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12話 ジェット13歳②

 北の山でヌシが確認されてから一週間が経過した。

 未だにヌシは見掛けた付近に居座っているようだ。


 俺は今日も二人の教え子の面倒を見ていた。


「ゴーシュはもうコツを掴んだみたいだな。お、カエデ、それだ! その感覚だ! それを維持して!」


「は、はい!」


「よし、それでいい! 二人共、よくやったぞ~」


 そう言いながら俺は二人の頭をわしわし撫でる。


「せんせ~、流石にこれは恥ずかしいよ~」


 ゴーシュに言われ、ふと気付く。

 一応教え子ってことになってるんだけど、この二人って一つしか年変わらないんだよな。つい、リディと同じ感じに勢いで撫でちゃったけど。

 カエデの方なんて顔を真っ赤にしてるし……


「ごめんごめん、嬉しくてついリディみたいに撫でちゃったんだよ」


「ぁっ……」


 謝りながら二人の頭から手を引く。

 カエデが何か小さく呟いた気がするけど相当恥ずかしかったのかな……悪いことをした。


 その後はポヨンと遊んでいたリディも含め、それぞれの得意な属性や『身体強化』、『身体活性』の練習もする。この二つは魔力の扱い方のコツが違うから、最近はどっちも練習するようにしている。

 途中からグレンも連れてきて手伝わせる。こいつも何だかんだと面倒見が良くなったもんだ。


 そうこうしてると今日の授業の時間が終了した。


「「ありがとうございました!」」


「おう、またな」


「あ、ジェット先生。後でまたリディちゃんお借りしますね」


「分かった。仲良くしてやってくれ」


「はい!」


 カエデとゴーシュが帰っていく。

 今日もリディはカエデたちと遊ぶようだな。

 同年代の子もいるようだし、二年後授業が始まっても大丈夫だろう。

 まあ、魔術についてはもう教えることはあまりないだろうけど……


 その時には俺も十五歳だ。今みたいにずっと一緒ってのも無理になるしな。

 ……考えてたら少し寂しくなっちまったぜ。


「……お前、一人で何面白い顔してんだよ」


 グレンに言われはっとする。

 どうやら顔に出ていたらしい。


「そういやまだヌシは動かないんだよな。ウチの父ちゃんがぼやいてたわ。最近肉も減っちまったしなあ。あーあ、俺が狩りに出れるんならギッタンギッタンにしてやるのによぅ」


