第五話 レッツ・マキ車‼︎ (後編) 〜 願いの答え 〜
「今入ったニュースです。先週末に起きた雪崩による遭難事故ですが、難航していたタジマナオミチさんとその長男のヒロト君の捜索に急展開を迎えました。今朝、なんと二人とも無事に救護されました。これを奇跡と呼ばずして何を奇跡と呼ぶのでしょうか。今、現場と中継が繋がっています。現場のイシクラさーん」
画面がスタジオから雪山に背景が変わる。
「はーい、イシクラです。今こちらはまだご覧の通り、雪も残り足場も悪く非常に寒いです。そんな中、奇跡の生還を果たしたタジマさん親子に、さっそくお話を伺ってみようと思います。タジマさん、よく無事に帰って来れましたね⁉︎」
イシクラリポーターはナオミチにマイクを向けた。
「はい、これもすべてマキさんのおかげです! マキさぁん、見てますか⁉︎ 本当にありがとうございました‼︎」
ナオミチは頭を下げた後、グッと親指を突き立てまぶしいくらいの笑顔をカメラに向けた。
「えっ⁉︎ まきさん? 誰ですか、それ⁉︎ あっ、ちょっと、タジマさー」
プツっとテレビがブラックアウトした。テレビのリモコンを持て余したキリカが、ニヤニヤしながらマキを見て言った。
「まさかなぁー、マキがバロンにあんなこと言うなんてな。予想外のいい人振りだったぜ」
「さすがマキさんです。その点についてはとっても素敵でした! ……その点については」
※※※
時はバロンとの戦いの果てに戻る。
「バロン、この魔汽車に乗っているタジマ親子の魂を戻してやってもらえないか?」
あたりはしんと静まり返った。意表を突かれたような顔をして姉妹は顔を見合わせ、バロンは苦い顔をした。
「た、魂をですか⁉︎ いやー、それはちょっと……」
「はあっ⁉︎ 出来ないの? ここの責任者なのに⁉︎」
バロンは苦い顔から苦悶の表情に変わった。
「出来ない訳ではありませんが……。そう易々と死人を生き返すような真似はちょっと」
マキはズイッと乗り出して言った。
「願い、迷惑料代わりに叶えてくれん……だよな?」
バロンは「はぁ」と大きな溜め息をついた。きっと余計なことを言ってしまったなと後悔しているのだろう。しぶしぶと目をつむり、何やら強く念じ始めた。
「ふむ。その親子の肉体は損傷も軽度ですし、周りが雪で低温なため腐食もあまり進んでいない、死体しては大変良好な状態です。ですので生き返すこと自体は可能ですね。でもしかし……」
歯切れが悪かった。なにか懸念事項があるようだ。
「ハーデス様にはなんと弁明すればいいのでしょう……。うーん、弱りましたねぇ」
すると今まで静かだったキリカが、とんでもないことを口走った。
「おい、言ったことはちゃんと守れよ? 一つ『願い』を聞いてくれんだろ、吐いたツバ飲むんじゃねぇだろうな⁉︎」
さらに追い討ちをかけた。どこで覚えたのか、その様子はまさにヤクザさながらだった。
「えぇ、わかってますともわかってますとも。タジマ親子の件はしっかりやりますとも! はぁ、ハーデス様にはどうにかして誤魔化すしかないですね。は、ははは……」
頼りない乾いた笑いを浮かべた。ま、そっちはそっちでうまくやってくれや。言い出しっぺは最後まで責任とるべし、だな。
「では、そのタジマ親子の元へ参りましょうか。一度、魔汽車に戻りますよ」
一行はうなだれるバロンを先頭にタジマ親子の元へ向かった。
なんとか弱味をほじくりまわして強引に話を進めたが、もしバロンと手合わせをしなかった、または手合わせに負けていたら、きっとこんな結末には至れなかっただろう。
手合わせに勝てて本当に良かったなと、心底思う。……悪魔に身体を乗っ取られて暴走したことは別だが。
※※※
「タジマ親子のお部屋はたしかここでしたね」
魔汽車三両目の、タジマ親子がいた部屋の前に来た。さすが、魔汽車の責任者。どこに誰がいるのかちゃんと把握しているようだ。
扉をゆっくり二度ノックし「タジマ様、失礼しますよ」と言い、バロンが部屋に入るとそれにみんな続いた。
「突然申し訳御座いません。私、当魔汽車を任されている責任者のバロン・ゲーデと申します。今、少しよろしいですかな?」
被っていたシルクハットを手にし、丁寧にお辞儀をして返答を促した。その礼儀正しい老紳士っぷりは、先ほどまでハッスルして戦っていたテングの姿とは程遠かった。
「はい、何か用でしょうか」
生気のない表情をした大人の方の半透明が答えた。ちっこい方はこちらを向いているが黙っている。
「ちょっと相談なのですが、貴方達親子を肉体にお戻ししようと思っています。何か不都合や異存はありませんか」
親子二人は相変わらず生気のない顔だったが、ぽかーんとしていた。いきなりそんなことを言われれば、誰でもそうなるだろう。
そしてやや間があってから反応が返ってきた。
「え……はい? それってもしかして、生き返れるってこと……ですか?」
「ええそうです、平たく言えばそういうことになりますね」
生気のない親子の顔に光りが戻り、わぁっと驚きと喜びで笑顔が咲き誇った。そして「やったぁ!」と抱き合うのだった。
「でも、いきなりどうしてですか⁉︎ 私達、雪崩で死んだハズでは?」
バロンはバツが悪そうにシルクハットを目深く被り答えた。
「こちらのマキさんが、どうしても貴方達が雪崩の災難にあったことから救いたいと申していましてね。……今回は特例中の特例ですけどね」
お父さん半透明がマキに駆け寄り、手を握って嬉々とした顔で言った。
「マキさん! 本当にありがとうございます‼︎ そういえば先ほど来られましたよね? どこぞの方かは存じませんが、なんとお礼を言ったらいいか」
とりあえずこれまでの経緯をかいつまんで説明することにした。奥さんのメグミさんがウチの事務所に来たこと、依頼を受理したこと、そしてバロンとの約束で生き返してもらえることなどを簡単にサッと説明した。
「そうでしたか。何から何まで本当にありがとうございました。メグミには心配させてしまったようですね。はやく元気な顔をみせてやらなければ。なぁヒロト!」
「うん! はやくママに逢いたいな‼︎」
どうやら異存はないようだ。
「バロン、この二人の魂を肉体に戻すってことでいいよな? それと俺達も元の場所に戻してくれ」
「そうですね。では一旦『フジノジュカイ』に戻りましょうかね。タジマさん達の解放もその時になりますので」
バロンがパチンと指を鳴らすと、魔汽車は『冥府行き』から反転し、『フジノジュカイ』に進路を変え、来た道を戻って行くのだった。




