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149話 巣穴の駆除

 おっ、さっきと同じ蟻が出入りしているし、あの穴がそうか。


 蟻の巣穴探し開始から暫くして、俺は少し開けた場所に蟻の巣の入り口らしき地面の穴を発見した。

 奴らに気付かれないように風魔術を使って刺激臭は上空に飛ばしてるから、今蟻たちは俺に向かって来る様子は無い。


 それにしても……予想してたより大きい入り口だな。

 確かにあの自爆してた蟻はそこら辺で見掛ける蟻よりはそれなりに大きかったけど、それにしては穴の大きさが過剰すぎる気がするな。

 俺ぐらいならすっぽり嵌りそうな程の大きさだ。流石に中に入るには狭いだろうけど……


 この穴は蟻自身が掘ったとして、考えられる要因は二つ。

 一つは、さっきのブラックディアみたいに大きな獲物をある程度の大きさのまま運び込むため。

 だけど、さっきから見てる感じでは大きなものを運び入れている様子は無いんだよなあ。

 もう一つは、穴を出入りするのにあれぐらいの大きさが必要な奴があの中にいるから。


 蟻に気付かれないように周辺の地面も調べてみる。

 どうやら巣の入り口はあの穴だけのようだ。

 ふと疑問に思ったけど、この蟻の巣ってダンジョンの修復力が働かないのかねえ。

 まあでも、もし働くんならこんな場所に巣は作らないか。


 それにしても、この蟻ってライナスのギルドじゃあ認識されてなかったんだよなあ。

 過去の資料にも、少なくとも調べた範囲ではこんな蟻の記述は無かったし……

 そう考えると、最近になって黒獣の森の瘴気から生まれた新種の魔物の可能性が高そうだ。

 冒険者の中にも被害は広がっているし、何より再び奥地を目指す時にリディたちが襲われないとも限らない。

 やはり、今ここで駆除しておくべきだろう。


 蟻を巣ごと駆除するのに一番確実なのは、やはり毒入りの餌を蟻自身に運び込ませることだ。

 エルデリアでも時々そうやって備蓄に集る蟻を退治してたっけ。

 さっきのブラックディアの雌を毒漬けにして運び込ませてもいいけど、結果が出るのにちょっと時間が掛かるんだよなあ。


 だから、ここでは魔術を使った力業でこの蟻の巣を駆除しようと思う。

 とりあえず、まずは周辺の蟻を始末しようか。


 俺は木の上に登り、水魔術で巨大な水球からの熱湯球を作り出して地面に落とす。


 バッシャァァアアアアン


 熱湯球は地面に落ちると周辺に広がり、綺麗さっぱり周辺に集っていた蟻を押し流していく。


 よし、これでこの辺は暫く大丈夫だろ。


 俺は水浸しになり少し湯気が立つ地面に降り立ち、巣穴の前まで移動する。

 巣穴にも幾らか熱湯が流れ込んだみたいで、入り口付近に蟻は存在しない。


 俺は巣穴の上に手をかざす。

 そして、風呂に湯を張る要領で熱湯を巣穴に注ぎ込み始めた。

 火傷しそうな程の湯が大量に巣穴の奥に流れ込んでいく。

 もうもうと湯気が立ち込めるので、それは風魔術で吹き飛ばしておいた。


 子供の頃、蟻の巣穴に水魔術で水を流し込んだことがあるけど、多少の水攻めくらいじゃ蟻の巣って平気なんだよな。

 疑問に思って地魔術で掘り返してみると、蟻の巣穴はかなり地中深くまで作られていた。

 そして、枝分かれするように幾つもの部屋が作られていて、地面に水が吸収されることもあって水の被害を受けにくく作られているのだ。

 それに、水が入り込むと蟻たちがそれ以上の水の浸入を防ぐよう土で壁を作り始める。

 冷静に考えたらそりゃそうだよな。そうじゃないと、雨が降るたびに蟻の巣は全滅してるだろうし。


 特に奥の方には女王蟻や卵みたいな蟻にとって重要な存在が隠れている。

 そこまで水の被害が及ぶことが基本的には無いからだ。


 だけど、蟻たちに対処出来ない程の水が流れ込んで来れば話は別だ。

