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179話 隠された道

「全く! どこにこんなにいたんだよ!」


 俺はリビングアーマーが振り下ろした斧を避け、白炎の槍を鎧の隙間から突き入れる。

 リビングアーマーは鎧から輝く炎を吹き出し、そのままピタリと動きを止めて崩れ落ちた。


「もしかしたら、ダンジョン中から魔物が集まっているのかもしれんな」


 目の前のスケルトンを鎚で叩き潰しながら、アガーテは忌々しそうに宙を漂う青白いゴーストたちを見つめた。

 そのゴーストたちに向けてキナコから無数の光の魔力弾が放たれる!

 光の魔力弾をその体に受けたゴーストたちは苦悶の表情を浮かべかき消えていく。

 しかし、そこにまたさっきとは別のゴーストが現れる。


「もう! キリが無いよ!」


「師匠、やっぱりこの周辺にこれ以上通路は無いみたいです!」


 俺たちはダンジョンの最深部だと思われる場所までやって来た。

 結構な高さや広さがあることを考えると、城の玄関ホールだったんじゃないかとアガーテが言っていた。

 どこにも通じてない上に壊れていたけど大きな扉もあったしな。


 その場所で現在スケルトンやリビングアーマーと言った魔物たちと戦っているのだ。

 その上ゴーストたちまで現れてしまい、更に魔物たちが押し寄せて来る始末だ。


 結局、ここまでにギリアムらしき相手はどこにも見当たらなかった。

 勿論、全ての部屋まで念入りに確認出来た訳じゃないからそのどこかに潜んでいた可能性はあるけど……


 それと同時に、女神様たちがギリアムに襲われていた場所もまだ発見出来ていない。

 アガーテに話してみると、おそらくどこかに脱出用の抜け道があるんじゃないかと言うことだ。多分、ライナスの城にも同じようなものがあるんだろうな。

 あの時はジェドが女神様たちを逃がしてたって話だったし、その可能性は高いと思う。


 そこで、まずは辿り着いた玄関ホールを調べてみることにした。

 そうしたら魔物たちがどんどん集まって来てしまい今に至るのだ。


 このダンジョンに出て来る魔物たちは、弱点が明確なのでそこまで戦いづらい相手ではない。

 だけど、どいつもこいつも痛みや疲れと言う概念が無いのが厄介だ。

 腕や脚を崩すみたいに中途半端に無力化してもお構いなしに向かって来る。


「キュゥウウウ!」


 ルカが光の水でリビングアーマーの魔石を抜き取る。

 魔石を抜き取られた盾持ちのリビングアーマーは大きな音を出して崩れ落ちた。


「リビングアーマーって色んな武器を器用に使うんだね」


 他にこの周囲にいるリビングアーマーだけでも槍を持っていたり、棘の付いた鉄球を持っていたりする奴もいる。

 武器ごとに対処法が色々違って面倒なんだよなあ。


「ジェット! どうする?」


 俺たちが魔物を食い止めている間、レイチェルには風魔術での周囲の探査を頼んでいた。

 さっきこれ以上ここに通路は無いって言っていたし、そうなるとこの場に長居する理由もない。


「これ以上ここにいても仕方ない! 来た道を戻ろう!」


 場合によってはダンジョンからの脱出も考えた方がいいのかもしれないな。

 ギリアムを探すにしても、あても無く探すより一度安全な場所でレイチェルが作ってくれたダンジョンの地図を見て話し合う方が良さそうだ。


 俺たちは通路の前に立ち塞がる魔物を倒しながら進む。

 ホールから通路へ退却し、通路の魔物を退けながら後退する。ホールの魔物は無視だ。


 そうして、魔物が見当たらない場所まで退却した俺たちは近くにあった部屋へと入り、その中で少し休憩することにした。


「……よし、徹底的に浄化しておいたぞ。これでゴーストもここには入れない筈だ」


 どうもゴーストは瘴気のある場所にしか存在出来ないようなのだ。


「はぁぁああ……疲れました」


「ふぅ、やはりアンデッドやリビングアーマーは厄介だな。純粋な戦闘能力だけなら黒獣の森の魔物の方が強いだろうが、やはり疲れや痛みと言った感覚が無いのがな」


「はい、どうぞ」


 リディが皆に飲み物を渡す。

