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Laugh Chaos  作者: signal.U
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第一話 『変わったの専門』なんでね 〜 ウチの『変わったの専門』って 〜 ★挿絵有

日はすっかり落ち、漆黒に浮かんだ満月はギラギラと自己主張が強かったが、地上を照らすほどではなかった。


薄い霧の立ち込める人気のない暗い路地を、カオリはひとりさまよっていた。


「作戦は『とにかく歩け。で、何かいたら叫べっ!』って、ホントに大丈夫なの⁉︎ 気味悪くてめちゃくちゃ怖いんですけど」


一人ゴチた。しかし、そんな強気とは裏腹に足はガクガクと震えていた。


「だいたいこんな気味の悪い夜道を、女の子ひとりで歩かせるなんて、作戦とはいえありえないでしょ! ……ってまぁ、サヨのためだから仕方ないけど」


恐さ故か、とにかく独り言が多くなっていた。気を紛らわすにはこれだと、本能的に無意識に口から発していたのかもしれない。


縦横無尽に延びた路地は、侵入者を逃がさないと言わんばかりに、やって来た者の方向感覚を狂わせ道に惑わす。


ここに来るときはいつも日中に来ていたせいで気がつかなかったが、夜の暗さと霧の効果が相まって見通しが悪く、その先に路地がどう続いているのか視認が困難なほどであった。


初めてここに来た時に道に迷って、携帯の地図アプリを見ながらじっくり歩いたため、なんとなくここの構図は頭に入っていたが、それも心許無く感じるくらい視界が悪く気味も悪い。本当に幽霊か何か出そうな雰囲気だ。


カオリはおっかなびっくりな足取りで何か出てこないか心配しつつ、道に迷わないように祈りながら、周りに警戒して先に進んだ。


……ヒタヒタ、ヒタヒタ。


後ろから何か足音のようなものが聞こえてくる。


「う、嘘でしょ⁉︎ なにっ⁉︎ なにっ⁉︎」


思わず足を早めた。犯人の出現を狙った作戦にも関わらず、本心から言えばこの状況を信じたくない気持ちもあった。やはり恐いものは恐い。


ヒタヒタヒタ、ヒタヒタヒタヒタ。


足音もさらに早くなり、もっと近くなってきている。


「ヤバい、なんかいるっ! 来てる! 来てる!」


やはり何者かの気配も感じる。叫んでマキを呼ばなければならないが、思い過ごしで作戦が失敗してはマズい。


カオリは急ぎ足をしつつ、そっと振り返ってその正体を確認しようとした。


っ‼︎ いつのまにかすぐ後ろまで追いつかれていた。


「きゃぁぁぁぁ! マキさぁぁぁん! でたぁぁぁぁ‼︎」


驚きのあまり反射的に叫び声を上げていた。


「なにっ! なにこの緑のヤツ! ついてこないでぇぇ‼︎」


見たこともない異形の者を目の当たりにし、驚愕と恐怖で無我夢中で駆け出していた。


後ろからは相変わらずヒタヒタ聞こえてくると同時に「グェっグェっ」と変な声も聞こえる。


カオリはパニックを起こしながらも死に物狂いで走った。途中、足がもつれて転びそうになったが、なんとかこらえて必死に薄暗い路地を駆け抜けた。


ドテッ!


カオリは足下の何かにつまづいて、あろうことか顔面からダイブしてしまった。


「い、いったーい……」


不意につまづいた辺りを振り返ると、昼間見た地面のヒビがあった。必死で走っている内に、サヨの殺害現場に来ていたのだった。


「サヨ……。っ! げっ‼︎」


緑のヤツが追いつき、ちょうどヒビの所に立ち塞がった。平均的身長のカオリより少し小さいくらいの背丈で、長い尖った耳を逆立たせ、右手に棍棒のようなものを持ち、ニタニタと気持ちの悪い笑みを浮かべていた。


「ちょっとマキさぁぁぁん! はやく来てよぉぉぉ‼︎」


……しかし、カオリの助けを求める声はただ虚しく辺りに響いただけで、マキが現れることはなかった。


緑のヤツは相変わらずニタニタしながら「グェ、グェ」と気色の悪い声を漏らしていた。そしてゆっくりと自分の頭上まで棍棒を振り上げた。


あーん、もうダメ……殺される。マキさんのばかーっ‼︎


「グェェェ‼︎」


奇声と共に棍棒が振り下ろされる。


カオリは死を悟り、力いっぱい眼を閉じた。


ヒュン!


