第五話 レッツ・マキ車‼︎ (後編) 〜 怪物vs怪物 〜
バロンの策略に不本意ではあるが、フュージョンして応戦するしかないだろう。
「仕方ねぇ、フュージョンだ!」
姉妹が収まっている上着を脱ぎ捨て、気を集中させた。
……おっ、きたきた。この感じ、なんだか久しぶりなような気がする。湧き上がる高揚感に血に飢える感じ、悪魔そのものになるような気分だ。
「あぁー、はっはっ。あはははは! へへっ、張り切ってんな。げひゃ、ひゃぁっはっはっ! ん、ンラァァァァァァァァァァっ! アガレスっ! フューッジョン!!」
赤黒い光に包まれると、例の如く急激な体組織再構築が始まる。身体のあちこちが軋み激痛が走り続け、耐えきれずその場にうずくまる。そしてひとしきりするとやがて落ち着き、今度は身体の奥底からマグマが爆発し噴き出るかのように熱く燃えたぎる。
「ンンンンンっ! ラァっ‼︎」
フュージョンが完了し赤黒い光も静まる。毎度ながら一苦労だ。しかしこの激しく昂ぶる高揚感と、好き放題壊して悦に浸りたいという快楽的破壊衝動……嫌いじゃねぇぜ‼︎
「グハハハハハ! オラァッ! お望み通り『全力』で行くぜテング野郎っ‼︎」
姉妹にとっては初めてのフュージョンだ、きっとびっくりしていることだろう。……今はモノになっているので見えているのかどうかはわからないが。
「おおっ、これがあなたの『全力』ですか! まったくもって素晴らし……ぶべぁっ!」
一人で盛り上がって、身振り手振り付きでゴチャゴチャ喋っているテングの横っ面をぶん殴った。ものすごい勢いで吹っ飛んでいく。
「あいたたた、まだ話の最中だというのに。それにしても凄まじい威力です、おかげで首が折れてしまいましたよ」
テングの顔は身体の向きとはチグハグな、おかしな方向を向いていた。テングは躊躇することなく、明後日の方向を向いた顔を両手で抑え、ゴキッバキっと骨を繋ぎ直した。
「グハハハハ! オマエはバカか。戦いの最中にベラベラ喋りやがって。次は首だけでは済まさねぇぞ!」
もう一度飛び上がり、そこからテングに向かって一直線に滑空した。今度はさらなる威力でお届けしてやろう。
「私だってやられてばかりではありませんよ。《旋風妖陣》!」
葉っぱのうちわを勢いよく一振りした。するとテングを起点に横向きのスクリューのような竜巻が起こり、こちらに向かってに近づいてくる。
「グォ! なんだこれは‼︎」
その強烈な竜巻は飲み込んだものを自分の回転している方向に、なんでもかんでも振り回す暴れん坊だった。超高速で滑空中のアガレスはそれに巻き込まれてしまい、ぐるぐると振り回されてしまった。翼力や方向感覚を失ったアガレスは、力無く墜落していく。
それに狙いを定めたテングが叫んだ。
「そこです! チェストォォォ‼︎」
テングは稲妻のような強烈な飛び蹴りを放った。
「グバァ!」
アガレスは腹にその飛び蹴りをくらって吹き飛び、やがて浮島の最果てに墜落した。
「……やるじゃねぇか。グハハハハハ。おもしれぇ、おもしれぇじゃねぇかテング野郎‼︎」
意外な展開に面食らったが、強敵の出現に心が躍った。初めてかもしれない、アガレスと充分にやり合える相手は。
葉っぱのうちわで涼しげにあおぐテングは言った。
「そういえば先ほどのあなたは刀を使用していましたが、今は素手なのですね。いいでしょう、私も武具を置き、素手でお相手しましょう。さぁ、心ゆくまで殴り合いましょうか!」
テングは錫杖とうちわを地面に置き拳を構えた。
「グッハッハ! お得意の武具を置いたこと、後悔するなよ。あとで泣き言を言っても聞かねぇからなっ‼︎」
一歩の踏み込みでテングとの距離を縮めた。そして勢いの乗ったストレートをお見舞いする。
しかしテングはややかがんで上体を横にスウェイして避けた。ガラ空きのアガレスの腹をアッパーで突き上げる。
「グッ……。グハハハっ! まだまだぁ‼︎」
アガレスは踏み留まり、両手を頭上で組みそのままテングの頭に振り下ろす。
