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第6話 売るための、秘策

前世での知識を徐々に発揮していきまーす。

「チコ姉、ちょっといい??」


販売魂に火をつけられたナコが手始めに行った(おこなった)のは、チコ姉の髪飾り。後ろで結んでそこに花飾りを付けていたが、それではお客さんから見えない。店員が付けているアクセサリーだって、立派な宣伝ツールなのだ。ファッション業界では店員は歩くマネキンだと言われている。実際に身に着け動くことによって利用イメージが沸き易くなり、それが売り上げに繋がるのである。


チコ姉の髪を頭のてっぺん(正面からはっきり見える位置)でおだんごにする。髪の毛全てを纏めてお団子にするので、かなりのボリューム。野球ボールくらいの大きさになっている。


そのお団子の正面に、チコ姉にあげた花飾りを付ける。


「母さん、その花飾り貸して?」


母さんにあげた花飾りは髪留めではなく、胸にコサージュとして付けていた。その母さん用の花飾りを借りて、チコ姉のお団子頭に着ける。さらに追加で製作していた私の分の花飾りも付ける。

大きなお団子に、花飾りが3つ。ボリューム満点だ。


(うん、目立つ!)


店から5メートルくらい離れて、遠くから眺めてよく見えるかどうかを確認する。


(イベント用に、もう一回り大きくてもいいかな!また今度作り直そう。)


日常使い用とイベント用では、大きさもデザインも異なるのがハンドメイドの世界では常識だ。


多くの自称作家が集まるハンドメイドイベントでは、小さいイベントでは20~30作家、大きいイベントでは50~実に1000近い作家が集まる大規模なイベントも存在する。


そんな多くの競合他社が集まるイベントでは、通路を歩くお客様やバイヤーの視線を集めるのが、第一の課題である。


客の行動として、イベントブースを見て回るのは実に忙しい。全部の作品を見て回りたいのは山々だが、それには時間が足りない。何せブース数は50〜大きなイベントでは1000もあるのだから。


そのため、多くの作家が(ひし)めくイベントでは、注目を集めるブースがある一方、素通りされるブースも当然ながら存在する。キョロキョロと周りを見回し、歩いて通り過ぎる2~3秒の間に『お?』と興味を引かせ、客の足を止めさせる『何か』が必要なのだ。


その『何か』にチコ姉を選んだ。子供が売り子をしていると、それだけで可愛らしく思われる。大阪のおばちゃんなら、飴ちゃんをくれそうだ(笑)ただし私ではダメだ。私が立ったところでせいぜい100センチくらいしか背が無い。それだと、歩行している大人の視線には入り込めないのだ。


だがチコ姉なら大人の目線に入り込めるだろう。母さんよりは少し低いものの140センチくらいはあるだろうか、歩いている大人の目線の先にちょうど花飾りが目に入るはずだ。


花飾りを目に止め、綺麗な色の糸ね!と関心してもらい、作り方をレクチャーしつつ糸巻を買ってもらおう・・・という目論見である。


(売り子頑張ってね、チコ姉♪)





*****





さて、次の作戦である。(当然作戦はチコ姉の花飾り1つだけではない!)


リヤカーから椅子になりそうなちょうど良いサイズの木箱を持って来て、店先に置く。母さんとチコ姉は不思議そうな顔をして、だが何も言わずナコの様子を見守っている。


「母さん、糸玉1つ貰うね?」


先日私の物となった半端物の糸は今日は持って来ていない。母に断って糸玉を1つ貰い、家で作ったのと同じように指編みを始めた。


「なんだなんだ?」

「かわいい~♪何してるの?」


店先の椅子に座り何かを始めた子供に、近くに居た人は何が始まったのかと覗き込む。

通常お客様は中央通路側に、店員は一番奥に、その間を隔てる境界線のように商品が所狭しと並べられている。この市場でもそれは例外はなく、どの店も同じレイアウト、同じ位置、どれも代り映えがしない。


その中で、店員が一人店前に出てきた。商品よりもさらに前だ。店員と客の距離はゼロ。これは何事かとお客さんが寄ってくるのも無理はない。


そこで登場したのが指編みだ。母さんやチコ姉の反応を見る限り、珍しいやり方に違いない・・・そう思ったナコは集まってきたお客さんの反応を見て、やはり間違っていなかったと確信した。


「こうして糸を指に絡めて・・・ここから糸を引き出して・・・こうして・・・ああして・・・

こうするとだんだん紐が伸びてくるでしょう??」


『初めての物』を見る好奇心はどの年代にあっても変わらない。人は常に刺激を求めているものだ。器用に動かす指や徐々に伸びていく紐に気を取られ、人々はノンノ商店から離れるタイミングを見失っていた。