 喉が渇いていたのもあって、渡されたそばから皆飲み干していた。


「はぁあ、うまい。とりあえず、一度ダンジョンを脱出しようか。このままあても無く彷徨うのは止めた方がいいだろうし」


「そうだな。一度安全な場所で作戦を考えた方が良さそうだ」


「トラップや気になった個所はちゃんと印を付けています」


 レイチェルからダンジョンの地図を受け取る。


「おお、分かりやすく書かれてるな」


 そうだそうだ、この部屋の壁にも何かトラップらしきものがあったんだったな。


「うわぁ、レイチェル姉凄いね」


「ああ。これだけ丁寧に書かれていたら、次の探索はもっと効率的に行えるだろうな」


「えへへ、ヴォーレンドとライナスで買ったギルドの資料を参考にしてみました」


 そう言えば、ヴォーレンドのダンジョンの時も地図に無い部分を書き足したりしてたな。

 基本的に資料の管理はレイチェルに任せていたし、そうやって資料を管理しているうちにこう言ったことが得意になっていったんだろうな。


「やはり、こうして改めて地図を見てみると、通路がかなり歪な繋がり方をしているな。この辺りは建物で言うと二階と三階が繋がっているようなものだ」


 アガーテが地図の一部を指さしながら語る。


「そのせいで所々どこにも繋がっていない通路や階段もありますしね。ダンジョン化していなければぺしゃんこになっていそうですよね」


「実際、ぺしゃんこに潰れた場所もあるんだろうなあ」


「先生とポヨンに見せてもらった記憶だと相当崩れてたもんねこのお城」


 リディの言葉に頷く。

 正直、こうやって形が残っているだけでも驚いたくらいだからな。


「ん?」


 その時、レイチェルが何かに反応した。

 こう言う時は大体何かが起こる前触れだ。

 リディもアガーテもそのことは十分承知しているようで、それぞれ警戒を強める。


「どうしたレイチェル?」


「さっき一瞬何かの気配を感じたんですけど……よく分からなくなって」


 スケルトン以外にも、リビングアーマーもゴーストもレイチェルの気配察知には反応しなかった。

 つまり、それ以外の何かがどこかにいると……


 俺たちは休憩している部屋を見回す。

 特にここに入った時と何も変わったような場所は……ん?


「なあ、あの壁の下の方。あそこってあんな染みみたいなものあったっけ?」


 石造りの壁の一部が黒く染みになっていたのだ。

 さっき部屋の浄化をしていた時にはあんなもの無かった気がするんだけど……


 その染みを確認する為に警戒しながら近付く。

 ある程度近付いた所で、


「あ! その染みから気配を感じます!」


 どうやら気配の正体は黒い染みだったようだ。

 と言うことは、あれは生き物なのか?


 すると、壁の黒い染みは床に流れ落ち、その形を変えながら動く。

 まるで何かを探しているような動きだ。


「あれは、スライム? でも、その割に体の形が崩れてるけど……」


 俺が見たことあるスライムはポヨン含め、もっと体の形がはっきりしていた。

 あんなに水みたいな奴は見たことない。


 崩れたスライム? がピタリと動きを止める。

 そして、今度は俺たちの方に進路を変え動き出した!


「こっちに来る!?」


 崩れたスライム? からまるでポヨンがやるように身体の一部が伸びる。

 そして、その伸びた触手が俺たちに向かって勢いよく向かって来た!


「うおっ!?」


 咄嗟に剣を振るい触手を斬る。

 すると、斬られた触手は勢いよく壁にぶつかり床に落ちる。

 その後本体と同じように床を動き、そのまま本体に吸収された。

 それから何事も無かったかのように再び俺たちに向かって来る。


「なんなんだこのスライム!?」


 ポヨンが俺に軽く体当たりをしてくる。

 どうやらあんなのと一緒にするなと怒っているようだ。


「もしかして、ブロッブの一種か!?」


「ブロッブって、確かスライムが変異した魔物だよね?」


「ああ。スライムは基本的に死体や生ごみを食べて生きている魔物だが、ブロッブは生きたものしか襲わない。大群で現れると小さな村一つくらいなら滅ぼしてしまうこともあるそうだ」


