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176話 俺たちだけでも……

「な、なあジェット、リディ。今の話……本当なのか?」


 アガーテがわずかに震える声で俺たちに尋ねてくる。

 内容的に『勇者と賢者の物語』が大好きなアガーテにとっては信じられない、いや信じたくないものだったろうからな。


 俺とリディにもあの夢の中で見聞きしたものが真実だったのかを知る術はない。

 だけど、俺たちに力を託し陰から協力してくれていた女神様と、リディの従魔としてそばでずっと苦楽を共にしてきたポヨンが語ったことなのだ。

 俺もリディもそれを疑うつもりは無かった。


「ああ。アガーテにとっては信じたくない内容だろうけど……」


「は、ははは……侵略を仕掛けたのが本当は魔王ではなく人間の王で、勇者は人集めに使われた哀れな存在、賢者は己の欲望の為だけに全てのものを利用していただけだったとは、な。こんな話、ジェットとリディの話でなければ信じたくなかった」


 アガーテが力なく笑う。


「ジェット、リディ。その勇者ライナスとやらは、最終的にはここにエルデリアを拓いた人物の一人、で間違いないな?」


 村長の質問に俺たちは頷く。


「全部を見た訳じゃないんだけど、状況的に間違ってないと思う」


「すこし歳を重ねたあたしたちのご先祖様の所に訪ねて来てたからね」


「そうか。いや、実はな、このエルデリアの初代村長が遺した記録がわずかに伝わっておるのだが、その村長の名前の部分がかすれておって、おそらく『ラ』から始まる四文字の名前であろうことしか分からなかったのだ」


「それじゃあ、ライナスがエルデリアの初代村長?」


「話を聞く限りは、な。過去の愚かな諍いなど繰り返さず、村を平穏に導いていけ、とも記されておるのだが、お主たちの話を聞いて妙に腑に落ちた」


 村長が手元の紙に何かを書き込んでいく。

 多分、さっきの話を纏めているんだろう。


 そして、それを聞いたアガーテが目を輝かせていた。


「それにしても、まさかうちが魔王様、だったか? そんな人の血筋だったとはなあ……」


 こんな狭い村だからな。

 五百年も経った現代だと、村人ほぼ全員に魔王の家系と勇者の血が流れているとは思うけど。


「あの家宝だった宝石も、本来はどうにか捕らえられた魔王様を解放する為に保管してあったのね。それが、いつしかそんなことも忘れられていって……」


「あの時遺跡で見た女の人、あれがジェットの言う女神様でリディの言う先生の魔王様だったんだなあ。妙に懐かしさや親しみを感じたのは俺たちのご先祖様だったからか」


「儂らはあの時どことなくリディの面影を感じたのだが、今の話を聞けば納得だな」


 父さん、母さん、村長がしみじみと語る。


「それで、師匠とリディちゃんに力を託した女神様が生まれ変わったのがポヨンちゃんだったんですよね……」


「まさか、無くなった家宝の宝石が実は食いしん坊のスライムになっていたなんてなあ」


 リディの頭の上のポヨンがぷるんと揺れる。


「でも、ポヨン自身は先生とは違う存在みたいだけどね」


 俺たちとしても特にポヨンを特別扱いするつもりは無い。

 生まれはどうであれ、今まで通りこいつはうちの食いしん坊従魔の一員だ。


「そ、そのジェット。この話をライナスで語ったりは……」


 アガーテの言葉に俺は首を横に振る。


「さすがにこんなこと、確かな証拠も無くライナスで語っても誰も信じてくれないだろうな」


「そうじゃな。聞くところによると、アガーテの国ではその物語が国中に浸透しておるようだし、それを根底から覆すようなこんな話、下手をすれば命に関わる。語らない方が賢明だ」