 極端な話、蟻の巣の周囲が水没でもしたら甚大な被害が出るだろう。


 今回はそれを魔術で行おうと言うことだ。

 さらに、水の代わりに熱湯を大量に注ぎ込むことで蟻には対処出来ないようにしている。

 大百足もそうだったけど、基本虫は魔物だろうがそうじゃなかろうが熱にとても弱い。

 中には例外もいるだろうけど、少なくともこの蟻にも熱湯が効果的なのはさっき証明済みだ。

 エルデリアでは、この方法で家に侵入してくる蟻を巣ごと駆除してやったこともある。


 今回は巣穴の入り口の大きさを考えると、かなりの量の熱湯が必要になるだろうな。

 場合によっては休憩しながら行っていくことになるだろう。

 幸い、今日はまだまだ魔力には余裕がある。

 それに、湯を発生させるくらいだったら、毎日の風呂のお湯張りで慣れてるからそこまで多く魔力を消耗することも無い。


 毒の餌もそうだけど、難点と言えばやはり巣の中の様子が全く分からないことだけど……

 まあ、疲れたら一旦入り口を封鎖して休憩すればいいか。

 その時はこの近辺の地面も掘り返されないよう固めておくか。


 そうして、周囲を警戒しつつも俺は蟻の巣穴に熱湯を注ぎ込み続けた。



 ◇◇◇



 ん~~……よし、魔力は回復したようだな。

 俺は朝の準備を整え地上へと出る。


 昨日はあれからも熱湯を注ぎ込み続けた後、予定通り入り口を封鎖し周辺の地面もガッチガチに固めてから、一度黒猫と別れた巨木の近くまで戻って来ていた。

 流石にあの蟻の巣穴の近くでは地下空間を造る気にはなれなかったからな。

 寝ている間にいつの間にか侵入なんてされてたら堪ったもんじゃないし。


 昨日のうちに解体したブラックディアの肉が入った石の塊を取り出し調理していく。

 昨日も食べたけど、文句なく美味い肉だった。ただ、鹿肉ってだけなら今の所ライトニングホーンが一番美味かったな。

 とりあえず、これでまた暫くは肉の心配はしなくて大丈夫だろう。


 朝食を終え、俺は再び蟻の巣穴に向かった。

 さて、駆除の続きだ。



 ◇◇◇



 おお、塞いだ巣穴の周辺が蟻まみれになってるな。

 遠くまで移動していた蟻たちが戻って来たのか。

 だけど、パッと見た感じ巣穴が開いている様子は無いな。

 よし、まずはこいつらを処理しようか。


 俺は木の上から熱湯弾を落とす。

 熱湯が蟻ごと周囲を押し流す。

 木の上から確認してみたけど、やはり新たな穴が掘られている様子は無い。

 やはり周辺の地面を固めていたのが良かったみたいだ。


 俺は木から飛び降り、再び熱湯を注ぎ込むため塞いでいた巣穴の入り口を開く。

 すると、何者かと目が合った。俺は咄嗟に後ろに飛び退く。

 穴からは、黒く鋭い槍のようなものが突き出されていた。


 そして、巣穴から前足が槍状に変化した大きな蟻が数匹出てくる。

 大きさは小型犬くらいはあるんじゃないだろうか。

 やはり、あの大きさの穴が必要な奴がいたんだな。

 あの前足は獲物を突き刺す為か……いや、外でこいつらは一切見掛けたことが無いから、穴を掘る為なのかもしれない。

 そう考えると、塞がれた入り口を開通させる為に出て来てたのか。


 蟻たちが俺を見て顎をギチギチと鳴らす。

 完全に俺を外敵として見ているみたいだ。

 手前にいた数匹の蟻が俺に尖った前足を突き刺すべく向かって来る。


 だけど、これだけ大きいなら俺としては逆に戦い易くて助かる。

 俺は剣を抜き、向かって来る蟻を斬る。

 多少大きくて硬いと言っても所詮は蟻だ。

 ミスリルの剣の切れ味の前には無力に等しい。

 まあ、蟻は集団を前提とした虫だ。一匹一匹は大したことは無い。


 数匹の仲間を失い、残りの蟻たちは俺に向かって来ることをやめる。

 よし、このまま残りも始末して巣穴の駆除の続きを……ん?


