第五話 レッツ・マキ車‼︎(後編) 〜 一両目のバケモン 〜
件の一両目に進む。
やはり空間が歪んでいるのか内部はやたらと広い。しかも床は畳で壁は木造だ。まるで道場のようだ……しかし、なぜ?
中央には道着を纏った、半透明な白髪の老人が背を向けて正座している。他には誰もいない。
噂通りなら、この老人が例のバケモンということになる。たしかに闘気のような力強いオーラを発しているように感じる。武術の達人かなんかなのだろうか。
どうやらまだこちらに気付いていないようで、振り向きもしない。バケモンとはいえ老人だ、もしかしたら寝ているのかもしれない。いや、寝てて欲しい。
三人は顔を見合わせて小さく頷いた。どうやら全員の考えが一致しているようだ。足音をたてないように静かに移動を開始し、バレずに通過しようと試みる。
…………。
「お主ら、どこへ行く」
白髪の老人の横を通り過ぎややして、今一番聞きたくなかった声が聞こえてきた。
振り返ってみると老人は開眼しており、歳を感じさせない力強い眼差しを向けていた。その眼力の強さは、持てるポテンシャルがそうさせているのだろうか。
「いやぁ、この先に行きたいなぁ……なんて思ってるんだが。やっぱりダメ?」
老人はゆっくり首を横に振った。
「なぜお主らのような、まだ死していない輩がここにいるのかは知らん。だがそこの刀の若僧、お主からとてつもなく異様な雰囲気を感じる。何者だ」
さっきも言われたような気がするが、何者だと聞かれても……。なんて答えればいいのか迷う。
おそらく『悪魔の魂と融合できるフュージョナーだ』と答えるのが、老人の意図通りの答えになりそうだが、しかしここはあえて……。
「マキ探偵事務所のマキだ! 文句あるか‼︎」
老人は呆れるように溜め息をついた。
あ、やっぱりこれじゃダメ?
「まぁ良い、一戦交えればわかることだ。だが手加減はせんぞ!」
すると老人は立ち上がり「はぁーっ!」と全身に力を込めると、小柄だった老人の身体が筋肉隆々となっていき、ダルマに二本の腕と二本の脚をくっつけたような、まさに筋肉ダルマに変貌した。
そして額に二本の角、剥き出した尖った歯……その様相から察するに『オニ』だろう。
記者風の半透明の言う通り、とんでもないバケモンがいた。身長も二メートル近くある筋肉ダルマだ、コイツはかなり手強そうだ。
一旦、壁際までステップ移動して様子をみることにした。姉妹も危険を察知したのか、入り口の方に避難していた。
「行くぞ、若僧っ!」
オニはその丸太のような脚で床を蹴り、一瞬で間合いをゼロにした。そしてその超高速低空跳躍から全体重を乗せた渾身の右ストレートを放つ。
「ぅわっ!」
その剛腕をギリギリのところでかわした。
オニの伸びた腕は、そのまま壁に直撃し爆音を立てた。車両の側壁に無数のヒビを走らせ、その桁外れの破壊力を物語らせた。
……な、なんて凄まじい破壊力なんだ、こんなのくらったらひとたまりもない。接近戦は危険だ、ここは距離をとりながら戦おう。
素早いステップで距離をとり、しっかりと両の脚を床につけた。そして柄に手を置き一気に振り抜く。
「斬り裂けっ《空牙》!」
放たれた衝撃波はオニに向かって一直線に飛んでいった。しかし、オニはその衝撃波を軽々と飛び越え、さらにそのまま飛び蹴りを繰り出した。
「うげっ」
またギリギリのところで横っ飛びをしてそれを回避した。ガシャドクロの時のようにはいかないってな。
それにしても、デカい割に動きが速い。この先も回避し続けるのは困難だ。
