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134話 蔦の迷宮

ブックマーク登録と評価ありがとうございます!

こうやって続きを書けるのも読んで下さっている読者様のおかげです!

今後とも是非よろしくお願いします!

「うーん、確かにヴォーレンドのダンジョンと同じような抵抗を感じるな。穴を掘って地中を進むのは無理そうだ」


 地魔術の発動を止め立ち上がり、今度は剣を構える。


「おぉおおりゃっ!」


 壁となっている蔦を真一文字に斬り裂く。

 それなりに硬い蔦ではあるけど、ミスリルの剣なら問題無く斬り裂くことが出来た。


「あ、斬れた蔦同士がくっ付いていきます」


 どうやら一時的に切断してもすぐさま元通りに再生してしまうようだ。


「じゃあこれなら」


 本来ならこんな場所で試すのは危ないんだけど、今度は火属性『エンチャント』を試してみる。

 念の為、リディとレイチェルにはいつでも水魔術を発動出来るように用意してもらった。


 ザシュッゴォォオオオゥッ


「ああ、火が消えていく」


 切り口から蔦に引火したものの、火は大した勢いにはならずに消えていった。

 そしてすぐさま蔦の壁が再生する。

 他にも氷や闇も試してみたんだけど、どれも同じような結果に終わった。


「やはりジェットでも無理か。そうなると、正攻法で黒耀花を探すしかないか」


「ねえおにい、大きく切り取って石で再生を邪魔したり出来ないかなあ」


「うーん、多分無理だな。石ごと取り込まれて再生されると思う。蔦の壁自体も結構分厚いし、無理矢理通ろうとしたら最悪自分たちまで蔦に巻き込まれるな」


 石をくり貫いて道を作ることも考えたけど、結局くり貫いた中にまで蔦が侵食してしまうだけだろう。


「仕方ない。アガーテの言う通り、正攻法で探索していこう」


 幸い、迷宮の中はそこまで狭くはない。

 それに、ところどころ天井の穴から光が差し込んでいるし、迷宮内には至る所に灯籠花と呼ばれる光る花が咲いていて明るさも確保されている。

 この灯籠花、折角だし後でウィタにお土産として採取していこうか。


「この灯籠花は南向きに花を咲かせる性質があるみたいです。迷った時はそれを参考に動くのがいいみたいですね」


 レイチェルが資料を捲りながらそう教えてくれた。


「灯籠花は太陽の光を取り込んで光っていると考えられている。花が南を向いているのもその影響だそうだ」


 南向きは基本的に日当たりがいいからな。

 前に森で方角を知る為に参考にしていた苔とは真逆の存在のようだ。


「えーと、あたしたちが入って来た入り口から見て灯籠花は右に向いているから……出口を目指す時は灯籠花に向かって左に進めばいいんだね」


「そう言うことだ。常にそれを参考にしていれば、少なくとも方角が分からないまま奥に迷い込むことは無い」


「師匠、魔物です!」


「ブギャァアアア」


 その時、グリムオークのものと思われる鳴き声が聞こえた。

 迷宮の検証をしている間に接近されていたようだ。


「よし、殲滅しながら黒耀花を探すぞ! もし厳しいようならすぐに言え! いいな?」


「うん!」 「はい!」 「ああ!」


 俺たちは武器を構え、迷宮の通路を進んでいった。



 ◇◇◇



「よっと!」


 バヂヂヂヂヂヂヂヂヂィッ


「ブギョェェェエエエ」


 蔦の迷宮内は、浅い部分ではグリムオークが多く出現するようだ。

 今も少し広くなった場所で数匹のグリムオークと遭遇した。


 ヴォーレンドのダンジョンで見たオークよりも一回り体は大きく、それに比例して力も増している危険な相手だ。

 今もリディたちを見て鼻息荒く襲い掛かって来た所だ。

 こう言うグリムオークの特性があるから、基本的に女冒険者はこの辺りには近付かないらしい。


 ただ、危険度が増したと言っても弱点は変わらないようで……

 さっき攻撃を躱すついでに雷の剣で斬ったグリムオークは、体が痺れその場にうつ伏せに倒れる。

 そこへ素早く近付き首筋に向かって剣を振り下ろす。


 ふう、やはりヴォーレンドで戦ったオークより斬るのに力が必要になるな。


