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11話 ジェット13歳①

 ゴブリン退治から約一年の月日が流れた。

 十三歳になった俺は、村長に「魔術について儂がお前に教えられることはもう無い」と言われてしまった。

 うーん、俺なんてまだまだだと思うんだけどなあ。未だに魔術を遠くに飛ばすのは無理だし、父さんとの模擬戦では数発攻撃を当てるだけで精一杯だったりするし。


 そんな訳で、村長の魔術の授業中俺は、


「うーん、カエデ、もっとこう暗闇の中の孤独や不安だとか、見てるとこっちが引きずり込まれそうになる黒を意識して……こうだ」


「え? ええ? よく分からないよジェット先生……」


「あー、ゴーシュ。何でも力任せにすればいいってもんじゃない。もっとこう柔らかく包み込むような優しさとか、女神様の放つ清らかな魔力だとか……こんな感じだ」


「あはは~、先生の言ってることは僕にはちょっと難しいね~」


「やはり、ここは一度俺と一緒に魔術の修行でもした方が」


「「勘弁して下さい」」


 はい、教え子が出来ました。

 この二人は俺より一歳年下で、女の子の方がカエデ、男の子の方がゴーシュ。

 珍しくカエデが闇属性、ゴーシュが光属性の適性を持っている。

 これについてはリディが『分析(アナライズ)』の練習をしていて見付けたようだ。村長にこっそり教えると、丁度いいからお前が教えてやれ、と押し付けられたのだ。


 俺はこの二人+リディの実技を主に教えている。まあリディは俺のえーさい教育もあるから特に魔術に関しては問題無い。それにどうやら普通の魔術より特殊な魔術の方が得意なようだ。

 その当のリディはと言うと、


「いっくよーポヨン! それっ!」


 去年拾ったスライムを頭上高く放り上げていた。

 おおー、結構高く飛んだな。

 そして落ちてきたスライムをキャッチ! しようとして失敗。スライムは地面に落ちるとボヨヨ~ンとさっきよりちょっと低い所まで跳ね上がる。で、次落ちてきた所を見事キャッチ。

 うん、いいのかあれ? でもスライムも楽しそうにぷるぷるしてるしいいんだろうな。


 あのスライムはポヨンと名付けられた。

 最初に家に連れて帰った時は凄く驚かれたけど、リディがちゃんと面倒を見るなら飼ってもいい、と割とあっさり認められた。

 何でも魔獣に懐かれる人は珍しいけど全くいない訳ではないそうだ。実際従魔として昔飼っていた人もいたみたいだ。

 その後、村長から村中にお達しがあり、晴れてポヨンと言う名のスライムはリディの従魔として村の一員となったのだった。


 そのポヨンだが、どうやらとても珍しいスライムらしく、両親も村長も見たことが無い種類だそうだ。

 普通のスライムは半透明で赤や青、緑だったりするらしいけど、ポヨンの色は透けていない薄()()。そう、この一年で薄鈍色から変色したのだ。


 あれからも偶に遺跡に連れて行ってミスリルを食べさせていた。肉や野菜も食べるけど、やはりミスリルが一番好きらしい。そうしたら、いつの間にか薄青緑に変化していた。

 本当はリディを連れて行くのは躊躇したんだけど、ポヨンはリディの言うこと以外はあまりちゃんと聞かないし、村でミスリルを食べさせるのは俺がこっそり外に出てるのがバレる可能性があるので極力避けたい。