「……グェっ、グェェェっ?」


カオリの耳に緑のヤツの不思議がった声が入ってきた。


あれ、おかしい。痛くないし、緑のヤツが襲ってくる気配もない。


カオリは恐る恐る目を開けてみた。


「えっ……?」


緑のヤツが困惑していた。恐らく、先ほどまで棍棒を手にしていた腕が、丸々なくなっていたからだと思われる。そのなくなった腕の場所を、不思議そうにあれこれ色々な角度から眺めていた。


そして間もなく、ずっと聞きたかった声がようやく聞こえてきた。


「おう、ゴブリン。オマエの探し物はコイツか?」


鈍く光る刀を握りしめ、赤い眼をギラギラさせた男が立っていた。その男の片手には、棍棒を持った緑色の腕がくるくると回されていた。


「マキさんのばかぁ! 来るの遅いってばぁぁぁ‼︎」


カオリは極限の恐怖から解放された反動のせいか、涙が洪水のようにダバダバと流れていた。


「すまん。でもカオリちゃんさっきめちゃくちゃに走ったろ? それでどこにいんのかわかんなくなっちゃってさぁ」


「だって怖かったんだもぉぉん! しょぉがないでしょぉぉ‼︎ マキさんのばかばかばかぁ!」


カオリは泣きながらマキに駆け寄り、ポカポカとマキの胸を何度も叩いた。


すっかり話に取り残されていた一体は、それに対する怒りと、腕を斬り盗られた怒りを、マキに対して激しく主張しだした。


「グェ、グェ! グェェェ‼︎」


ゴブリンはだいぶご立腹なようだ。両手……いや、今は片手というべきか、腕を上げてジタバタしている。マキに対して怒りを表している、ようだ。


「うるせぇっ、ザコは寝とけやボケェ!」


シュッとカオリの横を突風が突き抜けた。


ザシュン!


挿絵(By みてみん)


マキは一瞬で斬りつけた。その音が聞こえた後、ゴブリンの身体は真っ二つにズルリと崩れ落ちた。


「え⁉︎ すごっ!」


カオリはそのマキの人間離れした疾風の太刀に驚愕し、いつのまにか号泣は止んでいた。


「へっ、他愛もねぇな」


マキは刀をビッと一振りし、ついた血を払い飛ばした。


斬り捨てられたゴブリンはというと、シューシューと音を立てながら蒸発している最中だった。なぜ蒸発しているのかはカオリにはわからなかったが、ゴブリンの身体は水蒸気のようなものを上げてどんどん溶けていく。


するとゴブリンの身体から、黒く燃えさかる小さな人魂らしきものが浮き出た。


なんだろう、あれ……。カオリには不思議でしょうがなかった。


……っ! フワフワと浮いていた人魂が、マキに向かって一直線に急発進した。


「マキさんっ! あぶない!」


「えっ⁉︎」


マキの身体に人魂がスッと入り込んでしまった。


まさかこれって……よくある『乗り移り』ってやつで、マキさんが急におかしくなるパターン……だったりしちゃわない、よね?


カオリの頰に嫌な汗が伝った。


「ま、マキさん、大丈夫……ですか? 私のこと、わかります……よね?」


「すーっ! はーっ! んんっ!」


えーっと、どっちなんだろう。この反応……。


「マキさんってばっ!」


「えっ何? なんか言った?」


……どうやら杞憂だったようで、至って普通に深呼吸しているだけだった。紛らわしい。でもよかったとカオリは安堵した。


「いやぁ、変な人魂がマキさんに入り込んだので、おかしくなっちゃうんじゃないかって思ったりしてしまったわけで……」


なんか言っててちょっぴり恥ずかしくなったのは秘密にしておこうと、カオリは心の中で思った。


「えっ? あぁ、アレね。俺は『吸魂』って呼んでるんだけど、カオリちゃんが見た人魂は、さっき倒したゴブリンの魂で、俺が自分から吸っただけだから、ぜんぜん問題ないよ」


ぜんぜん問題ないようだ。ぜんぜん色々よくわからないが、とにかく問題ないとのことだった。魂を吸う? ゴブリン? え?


