133話 黒耀花採取依頼
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「ピュルァァアアアアッ!」
「うおっ!?」
空中で無防備になった俺に、ブラックホークと呼ばれる黒い鳥の魔物が襲い掛かって来る。
この鳥、人間の幼児くらいはあるんじゃないかって大きさだ。翼を広げた姿は倍くらいは大きく見える。
なんで俺がこんな奴に襲われているかと言うと……
ウィタが無事モノクロームの従魔として登録された後、俺たちは再び黒獣の森へとやって来た。
今回は『黒耀花』と呼ばれる花の採取依頼を受けている。
なんでも黒い大輪の花を咲かせ、その花びらや花粉がちょっとした病気だったら簡単に治せる薬の材料になるんだとか。
黒獣の森の奥を目指すと言っても、それは一朝一夕で出来ることじゃない。焦らず少しずつ慣らしながら進んで行く予定だ。
なので、折角だから依頼も受けつつ森に慣れていこう、と言うことになったのだ。
それに、丁度この黒耀花の採取依頼は俺たちが向かおうとしていた区画に近い場所が目的地だったし。
そして、以前と同じように周辺の果物と薬草の採取や黒い魔物との戦闘を繰り返しながら、今回は更に森の奥へと向かっていた。
で、その時にふと考えたのだ。
黒獣の森はダンジョンとは言え天井は無いんだから、大百足の山やトレントの森と同じように空中から周囲を見渡せばもっと探索が捗るんじゃないかと。
そこで、俺はいつものように近くの木に登り、『限界突破』を使って空中へと跳躍する。
とまあ、ここまでは良かった。
だけど、大きな誤算だったのがこのブラックホークだ。
俺が空中に跳び上がるのと同時にどこからともなく物凄いスピードで飛んできたのだ。しかも二羽も!
そうなってしまったら、最早周囲を探るどころの話じゃない。
ブラックホークの一羽が上空から鉤爪を振り下ろしてくる。
あんな鋭い爪で引っかかれては堪ったもんじゃない!
俺は急いで剣を抜き、ブラックホークの鉤爪を弾く。
ガキィィイイイインッ
くっ、思ったより硬い。
空中なので踏ん張りが利かなかったこともあり、俺の攻撃はどうにかブラックホークの鉤爪を逸らすだけに留まった。
今度はもう一羽が俺目掛けて突撃してくる。どうやら嘴を突き刺してくるつもりのようだ。
さっき剣を振ったことで体勢が崩れてしまっている。この状態では剣で迎撃するのは難しいな。
なので、俺は穂先を突っ込んで来るブラックホークに向けた状態で、亜空間からミスリルの槍を取り出し構える。
こいつで串刺しにしてやる!
ブラックホークは何も無い所から急に槍が出て来たことに一瞬驚いたものの、素早く上空に軌道を変え槍を躱していった。
やはり空中では鳥相手だと圧倒的に不利だな。
それに、問題はブラックホークだけではない。
俺は今空中に跳び上がった所だ。と言うことは、このまま何も対策しなければ地面に叩き付けられてしまう。
ブラックホークがいなければ普段通り風魔術と『限界突破』を使って着地するんだけど、こいつらが邪魔でなかなか思う通りに出来ない。
どうするか……あまり悠長に考えている時間は無い。
やはり、強力な光魔術で相手の目を眩ませてやるのがいいかな。
鉤爪を弾いていたブラックホークが体勢を整える。
また鉤爪や嘴で攻撃されたら面倒だ。
今のうちに奴の目を……
その時、地上から幾つかの風の刃がブラックホーク目掛け飛んで来る。
それに気付いたブラックホークは急いでその場を離脱する。
あれはリディとレイチェルの風魔術か。ありがたい。
ブラックホークが二羽とも離れた隙に、俺は急いで着地の準備を整える。
風魔術と『限界突破』を使って着地した後は、急いで三人と合流する。
「悪い、助かった」
「話は後だ。奴らはまだ諦めてはいないみたいだぞ」
空を見上げると、二羽のブラックホークが旋回していた。
その目はしっかりとこちらを捉えているようだ。
「ピュルルルルルッ!」
そんな鳴き声と共に、一羽のブラックホークが鉤爪を構え急降下してくる。
「奴は私が引き受ける!」
そう言ってアガーテは、盾を構える。
あれ? なんか盾の表面がいつもと違ったような……
そしてブラックホークの鉤爪がアガーテの盾に届く!