 その時、残りの蟻たちが一斉に腹を膨らませ始めた。

 デカいとは言えこいつらも同じ種類の蟻だ。小さい蟻と同じく自爆しても不思議はない。

 だけど、自爆されると分かってて食らうようなことは、


 パァアンッパンッパァァアアアアンッ!!


 なんと、蟻たちはその場で自爆を始めた。

 敵わないと見て気でも狂ったのか!?


 やがて、その場に残っていた全ての蟻が自爆する。

 何だったんだ一体? 俺としては楽出来て良かったけど……


「うっ……ゴホッゴホ」


 なんだ!? 鼻と喉が焼けるように痛い!

 それに段々息苦しく……

 特に何かをされた訳ではない。

 さっき蟻たちが何故か何も無い所で自爆したくらいで……


 ふいに、周囲にこの蟻が自爆した時特有の刺激臭が漂う。


 そうか! あいつらは無意味に自爆したんじゃない!

 あの蟻は自爆する時に毒物を一緒にまき散らしていた。

 それが傷口に入ると焼けるような痛みと共に血が止まらなくなっていたけど……

 その毒物を自爆することで辺り一面にまき散らしたんだ!


 くっ、小さい蟻もそうだったけど、この蟻は種が生き残る為なら何の迷いも無く自分の命を捨てられる、そんな蟻なんだ!

 まずはこの毒をどうにかしないと……このままだとやられる!


 俺は光魔術で鼻と喉を中心に治療する。

 毒が浄化され、焼けるような痛みが徐々に引いていった。

 そして、周囲も同じように光魔術で浄化していく。


 ふう、これで息をしても毒物を吸い込むことは無いな。

 この刺激臭は地面にしみ込んでいるせいか消えなかったけど……


 何はともあれ、あいつらをたかが蟻だと思うのは駄目だ。

 奴らは相当に危険な魔物だ。

 舐めてかかると俺がやられることになる。


 刺激臭に誘われたのか、先程と同じ大きさの蟻が巣穴から顔を覗かせる。

 多分、あの毒で相手を弱らせたところでこうやって他の仲間が止めを刺しに来るのだろう。


 俺は即座に熱湯を巣穴目掛けて流し込む。

 熱湯を頭から被った蟻たちは、もがきながら巣穴の奥へと落ちていく。

 体が大きくなっても熱に弱いと言う弱点は変わらないみたいだ。


 もうお前たち相手に油断はしない。

 全力でお前たちを倒す!

 

 それから、俺は延々と熱湯を巣穴に注ぎ込み続けた。

 周囲には熱気と湯気が立ち込める。

 もうどれくらい注ぎ込んだのか分からないくらいだけど、少なくとも巣穴が水没するようなことにはなっていない。


 うーん、巣穴が深すぎて効果が薄いのか?

 それなら、いっそ地魔術で巣穴を掘り返していくか?

 もっと深い所から熱湯を注ぎ込んでやれば更に効果的に……ん?


