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拝啓、奇文様。4時間です。

作者: 鍋屋

前書きって言っても、みんなここ読んで無くない?

平成も終わろうかという時節の中、普段と変わること無くバスに揺られ

帰宅の途に就く。

そんな中にあって、目田勅使 十々陽 (めだてし ととひ)は自己紹介という

自身を読み手に認知させる機会も与えらること無く、

物語の中心人物として描かれ始めた事に、今この瞬間を持ってしても気づく気配は無かった。


ゆえに、その動作は無意識とも呼べるくらいに自然と行われた。

周囲に同調するかのようにスマホのスリープを解除。

直後に表示された「4月12日」という日付に特に何を思う訳でもなく、

雑多な情報が混じり合うネットニュースの記事を流し見る。


だが、ふと目に止まった「歩きスマホ」という単語。

瞬間、脳を駆け巡る電流の如き閃き、否、天啓とも言える気付き。

『歩きスマホ、あるきすまほ・・・単語の中に「キス」が隠れているではないか!』

思わず口に出してしまうのを既で堪え思考に没頭してゆく。

こんな破廉恥な単語が日常のニュースで特に制限されることもなく、

あるいは年若い女性キャスターが読み上げるニュース原稿の中に潜り込まされているのだ。

この単語を考え出した者はどれほどまでに倒錯した性癖の持ち主なのだろうか。


しかしながら、なんと巧妙で、見事な隠蔽術であろう。

ひらがなとカタカナを連続して隣同士に配置することで、前後の単語をそれぞれ独立したものであると錯覚させる。

それがあたかも2つの単語が組み合わさって一つの単語を形成するかのように魅せることで、見事なまでに「キス」という単語を意識の外へ追いやっている。


現代社会において「歩きスマホ」なる単語は社会現象として度々ニュースなどで扱われる。

その都度女性キャスターに「キス」という単語を発声させているのだ。

なんと破廉恥なことか。

だが、ここに一つの疑問が浮かび上がる。



これほど高度な隠蔽術を施した単語生み出す傑物が、

「うら若き女性にキスという単語を発声させる」だけで満足するのだろうか?



「歩きスマホ」という単語を世に広めた目的が「気付かせる事」だと考えると一つの仮説にたどり着く。

それは「この単語に隠された猥語に気づく者が現れるのを待っていた」のではないだろうか、という事だ。

この単語のカラクリに気づいた者は、この単語を目にし、耳にする度に、

「歩きスマホという単語の中には実はキスという猥語が隠されている」という事実がまず最初に浮かんでしまう。

そして本来の「歩きスマホ」という単語の意味はどこへやら、「キス」という猥語に意識を割かれ卑猥だ破廉恥だと悶える始末。


その気づいた者が本来の単語の意味に集中できず、

悶える姿を想像してカタルシスを覚えるのが、真の目的なのではないだろうか。

なんという高度な愉悦感の求め方であろうか。まだ見ぬ師匠に脱帽である。


そう結論づけてスマホをスリープモードに戻す・・・手を途中で止める。

まだだ、まだ気づいていない事がある?

霧の中を走るが如く、おぼろげな対象に向かい手を伸ばしていく。

確証はない。だが予感はある。

まとまりきらない考えに意識を総動員して結論へと導いていく。


「歩きスマホ」という単語に隠された事実があるのならば、"あの"単語にも同じく隠蔽術が施されているのではなかろうか。

そう、「歩きベロチュー」にも「チュー」という猥語が隠さ


『次は~、佐傘団地~、佐傘団地前~。お降りの方は~』


「ヴィーーーー。 『次、降ります』 」


自ら押した「次、降りますボタン」に続いて機械音声が車内に響き、少しして車両が停止する。

運転席の脇に取り付けられたカードリーダーにICカードをかざし、いつもの運転手に軽く会釈をしてからバスを後にする。


疲労を感じさせながらも、どことなく満足げな顔を浮かべ、十々陽は自宅へ向かい歩を進めるのであった。

自己紹介をする事無く物語が終わりを告げたとも知らずに。


後書きもたぶんみんな読んでないよね?

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