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144話 黒獣の森奥地

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「ギョピャッ!?」


 すれ違いざまに雷の剣で斬り付けてやると、黒ゴブリンは雷によって全身が痺れ、うつ伏せに倒れた。

 ふう、魔術に極端に弱いって性質はやはり同じみたいだな。それに、こいつはカーグで出遭った黒ゴブリンのように魔術は使えないようだ。

 剣に発動していた『エンチャント』を雷属性から風属性に切り替え、倒れた黒ゴブリンの首を狙い剣を振るう。

 風の剣は黒ゴブリンの首を容易く斬り落とした。


 うん、やはり以前より黒ゴブリンを倒すのが格段に楽になっているな。

 単純な魔術の力量もそうだけど、何より魔物との戦い方そのものがエルデリアにいた頃と比べ飛躍的に向上している気がする。

 リディと一緒にカーグに飛ばされてから色んな魔物と戦い続けてきたからなあ。その経験が活きているんだろうな。


 黒ゴブリンの死体から魔石を剥ぎ取り『亜空間収納』へと仕舞う。

 黒ゴブリンは食えないし、死体処理に魔力を使いたくないからこいつ自身が作った地面の穴にでも捨てておくか。

 そのうちスライムが綺麗に処理してくれるだろう。


「レイチェル、他に周囲に気配は……」


 あー、今は俺一人だったな。


 改めて俺は警戒しつつ周囲を見渡す。

 今の所、さっき倒した黒ゴブリン以外が襲って来る様子は無い。

 ここから見える範囲内だと他に魔物はいないようだ。


 しっかし、ここはどこなんだ?

 ギルドで買った資料にはこんな捻じれた木のことなんて書かれてなかったし……


 俺は木に近寄ってみる。

 木の幹が渦を巻くようにぐるぐる回っているものもあれば、数本の木が互いに捻じれ合って絡みついている木もある。

 高さは俺の倍あるかないかってくらいで、木としてはそこまで高い訳でもない。

 何と言うか、周囲にはそんな変な木しか生えていない。

 一部実が生っている木もあるけど、なんだか毒々しい紫色をしていて食べられるものなのか判断に困る。


 まあ、試しに一つ食ってみようか。

 仮に毒があれば光魔術で治療すればいいし。


 俺は捻じれた木に登っていき、少し高い所に生っていた紫色の実を一つもぎ取る。

 水魔術で軽く実を洗い皮をむく。中身は白っぽい色をしている。見た感じは林檎みたいなものだろうか?

 光魔術での治療をいつでも出来るよう準備して、果肉を少しだけ齧ってみる。


 シャリッ シャクシャク


 うぐぉぉおおおっ!? ぺっぺっ!