 ――ジャッジャッジャッザザザザザザザ


 そんな音が地中から聞こえてくる。

 最初は少し音が遠かったけど、時間と共に段々と近くなってきているようだ。

 俺は熱湯を注ぎ込むのを一旦止め、巣穴の入り口を塞いでから聴力を強化し耳を澄ましてみる。


 ジャッジャッジャッザクッザッザッザ


 何かが土の中を掘り進んでいる音に聞こえるな。

 ここより少し向こう側のようだ。


 俺は地中の音を追って移動する。

 このタイミングで聞こえた音なんだ。

 確実に正体を確かめておいた方がいいだろう。


 音を辿って暫く移動していると、少し先の地面が急に膨れ上がった。

 俺は剣を構え膨れ上がった地面に近付く。


 ボゴォッ


 膨れ上がった地面に蟻の巣穴より少し大きめの穴があく。

 そこから前足が槍状に変形した蟻たちが現れ、顎をギチギチ鳴らしながら俺に向かって来た。


 新たな出入口を掘っていたのか?

 何にしてもこいつらに自爆されると面倒だ。

 自爆される前に一気に始末を……あれは!?


 向かって来る大蟻たちを次々と斬っていると、穴から大蟻より更に一回り大きな蟻が出て来た。

 その巨大蟻は、俺に向かって来ること無く反対方向へと逃走を開始した。

 だけど、大きく膨らんだ腹を引き摺り移動速度は遅い。


 どうやら大蟻たちはあの巨大蟻を逃がそうとしているみたいだ。

 もしかして、あいつが女王蟻か!


 俺の熱湯攻めを受け、今の巣を放棄して逃げ出そうとしていたようだな。

 と言うことは、あいつを討伐すれば少なくともこの巣は壊滅すると見ていいだろう。


 立ち塞がる大蟻たちを斬り伏せていると、数体の大蟻の腹が膨れ始めた。

 自爆して毒をまき散らすつもりか!

 俺は体全体に光属性の魔力を纏う。

 これなら、光属性による浄化作用で大量の毒を一気に吸い込んでしまうことは無い。


 パァアアンッパァンッ


 大蟻の自爆に巻き込まれないよう動き、残った大蟻も斬っていく。

 その間に女王蟻は少し遠くまで逃げてしまったようだ。


 大蟻を全て倒した後、俺は逃げた女王蟻を追い掛ける。

 女王蟻はそれ程早く動けないので追い付くのは簡単だった。


 追って来た俺の存在を確認すると、女王蟻は何やら腹を振動させ始めた。

 まさか、こいつも自爆を!?


 光魔術を使って自爆に備えていると、女王蟻は大量の卵をその場に産み落とした。

 そして、その卵は即孵化し、生まれたばかりの小さな蟻たちが俺に向かって来る。

 さっきの大蟻たちの刺激臭を辿っているのか!


 流石に地面を埋め尽くす程の蟻に集られて自爆されるのは御免だ。

 まずはこの小蟻を始末する。


 俺は熱湯を地面の小蟻に向けて流す。

 小蟻は熱湯に触れると何も出来ずに死んでいく。


 そうやって女王蟻に徐々に近付いていく。

 そして、熱湯が女王蟻にも届き、女王蟻はその熱さに悶え産卵を中断してしまう。


 今だ!

 俺は女王蟻に一気に迫る。

 そして水魔術で水球を作り、女王蟻をその中に閉じ込める。


 この女王蟻だけ始末しても、腹の卵が孵ったんじゃ意味が無い!

 なら、卵ごと女王蟻を始末するだけだ!


 俺は水球に働きかけ、水を熱湯に変えていく。

 いきなり熱湯に包まれた女王蟻はもがき苦しむ。

 そして、足を折りたたみ熱湯の中で動かなくなった。


 息絶えた女王蟻から卵が排出されるも、その卵も熱湯によって全て死んでいく。


 暫く熱湯を維持していると、女王蟻の腹からの卵の排出が途絶える。

 ふぅ、もう大丈夫かな。


 俺は熱湯を水に戻し、その場に落とす。

 ゆで上がった卵は流れて行き、女王蟻の死体だけがその場に残る。


 さあて、討伐の証明の為にどうにかこいつの外殻と魔石だけでも持って帰らないとな。


 俺は女王蟻の死体を回収し、一旦千年樹の元まで戻り解体を始めるのだった。

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