場にある植物を植えてもらう。


 ウィタから地面に魔力が流れ、ウィタの足元に黒い大きな蕾が幾つか姿を現した。


「おつかれ、ウィタ。後は任せて後ろに下がっていてくれ」


 ウィタが頷いて皆の後ろに下がっていく。

 出来ればウィタがここにいることは知られたくないからな。


 俺は足元の黒い大きな蕾、黒耀花の蕾に命魔術を使い、生命力を活性化させる。

 次第に余った生命力を消費する為に蕾が花開いていく。

 暫くすると、黒耀花は大輪の花を咲かせ、周囲に強烈な甘い香りを放ち始めた。


 うっ。以前のものより圧倒的に香りが強いな。

 可能なら甘い香りを強化して植えてくれと頼んでおいたけど、どうやらウィタは上手く改良してくれたようだ。


 黒耀花の香りはグリムオークを呼び寄せる効果があった。

 ブラックホークが蔦の迷宮の上に大量に巣を作っていたのも、この香りに誘われたからなんじゃないかと言われている。

 そう考えると、他の魔物にもこの甘い香りの引き寄せ効果は働くんじゃないかと思う。

 これを使ってライナス周囲の魔物をある程度こちらにおびき寄せる予定なのだ。


「こりゃあ凄い香りだな。よし、風魔術でこの香りを飛ばす! いくぞ!」


 村長の指揮で、風魔術が得意な村人たちがライナスに向けて風を発生させる。

 

 よし、後は魔物たちが釣れるのを待つだけだ。

 俺はこの作戦が成功してくれることを祈りつつ、ライナスの方向を見つめ続けた。



 ◇◇◇



「炎よ。その姿を紅蓮の槍と化し我が敵を刺し貫け。フレイムランス!」


 サリヴァンの放つ炎の槍が外壁に張り付いた魔物に突き刺さる。

 魔物は全身を炎に包まれ地面に落下していった。


「部長! そろそろ壁と門の限界が近いです! このままじゃ……」


「たはは。これが終わったら、門と外壁を更に強固にしないと駄目みたいだねえ」


 黒獣の森から出て来た魔物から町を守るために強固に造られていた外壁と門だったが、流石に想定を遥かに超える量の魔物に襲われてしまってはどうしようもない。

 むしろ、明け方から今までよく持った方だろう。

 マイルズやアムールの町にも救援要請を出してはいるが、まず間に合わない。


「もう……お終いだ、何もかも」


 絶望的な状況に周囲の冒険者からそんな声が上がる。


「諦めるな! まだ希望は残っている!」


 サリヴァンは懇意にしている冒険者パーティーが向かって行った南の地に視線を送る。


(何か考えがあるみたいだったけど……頼むぞモノクローム。情けない話だが、もう君たちに頼る他ない状況だ)


 その時、眼下で騒ぎ立てていた魔物たちがピタリと動きを止める。そして、何かを探すように周囲を見回す。


「な、なんだ!? この甘い香り……」


 それと同時に、ほんのりと甘い香りが風と共に漂ってきた。

 外壁の上にいる冒険者や衛兵は何事かと警戒を強める。

 甘い香りはどんどん強くなり、次第に魔物たちはその香りの出所、南の平原へ視線を向ける。


 そして、一斉に周囲の魔物たちが南へ向かって移動を開始した。

 南の平原が黒で埋め尽くされていく。

 すると、南の平原の所々で大きな爆発音が轟いた。

 その爆発の周囲では魔物が体を凍らせたり、体を痺れさせて後続の魔物に踏み潰されたりしている。

 巨大な穴に呑み込まれていく魔物たちもいた。


「ど、どうなってるんだ? ジェットたちは一体何を……」


 その時、サリヴァンはこの漂って来る甘い香りの正体に思い至った。


(そうか、この甘い香りは黒耀花のものか! だがどうしてこんな所に黒耀花が……いや、そんなことは今はどうでもいい)


 ジェットたちのお陰で、今この周辺に残っている魔物の数は激減した。

 今のライナスの戦力でも十分対処出来る数であった。


「弓隊はここに残って壁を登って来る魔物の対処を! 他の部隊は外に出て残った魔物を討伐する! 指示を急げ!」


 サリヴァンの指示を受け、ギルド職員が大慌てで通信用の魔道具を使い、他の部隊へサリヴァンの指示を伝える。


(さぁて、ジェットたちがここまでやってくれたんだ。俺たちも意地を見せないとな)


 こんな状況の中だったが、サリヴァンは自然と笑みを浮かべていた。



 ◇◇◇



「おにい、今見張りに出ているおじさんから『念話(テレパス)』が届いたよ! 町の周りにいたほとんどの魔物がこっちに向かってるみたい!」


 おおう……どうやらウィタが改良した黒耀花の香りはとてもよく効いたようだ。

 本来ならある程度引き付けてそれを倒し、その後ライナスへ救援に駆け付けるつもりだったのに……


 ドゴァァアアンドゴォォオオンドォオオオンッ


 前方で仕掛けていた『設置魔術(マイントラッパー)』が炸裂する。

 こうなるのが分かってたらもっと数仕掛けたのに……


「はっはっは! まあ良かったじゃないかジェット。これでアガーテの町は大丈夫だろう?」


 父さんの発言でアガーテの目に闘志が宿る。


「そうねえ。あとはやって来る魔獣を退治したら大丈夫ね」


「よし! それではまずは遠距離班が先制攻撃を仕掛ける! 魔獣が接近して来たら狩猟班は前へ! それ以外の者たちは狩猟班の援護を! ジェットたちは遊撃、カエデとゴーシュは儂のそばを離れるな!」


「「「「「おう!!」」」」」


 村長の指示を受け、皆がそれぞれの配置につく。

 俺たちはトレント襲撃の時と同じく、遊撃班として全体のサポートに回る。


 暫くすると、先頭の魔物たちの姿が見え始めた。

 どいつもこいつも体が凍り付いたり焼け焦げていたりと『設置魔術(マイントラッパー)』が効果的に働いたみたいだ。

 中には体中から血を流している魔物もいる。


 そんな魔物たちへ、容赦の無い魔術攻撃が飛んで行く。

 お! どうやらゴーシュもこの攻撃に参加しているみたいだな。

 なかなか様になっているじゃないか!


 暫くはそうやって手負いの魔物を討伐し続ける。

 すると、次第に後続の無傷だった魔物たちが現れ始め、遠距離魔術だけでは倒しきれなくなっていく。

 そうなってくると、今度は父さんやグレンたち狩猟班の出番だ。

 遠距離班のうちの何人かが狩猟班の援護に回る。


 カエデはこっちで頑張るみたいだな。

 大きく深呼吸をして、構えた槍に黒炎を発動させていた。

 村長とゴーシュもついているし、消火も問題無いだろう。


「よし、俺たちも向かって来る魔物たちを始末しよう!」


「うん!」 「はい!」 「ああ!」


「キュッ!」 「ニャン」


 それぞれ武器を構え、俺たちも向かって来る魔物の大群を倒すべく目の前の戦場へと向かった。

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