第四話 レッツ・マキ車‼︎ 〜 厄介なヤツ 〜
天井に大穴が空き、座席シートもぐちゃぐちゃになった車両を出て、また一つ前部の車両に移動した。
白いテーブルカバーのかかった丸いテーブルと椅子のセットが、いくつか置かれている。その白いテーブルカバーの上には皿やフォークがキチンと並べられていた。どうやらこの車両は食堂のようだ。
「マキぃ。アタシ、腹減った。ここで何か食えないの? 今何時だか知らないけど、いつもの夜飯の時間なんて絶対に過ぎてるよな」
そう言いながら空腹のせいなのか、ヨロヨロとしながらテーブルに着席した。並べられているフォークとナイフをちゃっかり手に持つと「おーい、腹減った! メシくれぇ!」と叫んだ。
おいおい、誰に言ってんだよ。そんなこと言ったってどうしようも……えっ⁉︎
奥の方にある一室から「ウィ!」と言う声が聞こえた。するとコック姿の半透明が、手にいっぱいの彩り豊かな料理を持ってやって来た。キリカの前に手際良く並べると、スーッと奥の一室に戻っていった。
どうやら奥の一室は厨房のようだ、たぶん。……って、なにもんなんだアレ。半透明だらけのこの汽車で、メシ食うヤツなんているのか⁉︎ だってアイツら魂なんだからメシなんて食わないだろ。
しかしキリカは「わぁっ、うんまそうっ!」と言い目を輝かせていた。
まぁ、たしかに見た目は美味そうだ。でも食べても大丈夫なのだろうか。魔汽車で出された食べ物なんてどう考えても不安しかない。
そんな事を考えていると、ついにキリカがまさかの行動を起こした。魔汽車の料理にかぶりついたのだった。しかも躊躇なんてものを微塵にも感じさせず、次から次へとバクバクと口に運んでいく。
その光景に顔を痙攣らせた妹が、苦々しく発言した。
「お、お姉ちゃん……大丈夫? 何ともない?」
「ん、んめぇよ。これ。こんなにうめぇの、はじめてかも」
口いっぱいに頬張りながら言った。そのせいか口の中の物が何度かテーブルにダイブしたが、余程美味いのかキリカは構わずガツガツと豪快に食べ続けた。
唖然として見ていると、キリカは魔汽車料理をペロリと平らげてしまった。
「ふぃー、食った食った。ここの料理って意外にすんげぇ美味いんだな。あれ? マキもエレンも食わないのか?」
「いらん」
「いらない」
ほぼ同時に答えた。たぶんエレンも俺と同じ考えなんだろう。普通の神経だったら半透明やガシャドクロがいるところの料理なんて、食べようとは思わないだろう。しかも半透明が出した料理だ。キリカの神経の図太さにはビックリである。
ま、食べてしまったものはしょうがない。次の車両に移って早く確認作業を再開しなければ。
「ほれ、さっさと行くぞ。もたもたしてっと冥府についちまうぞー」
姉妹は「はーい」と返事をした。キリカはさらに「ゲフッ」を追加した。
食堂から出ようと前部側のスライド式ドアに手を伸ばすと、キリカが「ちょっと待って」と言い足を止めた。何かと思えば厨房と思しきところに赴き、ドアをバッと勢いよく開け「ごちそうさまでした!」と叫んだ。
ああ、なんて律儀だこと。そんなことはいいからさっさと次に移動したい。
キリカがパタパタと小走りで戻ってくると、なぜか顔が青ざめていた。まさか……。
「ん、どうしたキリカ。顔色悪いぞ、やっぱり当たったのか? さっきのメシ」
「ちげえよ! いないんだ……厨房に誰も!」
マキとエレンは「えっ⁉︎」と声を上げ、厨房に行きガバっと扉を開けた。本当に中はもぬけの殻だった。
「あれ? たしかに料理運んできた半透明がここに戻ってったハズなんだが……」
まぁ、べつにいなくても全然構わないんだが。もともと半透明が姿を消せる性質を持ってるのかもしれないし、そんなことは今どうでもいい。
……いや、待てよ。姿を消せるのは都合が悪いじゃないか。タジマ家の魂達が魔汽車に乗っているにも関わらず、なんらかの理由で姿を消しているようだったら、今回の依頼は……。
「お客さぁん、あっしの仕事場。覗かれちゃぁ困るよ」
突然背後から声がしたもので、三人とも「ひっ!」となってしまった。後ろを振り返ると、さっき料理を運んでいた半透明が立っていた。
「そんなにあっしの料理が口にあわなかったんですかねぇ。そうですよねぇ、わざわざ厨房まで来るんですもんねぇ。さぞかしマズかったということですよねぇ」
どうやら料理を運ぶだけでなく、魔汽車料理を手掛けるのはこの半透明なようだ。
しかし、いきなり何を言っているんだこのコック半透明は。とにかくよくわからん思い込みが激しい。
