117話 認められて
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「はい、お疲れ様。これが今回受注していた全部の依頼の報酬よ。内訳はこれだから確認してね」
「分かった」
ウォード救出の指名依頼から一週間が経過した。
その間俺たちは黒獣の森入場の許可を得る為、フランさんからの紹介を受けて様々な依頼をこなしていた。
周辺の魔物退治、店舗の石壁の補修、倉庫の中の鼠捕り等々。中には町の中にある畑を広げたいので土壌改良の手伝いをしてほしい、なんて依頼もあった。
やはりこう言った地味な依頼が敬遠されるのはどこの町でも同じみたいで、依頼者たちにはとても感謝してもらえた。
高ランク冒険者が多く集まるって言っても、その人たちの目的はほとんどが黒獣の森だろうしな。
「……問題無いみたいですね。予定より結構多めの報酬が出てますね」
「それぐらいあなたたちの仕事ぶりが認められたってことよ。まあ、数日掛かる予定を数時間で終わらせられちゃったりしたらね……」
「あまりにも早すぎて依頼人にも疑われた程だったからな」
「サイマールとかでもよくあったよね」
この前の食料運搬なんかもそうだったけど、俺たちは魔術を利用した方法で依頼を解決出来るからなあ。
エルデリアでは当たり前にようにやっていたことでも、こっちだと信じられないような解決法になってしまうんだよな。
「あっ! ジェットの兄貴!」
その時、ギルドの入り口から大声が聞こえて来た。
その声の主の大男は、嬉しそうな顔で俺たちの方へ近付いて来る。
「お疲れ様です兄貴! 丁度依頼が終わったとこですかい?」
「そうだけど……その兄貴っての止めろって言っただろウォード? ウォードの方が俺より年上なんだし……」
「歳とかそんなんは関係ねえ! 俺は兄貴の生き様に惚れたんだ! 一方的に兄貴のこと罵っちまった俺を兄貴は文句も言わず助けてくれたって……俺、本当感動しちまって……この人を兄貴と呼ばずしてどうすんだって! 兄貴がいなきゃ俺は間違いなく死んでた筈だ。それに、兄貴にだったらアガーテ様のことだって任せても」
ウォードの大声に周囲の視線が集まる。
「分かった! 分かったから! 恥ずかしいからやめろって!」
見ての通り、ウォードはあれからすっかり回復した。数日前からは冒険者活動にも復帰しているくらいだ。
やはり、僅かでもウォードの命の火に勢いが戻ったのが良かったんだと思う。あのままじゃ間違いなく命は無かっただろう。
そう考えると、ヴォーレンドに向かう途中、偽商人によって殺されかけたサニーちゃんを光魔術だけで救えたのは、まだサニーちゃんの命の火がちゃんと残ってたからなんだろうな。
もし、あの時俺が怒りに任せて野盗の殲滅を優先してたら……おそらくサニーちゃんは死んでたんだと思う。
「あー、ジェットの兄貴、ウォードがスマン」
後から追いついて来たケーンが俺にそう言って手を合わせる。
ウォードの影響でケーンともう一人のティムの方まで俺のこと兄貴って呼ぶようになっちゃったんだよなあ……
ちなみに、リディは姉御、レイチェルは姐さん、アガーテは変わらずアガーテ様だ。
「ほら、あんたたちも用事があって来たんじゃないの?」
「おお、そうだった! 兄貴、ちょっと待っててくれ! これ終わったら俺が奢るから飯食いに行こう!」
そう言ってウォードはフランさんに依頼完了の手続きを頼む。
このウォードだけど、なんだかんだ言って結構優秀な奴みたいでアガーテと同い年のCランク冒険者なんだとか。
パーティーメンバーのケーンとティムはDランク冒険者だな。幼馴染でパーティーを組んで活動してるそうだ。
「へぇ、それじゃあ食事とかも同じ物食べてるんですねリディの姉御」
「そうだよ。キナコは食事が出来ないから仕方ないけど、ご飯の時は皆も一緒だよ」
「成程……」
ウォードとケーンの仲間、ティムがリディに従魔のことについて聞いている。
このティムって男、夢はテイマーになることなんだとか。なんでも昔から動物とかが好きだったらしい。
その影響なのかは分からないけど、ポヨンもキナコもルカもこの三人の中だとティムに一番に懐いていた。
そう考えると、テイマーになれる素質自体は持ってるんだろうなあと思う。
で、ウォードたちのお陰なのかは分からないけど、
「よぉ、ジェット、お疲れ」
「おう、お疲れ」
「おお、今話題のモノクロームか! こりゃ俺らも負けてらんねえな!」
「はは、お手柔らかに頼むよ」
こんな感じでちょいちょい他の冒険者からも声を掛けられるようになった。
相変わらずレイチェルやアガーテと同じパーティーなのを妬むような視線もあるにはあるけど、最近はどちらかと言うと好意的な視線の方が増えてきたように思うんだよなあ。
サリヴァンさんがライナギリアは実力主義な所があるって言ってたけど、ウォードの一件で周囲からもある程度認められたってことなのかな。
ん?
