102話 首都を目指して
ブックマーク登録と評価ありがとうございます!
現在、新章もどんどん書き進めておりますので、是非よろしくお願いします!
「えっ!? ロギンスさんってここのギルドマスターだったのか!?」
「あはは……正確にはマイルズ支部の支部長ですが」
俺たちは現在ギルドの奥の個室に通され、そこで入国手続きとルカの従魔登録をしてもらっている。
アガーテがいてくれたお陰で話がスムーズに進んでいる感じだな。
で、俺たちの対応は引き続きロギンスさんがしてくれてるんだけど……実はこの人マイルズのギルドマスター、いや、支部長か。とにかくこの町の冒険者ギルドでは一番偉い人らしい。
うーん、驚いた。見た目には普通のおじさんだし、俺たちみたいな若造にも丁寧な言葉遣いだし……
どうしても俺の中ではギルドマスターって言ったら、ブルマンさんの影響で筋骨隆々なイメージが定着してるんだよなあ。
「はい、それではギルドカードをお願いします」
入国手続きの為、ロギンスさんにギルドカードを提出する。
これは俺たちだけでなくアガーテも行うようだ。
「ん? ああ、これは決まりだからな。まあ、私の場合は既にライナギリア内で登録されているから簡単な処理だけで終わる筈だ」
「ええ、その通りですね。はい、アガーテ様はこれで結構です。カードお返ししますね」
続いてロギンスさんは俺たちの手続きへと移る。
「次はパーティー名モノクロームの皆さんですね。えーと、念の為聞きますがライナギリアは初めてですよね? 先程アガーテ様が仰っていた時からどこかで聞いたことがあるような気がして……」
ロギンスさんはちらちらと俺とリディの頭の方を見ながらそう聞いてくる。
アガーテ曰く、俺たちみたいな黒髪に一部白髪はライナギリアでも見たことないってことだからな。さっきどこかで聞いたことあるって言ってたし、特徴的な部分を見ながらどうにか思い出そうとしているんだろう。
「ああ、俺たち兄妹は初めてだ。レイチェルもそうだよな?」
「はい。わたしも今回が初めてです」
「そうですか……いえ、私の記憶違いでしょう。えーと、まずはリーダーのジェットさんから……は?」
ロギンスさんが俺のギルドカードを見て固まってしまった。
「Bランク……しかも十五歳……ま、まさか!」
そう言って今度はリディとレイチェルのギルドカードを物凄い勢いで確認し始めた。
「二人ともCランク……しかも、リディさんは十歳!?」
「ああ、やはりこうなったか……奥に通してもらったのは正解だったな」
そうアガーテがしみじみと語る。
その時、ロギンスさんは何かを思い出したようだった。
「そ、そうか! 冒険者ランク到達の最速記録や最低年齢をどんどん塗り替えている兄妹がいると報告書にあったが……その兄妹が所属するパーティーの名前がモノクローム……!」
……あー、既にライナギリア内にも俺たちのことは通達されているみたいだな。
「それが彼らだ。それと、私はジェットに……で、弟子入りした」
少し頬を赤く染めながらアガーテがそうロギンスさんに伝えた。
「……」
すると、ロギンスさんの時が止まった。
少し様子を見てみるも、同じ表情、姿勢から一切動く気配が無い。
「えっと、ロギンスさん?」
「……おにい、ロギンスさん、気絶してる」
「アガーテがいきなりあんなこと言うから……」
「私か!? 私のせいなのか!? お、おい起きろロギンス!」
ロギンスさんが気が付くまで数分の時間を要するのだった。
◇◇◇
「はい……これで全て問題ありません。お疲れ様でした」
その後、どうにか入国手続きとルカの従魔登録を終えることが出来た。
ふう、思ってたより時間が掛かっちゃったな。
「世話を掛けたなロギンス」
「いえいえ、この程度のこと。モノクロームの皆さんもアガーテ様のこと、どうかよろしくお願いします」
