第一話 『変わったの専門』なんでね 〜 召還されし大悪魔 〜
光り出した魔法陣の中央に黒い異空間のようなものが出現し、その周囲を稲妻がバチバチと飛び交っている。
次第に高まる威圧感もピークに達すると、満を持してついにその黒い異空間から、とんでもないものが姿を現した。
「クソっ! マジかよっ!」
見た目はホブゴブリンの三メートル版で、さらに頭に王冠をかぶっており、手には立派な剣を持っている。どうやらさきほどのホブゴブリンの上位種なようだ。
「ゴブリンキングか! おいおい勘弁してくれよ」
こんなどデカくて、強そうなやつに勝てるのだろうか。マキとの体格差がハンパではない。
「マキさん! が、頑張って!」
もはやマキの耳には届いていないようで、応答はなかった。きっとこの強大な敵のことで頭がいっぱいなのであろう。
とにかくこの場から離れないとマズいだろうと思い、カオリはズリズリと這って出来るだけその場から離れた。
「オラァっ! いくぜ!」
マキは飛び出し素早く斬りかかった。
ドゴッ!
ゴブリンキングは斬りかかってきたマキを剣の柄で叩き落とした。地面にへばり付いたところを、落ちている空き缶を気紛れに蹴るかのようにテキトーに蹴飛ばした。
「ぶはっ!」
吹っ飛ばされ、床に転がったマキの口からは血が垂れている。相手は上級悪魔とだけあって、やはり反応速度もパワーも間違いなく一級品なようだ。
マキもだいぶピンチであろうと思う。しかしそれでも歯を食いしばり、もう一度ゴブリンキングに斬りかかった。
ザスっ!
マキの刀がゴブリンキングの胸に突き刺さった。……しかし、筋肉が厚すぎるのか刃の三分の一も刺さっていないかった。
ゴブリンキングは「ブハハハハハハっ!」と高笑いし、マキを人形か何かのようにぶっきらぼうに掴み、その剛腕で壁に向かって投げつけた。
「っくはぁ!」
壁に亀裂が走るほどの凄まじい威力だった。鈍く骨の砕ける音がなんとも生々しかった。
「マキさぁぁぁん! いやぁぁぁ!」
壁に叩きつけられたマキは、少しめり込んだのかしばしその場に停滞し、やがて地面に落下した。この時、これまで握りしめていた刀もついに手からこぼれ落ち、落下してカランカランと音を立てた。
その様を見たカオリは戦慄し思う。あぁ、今度こそもうダメだ。これで自分もマキさんと一緒に死へ直行確定。せっかくサヨの無念を晴らせたのに……マキさんまで巻き込んでしまって本当にごめんなさい、と。
カオリは絶望の淵に立たされている気分であった。軽く背中を押されただけで、奈落に真っ逆さまな状態だった。
絶望をこの上なく味わい、生気を失いかけ空を仰いでいると、視界の隅で何かがユラユラと立ち上がった。
……マキだった。
カオリは変わらずその場にへたり込んだまま「ウソでしょ……」と力無く呟いた。
「てめぇ……よくも俺の身体、こんなにボロボロにしてくれやがったな。……見ろよ、アバラが折れて飛び出しちまってるじゃねぇか」
カオリは痛々しすぎるマキを見て思わずゾッとしてしまい、口に手を当てた。
「……おい、オマエ。どうしてくれんだよ、俺の身体……もうどうにもならねぇじゃねぇか。こんなに俺を追い詰めやがって。このテは使いたくなかったが、もう四の五の言ってる場合じゃねぇよな。……あぁー、あはは。きたきた」
マキの顔が苦痛の表情から、ニヤついた緩んだ顔に変わっていく。
「あははっ、そうそう。あっはっはっ! はぁーっはっはっ! ふへっ、ひゃぁぁぁっはっは! ン、ンァァァァァァァァァァっ!」
気が狂ったような笑い声から一変して咆哮に変わり、そしてこの一言を叫ぶ。
「アガレスっ! フューっジョン‼︎」
突然マキの身体が赤黒く光り出し、小刻みに激しく震えながら、自分の左胸を抑えうずくまった。
カオリは何が起きているのかわけがわからず、その光景をただ呆然と眺めていた。
マキの身体が真っ黒く変化し、あちこちがデコボコしだした。出っ張ったり、引っ込んだり、不可思議なことが起きている。
ややして、真っ黒な身体に赤く光る眼を浮かばせたマキがヨロヨロと立ち上がり、雷鳴のような怒号を轟かせた。
「ンンンンっ! ラァっ‼︎」
覆っていた殻を弾き飛ばすかのように、勢いよく両腕を広げた。同時に一瞬、目も眩む光を発し周りの視界を奪うと、そこにはマキではない異形のモノが立っていた。




