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Laugh Chaos  作者: signal.U
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第五話 レッツ・マキ車‼︎ (後編) 〜 バロンとの仕合 〜

「では、行き先を変更して少し寄り道をしましょう」


そう言いくるりと背を向けたバロンの両腕に青白い炎が燃え盛った。そしてその場で、見えない舵をきるような動作をしだすのだった。すると真っ直ぐ走っていた魔汽車が急カーブを曲がるように、横に少し傾いた。


どうやらバロンは魔汽車を操縦しているようだ。魔汽車は目に見える物質的な舵で操作するのではなく、何か魔力のような特殊な力で操縦するようだ。


ややしてバロンは、魔汽車を異空間に浮かぶ小島のような岩の塊に到着させた。その岩の塊は平べったく、半径百メートルくらいの正円のような形をしている。


気のせいだろうか、この浮島は壁のない決闘場のようにも見える。


「いやぁ、ここを通る度にいつか強き者と戦いたいとずっと思っていたんですよ。今日はそれが叶って胸がときめいてしまいますね」


勝手に言ってろ。それにしてもさっきまでの冷静沈着な感じとは違い、興奮しているのか饒舌になっているようにも思える。そんなにここで戦いたかったのだろうか。見かけによらず戦闘好きなのだろうか。


「私もこう見えて武を志す者の端くれ。普段は魔汽車を操縦していますが、たまには思いっきり身体を動かしてぶつかり合いたいのですよ。こんな毎日なのでだいぶ身体が鈍ってしまったかもしれませんが」


そう言いながら準備体操をしている。張り切りすぎだと思う。


「そうかい、どうでもいいがさっさと始めようや」


「つれないですねぇ。おや、そちらのお嬢さん方も来られたのですか? 危ないですよ、魔汽車にお戻りいただいた方がよろしいかと」


姉妹はお互いに顔を見合わせた後、マキの方を向いた。


「おいマキ、ああ言ってるけどどうする?」


「今回はただの手合わせだ。出番はないだろうから魔汽車に戻ってていいぜ」


しかしエレンは反対した。


「いえ、ここに残ります。万が一、出番になるようなことがあるかもしれません。魔汽車には戻らずに一緒にいた方が良いとワタシは思います。ただバロンさんもああ言ってますので、とりあえずポケットに入っておきますけどね」


エレンがモノに戻ってポケットに入ると、キリカも「じゃ、そういうことでまた後でな」と言い続いた。


「ほほぉ、使い魔でしたか。これはまた珍しいのを連れてますね」


「放っとけ。コイツらのことはいいから始めようぜ、バロンさんよ」


抜刀して構える。対してバロンは杖を構えた。


「おいっ、お前の得物はその杖でいいのか⁉︎ それともまさか魔汽車に得物を置いてきちまったのか⁉︎」


バロンは静かに答えた。


「いいえ、私はこの杖でいいのです。さぁ、心置きなく楽しみましょう」


いらん心配だったようだ。相手が杖だろうが何だろうが遠慮なく行かせてもらうが、バロンに異存はないようだ。さっさとやってさっさと帰らせてもらおう。


「行くぜっ!」


ダッシュで駆け寄り一気に斬りかかった。


キンっ!


バロンは杖を頭上で横に構え、杖先を手のひらに乗せて両手でその一撃を受け止めた。


「さすがですね。素早い動きに力強い斬撃、申し分ないですね。だがしかし」


バロンは身体を横に向き直らせながら杖を斜めに傾け刀をいなすと、一歩力強く踏み込んだ。


「そこです! 《斗泰山(とたいざん)》!」


シルクハットを片手で抑え、ややかがんだ態勢から肩と腰で突き上げるように体当たりを繰り出した。


危機を感じたが対応なんて間に合うハズもなく、もろにくらって吹き飛んでしまった。


「……くっ、痛てて。杖なんかで戦うっていうからどうかと思ったが、全然問題ないって感じだな」


オニも強かったが、このバロンという男もまた違った強さを持っている。


「ええ。私はこの杖と体術の組み合わせで戦うのが一番ですからね。どうぞ気兼ねなくかかってきてください」


そう言い軽くお辞儀をした。


どうやら手合わせと言わず、本気でかからないと足元をすくわれてしまいそうだ。負けても問題ないようだが、満足させられなければただの骨折り損だ。とりあえず、バロンが満足するまではこちらも全力で付き合わなければ。


「もういっちょ行くぜ! 準備はいいかい⁉︎」


「もちろん。いつでもどうぞ」


今度は疾風の如く駆け抜け、一気に距離を縮める。そこで側面からの横一文字の斬撃を仕掛ける。


しかしバロンは片手でシルクハットを抑えながら飛び上がり、その斬撃をかわした。


続いてマキはその攻撃でついた勢いでくるっと横に一回転し、回し蹴りを放つ。着地したバロンはこれをすんでのところで顔の横でガードした。


「そうですそうです。いいですね、やはりそうこなくては」


バロンはガードしながら楽しそうに言った。


「チッ」


脚を下ろし斬撃に切り替える。拳を繰り出せば届くその接近した間合いで激しく斬りかかった。


右斜め上から。キンっ!


左側面から。キンっ!