「えーっと、色々よくわかんないんですけど、ゴブリン、でしたっけ? とりあえずあれは何だったんですか⁉︎ そもそもサヨを襲ったのはこのゴブリンってヤツなんですか⁉︎」


息巻くカオリの質問に、マキは冷静に答えた。


「ゴブリンっていう、下級中の下級、もう最下級の悪魔ね。超ザコね、うん。で、サヨちゃんを襲ったのは、たぶんコイツらのボスクラスのヤツ。ゴブリンじゃ、人間を真っ二つは無理だからね」


へぇー、あの緑のヤツ、悪魔だったんだね。……悪魔っ⁉


「なんか色々ツッコミどころ満載なんですけど、今のが下級ってことはボスクラスはもっと強いってことですか?」


「まぁな。たぶん中級クラスだと思うが、最悪の場合は上級クラスってこともあり得る。ちなみに俺が渡り合えるのは中級までで、上級はほぼ無理だな」


マキは軽く笑い飛ばした。その上級っていうのが出てきたらいったいどうするのだろうか。何かしらの対策は練られていると信じたい。


「それにしてもマキさん詳しいし、相当慣れてるみたいですね。悪魔と戦うのって珍しいことじゃないんですか? 私、初めて見たんですけど」


どう見ても手馴れているし、知識も豊富なように思える。マキにとって悪魔は珍しいものでも何でもなく、日常的な存在に見受けられる。


「ん? まぁな。ウチの『変わったの専門』って、『悪魔絡み専門』っていう意味だからね。あれ? 誰に紹介されてウチに来たかは知らないけど、それ、言われなかった?」


「いやぁ……全然知りませんでした」


カオリがまだ高校生の時に、都市伝説的な噂で、『相手がゾンビだろうが、ジェイソンだろうが、どんな変わったヤツでも退治してくれる人がいる』と聞いたことがあった。それでまたここ最近、どこで聞いたかは覚えていないが、そんな噂話をしている人がいて、たまたま思い出してそれに賭けてみたのであった。


今思えば、サヨのことで思い詰めていたとはいえ、そんな無茶苦茶な噂を信じて探し回った自分にびっくりだった。


……話しを戻そう。


「あの、そのサヨを襲ったゴブリンのボスクラスっていうのは、どこにいるんですか?」


「たぶん、もっとゴブリンどもをいたぶれば、怒って出てくるんじゃねーかなーって思ってるんだが」


そのゴブリンども……いや複数形ではなく一体だが、それはさっき斬り捨ててしまいましたが、他のはいったいどこにいるのでしょうか、マキさん。カオリは冷静にそう思った。


ややすると、霧の向こうから聞き覚えのある音がしてきた。さっきのヒタヒタだ。いや、さっきとは違い、今回のヒタヒタは何重にも聞こえてくる。


「はっ、ほらっ、早速おでましのようだぜ」


ゴブリンの小隊が出現した。ゴブリンが三体と、なんか変な長いジャラジャラした棒を持ったゴブリン一体の、計四体で編成されていた。


「マキさん、さっきとは違うのがいますよ」


「あぁ、ありゃゴブリンシャーマンだな。シャーマンっつっても名前は大層だが、仲間を呼び寄せることしかできない、ただのザコだ」


相変わらずマキは余裕をぶちかましていた。悪魔相手にこんなに余裕な人は他にいるのだろうかと、素朴な疑問がカオリの頭をよぎった。


「いくぜっ」


マキはまたシュッといなくなった。


ザシュン、ザシュン、ザシュン!


辺りに響く「グェェェ」の断末魔の叫びと共に、三体のゴブリンの身体はそれぞれ二つに別れ、地面に崩れ落ちた。


ゴブリンはまったく相手になっていない。マキとゴブリンでは明らかに格が違うようだ。


「いいぞー、マキさぁん!」


そして浮き上がった三つの人魂は、仲良くマキに吸い込まれていった。


「グフェ、グフェェェ」


ゴブリンシャーマンは焦っている、ように見える。するとそのままクルっと踵を返し、ヒタヒタとダッシュで逃げて行ったしまった。


「……あ、悪魔でも逃げるんだね」


当然の如く追い討ちをかけると思いきや、マキはまったく動こうとしない。ただニヤついてその場に突っ立っていた。


カオリは不思議に思い聞いてみた。


「追わないんですか?」


「あぁ。ほっとけばアイツ、ボスクラスを連れてきてくれるはずだからな」


あっなるほどね。さすがマキさん、あったまいー。

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