 他へ視線を向けてみる。

 あっちはレイチェルとアガーテか。


 アガーテがグリムオークの一撃を受け止め、死角からレイチェルが雷のナイフを突き立てる。

 直接体内に雷を受けたグリムオークはその場に倒れ痙攣する。

 そこへアガーテの鎚が振り下ろされ、グリムオークの脳天をかち割った。


 別の方向へと視線を向けると、リディの方へ二匹のグリムオークが向かっている所だった。

 どうやらグリムオークも普通のオークと同じくリディがお気に入りらしい。

 ちょっとあのままじゃ危ないな。今助けに……

 そう思ったけど、どうも様子が変だ。急にグリムオーク同士が仲間割れを始めた。


「ブギョォォオオオオッ」 「ブヒァアアアアアアア」


 激しく殴り合う二匹のグリムオーク。

 よく見ると、体に細かい切り傷が目立つ。

 成程、闇属性『エンチャント』を纏ったポヨンの仕業か。リディの右腕にはポヨンが装着されているし。


 壮絶な殴り合いの末、片方のグリムオークが崩れ落ちる。


「ブヒィィイアアアアアアアアッ」


 勝ち残ったグリムオークが勝利の雄叫びを上げる。だけど、勝ったとは言えその体はボロボロだ。

 そして、そこへ忍び寄る小さな影が一つ。


「プギョェェェエエエエ……」


 すると、勝利した方のグリムオークも体を痙攣させながら地に倒れた。

 背後からキナコの雷の刃を受けたようだ。


「キュゥウイ!」


 そこへすかさず水球が飛んでくる。

 水球はグリムオークの頭部をすっぽり覆ってしまう。

 更にキナコが雷の刃を突き立て、グリムオークは陸にいながらにして溺れてしまった。


 ヂュィィイインッヂュィン


 キナコの回転円盤によって地に倒れた二匹のグリムオークの首が撥ねられる。

 これで今遭遇したグリムオークは全部片付いたか。


「皆、おつかれ」


「こいつらも回収しておくね」


 リディが先程倒したグリムオークの回収を始める。

 この迷宮を出る頃には結構な数が収納されていそうだ。


「やっぱり、ヴォーレンドのオークに比べると硬いですね……ナイフを突き刺すのにかなりの力が必要でした」


「一撃も相応に重いな。今も少し手に痺れが残っている程だ。それに……うぅむ、こんなにもグリムオークが襲って来るとは……」


 あー、やっぱり俺たちのパーティー構成の影響だろうな。

 ヴォーレンドの時もリディとレイチェル目当てにオークが殺到していたし。

 しかも、今はそこにアガーテまで加わっている状態だ。

 今の状況を考えると、そりゃ女冒険者はここには近付かないだろう。


「回収終わったよー」


「おう、ご苦労さん」


「改めて思うが、リディの『亜空間収納』は反則級の便利さだな。素材を全て持ち帰れるのもそうだし、魔物の死体によって道が塞がれることも無い」


「そっかぁ。わたしももうこれが当たり前みたいになっちゃってたけど、普通は持って帰れる分だけ持って帰って他は捨てていくんだよね」


「ああ。こう言った場所だと死体は通行の邪魔になるし、血の臭いで他の魔物も寄って来るから特に危険だ」


「やっぱり黒獣の森でも放置した死体はスライムが処理するのか?」


「そうだな」


 それだったら細かな肉片とかは放っておいても大丈夫だろう。

 俺たちは更に迷宮の奥へと歩を進める。



 ◇◇◇



「あ、ここも行き止まりですね……」


 時折現れるグリムオークを討伐しながら暫く進んでみるも、どの分岐を進んでも行き止まりにしか行き着かない。


「ここの迷宮は気まぐれだからな。時折こう言ったこともあるそうだ」


「えーと、もうこの辺は一通り調べたんじゃない?」


「そうだなあ。んー、仕方ない、一度入り口まで戻ろうか。今度は逆の道を行ってみよう」


 どうしようもないので、俺たちは一旦来た道を戻ることとなった。

 ここまでに黒耀花が見付かれば良かったんだけど、生憎どこにも見当たらなかった。


 ある程度道を戻ると、ふとレイチェルが何かに反応する。


「師匠、入り口の方から気配が近付いて来ます。ただ、グリムオークとはちょっと違うみたいです」


「分かった。皆、警戒を」


 暫くすると足音が複数聞こえてきた。