 確かに、俺たちを狙って来ることを考えるとその可能性が高そうだ。


 ブロッブは再び触手を伸ばし俺たちに向ける。

 すると、今度は触手の先端から何やら妙な液体を飛ばしてきた。


「避けろ!」


 あんなもの食らいたくないので横に躱す。

 皆の同じように回避していた。


 飛んで行った液体はそのまま地面に落ち、白い煙を出しながら消えていった。

 それと共に刺激臭が漂う。


「消化液か何かか! 何にしても敵みたいだし討伐する!」


 俺は槍を取り出し集中する。

 その間にアガーテは盾を構え俺たちの前に立ち、リディとレイチェルから氷弾と氷の槍がブロッブに向け飛ばされる。

 二人の攻撃により、ブロッブは体が凍り付いていき一気に動きが鈍くなる。


「待たせた!」


 槍の穂先に白炎が点る。

 白炎の槍を体が凍り付いたブロッブに突き入れる。

 すると、白炎はたちまちブロッブに引火し、ブロッブは徐々に灰となっていった。


「ふう、あっさり倒せるような奴で良かったな」


「この壁から出て来たんだよね。向こう側に何かあるのかな?」


 ポヨンを頭に乗せたリディがブロッブが染み出して来た壁に近付く。

 そのまま放っておくのも危険なので、俺は急いでリディの元へ走る。


「おい、リディ。危ないぞ」


「ごめん、おにい。でもほら、ここ。ちょっとだけ隙間みたいになってる」


 リディに言われた個所を壁に手をついて覗き込む。


 ガコンッ


 俺が手をついた壁が音を出して沈み込む。

 あ! しまった! ブロッブ騒ぎで忘れてたけど、こっち側の壁って確か何かのトラップの気配が……


 すると、目の前の壁が回転するように開く。


「うおっ!?」 「きゃっ!?」


 手をついていた壁がいきなり回転したことで、俺はリディを巻き込んで壁の向こう側に転がり込んでしまう。


「師匠!? リディちゃん!?」


「あれは、隠し扉!?」


 ガゴッ


 壁の隠し扉はそのままの勢いで回転し、再び壁となって俺たちの通った道を塞いだ。

 俺は急いで光魔術で灯りを確保する。

 今俺たちがいるのは外の通路より幾らか狭い通路のようで、奥に更に道が続いていた。


 ドンドンドンッ


「師匠! リディちゃん! 大丈夫ですか!?」


「どうなっている!? 壁の仕掛けが動かん!」


 隠し扉の向こう側からレイチェルとアガーテの声がする。


「俺たちは無事だ! こっちからも開いてみるから下がってくれ!」


 隠し扉を開こうと力を込める。

 だけど、隠し扉は一向に動く気配がない。

 ミスリルの鎚で破壊出来ないか試してみたけど、どうやらダンジョンの修復力が働いているみたいでビクともしなかった。


「くそっ! 開きそうにないな!」


「どうしようおにい……」


 リディがポヨンを抱き締めながら不安を口にする。


「落ち着けリディ。いざとなれば一旦『転移陣魔術(テレポータル)』で」


《ふむ。その扉は非常時の隠し通路への入り口じゃ。一度閉じられると、一日程度経過するか制御しておる魔道具で操作しない限り開くことは無いぞ。その魔道具はこの奥にあった筈じゃ》


 え? 頭に女神様の声が!?


《くふふ。なにやらねちっこい魔力をポヨンが感じ取ってな。妾の魂と『念話(テレパス)』を繋げたようじゃ》


 ねちっこい魔力って……賢者ギリアムか!

 いや、今はそれよりも。


「レイチェル、アガーテ、この扉は一日経つか魔道具で操作しないと開かないらしい。操作出来る魔道具はこの奥にあるそうだ」


「え? そうなんですか!? って、なんでそんなことが分かるんです!?」


「今女神様が教えてくれた。それに、ねちっこい魔力を感じたとも」


「女神様……ジェットとリディに力を授けた古代の魔王か。分かった。私たちはどうすればいい?」


 うーん、一日待つよりはその魔道具の場所まで行った方がいいよな?

 リディの『転移陣魔術(テレポータル)』で一旦脱出することも考えたけど、それじゃ皆を置いて行くことになっちゃうし……

 ただ、ギリアムがいる可能性があるのがなあ。

 可能なら全員が揃った万全の状態で探索したいけど……


《ジェット、そうのんびりもしていられんかもしれんぞ?》


「おにい! ブロッブがこっちに!」


 ポヨンが光属性『エンチャント』で奥を照らすと、先程と同じようなブロッブが数匹こちらに向かって来ていた。


「この奥からブロッブが出て来てる! 流石にここで一日は待てないから扉を開く魔道具を探してくる! 最悪、『転移陣魔術(テレポータル)』で脱出して迎えに来る! 二人もブロッブに注意しながらそこで待っていてくれ!」


「わ、分かりました!」


「了解した!」


「キナコ、ルカ、サシャ、レイチェル姉とアガーテ姉の言うことを聞いて待っていてね!」


「キュゥウ」 「ニャァン」


 さて、こんな所にこれ以上いても仕方ない。

 ブロッブを倒しながら奥へ行かなきゃな。


《暫くはこのまま『念話(テレパス)』が通じそうじゃな。案内は任せておけ》


「よろしく、女神様! 行くぞ、リディ、ポヨン」


「うん!」


 俺はブロッブたちに迫られる前に急いでミスリルの槍に白炎を点す。

 灯りの確保をリディとポヨンに任せ、白炎の槍でブロッブを討伐しながら俺たちは隠し通路の奥へと向かった。

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