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114話 救援依頼①

 俺たちは、トレントたちに襲われて一人取り残されてしまった冒険者、ウォードを助けると言う依頼を受けて、農村への食料運搬依頼の報告も後回しにして冒険者ギルドを飛び出した。


 このウォードって男、俺としては別に親しい訳でも何でもないし、以前アガーテのパーティー加入時にいちゃもんをつけられたことしか記憶に無い。

 正直ただの自分勝手な乱暴者としか思ってなかった。だけど、自分の身を挺して仲間を助け、そして逃がしたと言う話を聞いて、俺はこのウォードと言う男につい感情移入をしてしまった。


 もし、俺たちがウォードたちと同じ状況に陥ってしまったら……俺たちの力じゃどうしようもない相手に襲われたとしたら……きっと、俺もリディ、レイチェル、アガーテ……ポヨン、キナコ、ルカもだな。皆の生存を第一に考えて、ウォードと同じく自分を犠牲にしていたことだろう。

 一度そう考えてしまうと……もう駄目だった。ウォードをどうにか助けてやりたい。そう思ってしまった。


「おにい、ストップストップ!」


「わたしたちだけで行っても場所が分かりませんよ!?」


 リディとレイチェルの言葉に俺はその場に立ち止まり、そして後ろを振り返る。

 えーと、リディ、レイチェル、アガーテもいる。

 それに、ポヨン、キナコ、ルカもそれぞれリディに抱えられたり自力で移動したりしてちゃんとついて来ていてる。


「ま……待って、ぜぇはぁ、くれぇぇええ」


 もう一人、ずっと後方から俺たちの方に必死に走って来る人物がいた。

 あっ……


「その、な……私たちのペースにケーンがついて来れていない」


 そう、ウォードのパーティーメンバーの一人、ケーンと言う名の男冒険者だ。

 彼にトレントたちに襲われた場所までの道案内をしてもらうんだけど……ここまで必死に助けを求めて走って来た影響か体力がまだ回復していなかったようだ。


「ぜぇはぁはぁはぁ……こ、こんなペースで……はぁはぁ……さ、流石に無理……ごほごほっ」


「すまん、そう言えばここまで既に一度全速力で走って来てるんだったな」


「そ、はぁはぁ、それ以前に……ぜぇぜぇ……もし万全の状態でもあんたたちが早すぎて絶対ついて行くのなんて無理だよっ!! ごほっごほぁっ」


 大声を出した影響で盛大に咽てしまったようだ。

 ケーンはリディが亜空間から取り出した水を一気に飲み干す。

 亜空間から取り出したことなんて全く気付いていないようだ。


 あー……俺たちは普段から移動中も『身体活性』を使っているからな。例え一番幼いリディであってもそこらの冒険者より長時間の素早い移動が可能だ。

 その影響で普通の冒険者のケーンでは俺たちのペースについて来れないようだ。

 完全に盲点だった。


「でも、急がないと手遅れになるかもしれないだろ?」