 果肉を噛んだ瞬間苦みが口中に広がり、舌が少しだけピリピリと痺れる感覚がある。

 準備していた光魔術で急いで口内を浄化する。

 その後水魔術で口を念入りにすすいだ。


 あー……こりゃ食べられる実じゃないな。

 道理で何の生き物もこの実を取りに来ない筈だ。

 冒険者もわざわざ危険な奥地まで来てこんな実を取ったりしないだろうから、この辺の情報なんてまるで無かったんだろうな。

 もしかしたら毒薬の材料とかになら使えるかもだけど……リディがいないから採取しても腐らせるだけだ。


 俺は齧った実を投げ捨てて木を降りる。


 さて、これからどうするか……

 地下水脈を上流に向けて辿るか、このまま森の探索をしながら出口を目指すかだけど……

 地下水脈を辿るのは正直危険なんだよな。

 流れを遡る為に足場を維持するにしても、流れに沿って壁を掘り進むにしても、作業を続けるのに延々と魔力が必要になる。灯りの確保も常に必要になるしな。

 あの人喰い魚にも襲われ続けることになるだろう……


 それに、ダンジョンの修復力の問題があるから、崩落した場所も辿り着いた頃にはある程度元通りになって場所が分からない可能性も高い。

 更に、あの地下水脈が一本だけだったとは限らない。

 もし途中で分岐なんてしてたらどっちに進めばいいのかまるで分らない。


 それに比べたら、森を進む方がまだいい気はする。

 現在地が一切分からないと言う問題はあるけど、仮に資料に記されていた目印を見付けることが出来ればそれを頼りに移動することも可能だ。

 もっと別の場所に行けば食べられる木の実なんかもあるだろうし、黒ゴブリン以外の食べられる魔物も存在するだろう。


 最悪西の方に進めば森を脱出することは可能だ。

 その為には、どうにか方角を知る必要があるんだけど……どこかに灯籠花でも咲いてないかな。


 周囲を見渡してみるも、それらしい草花はどこにも見当たらない。


 とりあえず、ここにいてもどうしようもないし、どこかに移動するか。

 まずは洞窟のあった崖沿いに進んでみるか。

 そうすれば、何かあっても洞窟までは戻って来れるしな。


 おっと、その前に……

 念の為、リディに『念話(テレパス)』が届かないか試してみようか。


《リディ、俺だ。聞こえるか? 聞こえたら返事してくれ》


 そのまま暫く待ってみるも、リディからの返事がくることは無い。


 うーん、やっぱり距離が離れすぎてて駄目か。

 そう言えば、あの後アガーテは無事二人と合流出来たんだろうか?

 デーモンバッファローも逃げ出してたし大丈夫だったとは思うんだけど……


 確認出来ないことをウダウダ考えてても仕方ない。

 まずは俺が皆の元に帰れないことにはどうしようもないしな。

 よし、行こうか。


 剣を構え、周囲を警戒しながら俺は崖沿いに歩を進めていった。



 ◇◇◇



 暫く歩くと上り坂に差し掛かった。

 このまま進んだら崖の上と道が合流しそうだな。


 今の所は魔物に襲われることも無く移動出来ている。

 ただ、周囲にあるのは捩じれた木ばかりで他の木は見当たらない。

 うーむ、まだこの捩じれた木の領域が続きそうだなあ。

 何かまともに食べられるものがある場所までは進みたいんだけど……


「ピュルルルルルアァアアッ」


 上空からそんな鳴き声が聞こえてくる。

 俺は素早く近くの岩陰に身を隠す。

 ブラックホークに似た鳴き声だけど、この辺にもいるのか!?


 空を見渡すと、悠々自適に飛ぶ黒い鳥の姿が確認出来た。

 遠目だから正確な大きさは分からないけど、多分ブラックホークの二倍近くの大きさなんじゃないだろうか?

 あんなのが空を飛んでるとなると、やはり上空への跳躍で周囲を確認するのは危険だな。

 下手をすればあの鋭い鉤爪で捕らえられてしまいそうだ。


 そのまま岩陰に身を隠し、黒い巨鳥をやり過ごす。

 ふぅ、やはりダンジョンの奥地なだけあって、出現する魔物が見るからに危険だな。

 ただ、未踏領域を目指す為には避けては通れない場所でもある。

 そう考えると、今回は俺一人で下見に来れたのは案外良かったのかも――


 ヒュォォォオオオッ


 ふいに風切り音が聞こえ、俺はその場から飛び退く。

 俺が身を隠していた大岩に鋭い刃のようなものが突き刺さる。


「グゥルルルルルウゥゥ」


 その刃の出所に視線を向ける。

 どうやら、一頭の黒熊が爪を伸ばして俺を狙っていたようだ。

 そして、伸びていた爪が黒熊の前肢に収納されていく。


 この爪の使い方、こいつがクローベアの原種のブラッククローか!

 黒獣の森の奥地に現れる魔物だったみたいだ。


「グォアァァァァアアアアッ!」


 ブラッククローが腕を振り上げる。

 こいつの爪は前肢に収納されている関係上見掛け以上に長く、多少斬った所であまり意味はない。

 やはり、クローベアの時と同じく爪の出し入れそのものを封じるのが得策だろう。


「アガーテ! あいつの攻撃を……」


 って、今はアガーテはいない!