テングは「ブッ」と声を発した後、顔から思いっきり地面に突っ込んだ。その隙をついてさらなる追い打ちを仕掛けるが如く、横っ腹をボールを蹴るかのように容赦なく蹴り飛ばした。
テングはかなり遠くまで飛んで行ったが、残念ながら浮島から落ちはしなかった。
「……あはっ、あはははは! なんて楽しいのでしょうか、あなたとの戦いというのは。興奮しすぎて……殺してしまいそうです」
ふらふらと起き上がるや否やそう言った。どうやら残念ながら突き出た鼻は折れてはいないようだ。
土を払いすぐに拳を構えると、今にも飛び出して来そうな勢いで嬉々として言った。
「行きますよっ! 黒い怪物さん‼︎」
その浮島の端から跳躍し、空中で一回転して着地に合わせかかと落としを放った。それを横に飛んで避けると、命中した地面には穴が空き、そこから縦横無尽に亀裂がはいる。当たっていたらどうなっていたことやら。
続いてテングはワンステップで追いかけてきて拳の連打を繰り出す。それを一つ一つ丁寧に受けて軌道を逸らし、受け流した。
「そらそらっ! 防御ばかりでは私は倒せませんよ」
「グハハ! そっちこそ、さっきの攻撃で頭が鈍ったんじゃねぇのか⁉︎」
反撃の前蹴りを放つが、テングは「おっと」と言いながら後ろに下がりかわした。二人の間に微妙な距離が開いた。
まだまだ勢いがあるように見えるテングも、やはりダメージは蓄積されているようで、少し動きが鈍っているように思える。拳撃に若干の乱れを感じられ、先ほどのように受け流すことも難しくはない。まぁ、ダメージが蓄積されている点はお互い様だが。
すかさず距離を詰め攻撃に転じる。打ち下ろしがテングの頰を捉えるが、踏み留まり反撃を繰り出す。テングのアッパーがアガレスの顎を突き上げた。その威力で半歩下がるが、負けじとボディに打ち込む。テングの身体はくの字に曲がりたじろいたが、負けじと反撃に渾身のボディブローを炸裂させた。
「ブボッ。グッ……」
それをもらい今度はアガレスがたじろく。
「あっはっは! お返しです。おまけにこちらもどうぞ!」
一歩踏み込み強烈なハイキックを放った。側頭部に直撃し数メートル吹き飛んだ。意識が朦朧とする。しかし、負けてはいられない。気合いの猫がえりで踏みとどまって態勢を立て直し、即座に反撃に移る。
「これは釣り銭だっ!」
飛び蹴りを放つとテングの顔面に直撃し、数メートル吹っ飛んでいった。
ひとときの静けさが訪れた。しかし、ややしてテングはよろよろと起き上がり、アガレスを見据えた。
沈黙の中、互いの視線が交差し申し合わせたように身構える。そして両者とも同じタイミングで飛び出し渾身の拳を放つ。放った二人の拳は凄まじい勢いで激突し、あたりに衝撃波が走った。
「やりますね、期待通りです」
「グハハ! 次こそ、その減らず口を黙らせてやるわ」
突き出した拳を一度引き戻し、今度は両腕で連打を繰り出した。テングも同じことを考えていたようで、鏡写しのように放たれた。
「オラァァァァァァァっ!」
「それそれそれそれぇっ!」
二つの巨体による、無数の拳の応酬がぶつかり合った。次第にアガレスが少しずつテングを押していき、優勢になっていく。
「これでくたばれっ! 《獄炎黒掌》ッ‼︎」
限界まで引いた右腕に赤黒い炎が燃え盛り、それを力の限りぶち込もうとした。
するとテングは危険を察知したのか、瞬時に両腕でしっかりとガードした。しかし構わずその燃え盛る右腕をガードの上から叩き込む。
ドゴンっ‼︎
鈍い爆音を立て、テングは防御した態勢のまま吹き飛びながら後退した。そして乗り移った赤黒い炎が、一瞬で激しく燃え上がりテングの身体を灼き尽くした。
「ぐ、おぉぉぉぉ!」
赤黒い炎に襲われながらも必死に耐え忍ぶ。ひとしきり獄炎が激しく燃え上がると、だんだんと勢いもなくなり静かに消えていき、テングはそれと時を同じくしてその場に倒れこんだ。
