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163話 秘密基地の今

「なあ、これなんだと思う?」


「さ、さあ? リディちゃんの扱う魔術ってある意味師匠以上に読めない所があるので」


「えらく自信あり気だったが……まあじき分かるだろう」


 俺たちは今、リディが家の居間に設置した謎の魔術陣の前に立っている。

 これが何なのか詳しく調べてみたいけど、リディからは危ないから絶対に触ったり上に乗ったりするな! って言われてるんだよなあ。


 それに、もしこの魔術が成功したら自分も絶対に連れて行け! って言ってたけど……

 そう考えると余程自信のある魔術なんだろう。


 そうやって何が起こるのか期待半分不安半分で眺めていると、魔術陣が淡い光を放ち始めた。

 やがてその光は魔術陣から溢れ出る勢いで広がっていく。


 この光り方、どこかで見たような気が……


「うおっ!?」


 そうして俺たちの視界が一瞬白く塗りつぶされる。


 光が収まった所で目を開けてみると、そこには魔術陣の上に得意げに立つリディと従魔たちの姿があったのだった。



 ◇◇◇



「「「『転移陣魔術(テレポータル)』?」」」


「そう! こうやって転移陣を設置した場所同士を行き来出来る魔術だよ!」


 そう言うとリディは少し離れた所にウンウン唸りながら魔力を使って転移陣を描く。

 そしてそこの上に立つと、先程と同じ光に包まれ、俺たちの目の前の転移陣の上に現れた。


「どう、おにい? 凄いでしょ!?」


「……リディ! 俺も転移してみたい!!」


 目の前でこんなん見せられて落ち着いていられる訳ないだろ!

 と言う訳で、早速俺もリディの『転移陣魔術(テレポータル)』を体験させてもらう。


 リディと共に転移陣の上に立ち暫し待つ。

 リディから転移陣に魔力が流れると、転移陣から光が放たれる。


 あ、今分かった!

 これ、俺たちが秘密基地からカーグへ飛ばされた時の状況とそっくりなんだ!


 視界が白に染まり、次に目を開けた時俺は家の庭に立っていた。

 目の前には父さんと母さんが少し驚いた表情で立っている。


「パパ、ママ、見張りご苦労様!」


 どうやら父さんと母さんは転移陣の見張りをしていたみたいだ。

 誰かが不用意に上に立ったら何が起こるか分からないからな。


「いやあ、さっきリディが消えただけでもびっくりしたが、今度はジェットとリディが出てくるとはなあ」


「本当にねえ。小さい頃からずっとそうだったけど、ジェットとリディには驚かされっぱなしね」


 その後、皆で一緒にリディの『転移陣魔術(テレポータル)』の検証を始める。


 とりあえず分かったことは、リディが一緒に上に乗らないと起動出来ないこと。

 起動時に転移陣からはみ出ていたり、途中で無理矢理入り込もうとしても弾かれると言うこと。また、その時は中から出られないこと。

 移動する側の転移陣の上に物があると、起動側の転移陣に送られること。どうやら転移陣の上のある一定の空間を入れ替えているようだ。

 危ない検証は木の枝や小石を使って試してみた。


 それ以外にも、転移陣の上にあまりにも大きなものがあると転移出来ないみたいだ。


「んんんん……どう?」


「おう、ちゃんと消えてるな」


「こっちは残ってますよ」


「どうやら、設置した転移陣を取り消せるのはその場のものだけのようだな」


 転移陣自体も色々試してみた。

 まず、転移陣は足下にリディの魔力で転移陣を描くことで設置される。

 設置しておける数はそれなりにあるみたいだ。五つ設置したぐらいだと、リディ曰くまだ余裕があるそうだ。

 おそらく、リディの魔力量によって設置出来る数が増えるんだろうな。


 描いた転移陣はリディがその場で消すことも出来る。

 その応用で、一度だけの使い捨て転移陣なんてものも作ることが出来た。

 転移と消去を同時に行うとそうなるみたいだ。


「凄い魔術ですねこれ……移動距離とかはどうなんだろう?」


「えっと、少なくともカーグまでだったら大丈夫だと思うよ」


 ん? やけに具体的だな。


「ふむ。リディ、なぜそんなことが分かるのだ?」


「うん。先生が言っていたんだけどね」


 夢の中の先生か。

 この『転移陣魔術(テレポータル)』をリディに教えたのもその先生なんだろうけど……

 本当、何者なんだ?


