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103話 感じる視線

「こいつで終わりだ!」


「ギャギャオォゥゥ……」


 俺の放った剣閃が最後に残ったホブゴブリンリーダーを捉える。

 ホブゴブリンリーダーは首を撥ねられ、その場に崩れ落ちた。


「レイチェル、もう他にはいないか?」


「……はい! さっきので最後です」


「よし、それなら魔石を剥ぎ取って死体を処理していこうか」


 現在、俺たちはマイルズから少し離れた場所にあった森の中にいる。

 首都ライナスに向かう途中この場でホブゴブリンに襲われ、急遽退治することになったのだ。

 ホブゴブリンは、通常のゴブリンに比べたら幾らか強力な魔物だけど……黒ゴブリン程強い訳でもないし、少し前に戦った大百足やクラーケンに比べればどうと言うことはない。

 なので、ホブゴブリンたちの討伐は比較的簡単に終わった。


 だけど……


「うーむ……ここはどの辺りだ?」


 肝心のアガーテがこの状態なのだ……

 もしかしたら、また俺たちは迷子になってしまったのかもしれない。今回こそは大丈夫だと思ったのに……


 とりあえず、まずはホブゴブリンたちの処理をすることにした。

 魔石を剥ぎ取りリディに渡す。

 そして、地魔術で穴を掘り、そこにホブゴブリンたちの死体を放り込んで、闇魔術で分解し易くしてからもう一度埋める。

 うん? なんか普段より多く魔力を消費した気がするけど……気のせいかな?