 あ、母さんの言うことはそれなりに聞く。怒らせるとおっかないことを本能で悟ってるようだ。

 まあ、そんなこんなで絶対に離れないよう言い聞かせ、俺も絶対目を離さないよう連れて行っている。


「リディちゃんとポヨンは仲良しだね」


「うん!」


 カエデがリディの頭の上にいるポヨンを指でつつく。ポヨンは擽ったそうに小刻みに波打っている。

 こいつ、結構感情表現が豊かなんだよな。


「せんせ~、これでどう~?」


「お、ゴーシュ。今までで一番いい感じだ。その感覚を忘れないようにな」


「は~い」


「カエデもさっきのことを意識しながらもう一回」


「は、はい! えーと……孤独と不安と……それから、吸い込まれそうな黒で」


 しばらく俺は教え子たちの指導を続けるのだった。




「「先生、ありがとうございましたー」」


「おう、また今度な」


「ばいばーい」


 今日の授業が終わってカエデとゴーシュが去っていく。


「おーい、ジェット。お前来年からどうすんだ?」


「来年?」


 二人を見送っているとグレンから声を掛けられる。


「だって俺ら来年で十五だろ? そうなったら狩りに参加出来るようにもなるし」


 このエルデリアでは十五歳で成人扱いとなる。

 成人すると各人の希望や適性を見て、狩りや畑仕事等の色んな村の仕事を任されるようになる。

 実際色々やってみて自分の適性を判断する人も多い。

 去年、一足先に成人したエリン姉は、今は父さんたちについて行って狩りを手伝っているそうだ。


 基本的に成人にならないと村の外に出ることは許されない。

 森や山にはゴブリンや大鹿、大猪なんかの魔獣が出て危険だからね。

 ……俺たちのことは内緒だ。


 ただ、グレンは一つ思い違いをしている。


「グレン、俺はまだ今年で十三だぞ」


「あ、そういやそうだったか。ずっと一緒にやってたから忘れてた」


 何だかんだ言って授業ではいつも一緒だったからな。

 今年から俺たちは魔術以外にも、付近の魔獣の特徴やその狩り方、自生している薬草の特徴や正しい採取の方法なんかも習っている。

 これは主に狩りを担当している大人たちに習うことが多い。父さんもちょくちょく先生として俺たちに教えてくれている。


「グレンはやっぱ狩りに出るのか?」


「おお! やっぱ男ならよぉ、でっかい獲物獲ってみたいじゃん」


 実際火属性や無属性の扱いが巧いグレンは狩りに向いていると思う。

 そしてふと考える。俺は二年後何をするんだろうか。


「狩りはグレンにぴったりだと思うぞ。俺は……」


 父さんみたいに狩りをするのもいいだろう。母さんみたいに畑仕事を手伝うのも嫌いじゃない。


「おにいは先生やるのがいいと思う」


 確かに。

 実際にやってみて、教え子たちの面倒を見るのも悪くないと思う。


「ええー、狩り行こうぜー」


「おにいは先生!」


 リディとグレンが火花を散らす。


 俺自身は……その時が来たら色んなことをやってみよう。




 家に帰ってお昼御飯を食べた後、今日は母さんの畑仕事を手伝いに来た。

 畑仕事は地魔術や水魔術のいい訓練になるんだよね。

 リディはカエデたちの所へ遊びに行くそうだ。

 何でもポヨンは子供たちに大人気なんだとか。


「いやー、ナタリアとジェットがいると楽でいいさねえ」


 そう言いながら豪快に笑うおばちゃん。

 今日の予定が大幅に短縮されたので今はのんびり休憩中だ。


「そう言えばジェット、あんた今年で幾つだっけかね?」


「十三だよ」


「そうかい。将来どうするのかはもう決めてるのかい?」


「うーん、まだ考え中かなあ。色々やってみたいことがあるんだ」


「あたしとしちゃ、畑仕事をやってくれたら楽出来て嬉しいんだけどねえ」


 そう言いながらおばちゃんは豪快に笑う。


「はい、お茶どうぞ」


「お、すまないねナタリア」


 お茶を飲みながらのんびり雑談をする。


 しばらくそうやっていると、村の門の付近が騒がしくなっていく。

 狩りに出ていた大人たちが帰って来たようだ。

 あれ? 何か普段より早いな。


 何人かが慌ただしく村長宅へ走って行く。

 その中に父さんの姿も見えた。


「えらい急いでるねえ。何かあったのかね?」


「ちょっと様子が変でしたね。念の為わたしたちも家に戻った方がいいのかしら」


「まあ今日の分の作業はもう終わったんだ。そうしようかねえ」


 そう言って母さんとおばちゃんは後片付けを始めた。

 あ、あそこにいるのは。


「母さん、俺エリン姉に何があったか聞いて来る!」


「話を聞いたらちゃんと家に帰って来るのよ」


「分かった」


 俺はエリン姉の元へ走り出した。




「エリン姉えええええええええええ!」


「ん? あ、おーいジェット!」


 エリン姉がこっちに気付いて立ち止まる。

 手には狩りで使っているミスリル製の槍を持っている。


「おかえりエリン姉」


「ただいまジェット。あ、ちょっと待ってろ、この槍返してくるから」


「うん」


 どうやら狩りに使う武器は村で管理しているようだ。

 しばらく待っていると、槍を村の資材置き場に返したエリン姉がこっちに戻って来る。


「お待たせ、一緒に帰ろうか」


「うん。今日は普段より早いけど何かあったの?」


 一緒に家の方に向かいながら事情を聞く。


「あー、それなんだけどな。北の山の方に出たんだよ、ヌシが」


「ヌシ?」


「おお、でっかい猪の魔獣だ。普通のヤツの倍くらいでっかいんだぞ!」


 エリン姉が大きく手を広げながら説明してくれる。

 確か普通の大猪が2~3メートルくらいだっけ? その倍だから大体5メートル前後くらいか。

 何それ、でかっ!


「それでどうしたの? 獲ったの?」


「まさか! 流石に危ないってことで今日は帰って来たんだ。アベルさんたちは村長と相談してから決めるって言ってたけど、多分しばらく山の方は行けなくなるんじゃないかなあ」


 そうやって話をしながら歩いていると、気付いたら家の前だった。

 エリン姉と別れて俺はそのまま家に入っていった。


 家で家事の手伝いをしていると、リディ、そして父さんも帰って来る。


 その後の夕食時、話題は自然とヌシのことになっていった。


「それで、山の方はヌシがいなくなったのを確認出来るまでは控えることになった。しばらくは西の森での狩りか、東の海での釣りが多くなるだろうな」


「そうなの、まあ仕方ないわよね。村の方へ来ないといいけど」


「とにかくデカいからな。木が邪魔でこっちまでは来ないとは思う。まあ、無理矢理なぎ倒しながら来れなくもないだろうけど……定期的に何人かで様子は見に行く予定だ」


「父さん、山が使えないってことは、お肉減るんじゃ……」


「えー、あたしお肉食べたい!」


「はっはっは、森で狩ってくるから心配するな。まあでもどうしても山より獲物が小さめになるから今までより多少は減るだろうなあ」


「むー、パパそいつやっつけて」


「リディのお願いだから聞いてあげたいんだけどなあ……」


「リディ、無茶言っちゃ駄目よ? パパが大怪我しちゃったら嫌でしょ?」


「それはやだ! パパごめんね」


「はっはっは、リディは優しいなあ」


「もし母さんが言うみたいに村の方まで来ちゃったらどうするの?」


「んー……その時はどうにかして追い払うか始末するしかなくなるだろうなあ」


 ヌシか。

 ちょっと自分の目で見てみたいな。

 家族で夕食を食べながら俺はついそんなことを考えるのだった。

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