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100話 船出

以前の話で一部文章の修正、及び追記を行いました。

詳細はあとがきの方に記載しております。

※話の流れ自体に変更はありません。

「それじゃあ、もう船は出せるのか」


「おう。後はお前たちの都合に合わせて日程を組むだけだな」


 俺たちは潮騒亭でアントンさん一家、それとリカルドさんと一緒に遅めの昼食の最中だ。

 リカルドさんは、いつでも船を出せるようになったことを俺たちに伝えに来てくれたのだ。


「そうなると、あんたたちとはもうすぐお別れなのか……」


「仕方ないわよぉ、ご両親のことを思うとこれ以上引き止める訳にもいかないわぁ」


「その、ジェットさん。本当にあの浴室と浴槽をそのまま頂いてもいいのですか?」


「ああ。潮騒亭にはお世話になったし、貰ってくれると嬉しいかな。それに俺たちはまだ予備も持ってるし、用意しようと思えばもっと用意出来るし」


「ゴーレム鋼はまだまだ在庫があるよ」


「あっはっはっは! 流石は新進気鋭のBランク冒険者だ!」


「そう言うことでしたら……ありがとうございます。代金代わりと言っては何ですが、皆さんが出発する時には是非うちの料理を沢山持って行って下さい」


 おお、それはむしろ嬉しいな!


「そうだ! あんたたちが出発する前にランクアップのお祝いもしなきゃな!」


「あらぁ、いいわねぇリュシー。是非そうしましょう」


「師匠、いつ出発する予定なんですか?」


「そうだなあ。あ、サリヴァンさんはどうなんだろう? あの人もライナギリアに帰る予定なんだろ?」


「サリヴァンには後で私が聞いてこよう」


「一つ残念なのはよう、お前たちの出発までに依頼してた像が完成しそうにねえことだなあ。彫刻家先生はイメージが降りて来たっつって今凄い勢いで制作してんだが……」


 おお、像の制作が進みだしたみたいだな。

 あー、やっぱり彫刻家先生ってあのレイチェルを見て奇声を上げていたあの人なのかねえ。

 そうなると像のモチーフって……うん、これ以上は深く考えないようにしよう。


 その後、サリヴァンさんとも予定をすり合わせ、ライナギリアへの出発は三日後と言うことに決定した。

 その間俺たちは海釣りに出掛けたり、異変前の活気を取り戻しつつある町を観光したりとのんびり過ごすことにした。


 海釣りでは相変わらずレイチェルが蛸ばかり釣り上げたり、アガーテがイソメを見て悲鳴を上げたりとちょっとしたハプニングはあったけど釣果自体は良い結果だった。

 釣った魚や蛸はアントンさんたちが、俺たちの持ち込んだ海の魔物と同じく料理してくれることになった。


 街の散策も、再開した店や屋台を巡って楽しい時間を過ごせた。

 両ギルドの通達のお陰で特に大きな騒動にもならなかったしな。時折子供が俺たちに向かって来たりはしたけど、それくらいなら別に困るようなことでもない。

 まあ、行く先々で料金を割り引いてくれたり沢山おまけを貰ったり、そんなことは多々あったけど。


 そして出発の前日、アントンさんたちが俺たちのお祝いパーティーを開いてくれた。

 かなり気合を入れて準備したようで、海鮮料理以外にも今回のことで増えた料理のレパートリーを沢山披露してくれた。中には俺たちがレイチェルの誕生日会で教えたレシピのアレンジもあった。


 これらは既にリディの『亜空間収納』にも仕舞われている。ゴーレム風呂の代金代わりって言っていたやつだな。


 アントンさん一家全員に加え、サリヴァンさんとリカルドさんもお祝いに駆け付けてくれた。

 リカルドさんは手土産に高級菓子の詰め合わせを持って来てくれた。今度ルカに会った時に一緒に食べてくれとのことだ。

 これはありがたく受け取ってリディの『亜空間収納』に仕舞っておいた。


 サリヴァンさんはお酒を用意してくれたんだけど……アガーテ含め俺たちって全員お酒を飲まないんだよなあ。今回も少し飲んでみたんだけど、やっぱり俺の舌には合わないようだ。