「ぐっ……さ、さすがにこのままではマズいですね。ダメージもさることながら、先ほどの攻撃で両腕とも力が入らなくなりました。まさかここまでとは……」
冷静な口調ではあるが、明らかに追い込まれて焦っている様子だった。
「仕方ありません、錫杖を使いましょう。負けるよりはマシです」
しぶしぶと錫杖のところへ移動し、痛みで痙攣する手で拾い上げた。
「グハハハ! やっぱり勝てなくてお得意の武具を使いますってか⁉︎ オマエは本当に情けないヤツだな!」
「なんとでも言ってください。勝つと負けるとでは、天と地の差がありますからね」
構えた錫杖を天にかざすと、黒い雲が現れ浮島の上空を包んでいった。
「はぁ、まさかここまでしなくてはならないとは……《雷神招来》!」
巨大なイカズチが黒い雲からテングの錫杖に落ちた。すると錫杖から青白いオーラが放たれるようになり、忙しなくバチッバチッと帯電するようになった。
「さぁいきますよ。はいっ!」
錫杖を振りかざした。イカズチが上空の黒い雲からいくつか落ちた。直撃した地面には大穴が空き、土を巻き上げその威力を物語った。
これは……当たったらマズくないだろうか。
落雷は次第に激しくなり、始めは当てずっぽうのようにテキトーな所に落ちていたが、だんだんとアガレスの周囲に落ちるようになっていった。
どうやら狙いが定まってきたように思える。
「突っ立ってては当たって黒焦げになってしまいますよ? 逃げなくても良いのですかな?」
その矢先、ついにアガレスの立っていた場所にイカズチが落ちるところであった。それを察知し横にステップしてかわす。しかし、かわした場所にまた次のイカズチが落ちる。そしてそれをまたかわすの繰り返しであった。
「あっはっは! もっともっと逃げ惑わないと当たってしまいますよ!」
ちっ、面白がってやがる。面倒だ、アイツをぶん殴ればどうにかなるだろう。
落ちるイカズチをかわしながら徐々にテングに近づき、一気にたたみかけようとしたその時だった。
「そこですっ!」
錫杖をアガレスに向け、先端から大きなイカズチのような電撃を放出した。
「グァァァァァ!」
落雷を避けるのに気を取られ、錫杖からの強烈な電撃を浴びてしまった。その威力で全身の神経が焼き切れそうだった。
「あはははっ! 結局、黒焦げでしたね。ま、元から黒いので焦げたかどうかはわかりませんけどね」
電撃のせいで、まだアガレスの身体中からプスプスと湯気らしきものが立ち昇っていた。
……クソっ! ふざけた野郎だが強さは折り紙つきだ。今さら後悔しても遅いが、錫杖を持つ前にトドメを刺しておくべきだったか。
「さぁ、手合わせは私の勝ちですね。認めますかな?」
また錫杖を向けた。納得のいかない答えだったら再びあの電撃を放つのだろう。
「ぐっ……クソ!」
「クソ……? そんな答えを聞きたいのではありません。降参かどうかを問うているのです」
この圧倒的に不利な状況で、勝ち負けもほぼわかっているのにわざわざ聞いてくる……本当にクソったれなヤツだ。
「さぁどうなんですか⁉︎ 認めないならまた痛い目にあってもらいましょうか」
錫杖の先で電撃がバチバチと音を立て始めた。
……その時だった。
「吼えろ魂! Get on force!」
脱ぎ捨てた上着のポケットから姉妹がいつのまにか擬人化し、魔Rockを奏で始めた。
「もう見てらんねぇぜ、行けぇマキっ! もう一度アイツをぶん殴ってこいっ‼︎」
「マキさん、応援してます! 負けないでくださいっ‼︎」
キリカとエレンは昂ぶる想いを乗せて激しく演奏した。
身体中に力が湧いてくる、これならもうひと暴れ出来そうだ。
「二人とも、恩にきるぞ……ん⁉︎」
湧き上がってくるのは力だけではないようだ。……これはいったい。魂の底から『何か』が込み上げてきて、今にも沸騰しそうだ。
「グハハハ! グハッグハッ、ブッコワス。ゼンブブッコワス‼︎」
「ほほぅ。まだそんな元気がありましたか。では、もう一度くらいなさいっ!」
錫杖から再び強烈な電撃が放出された。