「そ、それはそうだけど……でも、こんなペースで移動したんじゃ到着した時には疲れ果てて何も出来ないんじゃ」


「あー、確かに普段よりは急いでるけど、これくらいだったら問題無く動ける」


 『身体活性』のお陰で、今くらいのペースでの移動ならかなりの距離を疲れずに移動可能だ。仮に俺一人ならもっとペースを上げることも可能だろう。

 まあそうなると、流石に他の三人がついて来れなくなるから普段はやらないけど……


「ば、化け物かよ……流石はアガーテ様が選んだ男……ウォードが手も足も出ない筈だ……」


「お、おい! 誤解を招くような言い方は……」


 アガーテは顔を真っ赤にしてあたふたしている。


 うーん、かと言ってケーンに合わせてたんじゃ手遅れになる可能性が……

 その時、リディに抱えられたキナコが目に入る。


「そうだ! こうすれば」


「えっ? な、なにをうわぁぁぁあっ!」


 俺はケーンの腹部に肩を滑りこませ、そのまま抱え上げる。

 丁度重い袋なんかを肩に抱え上げている感じだな。これならケーンの移動速度を気にせず移動可能だ。

 ケーンの重さが加わる分、多少俺の移動速度は落ちるけどそこまで問題ではない。


「お、おいっ、何やって」


「ああ、そうか。悪い」


 今の向きだとケーンの頭が俺の背中側になっちゃってたからな。これじゃ道案内もしづらいだろう。


 一度ケーンを降ろし反対側を向き、今度は俺の背中側からケーンを肩に抱え上げる。

 よし、これでケーンの頭が進行方向を向いたな。


 町の往来でそんなことをしていたからだろうか。周囲からの視線が俺たちに集まる。


「ちょ、えっ、ああああああ、み、見ないでくれぇぇええええ!」


 ケーンはこの状況がとにかく恥ずかしいようだ。

 だけど、今はこれしか方法が思い付かないから我慢しろ。


「よし、急ぐぞ!」


「うん!」 「はい!」 「ああ!」


「いやぁぁぁああああああああああっ! こっちを見ないでくれぇええええええ!」


 ケーンの絶叫を無視して、俺たちはライナスの町を駆けて行った。



 ◇◇◇



「まずはこのままアムール方面へ向かってくれ!」


「分かった!」


 ケーンを肩に抱えたまま、俺たちはアムール方面へ続く道をひた走る。


 既に冒険者ギルドから衛兵たちに俺たちのことが通達されていたらしく、門を通る時は手続きを省略して通してもらうことが出来た。

 国全体が冒険者ギルドってこともあって、こう言った時の対応は慣れてるんだろうな。


 町の外に出る頃には流石にケーンも恥ずかしがっている場合ではないと思い至ったらしく、どうにか持ち直して俺たちの道案内を務めてくれるようになっていた。


「な、なあ! サリヴァン部長は迷いなくあんたたちを向かわせた……けど、その、こんなことを聞くのは悪いんだが、大丈夫なのか!? 俺はアガーテ様のことしか知らないし、その……どう見てもFランクの子供も混じってるし……」


