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126話 黒獣の森に向けて

「へえ、森の中でも場所によって環境が変わってくるのか」


「はい、ギルドから購入した資料にはそう書かれていますね。例えば、この周辺の森とそれ程変わらない環境もあれば、高温多湿で高い木がたくさん生えている環境なんかもあるみたいです」


「こっちが資料室で調べたここ何年かで目撃された危険な魔物のリストだ。中には既に討伐されたものも存在するが、再び同じような種が現れないとも限らん。目を通しておいて損は無いだろう」


 俺はアガーテから受け取った魔物の資料に目を通す。


「おっ、このブラッククローって前に討伐したクローベアと似てるな」


「ブラッククローはクローベアの原種だと言われている。厳しい環境で生きている分、ブラッククローの方が遥かに危険だそうだが」


「成程なあ」


 このゴブリンアビスってのは黒ゴブリンだな。普段現れない入り口付近で発見されて、冒険者側に犠牲を出しながらもどうにか退治した、か。

 このブラックボアってのは黒いビッグボアか? エルデリアで見たヌシは黒イノシシが異常成長した奴だったけど……

 他にも黒い怪鳥や黒い怪魚等、やはり黒い魔獣型の魔物の情報ばかりだ。


「あたしたちも言われたものいっぱい用意しておいたよ」


 リディが亜空間から大量の陶器の瓶を取り出す。

 そのどれもが蚊や蛭などの吸血生物や毒虫が嫌う薬草から作られた虫除け薬だ。

 こう言ったものはエルデリアでも作られていたな。


「普通の森でも対策は必要だけど、黒獣の森だと命に関わるんだよね」


「ああ。そう言った生物の中には危険な魔物から毒素を吸い取ったものや、森の瘴気に汚染されたものも数多く存在する。ジェットやリディがいれば魔術で対処出来るとは言え、対策しておくに越したことは無い」


 この手のものについては大体は光魔術で治療が可能だ。

 だけど、アガーテの言う通り避けられるんならそれに越したことは無い。

 積み重なれば体力も魔力も消耗するからな。


 他にも雨避けの布、鉈や紐なんかの探索道具、保存食、念の為の水も用意している。

 これらを俺、リディ、レイチェルがそれぞれ『亜空間収納』に仕舞う。魔術を使えば無くてもどうにかなるものもあるけど、長時間の探索となるとどうしても魔力の節約が必要になってくる。そう言った時にはこれらのものがあるとないとじゃ大違いだ。

 アガーテはまだ『亜空間収納』を使えないから、最低限のものを道具袋に持たせている。


「師匠、まずは明日入り口付近を探索してみるんですよね」


「ああ。ヴォーレンドでもそうだったけど、徐々に環境に慣れていく方がいいと思う。そりゃ早く奥地へ向かいたい気持ちはあるけど、それで取り返しのつかない怪我をしたり命を落としたりしたら意味無いからな」


「それに、やはり黒獣の森でも奥地へ行けば行く程魔物は強力になる。ジェットはともかく、そのような魔物と私たちがいきなり戦えば無事では済まないだろう」


 いや、俺だってそんな危ない奴お断りだぞ。


「うぅ、あの黒ゴブリンも出るんだよねぇ」


 リディの心底嫌そうな発言を聞いてポヨンが大きく膨らむ。

 ポヨンにとって黒ゴブリンは因縁の相手だからな。リディにとっては腰布のトラウマの相手だし……

 ポヨンに触発されてかキナコとルカもそれぞれやる気を体全部で表現する。


「カーグで見たあの黒鬼……あんなのが出るんですよね」


 レイチェルも不安そうにする。

 無理もないか。あの時の黒ゴブリンは本当に危ない奴だったし。


「大丈夫だ! あんなゴブリンが出ても俺がやっつけてやる!」


 ここは俺がしっかり不安を取り除いてやらないとな。


「だが、現実問題ジェットのみに頼る訳にもいかないだろう。私だってやってみせる!」


「こ、怖いですけどわたしも頑張ります」


 弟子のやる気が嬉しいぞ俺は!


