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Laugh Chaos  作者: signal.U
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第四話 レッツ・マキ車‼︎ (前編) 〜 いつもと違う日常 〜

「なぁ、マキぃー。オマエ、毎日こんなんで退屈じゃねぇのかよ」


晴れ渡る青空の下、マキ探偵事務所はいつものように平和な日常を送っている……ハズだった。


『ディザイア・シスターズ』ことキリカとエレンが来てからというもの、平和が平和でなくなり、騒々しく落ち着かない日々に変わっていた。


「こんなんで悪かったな! 俺は昼寝とコーヒーブレイクが生き甲斐なの‼︎ 放っといてくれ」


キリカはとにかくアグレッシブな性格で、いつでも元気が有り余っているのかジッとしているのが苦手である。しかし妹のエレンの方は空気を読む方で、わりと大人しい。しかもちゃんと敬語を使う。一言でいうなら、姉はやんちゃで妹は真面目だ。


「お姉ちゃん! ここはマキさんのお家なんだから文句言わないの!」


妹が姉を叱った。普通は逆だろうと思うところだが、この姉妹ではこれが当たり前なのだ。


「えー、だってよぉ、暇なんだからしょうがねぇだろ。なぁマキぃー、どっか行こうぜぇ。楽しいとこに連れてってくれよぉー」


まるで暇を持て余した休日の子供のようだ。ぐうたらしたいマキにはまったくもって厄介であった。


「どっかってどこだよ」


「おっ! 行く気んなったか⁉︎ エレンっアレだよな! 『動物園』ってヤツに行ってみてぇよな⁉︎」


「うん! そこ行ってみたい! ペンギンっていうのとか、パンダっていうのがすごくかわいいんだよ‼︎」


「アタシはライオンとかトラってヤツを見てみたいぜ!」


姉妹は祈りを捧げる時のように両手を胸の前で握り、キラキラとした目でマキを見つめた。


かまったら負けと思い視線をはずし放っておいたが、いつのまにか目前まで迫られ沈黙の祈りを捧げられていた。


キリカさん、エレンさん、ち、近いんですけど……。


さらにどこから持ってきたのか、いつのまにか『動物園の楽しい歩き方』とかいう雑誌をこれ見よがしに手にしてアピールしている。


うっ……『めんどくさいから行きたくない』なんて、とてもではないが言えない。


「あ、ああ。考えとくよ、うん」


おそらく目が泳いでしまい、目線が明後日の方向を向いてしまっていたことだろう。嫌とも言えず、だからといって面と向かって『考えとく』とは言えなかった。


そんな曖昧な返しに、あきれた姉妹の野次が飛んできた。


「えーっ今じゃねぇのかよ! あんだよ、期待させんなよー」


「マキさん……ガッカリです」


……せがむ子供のお願いを見事に裏切った感覚とは、こんな感じだろうか。すごく胸が痛い。特にエレンの一言がそうさせたに違いない。普段は大人しく文句を言わないせいか、こういう時の一言が余計にダメージを増加させている。


「行かないとは言ってないだろ⁉︎ そのうちなっ! そのうち!」


姉妹からの冷めた視線が、さらに胸に突き刺さる。もう勘弁してください……。


そんな時だった。突然事務所の扉が勢いよく開かれ女が飛び込んできた。


「すいませんっマキさんっていますか⁉︎ マキ探偵事務所ってここですよね⁉︎」


「えっ⁉︎ はい、そうですが。どうかされましたか?」


女はその返答を聞くや否や「失礼します」と言いながらズカズカと事務所に入ってきた。


姉妹はというと、その光景を見て何か只事ではないことを察知し「じゃ、また」と言いモノに戻った。そしてポケットに納まる。


女性はいつのまにかすっかり来客用ソファーに落ち着いており、「えっ今のは?」と不思議そうに聞いてきたが、厄介なのでテキトーに「手品です」と答えておいた。


「ところで、何かお急ぎのようですが」


「あっすいません私、タジマと申します。夫と息子がもう一週間も前から消息不明なんです……。どうにか見つけてもらえないでしょうか……」


タジマと名乗る女は震える手をギュッと握り、涙ぐみながら言った。


詳しい話を聞くと、夫のナオユキと息子のヒロト、そして当人のメグミの三人家族で雪山登山に行ったのだが、運悪く雪崩に遭ってしまった。自分はすぐに救助隊に見つかり助かったのだが、その日の雪崩は激しかったようで、夫と息子は未だに見つかっていないとのことだ。もちろん、今も捜索隊が出て探してくれてはいるが、日にちの経過から希望は極めて薄いということだ。