するとキリカが慌てて言った。
「そうじゃねぇって! 美味かったからただお礼を言おうと思っ」
「あっしの料理はそんなにマズいってのか⁉︎ おおっ、そうかいそうかい。上等じゃねぇか!」
キリカの話など微塵にも聞いておらず、しかも言い終わる前にいきなりキレはじめた。どうもマズい展開だ。
「おいっ! こんな美味いもんの味もわからねぇで、メシ食ってる罰当たりなヤツなんかやっちまえ!」
その号令がかかるとコック半透明の両脇でつむじ風が起き、二匹のイタチが現れた。そのイタチはイタチにしては比較にならないほど大きく、腰ぐらいの背丈がある。しかも二足歩行で両手が大きな鎌になっている。……カマイタチというわけか。
「味のわからんヤツに存在価値なしっ! 滅多斬りにしてやるっ!」
コック半透明は二匹のイタチより、倍近くデカいカマイタチの姿になった。
やれやれ。本当に人の話は聞かないわ、思い込みは激しいわ、戦闘になるわで厄介なヤツだ。無駄な戦闘は避けたいところだが、見逃してはくれなそうだし仕方がない。さっさと片付けて先を急ごう。
「おい、そこのコック。俺はアンタの料理を食ってすらないが相手になってやる。あいにくアンタが怒りをぶつけているウチのキリカは非戦闘員なんでね。責任者の俺がそのクレームに対応するってことでもいいよな」
コック・ザ・カマイタチはすぐに返答した。
「責任者だと⁉︎ 部下がダメなら上司のオマエも、どうせ本当に美味いものがなにかもわからねぇんだろ⁉︎ いっそのことまとめて切り刻んでやる!」
なんだかキリカと一緒にされた。少なくても、俺はこんなところで出された料理を食べようとは思わない。まぁそれよりも、誰もマズいとは言っていないし、むしろキリカは美味い美味いと大絶賛していたくらいなんだがな。
そんなことはいざ知らず、小さい方のカマイタチ一匹が飛び出した。身なりの小ささも相まってかかなり素早い。一瞬で切り掛かってきた。
キンっ!
すんでのところで刀を抜き弾き返した。小さいカマイタチはその反動で壁に激突した。
それを見て憤慨したもう片方の小さいのが続けて飛び出した。しかし、攻撃せずにヒュンヒュンと四方八方を高速で飛び回った。正面からではダメだとわかったのか撹乱作戦に出たようだ。吹っ飛ばされた方も起き上がり、それに加勢した。
二匹が高速で飛び回る範囲に、いつのまにかキリカとエレンも巻き込まれてしまい、「きゃぁぁぁぁ!」っと抱き合いながら叫び声を上げていた。
これはマズいな、標的は俺だけでいいんだが。
二匹のカマイタチが姉妹を狙っているかどうかはわからないが、とりあえず姉妹の前に立ち、どこから攻めて来てもいいように気を集中させた。
ヒュンヒュンと高速で飛び回っているカマイタチは、次第に間隔を狭め近づいてくる。どうやらそろそろ頃合いのようだ。
側面から一匹、両手の鎌を振り上げ飛び込んで来る。それに瞬時に反応して刀の腹で防ぐ。しかしカマイタチは攻撃を防がれてもなお、両手の鎌にさらに力を込め圧力をかけた。その間に逆方向からもう一匹が襲撃する。
「へっ、そうくると思ったぜ」
襲いかかってきた所を後ろ蹴りで迎撃し、刀で抑えていた方はそのまま斬り上げ天井に激突させた。二匹でかかってくるなら、だいたい後発は先発とは逆の方向から攻めてくる。……セオリーだ。
二匹は時間差でバタッと床に落ちると、それぞれダメージを負ったところを鎌の付け根の手の部分で、痛そうにさすった。蹴り飛ばされた方の顔には、くっきりと足跡がついていた。
それにはボスであるコック・ザ・カマイタチも悔しかったのか、苦虫を噛み潰したかのような顔をしている。ほら出番だぜ、ボスさんよ。
「く、くそぉ。もういいっ三人で行くぞ! 覚悟しろ、味オンチめ!」
……なんか相変わらず色々と勘違いされているようだが、めんどくさいので聞き流すことにした。
それにしても、ボス単独ではなく協力プレイで来るようだ。なんか珍しくて新鮮だ。ちなみにこの時、すでに姉妹はまた遠くに避難していた。これで心置きなく戦えるだろう。
「はいはい、わかったからさっさとかかってこいや。こっちはこう見えても急いでるんでね」
味にうるさいボスカマイタチを挑発した。
「くっそぉ……味もわからないくせに生意気なヤツだ! 見せてやるぞっ、三位一体の技を!」
するとボスを先頭に二匹のカマイタチが後ろに続き、正面から突っ込んで来た。ボスの力強く素早い二本の鎌が唸りを上げ襲いかかる。予想していたよりスイングが速く、回避が間に合わないと感じこれを刀で受け止め両手で支える。
ガキンっ!