 気持ちを切り替えろ俺!


 ブラッククローの爪が振り下ろされる。

 すると、クローベアと同じく爪が一気に伸び俺を襲う。


 俺はそれを避けながら、風の剣で爪を斬る。

 だけど、斬ったそばから更に爪を伸ばされてしまい、やはり効果が薄い。

 しかも、その爪を鞭のように扱い変幻自在に俺を狙ってくる。

 ただ伸ばすだけじゃなく、こんな扱い方もしてくるのか……確かにクローベアより厄介な相手だ。


 それに、クローベアと同じならこいつには切り離した爪を飛ばしてくる遠距離攻撃もある筈だ。

 余計なことをされる前にどうにかこいつの爪を封じなきゃな。


 ブラッククローの爪が俺に向かって真っ直ぐ伸びてくる。

 よし、ここだ!


 俺は目の前に石壁を形成し、ブラッククローの爪を避けるべく横に飛び退く。

 ブラッククローの爪は俺の作り出した石壁を貫き、俺が立っていた地面にまで突き刺さる。


 俺の目論見通り、ブラッククローの爪は石壁を貫いてくれたようだ。

 その為にあえて強度は弱くしておいたんだからな。


 即座に俺は石壁に触れ、地魔術を使って石壁を固める。

 爪を引き抜こうとしていたブラッククローは爪が抜けずに驚いているようだ。

 このまま時間を掛けたら爪を切り離すだろうからな。

 今のうちに勝負を決める!


 剣に氷を纏い、ブラッククローに一息に踏み込み前肢を斬り付ける!


「グアァア!? ガァアァアアアアッ!!」


 斬った場所からどんどんブラッククローは凍り付いていき、数秒後には前肢の全てが凍り付く。

 判断が遅れたブラッククローは、爪を石壁から引き抜くことすらままならない。

 そして風属性の『エンチャント』に切り替え、ブラッククローの首を撥ね飛ばした。


 ふぅ、前にクローベアと戦えてたのが大きかったな。

 相手の手の内を知っていると言うのはそれだけで有利だ。


「リディ、ブラッククローの回収を……」


 ……そうだ、今は俺一人なんだった。


 どうやら、俺の中では皆がそばにいることが当たり前になっていたようだ。

 やはり、こう言った場面ではつい頼ってしまう。


 よく考えたら、こうやって本当に一人になったのは生まれて初めてのことかもしれない。

 エルデリアではいつも周囲が気に掛けてくれていたし、こっちへ来た時もリディは一緒だった。

 そのすぐ後にはレイチェルと行動を共にすることになるし、最近ではアガーテもずっと一緒だ。

 ここに辿り着くまでも多くの人たちに支えられ、助けられてきた。


 はぁ、つくづく俺は周囲に恵まれていたんだな。

 一人になってみて強くそう思う。


 おっと、悠長にそんなこと考えている場合じゃないな。

 こいつから可能な限り肉を手に入れなきゃ。


 近くの木にブラッククローを吊るし血抜きをする。

 そしてブラッククローを解体していく。


 今回は肉以外は魔石だけ回収しておこうか。

 全てを回収していたら俺の『亜空間収納』では容量が持たない。


 ある程度解体も進み、肉を切り分けていく。

 あー、よく考えたら全部持って行っても無駄になるな。

 でも、食料のことを考えると出来るだけ持って行きたいし……

 確か、ギルドでは保存や運搬の為に冷凍処理しているって話だったな。

 後ですぐ食べる分以外は凍らせて持って行こうか。


 そうして、それなりの量の肉を凍らせて『亜空間収納』へと仕舞う。

 今回はこんなもんでいいだろう。

 さて、血の匂いに魔物が寄って来る前にさっさとここを離れようか。


 そうして、可能な限り肉を回収した俺は急いでその場を離れ、再び捩じれた木の領域の先を目指して進み始めた。

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