それでもメグミは、居ても立っても居られなかったのだろう。


山に捜索隊が出ている以上、ウチが動いても仕方がないではと思う。当マキ探偵事務所では山登りに関することなんてサポートしておらず、それはもちろん山になど登ったことのないズブの素人だからだ。雪山なんて尚更のこと、逆に遭難してしまうリスクが高い。それに『変わったの』ではない。人手なら他を当たってもらうべきだろう。


「すいません、山に関してはなにぶん素人なもので。人手なら他を当たった方がよろしいかと」


「一応、『困ったらココ』みたいなのを聞きましたので、何か頼れるものがあればと思ったのですが……」


ジィさんのウィスパーボイスを聞いて来たのだろう。かなり都合の良いように解釈されている。ま、べつに構わないが。


しかし姉妹に続き、また期待を裏切ってしまっている。今回は仕事絡みでもあるし、なんとか希望に沿えられるかたちにしたい。何かウチにしか出来ないやり方はないだろうか……。


「なんとか安否だけでもわかればいいんですが、無理……ですよね」


いや待てよ。あるじゃないかあの方法が。いや、でもしかし……。


「方法がないわけではないのですが。ただちょっとどうかなと思う点がありまして」


メグミの心に希望の花が咲いたようで、俯いていた顔をガバッと上げた。


「あるんですか⁉︎ それはどういう方法なんですか⁉︎」


勢い余ってか机越しに乗り出した。余程どうにかしたいのだろう、藁にもすがりたい気持ちがひしひしと伝わってくる。


「とても言いづらいのですが。あの、安否確認ということなら、生存確認は捜索隊に任せておけばいいと思うんです。ウチでは死亡確認なら出来ると思うので、それで良ければ引き受けますよ」


マキの突拍子もない一言にメグミはフリーズした。


きっと『この人は何を言っているんだろう』で、頭がいっぱいになっているハズだ。自分でもメグミの立場だったら、この常識を逸した言葉に耳を疑っていたことだろう。


「あの、それはどういう……意味ですか。死亡確認だけをどうやってするんですか」


最もな質問だ。普通だったら訳がわからないだろう。


「ん、まぁ、それは企業秘密として、依頼はしますか? もし死亡確認出来なければ、きっとどこかでまだ生きているという、裏付けにはなると思いますが」


その手段を説明したところで、おそらく信じてもらえないか、頭のおかしいヤツと思われてせっかくのお客を逃してしまうだろう。それは避けたいので企業秘密だ。


「そうですね……とりあえず何も分からないよりは良いですよね。わかりました。この件をマキさんに依頼させていただきます」


バッグから少し厚めの茶封筒を取り出し、そっと机の上に差し出した。


なんかこの流れがすごく久しぶりなような気がする。よしっ、いっちょやりますか!


「ではお請けしますね。早くて明日には結果を報告しますので、連絡先だけ教えてください」



※※※



「おい、マキ。どうやって死亡確認ってのをするんだ? アタシにはサッパリだぜ」


タジマ家の奥さんが連絡先を残して事務所から出ると、すぐに姉妹は人の姿に戻った。キリカはさっきの話に興味津々なようで、さっそく疑問を投げかけてきたのだった。


「えっ、あぁ。肉体が死亡した場合に魂はある場所に集まり、冥府への道を辿る『魔汽車』ってのに乗るって話を聞いたことがあってね。そこにその二人の魂がなければ生きてるってことになるかなぁってさ。だからそれを確かめに行くだけだ」


本当に魔汽車ってのがあるかどうかはわからないが。でも何もしないよりは良いハズだ。


「へぇー、そうなんですね。で、死者の魂が集まる『ある場所』って、どこにあるんですか?」


エレンも気になるようだ。この姉妹は何かと好奇心旺盛だ。


「そんなに遠くないぜ。『フジノジュカイ』ってとこに、(おおやけ)にはなっていない古ぼけた駅と廃線があるらしくてね。そこに魔汽車が停車して魂達が乗っていくって話なんだ」


「じゃ、さっそく行こうぜ! いい加減、退屈過ぎてウズウズしてたところだぜ。なぁ、エレン⁉︎」


「うん! なんか面白そうだね! マキさんはやく行こぉよ」


キリカもエレンも行く気満々だ。この姉妹は恐怖心ってものがないのだろうか、普通はそんな死者の魂が集まるなんて聞いたら、行く気なんて起きないであろう。しかし姉妹にとっては好奇心の対象であり、完全に遠足気分なような感じもする。


「言っとくが、遊びに行くわけじゃないんだから、はしゃいだりしないでくれよ」


姉妹は「うん!」と声を揃えて言った。


……うーむ、超心配だ。絶対に面白がってるだろ。


「レッツ・マキ車! 行っくぜぇ‼︎」


「魔汽車だ!」

※ 第一話『変わったの専門』なんでね 〜ウチの『変わったの専門』って 〜 に挿絵が付きました。

ぜひご覧になってください!

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