 父さんにお土産として持って帰ろうかとも思ったけど、既に父さん用には色んなお酒を用意しているので、折角だし今回皆で飲んでもらうことにした。


 こうしてサイマールでの最後の夜が騒がしく過ぎていく。


 そして、気が付けばサイマールを出発する時が訪れようとしていた。


「よう、来たな。船はいつでも出せるように準備してるぞ」


 港にやって来ると、リカルドさんがそう言って迎えてくれる。


 港には船乗りたちの声が響き渡るものの、それ以外は静かなものだ。

 これは、放っておいたら今回も確実に人で溢れ返るだろうと言うことで、両ギルドが港への通行規制を行ってくれたらしい。

 なので、今港にいるのは俺たちとアガーテ、サリヴァンさん。

 それと見送りに来てくれたアントンさん一家全員とリカルドさんたち船乗りだけなのだ。


「えっと、今回はお世話になりました。俺たちがサイマールで快適に過ごせたのは潮騒亭のお陰だ」


「「お世話になりました!」」 「世話になった」


 俺たちは揃ってアントンさんたちにお礼を言った。


「いえ、お世話になったのは私たち、と言うよりサイマールの町の方ですよ」


「そうだよ~。皆は町の英雄なんだからね~」


「皆さん、落ち着いたらまたサイマールにいらして下さい。その時は潮騒亭にも是非!」


「皆~、絶対また来てね~。皆だったら大歓迎だよ~」


「元気でねぇ。二人が早くご両親に再会出来るよう祈っていますよぉ」


「っぐ、がんばっでごいよお……うぅ、ぞれに、ぜっだいまだがおみぜにごいよぉぉ」


 涙もろいリュシーさんが遂に我慢出来ず泣き出してしまった。

 それにつられてリディとレイチェルも涙ぐむ。

 そして、そんな二人をミューさんとカミーユさんが優しく抱き締めた。

 リュシーさんのことはアガーテが慰める。


 リディの奴、顔がミューさんの胸にすっぽり埋まっているんだが……


「はっはっは、むさ苦しいのしか残ってませんが……」


「いや、そんなことは。またサイマールに来た時はよろしくお願いします」


「承りました」


 俺はアントンさんとがっちり握手する。

 今回は実現しなかったけど、次の機会には是非海釣りを一緒にしたいな。


「おうおう、折角の船出なんだ。笑顔で見送ってやれ」


「それに、これが今生の別れって訳でもないんだ。そうだろ?」


 サリヴァンさんの言葉に俺たち全員が頷く。

 ポヨンとキナコも同様に頷いていた。


「はは、それもそうですな。それでは名残惜しいですが……皆さん、いってらっしゃい」


「「「いってらっしゃい!」」」


「ああ。いってきます!」


「「「いってきます!」」」


 そうして俺たちは船へと乗り込む。


「よぉぉおおおしっ! 野郎ども! 帆を張れ錨を上げろっ!!」


「「「「「おおおおおおおおおおっ!!」」」」」


 リカルドさんの号令と共に船は動き始め、どんどんサイマールから離れていく。

 その間も、アントンさんたちは笑顔で俺たちに手を振ってくれていたので、俺たちもそれに応え続ける。

 それは、お互いの姿が見えなくなるまで続くのだった。



 ◇◇◇



「さて、折角だし君たちには判明したことを伝えておこうか」


 ライナギリアへの航海の途中、サリヴァンさんが今回のことについて分かったことを教えてくれた。


「例の山小屋を徹底的に調べた結果、床下から帳簿や取引の書類を発見することが出来た。それと、沈没船から発見した資料があっただろ? あれに一部残った筆跡と比べた結果、同一のものだと判断された。やはり、山小屋も船も密漁者のもので間違い無さそうだ」