「フンっ、ちょこまかちょこまかと小賢しい! もっと歯ごたえのあるヤツだと思ったが、期待はずれだったか⁉︎」
「勝手に期待すんのは構わねぇけど、こちとら生身の人間なんでね。お前のそのバカ力なんてくらったら一発でアウトだっつーの」
とにかくコイツを葬るにはどうすればいいのか考えなければ。攻撃を削ぐなら腕、動きを止めるには脚狙いといったところだろうか。とりあえず脚を止める方が現実的か。
「来ないならまたこちらから行くぞ!」
オニは床を蹴りまた一瞬で距離を詰める。打ち下ろしの左を繰り出すがそれをかわし、続いて打ち下ろしの勢いでぐるっと縦に一回転し、かかと落としを放つ。奇抜な攻撃に反応が遅れ、危ういところだったが薄皮一枚で避けた。
しかしマキはその攻撃の鋭さに頰が切れ出血し、おまけに態勢を崩してしまった。
「これで終いだ若僧。《崩地殴打》!」
オニは小さな跳躍から頭上で組んだ両腕を一気に振り下ろした。
「マズっ! 《瞬迅》‼︎」
一瞬で飛び上がりオニの強撃から免れた。オニが放った《崩地殴打》は畳をカチ割り、縦横無尽に亀裂を入れ車両を大きく揺らした。
後ろに逃げれば良かったものを、あまりの咄嗟だったせいか、腕が振り下ろされてくるというのに上に飛んでしまった。一瞬でも遅かったら、避けたつもりが逆に攻撃を受けに行ってしまうところであった。
しかしその判断ミスが絶好のチャンスを生んだ。なんとオニの頭上がガラ空きだ。この勝機を逃すまいっ!
「隙ありぃぃぃぃぃっ‼︎」
振りかぶった刀を力の限り一直線に振り下ろした。
バチンっ‼︎
……っ! なっ……う、嘘だろ⁉︎
オニはその剛腕で、頭上に降りそぐ刀を両の手で挟んで受け止めた。真剣白刃取りだ。
マキは刀は受け止められたが、なおも体重をかけながら圧をかけた。
……しかし、刀はピクリとも動かない。
オニは刀を受け止めたまま立ち上がり、頭上から肩の高さまで挟んだ刀を移動させて横蹴りを放った。
「ぐはっ」
マキはその強烈な蹴りで壁まで吹き飛ばされてしまった。
「惜しかったな、若僧。しかしまだまだだな。おっと、これは忘れ物だ」
真っ直ぐに投げられた刀は、壁にへたり込んだマキの顔のすぐ横に突き刺さった。
ぐっ……ナメた真似をしてくれやがって。
「マキさん、大丈夫ですか? もうそろそろワタシ達の出番でもいいんじゃないですか⁉︎」
「ハードなヤツやってやるから、アイツをぶっ飛ばしたれ!」
姉妹が駆け寄り提案した。
たしかにこのままでは危ないかもしれない。やられてしまっては元も子もない。ここは素直に魔Rockの力を借りるべきだろう。
「あぁ……そうだな、すまんがよろしく頼む。アイツの強さはマジでヘビィだぜ」
刀を壁から引き抜き、よろよろと立ち上がりながら言った。
姉妹は「あいよーっ!」と意気揚々に声を上げた。そして何もない空間から相棒の楽器をそれぞれ召喚し、スタンバイに入った。
「いつでもいいぜっ、マキ!」
「マキさん、準備オーケーです」
「よしっ、ディザイア・シスターズ魔Rock発動‼︎」
キリカはギンギンかき鳴らし、エレンはダラララとドラムを叩き始めた。いつになく激しいビートが響く。
「駆け抜けろぉぉぉっ、疾風ぅぅぅ怒濤ぉぉぉoh!」
キリカのシャウトと鳴り響く激しいビートが魂を揺さぶり踊らせるだけでなく、身体中に力を湧き上がらせる。
さすが魔Rockだ。これならもっと上手く戦えそうだ。蹴りを受けた所はまだ痛むが身体は軽い。
「さぁて第二ラウンドと行きますかね。オニさんよ、覚悟はいいかい?」




