169話 エルデリア奪還①
「ジェット! リディ!」
「母さん!」 「ママ!」
俺たちはエルデリアを脱出した後、父さんたちに連れられて北の山の洞穴へとやって来た。
ここは、以前ヌシが現れた時寝床にしていた洞穴だな。洞穴の前では村の男たちが入り口を守っていた。
中へ入ってみると、そこには母さんを始め、村の女性陣や子供たちが避難していたのだった。
どうやら、父さんたちは丁度村の様子を見に来ていたようで、その時に俺たちを発見したんだそうだ。
「あぁ……ごめんなさい。書置きの一つでもして行ければよかったけれど、そんな時間も無かったから」
「ママ! ママァァ!」
「よしよし、もう大丈夫よ。レイチェルちゃんとアガーテちゃんも無事で良かったわ」
「もしかしたら村の人たちがスケルトンになったんじゃないかって……エルデリアの皆さんが無事で良かったです」
「その、一体何があったのだ? 何故か村中に瘴気が漂っているようだったが……」
リディを落ち着かせていた母さんが首を横に振る。
「分からないわ。瘴気、とはあの黒いもやのことかしら。今朝、畑仕事の準備をしていたら突然どこからともなく漂って来て、それと共に骨の化け物たちが村の中に現れて……」
どうやら突然のことで母さんにも分からないらしい。
その後、村長たちの指示で村を放棄して、村人全員でここへ逃げ込んだのだとか。
ここだけでは収まりきらなかったので、近くの同じような洞穴にも村人たちが避難しているようだ。
「先生!」 「せんせ~」
「カエデ! ゴーシュ! 良かった、お前たちも無事だったか」
俺たちの声を聞きつけて、洞穴の奥からカエデとゴーシュが駆けて来た。
どうやら母さんと同じ洞穴に避難していたようだ。
「うぅぅう、先生、アタシ頑張ってアンデッドをやっつけようとしたんだけど、いざ実戦となると怖くなっちゃって何も出来なくて……」
「僕も腰を抜かしているだけで何も出来なかったよ~……アンデッドには光属性が有効なのに……」
俺はカエデとゴーシュの頭を撫でて慰める。
二人ともちょっと恥ずかしがってはいるけど嫌がってはいない。
「まあ、初めての実戦なんてそんなもんだ。二人ともまだ成人もしてないんだしな。むしろ、生きて悔しい思いを出来て良かったじゃないか。お前たちには次があるんだからな」
「……うん。アタシ、次は絶対頑張るから!」
「僕も、せめて周りの人たちに迷惑を掛けないように頑張るよ~」
よし、二人とも元気を取り戻したみたいだな。
それと、ゴーシュがさっき言ってたな。
光属性だ! 子供の頃、確かに村長がアンデッドって化け物に有効だって言ってた筈だ。
「ジェット、村長が呼んでいる。一緒に来てくれ」
その時、外で周囲の警備をしていた父さんに呼ばれた。
村長が俺を呼んでるみたいだけど……
「うん、分かった。えっと、皆も連れて行って大丈夫?」
「あー、どうだろうなあ。でも、連れて来るなとも言ってなかったし大丈夫だろ」
まあ、駄目だったらその時考えればいいか。
そうして、母さん、カエデ、ゴーシュと一旦別れ、俺たちは父さんに連れられて村長の元へと向かった。
◇◇◇
「村長、ジェットたちを連れて来たぞ」
「おお、すまんなアベル」
どうやら村長は自分の息子や村の大人たちと話し合いをしていたようだ。
その中にはグレンの姿もあった。
「えっと、俺を呼んでたって聞いたけど」
「あの、わたしたちもここにいて大丈夫でしょうか?」
「もし部外者に聞かれるのが不味い話なら洞穴に戻るが……」
「いや、レイチェルとアガーテもそのままで構わん。二人は既に巻き込んでしまっている形だし、何よりジェットたちの仲間だ。儂らにとっても既に無関係の他人ではない。勿論リディもそのままでいいぞ」
村長の言葉に周囲の大人たちも頷く。
「はい、分かりました!」
「了解した。可能な限り力になると約束しよう」
「あたしも!」 「キュッキュー!」
リディの言葉にポヨン、キナコ、ルカが反応する。
サシャだけは退屈そうに欠伸をしていた。
「ジェットたちも来たことだし、順を追って説明しよう。今回エルデリアに現れたアンデッド、それはおそらく南の遺跡からやって来たものだ」
村長の言葉に大人たちがざわめく。
勿論、俺も驚いている。
南の遺跡って秘密基地のことだよな!?