真上から。キンっ!


マキの斬撃はバロンにことごとく防がれてしまっていた。


「えぇーい、ままよ!」


キンキンキンキンキンキンキンキンっ!


刀と杖がぶつかる無数の音があたりに鳴り響いた。様々な方向から斬りかかり、それこそ滅多斬りにした。しかし、その全ては防がれてしまっていた。


「ふむ、なかなかの太刀筋。しかしまだまだ無駄な動きが多く荒削りですね」


静かに澄ました眼からは、今までの誰よりも強く凄まじい威圧感を感じる。気のせいかもしれないが、何か強大な力を秘めているようにも思える。


「うらぁ!」


力の限り袈裟斬りをかました。やはりまた杖で防がれるわけだが、今回はそれで良し。


「へへっ、かかったな。《瞬迅》ッ!」


その超接近状態から思い切り踏み込み、ショルダータックルをぶちかました。今度はバロンが吹き飛ぶことになった。


「……ぐっ、あいたた。ふふっ、これはなかなか奇をてらった攻撃でしたね。さすがに私も見当もつきませんでした」


バロンはニコニコと笑みを浮かべ立ち上がり、服についた土を払いながら続けた。


「あぁ、こんなに楽しいのはいつぶりでしょうか。ついこの時間がずっと続けばいいのにと思ってしまいますね」


心から楽しんでいるようだ。もうこの辺で終わりにしてくれないだろうかとマキは思った。しかし、バロンはそんなマキの気持ちなど知る由もなく杖を構えた。


「いや、失礼。それはさておき、次はこちらから行きますよ!」


杖をフェンシングのように前方に突き向け、無動作で瞬時に距離を詰めてきた。バロンはそこから高速の突きを放つ。


マキは上半身の動きでそれを横にかわした。すると空ぶった突きが『シッ!』と鋭い刺突音を鳴らしていた。杖とはいえ、こんな鋭い刺突がまともにヒットしたらタダでは済まないだろう。


それからまた何度か高速の突きを繰り出してきたが、なんとかそれらをかわした。


「ふふ。ではこれはどうですかね。《散華千雨(さんかせんう)》!」


超高速の無数の突きが炸裂した。最初の何発かは刀の腹で防いだが、あまりの猛攻にとても防ぎきれそうにないと感じ、一度バックステップで後ろに下がった。そこから反撃の一撃を放つ。


「斬り裂けっ! 《空牙》ッ‼︎」


バロンは攻撃を中断し飛び上がった。


ガキン!


空中からの杖による振り下ろしの強打と、それに合わせて繰り出した斬撃が激突した。


「はぁぁぁぁぁっ!」


「うらぁぁぁぁっ!」


せめぎ合う杖と刃が火花を散らす。


そして刀が杖を振り払い、二人の間合いは振り出しに戻るのだった。



※※※


「いやはや、ここまで血沸き胸踊る戦いは本当にいつぶりでしょうか。こんなに楽しめる方に出会えるなんて、私はなんて幸運なんでしょうか」


バロンはまたときめいていた。


「ああ、アンタ強いな。見た目からは想像できないほどにな」


変なヤツだがやはり腕は確かだ。戦ってみて思ったが、強さはほぼ互角であろう。


「ここで少しお聞きしたいことがあります。おそらくあなたも感じていると思いますが、このままだと勝敗はつかずラチがあかない。そうですよね?」


「まぁ、そうだな。だいたい同じくらいの強さだからな。べつに勝敗は関係ないって言ってたから構わないけど」


刀の背で肩をトントンとしながら答えた。


「そう言わずに相手に打ち勝ってこそ男でしょう。そこで提案です。どうでしょう、ここからは『全力』で戦いませんか⁉︎ 私もあなたも『本気』で戦っていますが『全力』ではないでしょう。私には感じるのです。あなたに潜む『力』を」


それを言うならお互い様だろう。バロンからも何かとてつもない『力』を感じている。その正体はわからないが。


「いや、勝ち負けはどうでもいいって言ったから話に乗ったんだ。しかもアンタはもう充分に楽しめたんだろ⁉︎ 約束はもう果たしたんだ、さっさと元の世界に帰してくれや」


どう見ても充分過ぎるほど楽しめているだろうし、本人もそう言っていた。もうこれ以上付き合う必要はないハズだ。


しかしバロンは不敵に笑った。


「さて、それはどうでしたかね。さぁもう私は『力』を解放して『全力』を出します。あなたも『力』を解放しないと、死んでしまうかもしれませんよ?」


するとバロンの姿は見る見る変貌していった。燕尾服は山伏(やまぶし)が着ているような白装束に変わり、シルクハットは頭巾に変わった。杖は錫杖になり、もう片手には葉っぱが揃えられたうちわのようなものを持っている。背中には翼が生え、顔は赤ら顔になり鼻が前に突き出している。テングだ、まさにテングがそこにいた。


それにしてもなんて汚ないヤツだ。約束を放棄してまで自分の欲望を優先させるとは、クソッタレにもほどがあるだろう。


しかしそんなクソッタレなテングでも、これまでにかつてないほどの威圧感を放っている。それを前にしてこのまま生身でいては、待つのは死あるのみであろう。

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