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175話 夢から醒めて

「そうだ! 女神様はギリアムが俺たちを狙ってるって!」


「でも! さっきも見たけどギリアムって五百年以上も前に死んだんじゃ……」


 さっき見たギリアムは、巨大な瓦礫に押し潰されていた。

 両手も失っていたし、あの状態で助かるとは思えないんだけど……


『確かに、ギリアムはあの時に死んだ。じゃが、死んだ者が別の形で再び現れることもある。お主たちも見たであろう? 黒いスケルトンとなりエルデリアに現れたダミアンを』


「そうか! アンデッド!」


 俺の言葉に女神様が頷く。


『あの城は溢れてきた瘴気と共に彼の地に沈んだ。おそらく、そこで瘴気によって彼奴らの死体がアンデッドとなって蘇ったのじゃろう』


 アンデッドとして蘇った賢者ギリアムが、あの時俺たちを狙って……

 あの時は女神様の魔力を託された俺、リディ、そして女神様の魂が生まれ変わったポヨンがいたから……あれ?


 そこで俺に一つの疑問が生まれる。


「女神様。なんで俺たちはあの時に狙われたんだろう? あれ以前にもリディと一緒にあの秘密基地に行ったことは何度もあるし、それより前には俺一人で何回も行っていたのに……」


『推測にはなるが……あの時に初めてお主たちのことを認識出来たのじゃろうな。それまでのまだ未熟じゃったお主たちの魔力では、ギリアムは感知出来なかったのではないかと思っておる』


 確かに、あの時はヌシ退治をして二年くらい秘密基地には近付けなかったから、その間に修業を重ねて俺もリディも魔力はかなり上昇してたと思う。


「ねえ先生。なんでギリアムの仕業だって分かるの?」


『うむ。彼の地にはギリアムの魔力が漂っておったからな。お主たちの両親も言っていたであろう? 彼の地に近付こうとすると体調が悪くなると。それはギリアムの闇属性の魔力に酔った影響じゃ。彼奴は闇属性が得意じゃったし、何より魔力に彼奴独特のねちっこさがあった。妾が彼奴の魔力を間違うことは無い』


 ねちっこさ、と言う言葉にリディが嫌そうな顔をする。

 成程。父さんたちが遺跡に近付けなかったのはそのせいだったのか。


「そのギリアムの魔力にあの時俺たちが見付かっちゃったと……」


『おそらくな。だが、気になることもある。さっき見た通り、ギリアムは基本的に肝心な部分では率先して自らが動く。その方が他人に任せるより確実だからであろうな。じゃが、今回彼奴は存在することは確かじゃと思うが、一向に姿を見せん。今回のエルデリア襲撃も現れたのはスケルトンとなったダミアンじゃった』


「ギリアムが健在なら、自らダミアンたちを率いた筈だと」


 女神様が頷く。


 その時、周囲の真っ白な景色が徐々に暗く染まり始めた。


「あ、暫くしたら目が覚めそうかも」


 そうか、リディは何度も体験してるから……

 あ、いかん! 女神様にお礼を言っとかなきゃ!


「女神様! 俺、女神様が託してくれた力のお陰で無事エルデリアに帰ることが出来て、俺の知らなかった世界の広さもいっぱい知ることが出来て、大変なこともあったけど、それ以上に楽しいこととか嬉しいことがいっぱいで……だから、だから! 俺に力を授けてくれてありがとう!」


 俺の言葉に一瞬女神様は目を見開いた後、安心したように笑った。

 そして、俺たちのそばに来て俺とリディを母親のように優しく抱き締めてくれた。


『くふふ。結果論とは言え、ギリアムに狙われてしまったのは妾のせいじゃ。恨み言の一つでも言われることを覚悟しておったが……』


「女神様は悪くない! そうだ、あの時の約束! 女神様をいじめる悪い奴は俺が倒す!」


『くふふ、そう言えばそんなことも言っておったのう。だがジェット、お主はそんなこと気にせず好きに生きたらいいのじゃ。妾はお主にあそこから解放してもらっただけで十分じゃ。妾の託した力は既にお主の血肉となっておる。その力は、妾の為ではなくお主と共に生きる大切な者たちの為に使ってやれ。リディたち家族もそうじゃが、レイチェルとアガーテじゃったか』