確かに、あの時出遭ったアンデッドが持っていたボロボロの剣。
あれは俺が秘密基地で拾っていたものとそっくりだったけど……
村長の話を聞いても父さんと村長の息子たちだけは動じた様子が無い。
どうやら事前にこの話を知っていたみたいだ。
「あの遺跡は元々、夜な夜なアンデッドたちが現れておった。あの遺跡の周囲に動物や魔物が全く近寄らなかったのもその影響じゃ。もっとも、あの遺跡から外へ出ることなど今までは無かったのだが……」
なんてことだ……
どうやら俺は、知らずにアンデッドの住処を秘密基地にしてしまっていたようだ。
と言うことは、あの拾っていたボロボロの武器たちはアンデッドのもので……
あれ? もしかして俺のせい?
「あー、ジェット。お前のせいではないぞ。もしお前の行動が原因ならもっと以前に村が襲われていた筈じゃ。多分」
俺の様子に気付いた村長が精いっぱいのフォローをしてくれる。
「そう言えば村長。村長の家に村の魔獣除けの道具があるんだよな? それって効果が無かったのか?」
「ああ。今回のことで分かったのだが、どうもアンデッドには効果が無いようじゃな」
そこで村長はグレンに視線を向ける。
「グレン。お前の見たものを皆に説明してやってくれ」
「あ、ああ。ちらっと見ただけだけど、村からここに逃げる時、他の骨の化け物より一回り大きい黒い骨の化け物を見たんだ。そいつの周りだけ異常にあの黒いもやが濃くて……」
グレンの言葉を聞いて村長が頷く。
「儂は、グレンが見た黒いアンデッドがこの度の騒動を引き起こした者ではないかと考えておる。そこでジェット。お前は外の世界で儂らの知らんものを色々と見てきた筈だ。是非意見を聞きたい。正直ここで避難生活を続けるにも無理がある。出来るだけ早く解決したいからな」
成程。その為に俺が呼ばれたんだな。
とは言え、俺もアンデッドなんて魔物は全く知らないからなあ。
「えっと、まず俺はアンデッドには全く詳しくないけどそれでもいいなら」
俺の言葉に村長が頷く。
とりあえず、今までの経験から分かることだけを伝えよう
「グレンが見た黒い骨が原因かまでは分からないけど、そいつがあのスケルトンたちを率いている上位種の可能性は高いと思う。外でもそんな魔物を色々見てきたから」
ゴブリンやオークみたいな人に近い魔物がそうだな。
ライトニングホーンなんかもそれに近い存在か。
「あの骨の化け物、スケルトンは少し戦ってみたんだけど、正直言ってそこまで強い相手じゃない。だけど、多少崩れたぐらいじゃ幾らでも復活して襲い掛かって来る」
「ああ、儂らの時もそうだったな。おそらく光魔術が有効なのじゃろうが、光属性の使い手はそういないからなぁ……」
「私が知るスケルトンの話になるがいいだろうか?」
アガーテの言葉に村長が頷く。
「スケルトンは本来魔石を核として動く骨の魔物だ。倒すには魔石を砕いたり抜き取ったりするのが確実な手段だ。だが、どう言う訳かエルデリアで見たスケルトンには魔石が存在しなかった。そうなると、倒すには復元出来ない程体を粉々にするしかない」
「それと、光魔術がどこまで有効かどうかだな。さっきは試せなかったから……」
「ふむ。儂らが逃げる時は、水魔術の氷や地魔術で動きを封じてどうにか逃げる時間を稼いだ。可能な限り家畜まで逃がしておったから少し時間は掛かったが……」
成程。それだったら、きっと母さんは大活躍だったろうな。
「そうなると、水魔術と地魔術が得意な者で動きを止め、無属性が達者な者でスケルトン、だったか。あれらを排除するのが一番か」
村長の言葉に大人たちが頷く。
そうだ。スケルトンの討伐に向かうのなら瘴気のことも話しておいた方がいいだろうな。
「ああ、それと。エルデリアを覆っているのは瘴気って言って体には良くないものだ。光属性があれば浄化出来る。そこまで濃くはなかったから、少しぐらいならあの中で行動しても大丈夫だろうけど」