「ああ、勿論だ」
俺たちは揃ってロギンスさんに頷く。
「で、では私たちは宿を取りに向かう! また何かあればよろしく頼む!」
少し照れてしまったアガーテは、足早にギルドの外へと向かってしまった。
俺たちも入国許可証をロギンスさんから受け取り、アガーテの後を追ってギルドを出たのだった。
「お待たせアガーテ」
「う、うむ。それでは行こうか」
その後、アガーテに案内してもらって今日の宿が決定する。
今回はアガーテ含め全員が同じ大部屋を使うことになった。勿論、従魔たちの許可も貰っている。
この宿でもアガーテのことは知られているらしく、アガーテが対応してくれたお陰で話がスムーズに進んだ。
ただ、全員が同じ部屋を使うと言った時は、従業員は目を見開いて驚いていたが……色々追及されると面倒だと思ったのか、アガーテが強引に話を進めていた。
宿を確保した後は、遅めの昼食も兼ねて町の散策にも出掛けた。
ここでもアガーテの知名度はとても高いようで、行く先々で好意的に声を掛けられる。
前にライナギリアで少しは顔が利くって言ってたけど、どうにも少しどころじゃないような……
売っているもの自体は同じ港町と言うこともあって、サイマールとそれ程の違いは感じられなかった。もっとちゃんと探せば細かい違いは色々あるんだろうけど……
なので、美味しそうなものや生活雑貨の買い足しだけを行い、俺たちは宿に戻って今後のことについて話し合うのだった。
「ねえアガーテ姉、ライナスだっけ? その町ってやっぱり遠いの?」
「いや、ライナギリア自体がそう広い国でもないからな。ここからだと馬車で、途中にある中継地点の町に寄りながら四日前後の距離だ」
「カーグからヴォーレンドまで移動するのよりも近いんですね。師匠、今回はどうするんですか?」
レイチェルが聞いているのは移動手段のことだろう。
「そうだなあ。折角だし、それくらいの距離なら歩きで移動してもいいかもな」
「馬車があるのに態々歩くのか!?」
アガーテが少し困惑気味にそう聞いてくる。
「ああ。その方が周りの地形を覚えるのにもいいし、何より周囲に気を使う必要が無いから寧ろ快適なんだよな」
「食材も在庫がいっぱいあるし、美味しいものもいっぱい用意してるし!」
「キュッキュゥウ」
美味しいもの、の部分でリディの頭の上のポヨンとゴーレム水槽に入ったルカが大きな反応を見せる。
リディに抱かれたキナコだけは平常運転だ。
「それに、お風呂にだって入れますしね!」
「そ、そう言えば君たちはそうだったな……いや、全てが私の常識の範疇から逸脱していて、どうにもまだその辺りのことには慣れなくてな……」
よく考えてみれば、アガーテと一緒に旅するのはこれが初めてなんだったな。
サイマールの時は近場か海しか行ってないからなあ。
「アガーテさえ良ければそうしようと思うんだけど……どうだ?」
「……うむ、そうだな。それに、ジェットの弟子になったからにはこう言った非常識なことには早めに慣れておいた方がいいだろうしな」
「あはは……なんかちょっと分かるかも」
「大丈夫だよ。妹のあたしでも時々おにいの非常識には驚くから!」
そこでポヨンが肯定するように大きく伸びをする。
え? なんでこんな話の流れになってるんだ!?
「うぉっほんっ! よし! それじゃ明日徒歩でライナスへ向けて出発ってことで!」
とりあえず、強引に話を纏めに入る。
「ねえ、アガーテってライナギリア出身なんでしょ? 家はどこなの?」
「あー……一応ライナスにあるが……」
「それなら丁度良かったね! アガーテ姉の家、どんな所か見てみたいなあ」
「キュッキュウ!」
「そ、そうだなあ。き、機会があれば……な」
うーむ、どうにも歯切れが悪いな。
何か問題でもあるんだろうか?