「あたしたちがカーグまで飛ぶことになっちゃったあの時の光、あれはあたしが無意識に発動した『転移陣魔術(テレポータル)』が暴走しちゃった結果だったんだって」


 なっ!? あれはリディが原因だったのか!?


「な、なあリディ、どうしてそんなことに?」


「先生は必要に迫られたからだって言ってたけど……それ以上のことは教えてくれなかったよ」


 必要に迫られた、か。

 確かに、あの時はまるで誘い込まれるようにあの場所まで行ってしまったけれど……

 うーん……女神様のこともあるし、やはり一度秘密基地の様子を見に行った方がいいのかねえ。

 あんなことがあった影響で、エルデリアに戻ってからは一度も行ってないんだよなあ。


「あ、それでね。近いうちにあたしとおにいに先生が何者か教えてくれるんだって」


「え? 俺も?」


「うん。そう言ってたよ」


 どうやるのかは分からないけど……まあ、何者か知れるんならありがたい。

 今の所その先生とやらは敵ではないとは思う。

 だけど、もしリディを使って何か良からぬことをしようとしてるんなら、俺がその先生からリディを守る!


「で、どう? あたしも連れて行ってくれる?」


「う、うーむ……」


 確かに、暴走したとは言え秘密基地からカーグまで移動出来たんだ。

 そう考えると、リディがいればいつでもエルデリアに帰って来ることが出来るようになる。

 レイチェルやアガーテの家族にだって、転移陣さえ設置すればいつでも顔を見せに行くことも可能だ。


 場合によっては父さんと母さん、村の大人たちにも手伝ってもらって、リディだけをエルデリアに帰そうかと思っていたけど……


「ジェット、諦めて連れて行ってやれ。何より、こんなことが出来るんなら、裏を返せばリディは転移陣さえ設置すれば自分で好き勝手に色んな場所に行けてしまうってことだ」


「むしろ放っておいた方が何しでかすか分からないわ。それだったら、ジェットがそばでちゃんと手綱を握ってた方が安心よ」


 確かに、父さん母さんの言う通りだ。

 それに、そうなったら転移陣を設置する為に一人で無茶なことをしてしまう可能性もある。

 それだったら、近くにいてリディをどうにかコントロールした方が安全と言えば安全か。


「はぁ、分かったよ。ただし、勝手に『転移陣魔術(テレポータル)』を使って一人で出歩かないこと。それを守れるなら連れて行く」


「うん! 約束する!」


 まあ、しょうがないか。

 俺と同じようにリディも世界の広さを知ってしまったんだ。

 俺たちは兄妹だからな。同じように色んな所を巡ってみたくなる気持ちもよく分かる。


「リディ、一つだけいいか?」


「うん、どうしたのアガーテ姉?」


「その『転移陣魔術(テレポータル)』だが、向こうでは絶対に他の誰にも教えるな。父上だろうと母上だろうとサリヴァンだろうとだ」


「確かに、万が一この魔術のことが外に漏れちゃったら、リディちゃんを悪用しようとする人が絶対出て来るよね。リディちゃん、絶対誰にも話しちゃ駄目だよ?」


「う、うん! 分かった!」


 真剣なアガーテとレイチェルの様子を見て、リディはしっかりと頷いた。


「はっはっは。ジェット、お前の人を見る目に狂いは無かったみたいだな」


「レイチェルちゃん、アガーテちゃん、これからも二人をよろしくね?」


「は、はい!」 「りょ、了解した!」


 こうして、モノクロームは今までのメンバーのまま活動することに決まった。



 ◇◇◇



「なんだか、こうやってあたしたちだけで行動するのって久しぶりだね」


「そうだなあ。最近は黒獣の森ではぐれた時以外は大体誰かがそばにいたからなあ」


「あたしのお友達もポヨン以外にいっぱい増えたしね」


 リディの頭の上のポヨンが大きく伸びをする。


 俺とリディとポヨンは、二人と一匹で秘密基地へと向かっている。

 ライナスに向かう前に、やはり一度秘密基地の様子を見てみようと言うことになったのだ。


 今回は念の為レイチェルとアガーテは家で待機してもらっている。

