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第9話 レース編みで、カーテン作ってみた

 次の日、網は綺麗に乾いていた。――余談だが、早朝に物干し竿一面に網が広げられていたのを見たご近所さんが、慌ててカリン様のところへ飛び込んだのをナコは知る由もなかった……


「いい感じいい感じ!これなら……」


 ほくそ笑むナコの横顔を見ているチコは、ちょっと不安げな表情。


 乾いた網を家へ持ち帰り、昨日父さんと一緒に作ったかぎ針を手に持つ。左手には、母さんから貰った薄い黄色い糸束。


 かぎ針でまずは一つ輪っかを作る。その輪を基準にして、糸束から1本糸を引き出し、基準の輪に引っかける。かぎ針の先がVの字になっているので、そこに糸を引っかけるのだ。糸束からかぎ針に糸を絡ませる、輪からその糸を引き抜く、また糸をかぎ針に絡ませる、輪からその糸を引き抜く……という作業を繰り返していく。


 引っかける場所を少しずつ移動させることで、絡まっていく糸がだんだんレースのような模様を形成していく。


 近くで見ている母さんもチコも、ただ糸を絡ませていることは分かるが、なぜそれが模様のようになっていくのか理解できず、ただただ圧倒されるばかりだった。


 しばしの、沈黙の時間。


 基準の輪の周りを、一周ぐるりと編み込むと、そこには5枚の花びらが出来ている。さらにナコは作業を進める。


 基準の輪、その周りを囲う5枚の花びら。さらにその周りを囲う8枚の花びら。二重の花びらが出来たところで、ようやくナコは網を手に取った。


「網?どうするの?」


 チコはナコに尋ねるが、ナコも口では説明がしずらい。とにかく見てもらうしかない。


「この花びらを、こうやって、網のここに、こうやって引っ掛けて……」


 出来た二重の花びらのさらに外側を、編むのと同時に網の目地の一つに絡ませ、固定する。網の目地の一つが、花びら模様で埋まった。そこでようやく糸を切る。


「わぁ!網に花が咲いた!」


 網にある千か万か分からない目地のたった一つに、花びらを取り付けただけだったが、レース編みなんて見たことがないチコ姉には、そのたった一つが素晴らしく美しいものに見えた。


「これを、この網の目地に、一つずつ付けていくのよ。うーん……どれだけ時間かかるかなぁ。」


 一つの作業はとても簡単だ。ただ、この網の目地に100、200と花びらを付けていくのは、途方もない時間がかかりそうだ。


「ふふ、何日で出来るかな♪」


 編み物の類は、ナコにとっては無心になっていつまででもできてしまう作業なのだ。いつだったか、マフラーを編んでいた時なんて、夢中になりすぎて3人分くらいの長さになってしまったことがあった。


 一つ、二つ……と花びらを作っては、網に取り付ける。今ある網の目地全てに取り付ける必要はない。これはカーテンなのだ。窓を覆う範囲だけに、花びらを付ければ良いのだ。


「母さんも、やってみてもいい?」

「私もやる!」


 ナコの作業を見ていた2人は、同じ単純作業の繰り返しだと理解し、昨日父さんがいくつも試作したかぎ針を手に持ち、同じ作業を始めた。


「あれ?ナコのと大きさが違っちゃった??」


 一つ花びらを編み上げたチコ姉は、ナコのそれと比べてちょっとガッカリ顔。


 父さんが作ったかぎ針は、どれも少しずつ太さが違う。かぎ針の太さが違えば、当然仕上がる作品の大きさも変わる。加えて、例え同じかぎ針を使ったとしても、個人個人の力加減で、完成品のサイズも変わってきてしまう。力を入れて編み上げれば、キュッと締まった小さめ作品が出来るし、糸を緩めれば、ゆったり大きめ作品になる。


「違っていてもいいんだよ、一つ一つの大きさが違っていても、完成したら気にならなくなるから大丈夫」


 そうナコはチコ姉に言って、網に花びらを取り付ける。作った花びらの大きさは、ナコのより1.3倍くらい大きかった。


 一方母さんは、2~3個作ると要領を得たのか、ナコとほぼ同じ大きさの花びらを完成させた。


(かぎ針の大きさは少し違うはずなのに、さすが母さん!)


 ナコは母さんの意外な実力に感心した。


 作業は順調に進み、ナコとノンノの均一な花びらの中に、所々大きめの花びらが混在するレース編みが作られていく。……時々小さめなのも混ざっている。


「ちょっと大きさを確認するね」


 ある程度の大きさになったところで、窓枠とサイズを照らし合わせて、網の大きさを調整する。


「うん、これくらいでちょうど良いかな」


 横幅は、窓枠よりも1.5倍くらいの広さ。縦は窓枠よりも10センチほど長め。カーテンにはちょうど良いサイズのところで、余分な網部分は切っていく。


「さて、カーテンは出来たけど、これをどうやって取り付けるか……」


 窓には何の突起もフックもない。当然日本で普及しているようなカーテンレールも無い。細かい取り付けは出来そうに無い。ナコは日本のカーテンレールがいかに高度技術なのか改めて思い知らされた。フックをカーテンに引っ掛けるだけで、簡単に取り付け可能。ほどよく光を取り込めるレースカーテンと遮光カーテンを同時に2種類取り付け可能で、真ん中には磁石が付いており隙間が空くことも無い。カーテンを開けたら開けたで房掛け金具やタッセルが重宝する。……そのどれも異世界では使用できないが。


(物干し竿みたいに、棒で引っかけるのが良いかな?)


 父さんに手伝ってもらって、窓枠の両端にそれぞれ木材で突起を取り付けてもらう。その二つの突起に窓とおなじ幅の棒を渡した。棒に網を通せば、簡易的ではあるが、レースカーテンが完成した。


 直射日光が入ってきていた窓は、カーテンで陽の光が和らぎ、穏やかな光が差し込む窓に変わった。これぞカーテンの役目。同時に外からの目線も遮られる。


「素敵~~♪」


 だがチコもノンノも、光の意味には気付いていない様子で、網に絡ませた花びら模様の素敵さを賛賞していた。


「所どころ花びらの大きさが違っているのも、案外面白いのね!」


 最初は花びらの大きさが違っていることを気にしていたチコも、こうして全体として眺めるとたいして気にならないことに気付いて安心する。それどころか模様のアクセントとして、良い趣きに見えてくる。


「うふふん♪素敵でしょ」


 ナコも満足だった。3人で作業したから、思ったより早く作業が進んだ。


「じゃあ、あと2つね」

「えっ!……まだやるの?」

「……やるよ……やりますよ?」


 窓はあと2つある。こちらにもカーテンを取り付けなくては。ナコはまだ製作の続きがあると聞いて苦い顔をした母さんは見なかったことにして、あと2枚カーテンを製作した。


 ガラスも何もはめ込まれていない窓からは、時々涼しい風が入ってきて、カーテンを揺らす。


 最初は苦い顔をしていた母さんも、揺れるカーテンを見て時折顔を綻ばせる。


 カーテン越しに差し込む柔らかな光、時々吹いてくる優しい風。時々おしゃべりを挟みながらレース編みを進める母と娘二人。


(こういうの、案外悪くないかも・・・)


 いつの間にか、異世界の生活に馴染んでいる自分。奈々美ではなく、ナコと呼ばれている自分にも、だんだん馴染んできていた。


 ただ、ナコはまだ気付いていなかった。


 このカーテンは、ただのカーテンではなく、魔素材で作られたカーテンだったということを。

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