 ケーンは少し冷静になれたことで不安な気持ちが出てしまったのだろう。

 まあ……客観的に見た場合、ケーンの心配も仕方ないと思う。それに、仲間の命が懸かってる訳だしな。


「むぅ……あたしFランクじゃなくてCランク!」


「……は? な、え?」


 リディの言葉にケーンは困惑しているようだ。

 まあ、そりゃそうだよな。未成年でEランク以上になるのってかなり珍しいみたいだし。その上Cランクだとか言われたらな。


「事実だケーン」


「……嘘だろ……こんなちびっ子なのに俺より高ランク……」


 ケーンはアガーテが肯定したことでリディの言葉を信じたようだ。あまりのショックに表情が抜け落ちてしまっている。

 多分だけど、ケーンはDランクくらいなのかな。


「そちらのレイチェルもCランク、ジェットは私と同じBランクだ。別にランクが全てと言う訳ではないが……実力を計る指針にはなるだろう」


「……全員どう見ても俺より年下なのに……化け物揃いだろ……」


「それに、一度俺たちはライナスに来る途中にトレントに襲われて撃退したことがある」


 更に、あれからトレントへの対抗策は皆で色々話し合っているからな。

 実際にやってみないと分からないこともあるけど、以前より有利に戦える筈だ。


「……サリヴァン部長があんたたちを向かわせてくれた理由が分かった……」


 どうやらケーンはある程度だろうけど俺たちのことを信用してくれたみたいだ。


「って、もうこんなとこまで来てたのか!? あの大きな岩を右に曲がってくれ! 暫く進むと小川が見えてくる。俺たちはそこで休憩してる時にトレントに襲われたんだ!」


 俺たちはケーンの指示通り進む。

 周囲は段々木が多くなってきたけど……


「レイチェル、どうだ?」


「……いえ、前みたいな視線とか気配は感じません。多分、近くにトレントはいないかと」


「よし、それならこのまま襲われたって場所まで行こう」


 その後もケーンから細かい道順を聞いて移動を続ける。

 すると、水の流れる音が聞こえてきた。どうやら目的地が近いみたいだ。


「あそこだ! あの辺りで暖を取っていたら襲われたんだ!」


 ケーンの指さした方を見てみると、そこには焚火の跡と彼らのものであろう荷物が散らばっていた。

 地面が抉れた跡も見える。おそらくウォードが仲間を助けた時のものだろう。

 だが、周囲を見回してみるもウォードもトレントも見当たらない。


「くそぉ……ウォード、どこ行っちまったんだよ……っ!」


 ケーンは爪が食い込みそうな程拳を強く握りしめる。

 俺はケーンを一旦地面に降ろす。


 うーむ……何か痕跡が残っていないか探してみるも、周囲にそれらしいものは見当たらない。

 闇雲に探し回って無駄に時間を浪費するのはどうにか避けたいところだけど……


「どうする、ジェット?」


「そうだなあ。出来ればバラバラに行動するのは避けたいし、どうにかトレントたちがいる方向が分かればいいんだけど……ちょっと試してみるか。皆、念の為いつでもトレントに対処出来るよう準備しておいてくれ」


 俺の言葉にリディ、レイチェル、アガーテがそれぞれ戦いの準備を始める。

 そして、俺はしゃがみ込んで地面に手をつく。

 ケーンだけは状況がよく呑み込めないようだ。


「お、おい、一体何を……うわっ!?」


 地魔術で作り出したゴーレムの模型にケーンが腰を抜かす。


「な、なななな、なんで土の化け物が急に!」


「あー、それは俺が作った模型だから大丈夫だ」


 今度はゴーレムからタイダリアへと模型が姿を変える。


「つ、作ったって……な、何がどうなって……って、どうやってるのかは全く分からないけど遊んでる場合じゃないだろっ! こんなことしてる間にもウォードは……!」


「別に遊んでる訳じゃない。こうやってトレントを……来た!」


 何度も地魔術を使って模型の形を変えていると、ふいに魔力消費量が多くなった!


「師匠! 急に気配が現れました! 向こうです!」


「え、ちょ、何言ってうおあっ!」


 再びケーンを抱え、俺たちはレイチェルの指示した方向へと走る。

 どうやら俺の魔力に釣られて姿を現したようだな。


「この先には間違いなくトレントがいる! 準備はいいか!?」


「あたしたちは大丈夫!」


「わたしも問題ありません!」


「いつでもいける!」


「ちょっ!? な、何を言って……うわっ!」


 その時、地面から木の根が生えてきて俺たちに向かって来た!

 ぐっ、ちょっとあの根に捕まってみたい気持ちはあるけど……今はそんなこと言ってる場合じゃない。


 俺は素早く剣を抜き、風の『エンチャント』を剣に施す。

 周囲のことを考えて今回は風属性を選択した。

 鋭さを増した剣で伸びてきた木の根を斬り刻む。


「き、木の根が一瞬でバラバラに……」


 うーむ、流石にケーンを抱えたままだと戦いづらいな。

 俺はケーンを後ろに降ろす。


「離れすぎない程度に下がっていてくれ!」


「あ、ああ!」


 俺の指示を聞いてケーンが後ろへ下がる。


「おにい、トレントが来たよ!」


 ケーンが下がるのと同時に、目の前にあった木が動き始める。


「師匠! 奥からもっと大きな気配を感じます!」


「おそらくそこにトレントの親玉と捕らえられたウォードがいる筈だ! 行くぞ!」


 俺たちとトレントとの二回目の戦いが幕を開けた。

 お前たちへの対策を俺たちは色々と考えてきたんだ。以前と同じとは思うなよ?

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