 とは言え、今のレイチェルやアガーテが黒ゴブリンを相手取るにはまだ不安なのも確かだ。

 それに、相手しなきゃいけないのは何も黒ゴブリンだけじゃない。

 やはり、森の奥に進む為には俺やリディも含め、皆の戦力強化も徐々にしていく必要があるだろうな。


「黒獣の森については今の所はそんな感じか」


「ああ。私も以前サリヴァンたちの調査について行ったことがあるくらいだ。後は実際に行ってみて対応していくのがいいだろうな」


「ヴォーレンドの時と同じように資料はわたしが管理しておきますね」


「ああ、任せた。リディも物資の管理を頼むぞ」


「うん!」


 『亜空間収納』の容量の関係で荷物の大半はリディの担当だ。

 今回も用意した物の半分以上はリディが持ち運ぶことになる。


 亜空間にどんどん仕舞われていく荷物を眺めていると、リディが何かを思い出したように亜空間の中に手を突っ込んだ。


「そうだ! おにい、これ!」


 そう言ってリディが何かの種をいくつか俺の方に差し出す。

 丸くて結構大きいな。一粒一粒がずっしりとして、丁度俺の掌に収まるくらいの大きさがある。

 何の種……あ、もしかして!


「この前食べたトレントの果実の種か!」


「うん! これ庭に植えなきゃ」


「あの実、あっと言う間に全部食べちゃいましたもんね」


 そう。

 アガーテの家で報酬として受け取ってから、二日を待たずにあの果実は全て食べ尽くされた。

 仕方がなかった。どうしても皆我慢出来なかったんだ。


「だが……それを植えてしまって大丈夫なのか? もしトレントが生まれでもしたら……」


「うーん、大丈夫だとは思うぞ。結局、あの時真にトレントだと言えたのは元凶だった寄生型トレントだけだったし。そう考えると、これはあの大きな木の忘れ形見とも言えるしな」


 あの大きな木も被害者とは言え、あの時は命魔術を使って倒す以外どうしようもなかった。

 それだったらせめて残った種ぐらい植えてやりたい、って気持ちがあるんだよな。


「まあ、私の考え過ぎか」


「あはは、あんなことがあった後じゃ仕方ないよ」


「万が一トレントが生まれるようだったら、その時は大きくなる前にさっさと始末するさ」


 そして皆で庭へ移動する。

 さーて、どの辺に植えようかな?