 剣を振るう真似をしながらグレンが語る。

 そう言えばグレンの親父さんも父さんと一緒に狩りに出てたな。

 ……あー、我慢してたのに気になってきた。うーん、いやでも……ちょっと遠くから見るくらいなら……

 俺はこっそりグレンに耳打ちする。ぐ、耳の位置が高い。


「なあグレン、ちょっとだけヌシ見に行ってみないか?」


「何言ってんだよジェット! 俺らまだ外「馬鹿、声でかい」お、おお。だって俺らまだ村の外出れないじゃんか」


「そこは俺に任せろ。どうする? 俺は後で見に行くつもりだけど。あ、絶対他の誰かには喋るなよ!」


「分かってるよ。でもそうだな、へへ。俺も行ってみたい!」


「よし、それじゃあ昼飯の後、村の北の防壁付近に来てくれ」


「お、おお! 何すんのか分からないけど分かった」


 その後グレンと別れ、リディと一緒に帰って昼御飯を食べる。

 今日はリディがカエデのとこへ行く日でよかった。流石にリディは連れて行けないしな。


「母さん、今日はグレンのとこ行ってくる」


「いってらっしゃい、ちゃんと暗くなる前に帰って来るのよ」


「いってらっしゃい、おにい」


「いってきます」


 そうして俺は北の防壁付近へ向かって行った。




 防壁付近に着いたけど、グレンはまだのようだ。

 先にいい場所探しとくか。


 しばらくするとグレンがこっちにやって来た。

 手招きして目立たない場所へ呼び込む。


「おおジェット、それでこんなとこで何するんだ?」


「へへ、まあ見てろって」


 俺はグレンを連れて目星を付けていた付近に移動し、そしていつもの様に地魔術で道を作る。


「……ほんと、お前ってインチキだよな」


「何だよインチキって。ほら、早く行くぞ」


 村の外に出て証拠隠滅も忘れない。

 亜空間から拾った剣を二本取り出し、片方をグレンに渡す。


「な、何で剣なんて持って、いや! それよりどっから出したんだよ今!?」


「へへ、今度教えてやるよ。ただ、これについても内緒だからな」


「お、おお! 約束だぞ!」


 多分『亜空間収納』の劣化版ならグレンにも扱える筈だ。

 教え子二人にも卒業記念で教えるのもいいかもな。


 『身体活性』を発動しつつ二人で森に入っていく。

 人の通った跡があるからそれに従っていく。多分父さんたちが普段使っているルートだな。今日はこっちの方へは行っていない筈だから大丈夫だ。

 しばらく進んでいくと遠目にゴブリンを発見した。まだこっちには気付いていないようだ。


「グレン、ゴブリンだ」


「えっ!? ど、どうすんだよ!? 俺たちで勝てるのか!?」


 そうか、グレンはまだ実戦をこなしたこと無かったんだったな。


「ゴブリンぐらいなら大丈夫だ」


 そう言いながら俺は自分とグレンの目元に闇魔術を使う。

 視界が夜の様に暗くなっていく。ただ、ちゃんと前が見える程度に加減はしている。


「お、おい、暗くしてどうすんだよ!?」


「大丈夫だ。こうしとかないと危ないからな。ちょっと始末してくる」


 そして俺はゴブリンへと素早く接近していった。


 去年初めてのゴブリン戦を経験した後、俺はリディが付いて来ていない時に森に入り、何度もゴブリンと戦ってきた。

 あの一戦で俺は実戦不足を痛感したのだ。まあ、まだ成人もしてないんだから仕方ないんだけど。


 最初こそ色々試したりして苦戦することもあったけど、何度も戦っているうちにゴブリンの対処法が分かってきた。

 まず、こいつらは頭が悪い。多少個体差はあるものの、基本的には真正面から力任せに襲い掛かって来るだけだ。力は滅茶苦茶強いけどそれだけだ。

 そして、これが致命的なんだけど、ゴブリンは物凄く魔術に弱い。魔力の扱いが種族的に下手糞みたいなんだ。

 物理的な防御力は高いんだけど、火や風を使えば傷付くし、氷を使えば簡単に凍り付く。闇で覆ってやると発狂して自滅したりもした。

 他にもこうやって強い光を出してやると、


「ギ? ギュエエエエェェアアアアア!!」


 あまりの眩しさに目に大ダメージが入った。そして俺たちは目元を薄い闇で覆っているからむしろ視界が良くなっただけだ。

 ゴブリンは目を両手で押さえている。俺は素早く背後に回り、剣に薄く鋭い風を纏わせゴブリンの太い脚を一閃した。

 脚を深く斬られ、ゴブリンは堪らず前のめりに倒れる。

 俺は次にゴブリンの腕を斬り刻む。一撃で斬り飛ばせられたらいいんだけど、今の俺じゃそこまでは無理だった。

 よし、腕と脚さえ使えなくすれば、ゴブリンにはもう噛み付くくらいしか攻撃手段は無い。

 俺はゴブリンの太い首に剣を突き刺し、思い切り体重を乗せながら押し込んだ。

 剣はゴブリンの首を貫通し、しばらく痙攣した後ゴブリンは息絶えた。




