第三話 ワタシ達『ディザイア・シスターズ』‼︎ 〜 特別区域 〜
前に続く狭い通路をしばらく進み曲がり角を曲がると、また扉が待っていた。今度は鍵はかかっていないようだ。扉を開けると、眼前に赤絨毯の引かれた円形の広間が広がった。
壁に設置された本棚にはびっちりと本が並び、所々にテーブルと椅子がセットで置かれている。部屋の中央にはカウンターがあり、四十歳くらいのフォーマルスーツにベストの眼鏡男が鎮座していた。
どうやら熱心に本を読んでいるようで、こちらに気付いてはいないみたいだ。
とりあえずその司書に話しかけようと近づいて行くと、眼鏡男の司書はこちらに気付いたようで「おや?」と言い本を閉じ立ち上がった。
「あの、すいません。ヘルメスのジィさんの紹介なんですけど、『ディオニューソスのバチ』について調べたいんですが、何かわかりますか?」
「えっヘルメス様の⁉︎ ヘルメス様はお元気ですか⁉︎」
眼鏡美人とは真逆で気にかけてくれているようだ。どういう関係なんだろうか。
「えっ、あぁ。元気してますよ。さっき聞いたんですけど、ジィさん出禁くらってるんですよね」
「そうなのです! はぁとても残念です。私はよくここでヘルメス様とお話させていただいて、様々なことを教えてもらったりしています。ですので良き話し相手であり、先生のようなものです。しかし最近顔を出されていないので、どうされているのか心配で心配で」
本当に心配なようで溜め息混じりであった。それにしてもジィさんにこんな真っ当な知り合いがいたなんて驚きだった。当の本人はいつもあんな感じだからな。
ところでこの人、ジィさんを心底慕っているようだが、なんで出禁になったのか知っているのだろうか。こんなとこに閉じ篭っているわけだ、もしかしたら理由までは知らないのかもしれない。きっと聞いたら幻滅すること間違いないだろう。
「ジィさんなら大丈夫ですよ。さっきもくだらん冗談と腹黒い商売魂見せられたばかりですから。あの、もうそろそろ本題のバチについて聞きたいんですけど……」
「そうでしたそうでした、申し訳ございません。それについての記載のある蔵書に記憶があります。少し失礼しますね」
そう言うと迷わずある本棚に向かい、すぐに一冊の本を持って戻ってきた。もしかしてすべての本の内容と位置を記憶しているのだろうか。まさかな。
「はい、ではこちらになります。どうぞ」
差し出された本のタイトルは『魔性の禁具』と書かれている。
えっと、そうするとこのバチはヤバいやつってことか。でもそれもそうか、じゃなきゃ勝手に振動したりしないもんな。
「ありがとうございます。ちょっとそのへんの椅子、借りますね」
「はい、お好きな所をどうぞ。それとここの蔵書は持ち出し禁止ですので、この部屋内で読んで頂くようお願いします」
閲覧はここの広間限定だそうだ。やはり鍵付き扉の先の領域だけあって、貴重な本ばかりなのであろう。
適当な椅子に座り早速本を開き、バチに関するページを探した。
……あった。えーっとなになに。『音楽好きな神ディオニューソスが自分の魔力で作り出した楽器として、ピッグとバチがあると言われている。これを使用した音楽には魔力が宿り、肉体や精神へ作用することによって細胞をより活性化させ、能力を飛躍的に高めることができる。またその一方で精神汚染を可能とし、意のままに洗脳したり、煽動することすらできしまう危険な道具でもある。使用者次第で聖具にも魔具にもなる魔性の道具であるため、扱いには充分な注意が必要である。一説では、楽器ではなく魔力を分け与えた使い魔であるという意見もあるが、真偽のほどは定かではない』とある。
他にも形状や寸法など色々と書かれているが、重要なのはそこぐらいだ。一応目は通しておいたが。
ふーむ、緑色のバチだけでなく、緑色のビッグもあるのか。しかし振動のことはどこにも書いてないな。
本を司書に返し、他にもそのことについて書かれている本はないか聞いてみたが、ないとのことだった。この男がそう言うのならそうなのであろう。ならばこれ以上ここにいてもしょうがない。マキはいったん引き上げることにした。
司書に帰る旨を告げると「出口までご案内します」と言い先導してくれた。
来た道を戻るだけだったが、また鍵付き扉の前まで来ると司書はこちらに振り返り「では、ヘルメス様によろしくお伝えください。いつでもお待ちしています、またぜひいらしてください」と言伝を預かった。
鍵付き扉を抜けると司書が後ろでガチャっと鍵を閉めた。セキュリティ管理は万全のようだ。
外に出ると、あたりはすっかり夕方になっていた。帰りの途中で萬マ殿に寄り、ジィさんにわかったことを一度報告する予定だったが、これから向かうには時間が遅いし、本を読むとか慣れないことをしたためさすがに疲れてしまった。今日は帰ろう。
※※※
帰り道、車を運転していると急に助手席から妙な音がしてきた。何かと思ったらバチの入った箱が、ブルブルと振動している音だった。
すぐに車を路肩に停車させ箱を開けてみると、バチが赤いオーラを放ち小刻みに振動していた。ジィさんが言っていた通り、たしかに振動している。何故かはわからないが。
ややして振動はおさまり、何事もなかったかのように赤いオーラもピタリと消えた。いったいなんだったのだろう。本で読んだ片割れ的ポジションのピッグに、何か反応しているというのだろうか。




