第六話 ジ・アウターズゲート 〜プロローグ 〜
第六話 開始
「教授、このザワつくような嫌な感じはやはり……」
「そうだね。私が予想した通り、この近くに龍脈の流れを乱した元凶があるようだね」
教授と呼ばれた男の手には計測器のような物が握られており、画面に表示される波形を逐一確認していた。波形が上下に激しく荒ぶる度に教授は眉をひそめた。その表情からわかることは『異常アリ』ということであろう。
ところで、ここは誰もが知っているであろう超有名な建造物の中である。ただ、二人がいるのは公式にはない地下奥深くである。なぜ一般市民が多く訪れるこの建物に非公式な階層が存在し、誰も告発することもないのかは二人の知るところではないが、とにかく異常な場所であることはわかっていた。
なぜなら壁一面にどこぞの国の文字でも、ましてや古代の文字とも思えないおどろおどろしい文字が大きくいくつも刻まれているだけでなく、不気味で妖しい紫色の光を放っていたからだ。
そのおかげか、電気が点いていなくても薄暗いながらも懐中電灯いらずで歩けるが、その光景はなんともおぞましかった。
眼から得る情報も異常だったが、肌で感じる情報もまた異常だった。
二人が感じている龍脈の乱れによる嫌な感じもそうだが、この地下に入る前からずっと二人を襲う、死の恐怖を感じさせる重苦しい威圧感はいったいなんなのであろうか。この状況で正気を保っているのが精一杯であった。
しばらく歩を進めていると、若い女の方が身体を降るわながら重たく口を開いた。
「教授……。わたし、もう限界です! 何故かはわかりませんが感じてますよね、何者かに殺されるんじゃないかという死の恐怖を。とりあえず調査は中止して、いったん上に戻りましょうよ‼︎」
若い女の押し殺していた感情が爆発し、錯乱気味に訴えるのだった。
「実は私も冷静を取り繕っているが、内心恐ろしくてたまらないのだ。しかし、私も龍脈の研究者でありその知識で飯を食らう身。こんな出所のわからない恐怖心で研究を断念するわけにはいかん!」
教授は震える手でしっかりと計測器を握りしめ、力強く答えた。
「でも教……」
「ほら、あれを見たまえ! あそこに見える扉はさらなる地下に降りれる階段に続くのではないか⁉︎」
教授が指し示す方向には、なんの変哲もない質素な扉があった。
「ルミ君。君はまだ私の助手だが、いち龍脈の研究者としてこのただならぬ雰囲気や奇妙なフロアが、龍脈の乱れとどう関係しているのか知りたくはないのかね? ここで見たことや感じた数々の不可思議な現象を、未来の研究や学会に役立てたいとは思わないかね⁉︎」
ルミは困惑の表情を浮かべた。きっと頭の中で、ここから脱出して安寧を得るか、この先に進んでこれまでにない貴重な知識を得るかで葛藤しているのだろう。
「教授、わたしは……」
「君がどうであれ、私はあの扉の先に向かいもっと真実に近づきたいと思う! どうだね、ついてきてくれるかね?」
ルミは少し考えた後、力なく頷いた。教授の押しの強さか探究への欲に負けたのかは定かではないがルミも所詮、ただの若い女ではなく教授と同じように研究者の端くれということであろう。
震える身体を制し、二人は扉に向かった。教授も押し殺していた恐怖を爆発させた反動のせいなのか、それともルミに虚勢を張った名残なのか、鬼気迫る表情で勢いよく扉を開けた。
「やはり階段か。これでまた真実に近づけるようだな。さぁ、降りて我々の目でしっかり見てこようではないか!」
教授は鬼々とした表情で言い放った。その表情はもはや探究欲や知識欲に取り憑かれたマッドサイエンティストのようであった。ルミの恐れおののいた表情から、何がそこまで彼を突き動かすのだろうと、恐怖しながら思ったに違いない。
一行は、それぞれの思いを秘めながら階段を降り、さらなる地下フロアに出る扉の前までやってきた。
「きっとこの先に、未来があるに違いない。ルミ君、いいかい。開けるぞ」
「……はい」
ルミの反応を待って教授は扉を開いた。
「な、なんだこれは‼︎」
教授の眼前に広がったのは、体育館二つ分くらいの敷地にポッカリと浮かぶ巨大なブラックホールのような黒い禍々しい渦であった。先ほどの上の階にもあった、壁一面の紫色に光る文字のおかげか、ここも薄暗い程度で済んでいた。照明はないが、あたりを見渡せる程度の明るさはある。
「教授……これはいったい」
「わ、わからん。とりあえず近くに行って見てみよう」
二人は黒い渦に向かって歩き出した。しかしその時だった。金属が擦れる大きな音を立て鈍色に輝く巨大な斧と、先端がU字に分かれた二又槍が行く手を塞いだ。
「ココからサキはトオサン‼︎ オイ、オマエら……ドコからハイッテキタ!」
「フツウにイリグチからキタのでは? ソレハソレデあるイミ、ホメテさしアゲマスが」
ルミが恐る恐る見上げると、身体は人型で頭は牛、もう一方も人型だが頭は馬の、屈強で巨躯のバケモノ達がそれぞれの得物で眼前を塞いでいた。
「わ、わっ……教授! どうするんですか‼︎」
ルミの顔はそのバケモノ達への恐怖さ故、完全に青ざめパニックを起こす寸前であった。恐怖でバケモノ達から目が離せず、全身はガタガタと震え、立っているのがやっとであった。
「あ、いや、わ、私達はここの調査に……」
教授も恐怖さ故かしどろもどろになりながらも答えようとしたが、牛の頭をした方は息巻いていた。
「どういうリユウがあろうが、ココをミラレタからにはイキテはカエサヌ‼︎」
牛の頭は巨大な斧を振り上げると、一気に薙ぎ払った。教授の上半身は綺麗サッパリ吹っ飛び、少し離れた所に転がった。ルミの前には教授の下半身だけが取り残されたが、それもすぐに力を失って崩れるのだった。
「え、え……」
衝撃の光景を目の当たりにしたルミは、開いた半開きの口に絶望一色の表情で後ずさりした。
「まぁソウイウことデスカラ、アナタもイッショにシンデイタダキマス」
馬の頭の方は二又槍を振りかぶりルミを睨みつけた。
「い、いやぁぁぁぁっ‼︎」