「おえぇぇえええ」


 グレンはゴブリンの死体を見て吐き気を催し、俺が魔石を取り出す所で限界を迎えた。


「大丈夫か? ほれ水」


 水魔術で水を生成する。


「あ、ああ。悪いな」


「狩りに出るんなら慣れないと駄目だぞ」


「お、おう。分かってるよ! お前は平気なんだな」


「俺も最初は気分悪くなったけど、もう何度も経験してるからな。あ、秘密だからな!」


「こんなこと誰にも喋れねーよ!」


 去年のゴブリン戦での火の『エンチャント』についてもあれから色々練習した。

 どうやらミスリル製武器は魔力の馴染みがとてもいいらしい。

 秘密基地で拾った武器たちもボロボロだけど全部ミスリル製だ。

 『エンチャント』した属性は武器にも同じような効果が出る。

 火だったら燃えるし風だったら鋭さが増す。試しに闇なんかも使ってみたけど、どうやら相手の精神に異常を来すことが分かった。

 今では練習の甲斐もあって一通り使いこなすことが出来る。


「とりあえず死体の処理をしないとな」


 ゴブリンの首なし死体を見下ろす。

 火だと森の中じゃ危ないし、地で穴を掘って闇で腐らせてから埋めるか。

 そう言えば前から一つ気になっていたんだけど、何でリディを襲っていたゴブリンだけ素っ裸だったんだろう?

 他のゴブリンはボロとは言え腰布みたいなものを穿いているのに。


 そんなことを考えていると、ふいに近くの茂みが揺れる。

 咄嗟に剣を構える。グレンもビクつきながらも剣を構えた。


「あ、なんだスライムか」


 俺たちは剣を下ろす。

 よく考えたらポヨン以外のスライムって初めて見たな。

 本当に体が半透明なんだなあ。色は緑だった。


「そうだ、ゴブリンの処理はこいつに任せるか」


「……大丈夫なのか?」


「……前にスライムがゴブリンを全部食ったのを見たことがある。多分大丈夫だろ」


 一瞬ポヨンのことを喋りそうになったけど踏み止まる。流石にリディも一緒に村の外へ出てたことは黙っておこう。


 スライムの近くにゴブリンの死体を投げてやる。血は埋めとくか。

 すると、死体をスライムが覆い、少しずつ溶かし始めた。

 グレンは……また口を押えてるな。


「ほら、早く行くぞ」


「お、おう。うぷっ」


 ゴブリンの死体の処理をスライムに任せ、俺たちは更に山の方へと向かって行った。




 北の山は狩猟の場でもあると同時に、村で使っている鉄やミスリルを採掘する場でもある。狩猟のついでに地魔術で探しているからか、採掘出来る量自体はどっちも微々たるものらしい。

 本当は母さんみたいな地魔術が得意な人が探せばいいんだろうけど、誰でも近付ける場所ではないので仕方ない。

 ここで採れたミスリルは、村共用の武器や防具として加工される。エリン姉が持ってた槍とかみたいにね。

 俺が遺跡で拾ったボロボロの武器は……何なんだろう? 普通は壊れたりしても鋳潰して再利用してる筈なんだけど。瓦礫にもミスリルが含まれたりもしてるし謎が多い遺跡だ。


 今俺たちはかなり離れた所から、その元は採掘された跡であろう崖に空いた穴を見ている。

 その中に……ヌシがいた。今は……昼寝でもしているんだろうか。

 遠くから見ても自分の目がおかしくなったんじゃないかと錯覚するようなデカさだ。


 この辺りに近付くにつれて、傾斜は緩やかになり、木々の密度が少し減っていた。

 同時に掘り返され荒れた地面や泥浴びした後の泥濘、体を擦り付けたであろう泥が付着した木が増えてきていた。その木は結構な数がなぎ倒されていたんだけど……

 それ以外にも食い荒らされた魔獣の死体も幾つか発見した。

 ここに来るまでに、ゴブリン一体だけとしか遭遇しなかったからラッキー、と思ってたんだけど、ヌシに食われるか付近から逃げ出すかしていたのが原因だったみたいだ。


「お、おいジェット。あれはヤバいだろ……」


「あ、ああ。実際に自分で見てみると、とんでもないな」


 大猪を獲る時は主に罠を使用するらしい。

 ミスリル製の紐みたいなのを使って、踏むと足を拘束するものを作るのだとか。

 もし運悪く遭遇した場合は、土壁や大盾で突進の勢いを殺し、防御力の低い腹を狙う。

 腹以外は硬い毛と分厚い皮のせいで、武器や魔術の通りが悪いそうだ。


 だけど、あのヌシ相手にはそんな正攻法は通用しそうにない。

 罠も力尽くで突破されるだろうし、あれの突進なんてまず止められないだろう。


「な、なあ、さっさと帰ろうぜ」


「そ、そうだな」


 俺たちはそそくさとその場から退散するのだった。

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