何だろう? なんか妙に鋭い殺気を感じた気がしたけど……
リディはティムと従魔談義中、レイチェルとアガーテは声を掛けてきた他パーティーに対応中で気付いてないみたいだ。
俺は周囲を見回す。
すると、一人の金髪の男がこちらに向かって来ているのが見えた。うーむ、男の俺から見てもかなりの色男だな。周囲の屈強な冒険者たちと比べると異彩を放っている。
うーん、何やら鋭い視線で俺を睨んでいるような……こいつが犯人か?
それに……一目見た時から気になってたんだけど、なんか見覚えがある顔なんだよなあ。
少なくとも俺にとっては初対面の筈なんだけど……
そうやって少し様子を見ていると、金髪の男は迷うことなく俺に向かって来る。
そして、その男の様子を見てか周囲も徐々に騒然となる。有名人なのか?
男は俺の目の前まで来て立ち止まる。身長は俺の方が少し高いくらいか。
「覚悟っ!!」
すると、男はいきなり俺を殴ろうとしてきた!
うおっ、危なっ! 初対面で何考えてんだこの男!?
ウォードだって一応理由をつけて向かって来たって言うのに……
ただ、明らかに戦い慣れた者の動きではなかったので回避は難しくなかった。
男の拳が空を切った所で、俺は素早く足払いをかける。
「ぐえっ!?」
即座に倒れた男を地面に押さえつけ身動きを封じる。
「えっ!? どうしたのおにい!?」
「師匠! 何があったんですか!?」
流石に皆も金髪の男を取り押さえた俺に気付いたようだ。
「こいつにいきなり殴りかかられた! 大人しくしろ! このままギルドに突き出してやる!」
「は、離せ! 僕はお前の魔の手から妹をぐぁっ!」
何かを喚き始めたので拘束する力を強める。
俺の手が魔の手だって!? なんて失礼な……まあ、魔術を使う手と言う意味では間違ってないけど。
ん? 妹?
すると、アガーテが青褪めた顔でこちらに駆け寄ってきた。
「ま、待ってくれジェット! 少し話を」
「アガーテ! 兄さんは大丈夫だ! お前は早くこの男の魔の手からぐぉおおっ!」
あっ、つい力を入れてしまった。
さっき、こいつアガーテに自分のこと『兄さん』って言ったよな?
その前に妹がどうとか言ってたし……
え? こいつってアガーテの兄なのか!?
そうか……こいつの顔に見覚えがあったのはアガーテとどことなく似ていたからか!
「え? 兄貴、一体何が……ってオーウェン様!?」
ウォードも俺の様子に気付いたようだ。
その奥でフランさんは額に手を当て天を仰いでいる。まるで『やっぱりこうなったか』と言った感じだ。
「兄上! 家に帰った時にも私がモノクロームに加入したことは話しただろう!? 別にジェットはやましい気持ちで私のことを迎えてくれたのではないぞ!?」
……偶に胸にちらちら視線が行ってすまん。
「アガーテ! 男は皆最初はそうなんだ! 下心を隠して近寄って来て、そうやって油断したお前をその毒牙にかけて……僕は妹が傷付く所なんて見たくないんだ! その証拠にパーティーメンバーは女性ばかりではないか!」
おいおいおい? この人の中で俺はどんな凶悪な人間になってるんだ!?