「ふっ!」
短く息を吐き、アガーテは盾を斜めにずらす。
すると、ブラックホークの鉤爪は盾の表面を滑り、勢いを増して地面に突き刺さる。
「やあぁあ!」
そこへレイチェルが風属性『エンチャント』を発動したナイフで斬り掛かる!
ブラックホークは鉤爪が地面に深く突き刺さり、上手く身動きを取れずにいる。
そして、レイチェルの風のナイフによりあっさりと首を撥ねられたのだった。
今のアガーテの受け流しは、盾の表面に地魔術でツルツルの石を作り出していたんだな。
あのツルツルの石は、地魔術で石壁を作る時にこんなことも出来ると教えたものだ。
それを自分なりの方法で実践投入してきたようだ。
時間差でもう一羽のブラックホークも急降下をしてくる。
地面だったら踏ん張りも利くし、さっきのリベンジだ!
俺は水属性『エンチャント』を発動し、剣に水を纏う。
そこへ地魔術で細かな石粒を加え、水流を発生させて濁流を作り出す。
さあ、ゴーレムの石の身体も斬り落とすこの濁流にお前の鉤爪が耐えられるか?
急降下してきたブラックホークの鉤爪を捉え、俺は濁流の剣を振るう。
ヂュパンッ!
濁流はあっさりとブラックホークの鉤爪を斬り、その剣はそのままブラックホークを真っ二つに斬り裂いた。
「うおっ、なんか思ってたより簡単に斬れたな」
「おにい、前より剣の水の勢いが強くなってるね」
そう言われてみれば……
「サイマールの一件で水魔術が強化されたからじゃないでしょうか」
「そうだな。それに、ずっと欠かさずやってきた基礎の修業も効果が出てるんだと思う。ヴォーレンドの時と比べると、かなりスムーズに水を動かせるんだよなあ」
「何事も基礎を疎かにしてはいけない、と言うことだな」
倒したブラックホークはリディに回収しておいてもらう。
俺が真っ二つにしちゃった方は自分たちで食べるとしようか。
「アガーテ、ブラックホークみたいな猛禽の魔物って他の場所にもいるのか?」
「そうだな。もっと奥に行けばブラックホーク以上に目のいい猛禽も存在するそうだ」
「そうか。そうなると、黒獣の森では空中からの調査は難しいのかもな」
跳び上がる度にあんな風に襲われたんじゃ堪ったもんじゃない。
「師匠! まだ少し遠いですけど、他にも空からこっちに接近して来る気配があります!」
「さっきのブラックホークの仲間かな?」
「その可能性が高いな。ジェット、どうする?」
そうだなあ。
別に倒せないことは無いだろうけど、俺たちはブラックホークと戦いに来た訳じゃない。
あくまでも今回の目的は黒耀花の採取なのだ。
「とりあえずここから離れよう。このまま戦ってたら延々と襲われる可能性があるし」
そうして、俺たちはブラックホークから逃れ、黒耀花を求めて更に奥へと向かって行った。
◇◇◇
「ブッブィィイイイイイッ!」
「もう! こんな所でもあの豚がいた!」
森を暫く進んでいると、かつてヴォーレンドのダンジョンでも見た二足歩行の豚の魔物が姿を現した。
その特性は黒獣の森でも変わらないらしく、リディたちを見て鼻息荒く興奮し始めた。
「う、身体が黒くなってもやってることは同じなんですね……」
「グリムオークが出たと言うことは、目的地は近いぞ」
「よし、さっさとあいつを倒す……必要はないか」
グリムオークの足が勢いよく飛び出したポヨンの触手によって滅多打ちにされる。堪らずグリムオークは膝をついてしまう。