 ただ、どうも靴音のように聞こえる。


「どうやら、他の冒険者が向かって来ているようだな」


 それを聞いてリディが従魔たちを自分のそばへ呼び寄せる。

 ヴォーレンドでは誘拐に遭ったからな。警戒しておくに越したことはない。


 そうこうしているうちに、足音の主の冒険者たちが曲がり角の向こう側から現れた。


「おっと、他パーティーか……って女冒険者がこんな場所に!? お、おい! 何考えてんだ!」


 どうやら男五人組の冒険者のようだ。皆背が高く体もがっしりしている。

 見た感じ全員サリヴァンさんより少し年上って感じかな。


「出遭ったグリムオークは全て殲滅して来ている。心配は無用だ」


「ア、アガーテ様!? てことは……お前たちがクソでけえトレントを真っ二つにしたって言うモノクロームか!」


「ああ、そうだけど……」


 それを聞いて男冒険者たちは笑顔を浮かべる。


「そうかそうか! お前たちには会えたら是非礼を言っておきたかったんだ! ライナスの危機を救ってくれて感謝する。俺たちはあの時黒獣の森に入っていてな。後で話を聞いて肝を冷やしたものだ」


 代わる代わる男冒険者たちからお礼を言われる。

 話した感じでは危険な相手ではなさそうかな? まあ、油断はしない。


「そうか、黒耀花の採取に。俺たちはグリムオークの肉目当てに来たんだが、こっちとは逆の道では全く見掛けなくてなあ。向こうは行き止まりだったからこっちに向かっていたんだ。向こうじゃ黒耀花も見掛けなかったな」


 な、なんだと……!?


「こっちも行き止まりだったから戻って来たんだ。向こうも行き止まりだったって……え? どうやって奥へ行けばいいんだ!?」


「あー、ここは蔦の気まぐれで構造が変わるからな。時々どこにも通じなくなることがあるんだ。酷い時には入り口付近からどこにも移動出来ない時もあったなぁ。まあ、何日か待てば構造が変わる筈だ」


 つまり、今はそのどこにも通じていない時だと……

 な、なんてことだ。


「グリムオークだが……すまん。私たちの方へ全て流れて来ていたのかもしれん」


「あー、女に釣られて……あれ? その割にどこにも死体が無かったような……」


「確かに、戦いの跡はちらほら残ってたけど」


「グリムオークは全て回収している。方法は教えられないが……」


「ああ、いえ。俺たちもそれを聞く気はありませんよ。ちょっと俄かには信じられない話ですけど、アガーテ様が嘘を言っているとは思えないし……」


 アガーテの話を聞いた男冒険者たちは何やら話し合いを始めた。

 どうやら後の予定を話し合っているようだ。


「それじゃ、俺たちはここを出て別の獲物を探すことにします。アガーテ様たちはどうしますか? もし良かったら俺たちが護衛を」


 男冒険者たちがとてもいい笑顔を見せる。

 多分、レイチェルやアガーテにいい所を見せたいんだろうなぁ。


「申し出感謝する。だが、それには及ばん。私たちはもう少し黒耀花を探してみる」


 アガーテの言葉を聞いて、男冒険者たちの表情が絶望に染まる。

 ……極端な人たちだな。


「……分かりました。お気を付けて。おい、お前。ちゃんと仲間を守るんだぞ」


 そう言ってリーダーだと思われる冒険者が俺の肩を叩く。


「ああ。分かってる」


 俺は力強く頷く。


「へへ、いい目だ。それじゃあ俺たちは行くよ。黒耀花、どうにか見付かるといいな」


 そう言って五人組は入り口の方へと戻って行った。

 ふぅ、どうやら悪い人たちではなかったようだな。


「とは言ったものの、さてどうする? 彼ら曰く向こうの道にも無かったようだが……」


「えーと、今ここより奥に行こうと思ったら、数日待って迷宮の構造を変えるか」


「無理矢理ブラックホークたちの巣がある蔦の上を通るかだね」


 出来れば上は通りたくないよなあ。

 かと言って、数日待つのもそれはそれでなぁ……

 下手すれば構造が変わっても奥に行けない可能性もある訳だし。


 さて、どうにか奥へ行く方法が無いものか……

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