別にやましい目的があって今のパーティーの形になったんじゃないんだぞ!? 人聞きの悪いこと言うな!
ただ、周囲にばつの悪そうな顔をしている男冒険者がちらほらいるのがちょっと気になるけど……
「何の証拠があってそんなことを……! 全て兄上の妄言ではないか! 第一、本当にジェットがそんな人間だったら私もレイチェルも既に愛想を尽かしている!」
レイチェルが凄い勢いで頷く。
……良かった。偶に胸に視線が行ってしまうくらいは許されたってことなんだよな?
「アガーテ……昔はお兄ちゃん、お兄ちゃん、と僕の後ろにずっとついて来ていた可愛い妹が……それが……よその国に行った途端男を作ってきてこんなに冷たくなるなんて……うぅぅ」
オーウェンさん……なんかさん付けする気にならないなこの人……
オーウェンの言葉にアガーテの顔が見る見る赤くなっていく。
「ひ、人聞きの悪いことを言うな! ジェットは私の師匠だ! もういいっ! 兄上とは金輪際口もききたくない!」
「ぐはぁっ!」
あ、さっきまでの抵抗が一気に消え失せた。
余程さっきのアガーテの言葉が堪えたんだろう。
一気に老け込んだような絶望的な顔をしている。
どう見てもこの人アガーテのこと溺愛してるっぽいしなあ。
俺だってあんなことリディから言われたら……
『もうおにいとは口もきかないから!』
……おうふ。
想像しただけでもこれはなかなかツラい。
な、なんかこの人が少しかわいそうになってきたな。
一応アガーテを心配してのことだったみたいだし……いや、俺としてはかなり迷惑な話ではあるんだけど。
俺はオーウェンの拘束を解き立ち上がる。
「ア、アガーテ、そこまで言わなくても……俺は別に気にしてないから。そ、その、俺のせいで兄妹仲が悪くなるのは見てられないと言うか……」
ちらっとリディの方を見る。
リディは何故視線を向けられたのか分からずキョトンとしている。
「……兄上がジェットに謝るなら許す」
その言葉を聞いてオーウェンは希望を取り戻したようだ。
ゆっくり立ち上がって俺に頭を下げた。
「そ、その……す、すまなかったな」
「あー、もういいよ」
「そ、そうか。それと……た、助かった、礼を言う」
耳まで赤くしたオーウェンがボソッとそう言ってそっぽを向いた。
あー、こう言う照れた時の仕草を見ていると、やっぱりアガーテの兄なんだなあと思う。
「それで……何の用なのだ兄上? ただジェットに襲い掛かりに来たのではないだろう?」
「あ、ああ。父上からの伝言だ。『大きな話し合いも終わったから、明日からならいつでも訪ねてきてくれて構わない』だそうだ」
これは……前にアガーテが言ってた家に招待したいってやつかな?
「そうか……ジェット、リディ、レイチェル、出来ればどこかで時間を作ってもらいたいのだが……」
「あたしはいつでもいいよ」
「わたしもいつでも大丈夫です」
「そうだなあ。丁度依頼も片付いたとこだし、早速明日訪ねようか」
まあ、気持ち的に早めに終わらせたいのもある。
このオーウェンを見た後だと、アガーテの両親に会うのってちょっと不安なんだよな……
「では、明日の日暮れ前に向かうと父上たちには伝えておいてくれ、兄上」
「分かった。ならば父上と母上にはそう伝えておこう。で、ではな」
そう言って、オーウェンは城の奥へと足早に向かって行った。
奥に向かったってことは、オーウェンはギルド職員だったのか。あー、そう言えばギルドの制服着てたな。金髪と顔にばかり目が行って服装は印象に残ってなかった。
「あー……ジェット君、頑張ってね」
「お、おう?」
フランさんにそう声を掛けられる。
フランさんだったらアガーテの両親のことは知ってるだろうし、こんなこと言われるってことは……
はぁ、早く明日が終わって明後日にならないかな。
その後は、ウォードたちと一緒にカレーを食べに行くことになった。
あー! 今日はやけ食いだ!
普段は出来るだけポイント数を意識しないようにはしていますが、やはりどうしても目に入るものなので嫌でも気になってしまうものです……
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明日からもまた頑張ります!