「そ、そうだな。その点に関しては私も否定は出来ない」


 だけど、俺とリディとしては女神様の真実をちゃんと誰かに知っておいてほしい訳で……


「それで村長。出来れば今の話、エルデリアではちゃんと知っておいてほしいんだ。外の世界では難しくても、せめて俺たちだけでも……」


 俺の言葉に村長が頷く。


「ああ、分かっておる。今メモしたものを後できちんと整理して記録として残す。場合によっては、それを今後エルデリアの理念と合わせて子供たちの歴史の授業として取り入れてもいいかもな。もう今のエルデリアには、その時代のような諍いの火種なぞ残ってはいないしな」


 その辺りは村長ならきっと上手く調整してくれるだろう。


「あの、師匠。それで、アンデッドになったって言う賢者ギリアムについてはどうするつもりなんですか?」


「それは……」


 女神様はそんなことに縛られず俺の好きに生きたらいいと言ってくれた。

 だから、これに関しても俺の好きにしようと思ってる。


「俺は、ギリアムを討伐しに行くつもりだ」


「でもおにい、先生は」


「分かってる。別に女神様の敵討ちだとかそう言うつもりは無い。ただ、エルデリアの近くにそんな奴がいると思うと安心して冒険が出来ないからな」


「ああ! 確かに! 帰って来たらまた村中が骨だらけだった、なんて嫌だもんね」


「だろ? それだったら原因を取り除いた方が俺としても安心してエルデリアに帰って来れるしな」


 俺とリディは頷き合う。

 それを見て、父さんと母さん、村長が溜息を洩らした。


「はぁ、確かに儂らとしてもありがたい話ではあるが……」


「まあジェットのことだ。どうせ止めたって勝手に行くだろうからなあ」


「私としてはリディ共々もうちょっと落ち着いてもらいたいのだけどねえ」


 父さんと母さんは既に諦めの境地に達しかけているようだ。


「師匠! 勿論わたしも手伝いますからね! 置いて行くなんて無しですよ?」


「私も……私も行くぞ。ギリアムについては残念だが、せめてライナスが遺したこの村を護る手伝いをさせてくれ!」


 二人も当たり前のように俺たちについて来てくれるんだなあ。


「キュゥウウウ!」 「ニャアン」


 キナコ、ルカもやる気を漲らせる。

 サシャだけはやれやれ、と言った雰囲気だけどちゃんと手伝ってはくれるみたいだ。


「ジェット、確か外の世界では冒険者、と言う者たちに依頼を出して問題を解決してもらうんじゃったな」


「うん。まあ、依頼者と冒険者との間をギルドが取り持ったり、色々あるんだけど」


「はっはっは。そんなものはエルデリアには無いからな! えーと、お主たちの呼び名は何だったか」


「パーティー名? 『 モノクローム 』だよ」


「おお、そうだそうだ。では、エルデリア村長ガナードからモノクロームに依頼を出す。此度の騒動の元凶、ギリアムとやらを退治してエルデリアを救ってくれ! 報酬は……金とやらはここには無いからなあ。そうじゃ、何かあった時は今度は儂らが力を貸そう」