「そ、村長! 大変だ! 村を漂っていたもやが少しずつこっちに流れて来てる!」
その時、村の様子を窺っていた大人が村長の所に走って来た。
どうやら瘴気がこっちに流れて来ているみたいだ。
「うむ、分かった。ここも安全ではないと言うことか。皆、急いで水属性と地属性と無属性が得意な大人に声を」
「村長! 村長たちは瘴気の外側からスケルトンに対応してくれ。その隙に俺たちがエルデリアに向かって、グレンが見た黒いスケルトンを倒す!」
その上位種と思われるスケルトンを倒せれば、上位種に率いられていた他のスケルトンは統率が取れなくなって弱体化する筈だ。
「しかし……」
「俺たちなら瘴気の中でも問題無く活動出来る。それに、ちょっとグレンが言っていたことが気になるんだ。黒い骨の周りだけ瘴気が濃いってのが」
もし、そいつが瘴気を自分の意志でどうこう出来る存在だとしたら……
瘴気に対応出来ない人たちにどんな悪影響があるか分かったもんじゃない。
「村長、俺の息子たちを信じてやってくれ。頼む」
意外なことに、父さんから助け船が出た。
「無茶なこと言うな!」って怒られるのも覚悟してたけど……
「……分かった。どの道時間もそう残されてはいない。ジェットの意見を取り入れる。ただし! 危ないと思ったらすぐに引くこと! いいな?」
村長が俺たちの目を真っ直ぐ見据える。
「ああ!」
俺たちは力強く頷いた。
◇◇◇
「もうこんな所までもやが来てやがるのか」
「いい、皆。危ないと思ったら絶対に急いで帰って来るのよ?」
「分かってるよ! もうさっきから四回は聞いたよ」
俺たちは山から下り、漂って来る瘴気の前に陣取った。
父さんと母さんも勿論参加している。
父さんは無属性での直接戦闘、母さんは水魔術や地魔術での拘束役だな。
他にもグレンやグレンの父親、畑のおばちゃん等のそれぞれの属性が得意な人たちが集まった。
未成年と言うこともあり、実戦経験の乏しいカエデやゴーシュは留守番だ。
「あはは、ナタリアさんはそれだけ心配なんですよ」
「それは分かってるけど……」
「おにい、準備出来たよ!」
「こちらも問題無い」
リディとアガーテの光魔術の準備が整ったようだな。
そして、今回レイチェルの保護はリディに任せる。
スケルトンに対しては俺が自由に動けた方が対処しやすいからな。
リディの右腕に装着されたポヨンから体が伸び、それがレイチェルの左腕に絡まっていく。
どうやらポヨンの『エンチャント』を介して光魔術での保護を行うみたいだ。
これだったら、リディもレイチェルもある程度は自由に動けて便利そうだな。
「よろしくね、リディちゃん、ポヨンちゃん」
他の従魔たちは、ルカは光属性の魔力が溶け込んだ光の水で、サシャの上にはリディとキナコが跨り、それぞれリディが保護を行っているようだ。
光魔術の維持でリディは動けないけど、従魔たちがいるし問題無いだろう。
「骨の化け物が来たぞ!」
漂って来る瘴気の向こう側からスケルトンたちが姿を現した。
体の大きさや装備なんかには個体差があるけど、大体俺たちが最初に見たやつと同じ感じだ。
時間と共にその数は増え、ボロボロの武器を引き摺りながら俺たちに向かって来る。
「では、手筈通りまずは動きを封じる!」
村長の声を合図に、母さんや畑のおばちゃんたちによる水魔術と地魔術での足止めが開始された。
一部のスケルトンたちは手足が凍り付き、また一部のスケルトンたちは土によって拘束され動けなくなる。
そしてそこへ、『身体活性』や『身体強化』、『エンチャント』を使った父さんやグレンたちが一斉に雪崩れ込む。
「よし! では頼んだぞ、ジェット、リディ、レイチェル、アガーテ」
「分かった! 行くぞ皆!」
「うん!」 「はい!」 「ああ!」
「キュッ!」 「ニャン」
この場は村長や父さん、母さんたちに任せ、俺たちは瘴気の中を突っ切ってエルデリアへと向かった。