 何はともあれ、これで後始末は完了だな。


「アガーテ、とりあえず元いた道まで戻ろう」


「あ、ああ。そうだな」


 そこでふと俺たちはあることに気付く。


「あれ? あたしたちどっちから来たんだっけ?」


「足跡は……うーん、見当たりませんね」


「方角を示すようなものは……」


 俺は以前カーグの森でそうしたように、周囲の苔を探す。

 絶対という訳ではないけど、苔は北側の方に生えやすいからな。

 俺たちは東へ向かう途中に右手の森へと入った。つまり南側に向かったのだ。それなら、北側に向かえば少なくとも道には出られる筈だ。


「うーむ……苔が見当たらない? こんな森の中だったら生えてないとおかしいのに……」


「苔どころか、よく見たら草も全然生えていないような」


 リディに言われ周囲を見渡す。

 確かに、この辺りには不自然なくらい木しか生えていない。


「なあアガーテ、ここに入る前にこんな場所に森なんてあったか? って言ってたけど」


「あ、ああ。とは言え、私自身もライナギリア全土をきちんと把握している訳ではない。以前もここは馬車で通っただけだったから思い違いかとも考えたが……」


 まあ、そりゃそうか。

 例えば、父さんだってエルデリア周辺の森を完全に把握なんて出来ていないだろうし。


「よし、俺がちょっと木の上から調べてくるよ」


 その言葉を聞いて、リディは自身のスカートをしっかりと押さえた。


「怪我しないよう気を付けて下さいね、師匠」


「な、何をする気なのだ!?」


「ああ。ま、何をするのかは見てたら分かるよ」


 そう言って俺は木の枝へと跳び乗る。

 そこから木の天辺まで登っていき、『限界突破(オーバードライブ)』を使って更にそこから高く上空へと跳んだ。

 跳躍中、周囲を見渡し道を探す。


「お、あったあった。思っていたより奥に入ってたみたいだな」


 そして、落下の勢いは風魔術で殺し、『限界突破(オーバードライブ)』を使って綺麗に着地をした。


「どうおにい、道は分かった?」


 スカートを死守していたリディがそう尋ねてくる。


「おう。あっちへ行けばいいみたいだ。ホブゴブリンたちを追っている間に結構奥まで来ちゃってたみたいだな」


「な、ななな、何をしているのだ!? 脚は大丈夫なのか!?」


 アガーテが焦った様子で俺に詰め寄って来る。


「お、おう。ほら、落ち着けって。風魔術で落下の勢いも出来るだけ殺したし、『限界突破(オーバードライブ)』を使ったから着地の衝撃も何ともないから」


「そ、そうか。全く……我が師はどうにも常識が通用しなくて困る」


 うーむ……そんなことないと思うけどなあ。


「ん?」


 その時、レイチェルが何かに気付いたように後ろを振り向く。


「どうした?」


「いえ……誰かに見られているような気がして……でも、気配も感じないし気のせいだったみたいです」


「動物か何かでもいたのではないか?」


「うーん……そうだったのかなあ」


「……ねえ、おにい。こう言う時のレイチェル姉の発言って」


「ああ。用心しておくに越したことはない」


 まだ付き合いの短いアガーテはピンと来なかったみたいだけど、俺たちはこのレイチェルの気配察知に今まで何度も助けられてきた。

 レイチェルがこう言うからには多分何かがあったのだろう。


「キュキュゥゥ」


 その時、ルカが何かを訴えかけてきた。


「どうしたのルカ? え? 少し疲れてきた?」


「タイダリアは海の魔物だからな。森と言う環境が合っていないのかもしれんな」


「うーん、でも、今まで同じような場所に行った時はこんな風にはならなかったような……ポヨン、キナコ、あなたたちはどう?」


 ポヨンとキナコも身振り手振りを交えリディと会話をする。


「ふんふん。ちょっと変な感じがする、だって」


「原因はよく分からないけど……とにかく早く戻った方が良さそうだな」


 そして、リディはポヨンを鞄に戻し、キナコを肩車してルカを水から出して抱きかかえる。


「おにい、早く行こ」


「ああ。レイチェル、さっきの視線にも気を付けておいてくれ。アガーテは周囲の警戒を」


「はい、分かりました」


「ああ、任せておけ」


 俺たちは、周囲への警戒を十分にしながら元いた道の方へと向かって行った。



 ◇◇◇



「ねえおにい、まだ森の外には出られないの?」


「おっかしいなあ。もう既に森を抜けていてもいい筈なんだけど」


 あれから十分程度森の中を歩いたけど、俺たちは未だ森を抜けることが出来ていない。

 距離的にはもう抜けていないとおかしい筈なんだけど……


「あの視線も時々感じますけど……何かがいるような気配は無いんですよね。それに……」


「ああ。今日はやけに疲れるな。普段ならこの程度の移動などどうと言うことはないのだが……」


 思った通りに森を抜けられないからだろうか、確かに普段は感じないような疲労感がある。

 まるで体力そのものがストンと抜け落ちているような……


「うーん、一旦どこかで休憩した方がいいかもな。その時にもう一回周囲を見下ろしてみるよ」


 その時、俺たちの前に一本の大きな木が現れた。

 うーむ、道へ戻る方向にこんな木見た記憶が無いんだが……


「うわぁ。おっきいねえ」


「キュッキュキュキュゥゥ」


 リディと一緒に、ポヨンとキナコとルカも大木を見上げている。


「あの下でちょっと休もうか。あの木なら登れば周囲を見渡すのも簡単だろうし」


 俺たちは大木の下まで移動し、地面から出た木の根の上に腰掛ける。

 そこでリディが皆に飲み物を配っていった。


「ありがとう、リディちゃん」


「すまんな。ふぅ、生き返るようだ」


 ポヨンとルカも俺たちと同じく飲み物を美味しそうに飲む。

 キナコにはリディが魔力を与えていた。


「ふぅ、ごちそうさま。それにしても……どうして森の外へ出られないんだろうな?」


「あたしはレイチェル姉が感じている視線も気になるなぁ」


「うーん、どうにも出所がはっきりしないんですよねえ……後ろのようでもあるし、前のようでもあるし」


「うーむ……こんな森の話など私は聞いたことも無いが……それにしても、やけに寂しい森だな。周囲には木しかない」


「草とか苔が一切無いもんね。冬だからってここまで何も無いのは変だよね」


「その割に木にはちゃんと葉っぱがあるんですよねえ」


「よし、この木の上からもう一度周囲を探って来るよ。これだけ高ければさっきみたいに跳ばなくても見えるだろうし」


「気を付けてね」


 俺はさっきと同じ要領で大木を上へ上へと登っていく。

 それにしてもデカい木だなぁ。なんて木なんだろ?