「はっはっは、村長、そんな報酬無くても結局力を貸すから報酬になってないんじゃないか?」


「ふふふ、困った時は助け合うのがエルデリアでは当たり前だものね」


「ま、まあそれはそうか。うーむ……」


 あー、村長が考え込んでしまった。


「あはは、じゃあ、エルデリアの皆さんが困っているなら私たちが力を貸すのも当たり前ですね」


「そうだな。村長殿、今回の件はそれでいいのではないだろうか?」


 レイチェルとアガーテの言葉を聞き、村長が豪快に笑い始めた。


「はっはっはっはっは! これは一本取られたな! まあ、報酬かどうかはともかく、儂らも何かあった時は力になる。その時は遠慮なく言え。いいな?」


 村長の言葉に俺たちは頷く。

 そうして、俺たちモノクロームは、俺とリディとポヨンにとっての冒険の始まりの地、秘密基地こと『静寂の城跡』へと向かうことになった。



 ◇◇◇



「ここが南の遺跡、師匠たちの秘密基地ですか」


「ジェットやリディの話を聞く限り、おそらくこの地に沈んだ城だった場所は遺跡型のダンジョンとなっているのだろうな」


 俺たちは、道中現れる黒ゴブリンを討伐しながら秘密基地へと到着した。

 あの後、自分たちもついて行くと言い出した父さんと母さん、村長を説得するのに結構な時間を取られた。


 女神様に見せてもらった昔の城には大量に瘴気が溢れ出していた。

 スケルトンの棲み処になっていたことも考えると、今から俺たちが向かう予定の秘密基地の奥にはその瘴気が残っているんじゃないかと思う。

 流石に母さん一人で父さんと村長の分まで光魔術での保護をしてもらうのは大変だからな。


 それに、エルデリアの守りに残っていてもらいたかったのもある。

 流石にダミアンみたいなスケルトンがすぐにまた現れるとは思えないけど……念の為にな。

 村自体が早期の復旧に忙しいのもあるし。


「ギョギャギョェェエエエ」


「むっ、殺戮ゴブリンか!」


 ここに来るまでもそうだったけど、やはりここも普通に魔物が来るようになったままみたいだ。


「よし、出遭った魔物は倒しつつ奥に向かうぞ!」


 そうして、俺たちは遭遇した黒ゴブリンを始めとした魔物たちを討伐しつつ奥へ向かう。

 暫く奥へ進むと、俺たちがミスリルを抽出していた瓦礫の山へと辿り着いた。


「あ、おにい。ほら、あそこに残ってる壁とか柱とか。先生に見せてもらった景色のものとそっくり」


「確かに。と言うことは、やっぱりここに女神様たちがいた城があったのは間違いなさそうだ」


 ただ、周囲には瓦礫が広がっているだけで以前のように奥へ続く入り口は見当たらない。

 瓦礫の広がり方も、俺たちが行方不明になってから変わっているみたいだ。


「リディ、あの時の入り口がどの辺りだったか覚えてるか?」


「え? うーん、あの後あんなことになっちゃったから、その時の印象ばっかりが残ってて全然覚えてない」


 やっぱりか。

 俺も似たようなもんなんだよなあ。


「これだけ瓦礫で埋まっていると、パッと見ただけでは何も分かりませんね」


「何かありそうな部分の瓦礫を撤去してみるしかないのではないか?」


「そうだなあ。ここで瓦礫を眺めてても何も始まらないしな」


 そうして、瓦礫撤去作業を開始しようとした所で、リディのそばにいたポヨンが急に瓦礫の上を移動し始めた。


「あ、ポヨン。勝手にどこか行っちゃ……え? そこに入り口があるの?」


 ポヨンが体を伸ばして大きく頷く。


 俺たちはポヨンの元まで移動し、周囲の瓦礫を退けていく。

 すると、そこには以前にも入ったことのある、奥に向かう暗闇の通路が現れた。


「おお、ここにあったのか。周囲が崩れてまた埋まってたみたいだな」


「ポヨン、お手柄だね!」


 リディがポヨンを抱き締める。

 すると、キナコとルカが並んで順番待ちを始めた。

 サシャだけは興味が無さそうな振りをしているけど、よく見たら横目でちらっとリディの方を見ていた。

 結局、キナコとルカとサシャも何かをした訳でもないけどリディに抱き締められていた。


「この奥に、アンデッドとなった賢者ギリアムがいるのだな」


「多分な。ただ、女神様はギリアム自身が動かないのを不思議がっていたけど」


「この奥で何かあったんでしょうか?」


「分からない。何にしても、この先に行ってみないとどうしようもないな」


「おにい、準備出来たよ」


 リディによってポヨンに光属性『エンチャント』が施される。

 今回もポヨンに灯りになってもらうみたいだな。


「よし、それじゃ慎重に進むぞ」


 そうして、俺たちは今度は誘い込まれるでもなく、自分たちの意志で暗闇の通路を奥に進んで行った。

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