 リディの従魔たちもポヨン以外は留守番だ。


 やはり、リディの言っていた必要に迫られてと言う言葉が気になったのだ。

 そして、もしかしたら同じことがまた起こってしまうかもしれない。

 そうなった時、すぐに逃げられるように俺たちだけの少人数でやって来た。

 ポヨンはリディの護衛だな。


「しっかし、まさか父さんと母さんが女神様に会ってたとはなあ」


 俺の所にも来てくれたらいいのにな。

 女神様には一度ちゃんとお礼を言いたいんだよなあ。

 俺たちが今こうやってエルデリアに帰って来れたのは、女神様の祝福があってこそだし。


「えっと、おにいに『女神の祝福』をくれたって人だよね。あたしたちみたいに白黒頭で左右の目の色が違って、耳が尖ってて胸が大きい綺麗な女の人でしょ?」


「そうそう。あんな神秘的な人、子供ながらに女神様としか思えなかったな」


「うーん、どこかで見たことあるような無いような……」


 ガサガサッ


 その時、近くの茂みが揺れる。

 俺は剣を構え、リディは短弓を構え、ポヨンはリディの前に立ち塞がる。


 すると、その茂みから出て来たのは野生の兎だった。

 ふぅ、魔物じゃなくて動物みたいだな。


 兎は俺たちを見ると一目散に逃げ出した。


「あー、びっくりした。魔物じゃなくて良かったね」


「そうだな……あれ? おかしくないか?」


「何が?」


「リディ、よく考えてみろ。俺たちは秘密基地、南の遺跡に今向かっている」


「うん。それが……あ!」


 どうやらリディも思い出したみたいだ。


 そう、以前の村の南側の森には生き物の気配なんて一切無かった。

 それが今、俺たちは野生の兎に遭遇した。

 それだけじゃない。よく見ると、そこら辺に小さな虫も普通に存在している。


「どうも様子がおかしい。リディ、いつでも『転移陣魔術(テレポータル)』で逃げられるよう準備しておけ」


「う、うん。分かった」


 俺たちは最大限に周囲を警戒しながら秘密基地へと急いだ。



 ◇◇◇



「ギャギャギィィイイイイ」


「よっと!」


 黒ゴブリンの攻撃を躱しつつ、すれ違いざまに雷の剣で斬り付ける。

 体が痺れ動けなくなった所に火の『エンチャント』を発動したポヨンが迫る。

 体の一部を拳状に変形させ、燃え盛る一撃を黒ゴブリンの顔面に叩き込む。


「ンギョギャワワワァアアア」


 あまりの熱さに黒ゴブリンが絶叫を上げる。

 うーむ、やはりポヨンは黒ゴブリンに思う所があるんだろうな。


 そのままポヨンは刃上に鋭くした体を黒ゴブリンの首に巻き付ける。

 そして、首を絞め上げ最後にはそのまま黒ゴブリンの首を撥ねた。


「ポヨン、おつかれ!」


 リディがポヨンを抱きかかえ撫で回す。


「なんで秘密基地の中に黒ゴブリンが……」


 そう、俺たちが黒ゴブリンと戦ったのは秘密基地に到着して少し奥に入ってからだ。

 前はこんな場所じゃ絶対に出遭わなかったのに……


「それに、ボロボロの武器も落ちてないね」


 リディの言う通り、前はそこら中に幾らでも落ちていたボロボロのミスリルの武器が一切見当たらないのだ。

 折角だから回収していこうと思っていたのに。


「とりあえず、前みたいに謎の入り口が開いている様子は無いな」


 勿論、女神様の痕跡も一切見当たらない。


「この後どうするの、おにい?」


「一度エルデリアに戻ろう。この状況で瓦礫からミスリルを抽出する気にはならないし、今のこの様子を父さんたちや村長に知らせておいた方がいいだろ」


「分かった。それじゃ『転移陣魔術(テレポータル)』を使うね」


 リディが転移陣を設置し、俺たちはその上に乗る。

 転移と消去の魔力を同時に送ると、転移陣が光を放ち、気が付いたら俺たちは家に設置した転移陣の上に立っていた。


 さて、父さんたちや村長に秘密基地の様子を教えておこうか。

 父さんたちはリディに任せ、俺は村長の所に急いで向かうのだった。

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