「そ、それは、二人は大切な弟子だから勿論……」


『くふふ、お主は寝ても覚めても魔術の修業ばかりで、そう言ったことに一切関わってこんかったからのう。正直あそこまで魔術にのめり込むとは思っておらんかった。妾としてもそこは失敗したと思っておる』


「そうそう! 先生もっと言ってあげて! おにいは超鈍感のむっつりだし、レイチェル姉とアガーテ姉も超が付くほどの奥手だし、見てるこっちはずっとやきもきしてるんだから!」


 お、おう。

 妹にこんなことを思われていたとは……


『くふふ、まあお主たちのペースと言うものもある。慌てる必要も無いが……最後にはきちんと責任は取るのじゃぞジェット? 勿論、師ではなく男としてな』


「そうそう! 今更レイチェル姉もアガーテ姉もおにい無しじゃ駄目だろうしね」


 リディの頭の上のポヨンが大きく頷く。


「お、おう……」


『ほら、しゃんとせんか。なんだったら『俺について来い!』と堂々としておれば良いのじゃ。お主も二人のことは憎からず思っておるのじゃろう?』


 女神様の言葉にぎこちなく頷く。


 うおおおおおおおお!

 何だこの状況!?

 滅茶苦茶恥ずかしい!


「……まあ、どうせおにいのことだからカエデ姉のことも気付いてないんだろうけど……」


 リディが小声で何か言ってるけど、全く頭に入って来ない。


『まあ、妾としては優秀過ぎる兄を持つリディの将来も心配じゃがのう』


 その時、周囲が更に暗くなる。


『さて、もうお別れの時間じゃ。ジェット、リディ、お主たちに出会えて妾は幸せじゃった。子を生せなかった妾がお主たちの成長をポヨンを通して見守ることが出来て、まるで一気に二人も子を得た気持ちじゃった。ポヨン、お主も妾のことは気にせず好きに生きよ。良いな?』


 女神様の言葉にポヨンが頷く。


「女神様! 俺もあの時女神様を助けられて良かった!」


「先生! あたしも先生に色々教えてもらえたこと感謝してるよ!」


 女神様が笑顔で頷く。


 そして、それを最後に世界は真っ暗闇になった。



 ◇◇◇



「ん、んん……」


 もう朝か。


 周囲を確認してみると、どうやら父さんと母さんは既に起きているようだ。

 隣ではリディの瞼がピクピク動いている。そろそろ目を覚ましそうだな。


 そして、頭に妙な違和感を覚える。

 頭の上に手を伸ばしてみると、ぷるんとしたものが手に触れる。


「あー、これはポヨンか。と言うか、何でこいつは俺とリディの頭に覆い被さってるんだ?」


「んんー、ふぁああ……」


 丁度そのタイミングでリディも目を覚ましたようだ。


「んー、おはようおにい」


「おはようリディ。早速で悪いんだけど、この頭を覆っている寝坊助を起こしてくれ」


 リディは少しぼーっとしながら頭の上に手を伸ばす。


「んー、なんでポヨンはあたしたちの頭に……あれ? 覚えてる?」


 その時、リディが何かを呟く。

 そして、何かに弾かれたように布団から飛び起き、ポヨンごとその場に立つ。


「いたたたたたたたっ!?」


 俺の頭に覆い被さったポヨンが引っ張られ、それと同時に俺の頭も引っ張られる。


「おにい! ぼーっとしてる場合じゃないよ! 先生! 先生のこと忘れてないんだよあたし!」


 先生……リディの言う先生って夢の中の先生のことだよな。

 そうそう、その先生って実は女神様で……

 あっ!