 俺は周囲を見渡せる高さまでやって来たので、そこから向かうべき方向を探す。


 えーと……あそこに道らしき場所が見えるな。

 どうやら俺たちは北ではなく東に向かって歩いていたようだ。

 おかしいなあ。


 方向を確認したので、俺は木を降りて皆に説明することにした。


「お待たせ。あっちの方に道が見えた。なんか北じゃなくて東に歩いていたようだな俺たち」


「そうだったか。同じような景色が続くから方向感覚が狂ってしまったのか……」


「何にしても、今度こそ方向を間違えないようにしなきゃね」


「何か目印になるようなものがあればいい……あれ? 周囲の景色ってこんなでしたっけ?」


 レイチェルがそんなことを口にした。

 俺たちは揃って周囲を見渡す。


「うーん、同じような木ばっかりだったからなあ。リディとアガーテは覚えてるか?」


「うーむ……そこまで意識して見ていなかったからな……」


「あたしも。ポヨンとキナコとルカはどう?」


「キュイキュイ」


 従魔たちが揃って何かを話し合い始め、それをリディに伝える。


「ふんふん。よく分からないけど何か変な感じはする。森に入った時から今まで、何かからずっと干渉され続けている気がする……だって」


 どうやら従魔たちには思い当たる節があったようだ。


「……そうなると、レイチェルの感じた景色の違和感も無視する訳にはいかないだろう。ジェット、景色に頼って歩くのは危険かもしれん」


「そうだな。何かしら移動手段を考えなきゃな。そう言えば皆、疲労の方は大丈夫か?」


「はい。少し休んだお陰で問題ありません」


「私も同じだ」


「キュッキュー!」


「ルカも元気になった、だって」


「よし、それじゃ移動しようか。このまま移動するのは危なそうだから、俺が木の上に登って周囲を探りながら指示を出す。リディとレイチェルはそれぞれ地上で魔術での探知を、アガーテは二人の護衛を」


「うん!」 「はい!」 「ああ!」


 俺は手早く近く木の上へと登り、進むべき方向を見定める。


「よし、このまま真っ直ぐで大丈夫だ!」


 下に向かって方向を指示する。

 するとその時、


「きゃあああっ!」


 そんな悲鳴が聞こえてくる。

 今の声は……リディか!

 俺は一気に地面へと飛び降りる。


「リディ! 大丈夫か!?」


「う、うん。むしろおにいの風の方が大丈夫じゃなかったかも……」


 どうやらリディは無事だったようだ。


「す、すまん。急いでいたから……それで、何があった?」


「そうだ! おにい! さっき地魔術で周囲を探知しようと思って地面に魔力を込めたら……何かに魔力を吸い取られそうになった!」


「なっ!? レイチェルとアガーテは!?」


「わたしの方は特に何も……」


「こちらも同じだ」


 どうやらレイチェルとアガーテには何も無かったらしい。


「そう言えば……ホブゴブリンたちを埋める時、普段より多くの魔力を消費した感覚があったけど……あれは気のせいじゃなかったのかもしれない」


 あの時の俺と今のリディ、どちらにも共通するのは地面に対し地魔術を使っていた、と言うことだ。


「少し試してみるか。皆、周囲を警戒しておいてくれ」


 そう言って俺は、地面に手をついて地魔術を使う。

 そうだな、穴を掘っても仕方ないし、適当に模型でも作ってみるか。


 すると、やはり普段より多くの魔力が消費されている感覚があった。

 地面に何かあるのか?


「やはり魔力の消費が多いみたいだ。地面に何か」


「え? 急に何かの気配が……それにこの視線……」


 その時、レイチェルが何かに気付いたようだ。

 だけど、上手く方向が探れないようだ。


 この魔力の消費と何か関係があるのか?

 よし、少し多めに魔力を使って流れを調べてみようか。

 俺は地魔術に使う魔力量を増やす。


 ミシッミシミシミシッ


「む? 何の音だ?」


「気配と視線が強くなった! こっち……え?」


「何あれ……木が、動いてる……」


「あれは……トレントか!」


 どうやら俺の魔力を吸い取って動き始めたようだ。

 だけど……


「気を付けろ! 魔力の流れが他の木の根にも通じている!」


 すると、周囲の幾つかの木も同じように動き始める。


「どうやら、私たちはあのトレントたちに惑わされていたらしいな」


 トレントと呼ばれた木の魔物たちが、俺たちをぐるりと取り囲んできた!

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