「やっぱりそうか。タイダリアの密売は……」


「ああ。それも帳簿や書類から相手を特定出来た。やはりよその町の商人が相手だったな。そいつは以前からきな臭い奴だったらしいが……まあ、今回のことでそいつは終わりだろうさ」


「サイマールでも密漁者や不審船の取り締まりと見回りを強化することになった。これ以上好きに密漁なんてことさせねえよ!」


「そっかぁ。それならルカも安心だね」


「ルカちゃん、また鳥の魔物に掴まらないといいけど……」


 うーむ、ありそうだから困るな。


「それと、件の生物学者の論文も確認出来た。やはり、そこから大百足の卵に辿り着いたんだろうな」


「サリヴァン、クラーケンについては何か分かったのか?」


「ええ。やはり、あのクラーケンは大百足の卵の成分を取り込んで変異した個体に間違いないらしい。ただ、ギルドの専門家によると、単純に大百足の卵を与えただけではああはならないだろうってことだ。色んな偶然が重なった結果、あんな異常な進化を遂げたみたいだな」


「それなら、あんなのが次々と出てくる可能性は低いってことか」


「そう言うこと。ちなみに、あの個体は『ヴェノムクラーケン』って名付けられたそうだぞ」


「ヴェノム……やはり毒持ちだったか」


「ええ。大百足のものと同じ成分が検出されたそうですよ。その毒とクラーケンのイカ墨が混ざったものが、タイダリアを暴走させた原因だろうってことだ」


「クラーケンって普段この辺にはいないんだろ? やっぱり偶然この海域に?」


「ああ、偶々こっちまで流れて来た個体だったんだろうな。そう言うのが普段全くいない訳でもねえからな」


 成程。

 本当に、幾つもの偶然が重なった結果だったらしい。


 コンコンッ


 その時、話し合いに使っていた会議室の扉がノックされた。


「おう、いいぞ」


 リカルドさんがそう答える。


「失礼します! マスター、フライングキラーの大群です!」


 フライングキラーか。前に名前だけは聞いたな。


「護衛の冒険者たちはどうした?」


「皆既に配置についていますが……数がかなり多いので応援が欲しいと」


「はーいはい、そんじゃあ行くとしますかね」


「俺たちも行こう」


「うん!」 「はい!」 「ああ!」


 俺たちは、フライングキラーの大群に対処する為甲板へと移動した。


「うっはぁ、凄い数だねぇ」


 サリヴァンさんが海の方を見て驚愕した様子を見せる。


 俺も海の方を見て理解した。

 ああ、あれは驚くのも仕方ない……


「うおっ!? 何だあれ!?」


「羽が生えた魚の大群がこっちに向かって飛んで来てる!?」


「う、海が覆い尽くされている……あれが全部フライングキラーなんですね……」


「あの数は異常だろう! あれも、先の異変の悪影響の一つなのかもしれんな」


 一匹一匹はさほど大きくはないが、とにかく数が多い。百や二百では足りないだろう。

 さて、どう対処するのが正解か……


「クイーンタイダリア号は頑丈に造られちゃいるが、流石にアレ全部受け止めるのは無理だからな!」


「はぁ、とりあえず船に影響が出そうな個所から重点的に対処しますかねえ」


 サリヴァンさんが護衛として乗り込んでいる冒険者たちに指示を出していく。


「俺たちもそうしよう! リディ、まずはキナコに魔力弾をとにかく大量にばら撒いてもらってくれ!」


「まずはざっくり数を減らすんだね! おいでキナコ!」


 リディがキナコを抱きかかえる。

 そしてキナコが魔力弾を放つ為に指をフライングキラーの大群に向けたまさにその時、


「――――ィィイイン」


「「「――ォォォオオオン」」」


 そんな鳴き声が海から聞こえて来た。

 その鳴き声が聞こえたのと同時に海面がせり上がっていき、まるで巨大な口の様にフライングキラーの大群を呑み込んでいった。