ある程度の長さになるとナコは手を休めた。


「まだ途中なんですけど、もう少し伸ばしたら・・・ちょっといいかな?」


先頭で嬉々とした目をしてナコに注目していた女の子に声を掛けて、少し髪に触る。


「こうして縛ったら、どう?可愛いでしょう?」


まだ長さは足りないけれど、リボン結びをするようにくるっと丸めた輪を髪に添え、横に付き添っていた母親に声を掛ける。


「もっともっと編んで、くるくるとまとめると、あんな感じに可愛い花飾りにもなりますよ?」


そこでチコ姉に視線を移す。大勢の人に注目され、恥ずかしそうに頬を染めるチコ姉であった。


「母さん、あたしも欲しい!作って!」

「そうねぇ、これなら私にも出来そうだわ、糸玉1つで足りるかしら?」

「指編みで作った紐で髪を結ぶだけなら糸玉1つで大丈夫です。あの花飾りでしたら、3つくらい必要ですね。」


興味を持ってくれた人に、材料や作り方を詳しく教える。


「じゃぁ赤の糸玉を3つ・・・(子供に)あら青も欲しいの?じゃぁ赤と青を3つずつ頂くわ。」

「こっちには緑と黄を1つずつおくれ。」

「あたいにはいつもの糸巻をちょうだいな。」


覗き込んでいる人だかりが誘因となってさらに人が集まってくる。


『人が人を呼ぶ』


ラーメン屋の行列の法則だ。行列がある=人気がある=きっと素晴らしい物を提供してくれるのだろう!という期待が、人込みや行列だ。最初から良いものだ、人気があるものだと認識していると、商品に対する良い感情が働き購入に繋がりやすいという法則である。(一方で行列店だからと買ってみたら期待外れということも往々にしてあるのだが。)


「「いらっしゃいませー♪」」

「「ありがとうございますー!」」


一番安い糸玉がまず最初に売り切れ、次にいつもの糸巻が。在庫が少なくなってくると、台形の糸巻もだんだん売れていった。


「ナコの糸巻も売れたね!!」

「う、うん・・・・・・」


チコ姉は喜んで耳打ちしてきたが、ナコは正直微妙な気持ちだった。いつもの糸巻の在庫が無くなったから売れたに過ぎない。本当の意味で“売れた”とは言えない。――つまり需要が供給を上回ったから高くても売れたのだ。ナコが意図していた“素敵という感情”の対価としての50レクが認められたわけでは、無い。――だからナコは売れても素直に喜べなかったのだ。


「あの、少々よろしいでしょうか?」

「はい、いらっしゃいませー。」


周りの客とは少し趣が違う上品な装いの男性が来店した。日本のそれとはデザインは違うが、三つ揃えのスーツのようなビシッと整った服装をしている。色は黒と地味だが、銀色の刺繍が襟や袖口や裾にも模様が施され、ボタン一つとっても装飾が凝っているのが分かる。

少し後ろにはいかにもお嬢様風な容姿端麗な女性が微笑んでいる。裾は膝丈だが、フリルや生地をたっぷり使ってふんわりボリュームが多いドレスワンピースを着用している。ナコにもすぐ分かった。“平民じゃないな”って。


「そちらのお嬢様が身に着けている花飾りを、見せていただけないでしょうか?」

「はい、いいですよー。・・・どうぞ。」


チコ姉は花飾りの紐を解くと、上品な男性に手渡した。


『執事さんかな?あの女性、この町の町長のお嬢様だよ。』


こそっとチコ姉が教えてくれた。


男性は両手で大切そうに預かった花飾りを、シンデレラの靴を見せるかのように大切そうに女性に見せた。

一言二言何かを話すと、またこちらに戻ってきた。


「こちらの花飾りを、売っていただけないでしょうか?」

「え、えと・・・これは妹に貰ったものだから・・・あの・・・」


どう答えていいものかと、チコ姉はナコと母さんを交互に見た。


「ナコが作ってくれたものだから、ナコがいいなら・・・」


と母さんも私の方を見る。


本来なら、自分のために作ってくれたもので尚且つ使用済みのアクセサリーなんて売るわけないのだが、相手は有力者のお嬢様である、欲しいと言われたものを断るなんて出来るはずもない。それは異世界に来て間もないナコにだってそれくらいは理解できる。


「今あるものは、チコ姉が付けているこの3つしか無いんです。

だから、えーと一度身に着けたものでもよかったら、別にいいんですけど・・・」

「えぇ構いません。御一つ頂戴出来ますか?」

「はい!ええと・・・値段はどうしよう?」


チコ姉や母さんへと作ったものだから値段は考えていなかった。

そもそも、この世界の貨幣価値が分からず、装飾品の相場なんて見当も付かなかった。


(糸玉が180レクで、それが3つ。それに竹ひごが1本・・・竹ひごっていくらだ?

それの3倍くらいだから・・・)


ハンドメイドの世界では、だいたい原価の3倍くらいが売価と言われている。(もちろん作家の技能や作品製作の難易度に応じて上下はするが。)材料費と手間賃を考えて、2000レクくらい・・・?うーん、これは高いのか?安いのか?


「これではいかがでしょうか?」


男性が差し出したのは100円玉のような銀色をしたコイン。何か彫ってあるようではあるが、日本円のように精密な彫りではないので、何が描かれているかはナコには不明だった。


「い、いえあええ、こんなに・・・いいいい頂けません!」


母さんは必至で辞退している。


「構いませんわ、そのままお渡しして。」


お嬢様に言われ、それ以上母は何も言えなくなった様子で男性から硬貨を受け取る。


「小さなお嬢さん、また素敵なものが出来たら、一番に見せてくれる?」


膝を折り、ナコと目線を合わせたお嬢様は、上品に微笑んだ。


こうして町長のお嬢様=レティーナ・バン・フォルナンテは、ナコのハンドメイド作品のファン1号となった。


「面白かったよ^^」

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