例えば……家が物凄く散らかっているとか。
「そ、それより! サイマールで言っていたが、黒獣の森にジェットとリディが住んでいた村、エルデリアだったか。そんな村があると言うのは本当なのか? 少なくとも、ライナギリアではそのような村の存在は確認出来ていないが……」
これ以上追及されたくなかったのか、アガーテは強引に話題を変えてきた。
「可能性が高いってだけで、実際は行ってみないと分からないな。黒ゴブリン……ゴブリンアビスだっけ? あれって黒獣の森にいるんだろ?」
「ああ。確かにあの殺戮ゴブリンは黒獣の森の奥地に棲息しているが……あのようなゴブリンが棲息する地に人里があるなんて……」
そこでアガーテが難しい顔になる。
「黒獣の森はな、ライナギリアでもまだ全容を把握しきれていない。単純に奥へ行くほど危険な魔物が多くなるのもあるが、森自体が人を阻むそうなのだ。以前、数ヶ月かけて複数のベテランパーティーが未踏領域を目指そうとしたが、結局把握出来ている区域を抜けられず失敗に終わったらしい……」
その話を聞いて、レイチェルが唾を飲み込む。
「もし、そのエルデリアが黒獣の森にあるとすれば、その未踏領域にある可能性が高い。だが、並大抵のことでは辿り着くのは不可能だろう」
アガーテが俺の目をじっと見てくる。
その視線を受け、俺は決意を固めて口を開いた。
「それでも、俺たちは黒獣の森へ行く。そこにエルデリアがあるかもしれないから」
「あたしたちだって!」
「キュッ!」
ポヨン、キナコ、ルカからもやる気が伝わって来る。
「わ、わたしだって行きます! 師匠ある所その弟子ありです!」
レイチェルも拳を握り締め、自分を奮い立たせる。
「ふふ、それならば私もついて行くしかないようだな」
どうやら、引き続きアガーテも手伝ってくれるようだ。
「よし、俺たちで黒獣の森を制するぞ!」
「うん!」 「はい!」 「ああ!」
その後は、日課の魔力操作を行い体を拭いて眠りに就いた。
あんな話をした影響だろうか?
その日、俺は久しぶりにエルデリアの夢を見た。
そこには俺がいてリディがいて、父さん母さんもいて……そしてレイチェルとアガーテもいた。
レイチェルとアガーテ、それとリディの新たな従魔たちを二人に紹介したり、俺たちの旅の話を二人に聞かせたり、そんなたわい無い日常の夢だった。
俺たちが取り戻したくてたまらない、何でもない日常の……
◇◇◇
「では行こうか。ライナスへはこのまま道なりに東へ行けば辿り着く。途中アムールと言う中継地点の町があるからまずはそこを目指そう」
翌日、俺たちはマイルズを発ち徒歩でライナスを目指していた。
ヴォーレンドからサイマールを目指す時は度々道に迷ったりもしていたけど、今回はアガーテと言うライナギリア出身の案内役もいるし道に迷うことは無いだろう。
「やっぱり、この辺で出没する魔物も黒獣の森と同じなのか?」
少し疑問に思ったことをアガーテに尋ねる。
「稀に黒獣の森から抜け出してくる強力な個体は存在するが……基本的には向こうの大陸の魔物とそう大きな違いは無い」
向こうの大陸ってのは、カーグやヴォーレンド、サイマールがある大陸のことだな。
「だが、大陸に比べると全体的に魔物自体の質が高い。例えば……」
「師匠! 右手の森から何か来ます!」
「こんな風にな! 『闘気盾』!」
「ギャギャギッ!?」
アガーテが魔物の不意打ちを見事受け止める。
そこにいたのは……ゴブリン! だけど、黒ゴブリンではなさそうだ。
「もう! 本当どこにでもいる!」
ゴブリンを見てリディが不機嫌になる。
「まだ奥に複数気配があります! それに、このゴブリン普通のゴブリンより体が大きい!?」
「こいつらはホブゴブリンと呼ばれている。普通のゴブリンと同じように上位種も存在する! 『闘気槌』!」
「ギャペッ」
アガーテが盾で受け止めたゴブリンを槌で殴りつける。
ゴブリン……いや、ホブゴブリンは為す術なく崩れ落ちた。
「全く、まだそれ程町から離れていないのにホブゴブリンが出るとは……周囲の討伐が甘いようだな!」
「レイチェル、まだ奥にいるんだろ?」
「はい。こっちの様子を窺っているみたいです」
「また襲われるのも嫌だし倒しに行こうよ!」
「そうだな。アガーテもそれでいいか?」
「勿論だ! さあ、行こう!」
そして、俺たちは残りのホブゴブリンを始末するべく道から外れ、森の中に入る。
「……そう言えば、前に通った時こんな場所に森などあったか?」
ふと、アガーテがそんなことを呟くのだった。