「師匠、どこに植えますか?」


「そうだなあ。リディ、井戸を掘るのってどの辺りがいい?」


「うーんと、ちょっと待ってね」


 リディが地魔術で地中を探る。

 結局、バタバタしてて庭までは手が回ってないからなあ。

 そのうちここも色々と手を加えたいとこだな。


「えーと、この辺りが一番良さそうかな」


 拠点の家から見て左斜め前か。

 ルカの希望で近くに池も作ることになるだろうから……


「それじゃあ、この真ん中の道を挟んで反対側を整えてそこに植えようか」


「おにい、そろそろ雑草も肥料に使えるんじゃない?」


「おお、ちょっと見てくるからリディとアガーテでこの辺を耕しておいてくれ」


「うん!」


「あ、ああ。なんとかやってみる」


「大丈夫だよ。地魔術のコツは教えてあげるから」


「師匠、わたしも見に行っていいですか?」


「おお、いいぞ。レイチェルの出番はまだ後だしな」


 この場をリディとアガーテに任せ、レイチェルと共に家の裏手へと向かう。

 そこには布で覆われた小山が幾つか並んでいた。

 俺はその一つの布を剥ぎ取る。


「お、いい感じだな」


「もう堆肥になってるんですね。普通だったら数ヶ月は掛かるって話でしたけど……」


 この小山は、拠点にあった雑草に水分を含ませて踏み潰し、その上に地魔術で生み出した土を被せたものだ。

 本来だったらこのまま時間を掛けて発酵させるらしいんだけど、今回その発酵には闇魔術を使って効果を促進させている。

 そのお陰で雑草の分解が早く進み、短期間で堆肥が出来上がったと言う訳だ。


「よし、それじゃこの一山を運ぼうか」


 俺は亜空間から布袋を幾つか取り出し、レイチェルと共に堆肥を詰め込んでいく。

 その後、堆肥を詰めた袋を亜空間に仕舞おうとしたんだけど、


「おっと、容量がいっぱいになっちゃったか」


 黒獣の森用の道具も結構補充したからな。


「これくらいだったら手分けして運びましょう」


「そうだな。それじゃ一袋頼めるか?」


「はい!」


 レイチェルが一袋、俺が二袋を持ちリディたちの元へ戻る。

 この感じだと一袋が二歳の時のリディくらいの重さかな?

 当時は抱っこし続けるのに苦労したけど、今だとこんなに簡単に持てちゃうんだな。

 見た所レイチェルも『身体活性』を使って問題無く運んでいる。


「あ、おかえり。どうだった?」


「おお、バッチリ出来てたぞ。こっちも準備良さそうだな」


「私もどうにかこれくらいは出来るようになったぞ」


 アガーテはどこか誇らしげにそう語る。

 時々修業で『野菜ごっこ』も続けていたからな。その成果が出て嬉しいんだろう。


「おう、お疲れ。それじゃあここに堆肥を混ぜ込んでいこうか」


 耕した土の上に堆肥を満遍なく撒いていく。

 堆肥を撒き終わった後は、地魔術で土と堆肥とを混ぜ込んでいった。

 よし、土壌改良はこんなもんでいいか。


「じゃあ種を植えよう」


 種の数に合わせて土に目印を付けていく。

 六個だから二列に三つずつでいいか。あー、でも元の木を考えるとこれじゃ狭いか?

 うーむ、発芽してある程度大きく育ってきたら移動させればいいか。まだちゃんと出来るとは限らないしな。


 よし、折角だ。この種に命魔術で元気を与えておこう。

 ちゃんと育ちますように!


 俺は命魔術で六個の種に生命力を分け与える。


 ん? 今種が少し動いたような……

 流石に気のせいだよな?


「おにい、どうしたの?」


「い、いや、何でもない。それじゃ植えていこうか」


 俺は皆に一つずつ種を渡していく。

 ポヨンとキナコとルカもやってみたいそうなのでリディには四つ渡しておく。


 目印を付けた場所に軽く穴を掘り、そこに種を植えてもらって土を戻す。

 種を植えた後はレイチェルとルカが水やりを行う。

 よし、こんなもんでいいかな。


「どれくらいで生えてくるかな?」


「木だからなあ。流石にそれなりに時間が掛かると思うぞ。それじゃやることも終わったし、夕食の準備でもしようか」


 その後は、皆で夕食の準備を行う。

 夕食後は魔力操作の修業を行い、拠点に設置した風呂を堪能した後は早めに就寝したのだった。



 ◇◇◇



 翌朝、黒獣の森へ向かう準備を整え玄関を出る。

 忘れず家の鍵も閉め、門の方に向かおうとしたその時。


「おにい! もう芽が出てるよ!」


「しかも六ヶ所全部……びっくりです」


「ジェットたちといると驚くことばかりだな……」


「おお、頑張って育ってるな! よし、出掛ける前にちょっとだけ栄養をあげとくか」


 もしかしたら数日帰って来れない可能性だってあるしな。

 俺は命魔術を使って芽の生命力をちょっとだけ活性化させる。


 早く育って美味しい実をつけるんだぞ~。


 それから、俺たちは黒獣の森へ向かう為、拠点を後にしたのだった。

 さあ、気合入れて行こうか!

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