「あの鳴き声は……タイダリアたちか!」


「ルカだ! ルカが来てくれたんだ!」


「師匠! この数なら!」


「私たちで十分対処出来る!」


 そして、俺たちは船まで飛んで来たフライングキラーの残党を始末していく。

 ただ、海の中に攻撃が飛ばないように気を付けながら。


「炎よ。触れるもの全てを焼き払う壁となりて、我が脅威からの一切を阻め。フレイムウォール!」


 サリヴァンさんが前に使っていた炎の壁でフライングキラーたちを火だるまにしていく。


「おめぇら! 絶対にタイダリアたちを傷付けるんじゃねえぞ!!」


 リカルドさんが湾曲した剣でフライングキラーを斬りながら船乗りたちへ指示を飛ばす。


 そして、数分後には残ったフライングキラーの殲滅は完了したのだった。



「キュゥゥウウイ!」


「ルカ! ありがとう!」


「キュオン!」


「リーダーとルカの両親もありがとな」


 ルカとその両親、そしてリーダーが船と並び泳ぐ。

 他のタイダリアたちは俺たちを助けてくれた後、住処に戻って行ったようだ。


「俺ぁよう、今日と言うこの日の感動を生涯忘れねえ!!」


「タイダリアの恩返しってことかねえ」


 リカルドさんに至っては男泣きを始めてしまった。


「キュゥゥイ! キュキュイキュイ!」


 泳ぎながらルカがリディに何かを語りかける。


「えっ!? う、うん!」


 すると、リディはおもむろに水魔術で水球を作り始めた。

 そして、それをルカに向けて放った!


「キュゥゥゥウウイッ!」


 ルカは勢いよく海面からジャンプし、なんとその水球の中に入ってしまった!

 そして、それを器用に操り水の道を作り、船の上まで泳いできたのだ。


「「「キュォォォオオオオオオン」」」


 そして、それを見たルカの両親とリーダーが大きく一鳴きし、海に潜って仲間たちの元へと帰って行った。


「キュイィイン」


「えっと、その子をよろしく頼む、だって」


「え? ルカちゃんわたしたちと一緒に来てくれるの?」


「キュゥイ!」


 ルカが胸を張って答える。

 その様子を見て、ポヨンとキナコも嬉しそうに燥いでいる。


「どうやら、タイダリアたちから大切なものを託されたようだな」


 アガーテが海を見ながらそう呟く。


「ああ。それに、サイマールにまた来る理由が増えたな」


 落ち着いたら、ルカをサイマールの海に里帰りさせてやらなきゃな。


「えへへ、ルカ、改めてまたよろしくね!」


「キュイッ!」


 こうして、ルカが正式にリディの従魔として俺たちモノクロームの一員に加わるのだった。

ここまで読んで頂きありがとうございました!

次話より新章突入です。


そして、全てが行き当たりばったりの本作ですが、ついに100話到達です!

ここまで続けられたのは読んで下さっている皆様のお陰です!

これからも毎日の更新を続けますので是非よろしくお願いします!




それと、感想にて指摘頂いた個所の修正、及び追記を行いました。

話の流れ自体に変更はありません。

以下に修正・追記箇所を記載します。


42話

風呂を造る場面で、湯船に直接湯を張るよう文章を修正


77話

リディとレイチェルが大百足に熱湯弾を放った後に、以下の一文を追記


 風呂に湯を張るくらいならともかく、水魔術で直接熱湯を生み出すのって結構大変なんだよな。

 どうも一定以上の温度にする為には火属性の適性も必要らしく、レイチェルではそれが出来ない。

 リディなら可能なんだけど、熱湯にするのにどうしても時間が掛かるし、その分多くの魔力を消費してしまう。

 なので、『融合魔術(フュージョン)』で熱湯を即座に生み出したのはとても理に適っている。

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