かぼちゃコロッケだけどスーパーの惣菜コーナーから追放されそう
「甘いんだよお前は! 売れる気がないなら惣菜コーナーから出て行け!」
カニクリームコロッケ先輩の怒号が、今日も惣菜コーナーの沢山皿があってトングがあるあのエリア一帯に響き渡る。笑われているのは今日も一番売れていないかぼちゃコロッケ。そして後ろ指を差す天ぷら盛り合わせと何かよくわからないはんぺんっぽい練り物。クスクスという笑い声は、サクサクとしか笑えないかぼちゃコロッケにとって屈辱的なものでしか無かった。
「いいか俺達の仕事ってのは売られることだ……半額シール貼られてからじゃ遅いんだよ!」
ろくにカニなんて入っていないから原価はそうでもないくせに意識だけは高いカニクリームコロッケの説教に、かぼちゃコロッケはノイローゼ気味になっていた。具体的に言えば衣のサクサク感が失われ、無駄に炭水化物にまみれたかぼちゃ団子と遜色はない。
「でも、僕だって頑張って!」
「だから甘いんだよお前はさあ! ねぇ、コロッケ界の面汚しだってわからないのか!?」
「人気がないわけじゃ」
「あぁ!? ソース出せよソース! 出したらてめぇぶちまけてやるからな!」
かぼちゃコロッケは不人気。半額シールを貼られるより早く手に取る人はあまりに少ない。特にここ、北海道のスーパーともなればかぼちゃコロッケの不人気度合いはとどまるところを知らない。
「お前みたいなかぼちゃコロッケなんてなぁ、親戚中からたらい回しにされた成れの果てなんだよ! 煮付けにもなれねぇ、プリンのようにも媚びられねぇ……それがお前だかぼちゃコロッケ! それが、いっちょ前の惣菜面してんじゃねぇよ出来損ないが! お前みたいなやつがいるから、コロッケ全体の扱いが悪くなるんだろうが!」
「まぁまぁまぁ、ほらカニクリームコロッケくんも落ち着こうよ」
「だ、男爵さんがそう言うなら……」
男爵さん。キングオブコロッケ男爵いもコロッケ。もはやメンチカツなどというコロッケのまがい物がつけ入る隙のないコロッケの頂点。コロッケヒエラルキーの中で、生まれてこの方頂点を降りたことのないのが男爵いもコロッケ。
「カニクリームコロッケくん、僕らは今……争っている場合じゃないよ。むしろカニクリームコロッケくんのほうが、将来厳しいかもしれない」
男爵いもコロッケが、男爵という字面だけで生えてそうなひげをさすりそうな勢いで説得力の有るセリフを吐く。実際コロッケから毛が生えていたら回収問題だが、男爵いもコロッケは言葉を続けた。
「何なんすか! そりゃ俺ほとんどカニ入ってねぇけど……少なくともかぼちゃコロッケよりはマシじゃないっすか!」
「君も……微妙に甘い!」
「び、微妙に!」
そう、カニクリームコロッケ先輩も微妙に甘かった。ギリギリご飯のおかずになるかならないかの漸近線、それがカニクリームコロッケの甘さだ。ソースかけても微妙な甘さだ。ウスターはあわない。
「いいかい、コロッケってのは代々御飯のおかずだった。けどね、時代は動いている」
「それって、どういう……」
かぼちゃコロッケの質問に、男爵いもコロッケはサクッと笑った。16時揚げたてですのシールが貼られているのは伊達じゃない。サクサク感が違う。
「炭水化物抜きダイエット!」
男爵いもコロッケが叫ぶ。それは、世間を席巻する新しい食生活の代わり。えっ、まだ白米食べてるの……? もはやコロッケが生まれた時代は遠く過ぎ去っていたのだ。
「まず、男爵いもコロッケである僕は……炭水化物を炭水化物でくるんで揚げたものだ。カニクリームコロッケくんもそうだね」
「そりゃカニ風味小麦粉ユニオンって言ってもいいかもしれないっすけど……でもかぼちゃコロッケだって」
「微妙に甘い!」
やっぱりカニクリームコロッケは微妙に甘かった。ちょっと破れて皿が汚れるぐらいの甘さがある。
「かぼちゃには……あるんだ! この男爵いもにもない、ヘルシー感が!」
「ヘルシー感」
ヘルシー感とは。大してヘルシーでもないのにどこか体に良さそう、太らなさそう、いくらたべても大丈夫そうとそうそうそう無いような野菜に与えられる一種の称号。春雨とかもそうだ。それがかぼちゃの田舎くさい四文字にはあるのだ。
「これでわかったろうコロッケ諸君……僕たちが今生き残る方法は一つ! フォーメーションAだ!」
「すいません男爵さん……俺が間違ってました!」
「いきましょう、皆さん! コロッケ詰め合わせフォーメーションゴオオオオオオオオッ!」
一つのタッパに集結する三つのコロッケ。炭水化物のトライアングルアタックがデブの胃袋を鷲掴み、お子様の心も鷲掴み。みろよこの茶色さ……ほとんど小麦粉なんだぜ。集まる力はお買い得、三つのちからを集結させたらプライスダウンだ198円、今こそ進むさレジの先へと。
「「「くらえそこのサラリーマアアアアアアアン!!!」」」
いま、コロッケ達の執念が久々に定時で帰れてスーパーに行く余裕があり、ついでにかごに缶ビール二本突っ込んでいるサラリーマンに突き刺さる。そして目が合う。そう、今サラリーマンは惣菜コーナーへと足を踏み入れコロッケの未来を。
「やっぱビールにはからあげっしょ」
切り開かなかった。
負けるなコロッケ戦えコロッケ、炭水化物の未来は君たちが担っている。半額になっても戦い続けろ、本屋のダイエットコーナーから低炭水化物ダイエットの本が消え去るその日まで! 永遠に!