 夢で見た数々の光景が俺の頭の中に急速に蘇る。

 女神様との再会、ポヨンが女神様の生まれ変わりの存在、エルデリアの過去の記憶、俺たちを狙うアンデッドと化した賢者ギリアム!


「し、師匠!? どうしたんですか!?」


「何やら大きな声を出していたようだが?」


 その時、部屋の入り口からレイチェルとアガーテが顔を覗かせた。

 それと同時に、女神様の『師ではなく男として責任を取れ』と言う言葉が頭に浮かぶ。


「な、何でもない! 何でもないぞ!」


 うおおおおお!

 顔が熱い!

 つい二人から目を逸らしてしまう。


「「ん?」」


 レイチェルとアガーテは俺の態度に違和感を覚えたみたいだ。


「って、おにい! とりあえず今は皆に先生のこと話さないと!」


 リディの言葉に俺は正気を取り戻す。


「お、おう! よく考えたら、父さんや母さん、村長にも聞かせた方がいいんじゃないか!?」


「そうだね! それだったら、パパとママにまずは伝えて村長の所に行かなきゃ!」


 そう言ってリディは勢いよく寝室を出て行こうとする。

 だけど、まだ寝ぼけているポヨンは俺たちの頭に覆い被さったままで……


「いたたたたたたたっ!? リディ! まずはポヨンを起こしてくれぇぇえええええ!!」


 俺の絶叫が自宅に響き渡るのだった。



 ◇◇◇



「それでジェット、リディ、大事な話と言うのは?」


 あの後、父さんが村長に話を通してくれた。

 そこで俺たちはレイチェルとアガーテと従魔たち、父さんと母さんと共に村長宅を訪れている所だ。


 村長の奥さんがお茶とお茶菓子を出してくれる。

 あ、このお茶菓子懐かしい……って、今は先に女神様のことを話さないと!


「えっと、ちょっと信じられないかもしれないけど、夢で俺たちのご先祖様と色々話してきた」


 案の定、リディ以外は訳が分からない様子だ。


「なあジェット、お前ふざけてる訳じゃ……ないか」


 父さんは俺の真剣な目を見てそう思ったみたいだ。


「もう、おにい! そんなんじゃ分からないよ!」


 リディに怒られてしまった。


「えっと、パパもママも村長も、秘密基地で不思議な女の人を見たでしょ? その人、実はあたしに『分析(アナライズ)』とか『亜空間収納』とか教えてくれた先生だったみたいで、その先生が今起こっていることを教えてくれたの」


「その女の人、俺に祝福をくれた女神様だったんだよ!」


 俺たちの言葉に村長が何かを考えこむ。


「ふーむ。どうも真面目に聞いておいた方がいい話みたいだな。メモの準備をするからちょっと待ってろ」


 村長がメモの準備をした所で、俺とリディで夢の中で見たこと聞いたことを語っていく。


 俺たちが魔族と呼ばれる種族の末裔であること。

 魔王である女神様があの石に封じられていたこと。

 俺とリディが女神様の魔力を受け継いだこと。

 その女神様が生まれ変わった存在がポヨンであること。


 魔王と勇者と賢者の真実。

 賢者ギリアムがアンデッドとなって俺たちを狙っていること。

 エルデリアを襲った黒スケルトンが過去の魔族のアンデッドであったこと。

 エルデリアは生き残った魔族と人間と勇者たちが作った村であること。


 それらのことを丁寧に皆に語っていく。

 時折考え込むような仕草を見せつつも、誰もが俺たちの話を遮ることは無い。

 アガーテも勇者と賢者の話になった時はとても動揺していたけれど、どうにか持ち堪えたようだ。


 途中、一度村長が退席して、何やら色んな資料を持って戻って来た。

 どうやら俺たちの話を聞きながら資料の確認をしているみたいだ。


 そうして、俺とリディが全てを語り終えた時には、俺たちの話を聞いていた皆は黙り込んでしまったのだった。

 ま、まあ、最後の部分は黙っておいたけどな!

 

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