刀の腹と鎌が擦れ火花が散った。体格がある分なかなか重たい一撃だ。しかも両手での攻撃ときた。そのガラ空きの腹に蹴りでもいれて一気にたたみ掛けてやろうとしたその時だった。
ヒュッ!
ボスの股下から二匹のカマイタチが連続で飛び出し、足を片方ずつ切り払って駆け抜けて行った。
「これぞ三位一体の連携技よ! どうだ、避けられまい!」
ぐっ。地味な技だが切りつけられた両の足の部分が痛み、踏ん張りが効かない。このままではボスに力負けしてしまう……。
「さっさとあっしの鎌にかかってしまえ!」
ボスカマイタチはそう言いながら、なお一層力を入れてきた。
……ならばっ!
「あらよっと」
刀を斜め下に傾け、ボスの鎌を受け流した。ここぞとばかりに目一杯に力を込めていたのか、受け流された二本の鎌はその勢いの余り床にグッサリと突き刺さった。無論、身動きが取れなくなり、なんとか引き抜こうと躍起になっている。
チェックメイトだ。
ザシュン!
振り上げた刀を一気に振り下ろし真っ二つにブッた斬った。
ボスカマイタチら二つに別れその場に崩れた。二匹のカマイタチはというと、ボスがやられたことに焦っているのか、慌てふためき終いには逃げ出そうとすらしている。
しかしここは逃さず、足を切られたお礼をちゃんとしてあげなければ。
ザザシュン!
赤い眼を光らせた一陣の黒い風が吹き抜けると、二匹のカマイタチが宙を舞った。そしてボタっボタっと分断された身体が床に落ちるのだった。
「よしっ、これでいっちょ上がりだな」
マキはビッと刀を振り、付着した血を払い飛ばし納刀した。遠くに避難していた姉妹もマキに追いつき、安堵の表情を浮かべ言った。
「いやぁ助かったぜマキ。今回はまさかのアタシ達が危なかったな。巻き込まれるなんて思ってもみなかったしな」
「あの時はもうダメかと思いました……でも、マキさんがきっと来てくれるって思ってました!」
二人の感想を頂きながら、カマイタチ三匹の魂を吸う。だいたい三匹セットで中級悪魔ってところだっただろうか。ガシャドクロに続き、たいしたヤツではなかったが姉妹を巻き添えにしてくる場合もあるので、それは気をつけなければならないと痛感した。
「危ないと思ったらポケットに入ってればいいからさ。今回みたいに戦闘中はどうなるかわからんし、不測の事態が起きるかもしれんからな」
「でもよー、魔Rockはいいのかよ。そのためにこうして人バージョンで待ってるのに、全然要請ないけどいらないのか? これでブーストすれば戦闘が絶対にラクになるのになんでなんだ?」
いらないわけではない。要請しないのにはちゃんとワケがある。そういえばキリカの発言にちなんで、魔Rockでパワーアップすることを『魔Rockブースト』と呼ぶことにしよう。
「ここぞという時だけでいい。毎回、魔Rockブーストに頼ってぬるま湯に浸かってたら、強くなれるもんも強くなれんだろ? もしヤバくなったらそっちの判断でサポートを頼むよ」
姉妹は『えっ⁉︎ 意外っ‼︎』という表情をして顔を見合わせている。……なぜに⁉︎
「マキさんはいつもぐーたらですから、いつも楽して勝とうとしているタイプだと思っていました。意外とストイックな戦闘マニアだったんですね」
ぐーたらと思われているのも日頃の行いというやつのせいだろうか。ラクして勝つのも大変結構だが、こう戦いを生業としている身としては、やはり強者相手になると苦しい場面が出てくるであろう。そんな時に今ひとつ能力を発揮できないような気がしてならない。そしてそれは最悪死に直結する……ラクするリスクはデカい。まぁ、姉妹にはわからんことだろうが。ところで戦闘マニアって言ったか、エレンのヤツは⁉︎
「それはどうでもいいが、魔Rockの件はとりあえずそういうことで頼むよ。さっ次行こう。余計な戦闘をしちまったしな」
マキの一言にキリカは心なしかションボリした。
いや、そういう意味ではないんだが。いや、そういう意味になるのか。どちらにせよ、これでしばらくは危険な行動や勝手な行動はしなくなるだろう。
「出番がくるまではポケットに入ってればいいから。好きにしてくれてて構わないけど、危ない目にあっても知らないからな」
姉妹は「どうしよっか」と向き合い少しの間相談したが、結局このまま行くことに落ちついた。身の安全よりも好奇心をとったらしい……いかにもディザイア・シスターズの姉妹らしい選択だと思う。
とりあえず戦闘中は離れていてもらえれば大丈夫だと思うが、しかしそれも絶対ではないことを姉妹に伝えておいた。