そして、忍び寄っていたキナコが雷の刃をグリムオークに突き立てる。
激しい雷を受けたグリムオークは体が痺れる。更にそこへポヨンの体当たりを受け、その巨体が仰向けに倒れる。
「キュッキュゥウウ!」
ルカが水を操り、なんと仰向けになったグリムオークの頭全体を水球で覆ってしまう。
そうなると当然グリムオークは呼吸が出来なくなる。
そこへ駄目押しするかのように再度キナコが雷の刃を振るう。
グリムオークは痺れた体のまま大量に水を飲み込んでしまい、暫く苦しそうにした後完全に動かなくなった。
「うわぁ、あんなの食らいたくないな」
グリムオークを討伐したポヨン、キナコ、ルカは誇らし気だ。
どうやら、リディが心底嫌そうにしているのを見て頑張ったらしい。
「わぁああ! 皆、ありがとう!」
リディが従魔たちを撫で回していく。
その間に、俺は念の為グリムオークの首を撥ねておいた。
「リディ、後で回収頼むぞ」
「分かったー」
ちなみに、このグリムオークの肉はライナスで一番よく食べられるものらしい。
あのカレー屋でもグリムオークの肉が使われているんだとか。
氷の魔道具で冷凍処理されたものがアムールや近隣の農村にも運ばれるらしい。
折角だし、俺たちも今度こいつを食べてみようか。
グリムオークを回収し奥に進むと、なんとも奇妙な場所に辿り着いた。
「ここが黒耀花を採取出来る『蔦の迷宮』ですね」
「ああ。黒耀花はここ以外で発見例は無いそうだ。この中には当然のように魔物も棲息しているから注意が必要だ」
「さっきの黒豚もここにいっぱいいるんだよねえ……」
俺たちの目の前に、生い茂る蔦が幾重にも重なった天然の迷宮が現れたのだ。
数多くの蔦が複雑に絡み合い、見事な蔦の壁を作り出している。
そこに所々割れ目のようなものが出来ており、そこから中に進めるようだ。
「なあ、ふと思ったんだけど、これって蔦を登って上から進んだ方が楽じゃないか?」
これだけ蔦が絡み合っていれば、登ることはそれ程難しくないだろうし。
「勿論過去にも同じように考えた冒険者はいたが、悉く失敗に終わっている」
「あ、資料にも書いてますね。えーと、どうやらこの上にはブラックホークの巣がそこかしこに存在するみたいです」
あー、理解した。
上に登ったらさっきの俺みたいに襲われる訳か。
「うー、やっぱりこの中を進むしかないのかぁ」
「確か、この中って時によって道が変わるんだよな」
「そうですね。だから、この中の地図は実質作成が不可能なようです」
「作成した所で暫くすれば何の役にも立たなくなるからな」
そう、ここの蔦はどうやら頻繁に生え変わるらしく、その度に迷宮の構造が変わるそうなのだ。
それに、どうもこの付近はダンジョンの修復力が強く働いているらしく、蔦を斬ってもすぐさま再生してしまうらしい。
穴を掘ったりするのも無理なようだ。
その為、不用意に奥へ向かうと迷って出られなくなることもあるとのことだ。
なので冒険者たちは絶対に必要以上に奥には向かわない。
幸い黒耀花は比較的浅い場所でも咲いているから、今回はそれを見付ければ大丈夫なのだ。
「よし、それじゃ行くか。まずは入った所で色々試してみようか」
そうして、俺たちは蔦が織りなす天然の迷宮へと足を踏み入れた。




