第三話 ワタシ達『ディザイア・シスターズ』‼︎ 〜ジィさんの失態 〜
……んー、どうしたものか。調べたいことはわかっているのにどう調べていいのかが、全っ然わからん。
都内に佇む、一面ガラス張りで外も中も造形の美しい近代的な図書館で、マキは頭を悩ませていた。
さすが都立とだけあって館内の広さもさることながら、蔵書の数も膨大だ。こんな大きな図書館であれば、たいていのお目当ての物は見つかるであろう。
しかしマキはそうとはいかずに、図書館という迷宮をひとり彷徨っていた。
そもそも『ディオニューソスのバチ』なんて、どういった本に書いてあるのだろうか。どこに置いてあるのか、または本の名前くらいは聞いておけば良かったなとマキはつくづく後悔していた。
とりあえずディオニューソスといえば神様だ。マキは今いるオカルト系から離れ、神話関係の場所でも探してみようかと歩を踏み出した。
広い敷地内に所狭しと並ぶ本棚をあちこち見てまわると、備え付け検索機で本を探すサラリーマン、机で勉強道具を広げる学生、子供と本を選ぶ親子など、様々な人達とすれ違った。
図書館って意外と利用者が多いんだなとマキは思った。しかし、こんなとこをジィさんはうろついていたのかと思うと、なぜか釈然としなかった。
なぜだろうか、そう考えているといつのまにか目的の本棚にたどり着いていた。
見れば結構いろいろと置いてある。ひとまず『ギリシャ神話』というタイトルの本をとり、ディオニューソスの項を読んでみた。しかしそれらしきものは載っていなかった。他の本も読んでみたが、バチのことなど皆無であった。
おいおいマジか。『ディオニューソスのバチ』とか大層な名前がついているが本当はデマなんじゃないのか。それか知られていない裏モノか。
マキは色々と思考したが、一つあることがずっと引っかかっていた。
本当にジィさんがこんなとこで本を開いていたのだろうか、と。公衆の場で本を読んでいる姿が想像できないのだ。どちらかと言うと、暗がりで怪しい古文書のような分厚い書物を読んでいるイメージだ。
それにたいていのことは知っているだろうし、自称とはいえ悪魔博士で三百八十六歳だ。勝手な想像だが、図書館でみんなと一緒に座って読書なんてするわけがない。さっきから釈然としなかったのはこれが理由だろう。
そこで、ただの考え過ぎかもしれないが、何かこの図書館で特別仕様があるのかもしれないという考えに至った。都営のこんなに大きな図書館だ、裏仕様の一つや二つあっても不思議ではない。
とりあえず司書にこのことについて聞いてみることにした。どの司書も淑やかそうな若い女性ばかりだが、聞いてわかるのだろうか。
試しに近くにいた眼鏡美人の司書に聞いてみることにした。
「すいません。あの、骨董屋『萬マ殿』のジィさんの紹介で来たんですが……」
勘違いや相手が知らないことを考慮して、何が言いたいのか濁して言ってみた。こんなので通じるのだろうか。店の名前とジィさんって……そういえばジィさんの名前ってどれで通じるんだ? ヘルメストリなんとかの方か? マエダタダオ?
「あぁ、ヘルメスさんの」
そう言い、どこかいぶかしげに睨まれたような気がするが一応通じた。それにしてもヘルメスで通じるのか。ヘルメストリなんとかって、やっぱりただ適当に言ったわけじゃなかったようだ。
「はい。えーっと、調べたいことがあるんですけど」
これもまたザックリとした物言いだ。
「はぁ、ではこちらへどうぞ」
どこかへ案内してくれるようだ。やっぱり何か特別仕様があると判断して良さそうだ。司書の後に続いて歩いた。
「ジィさん……いや、ヘルメスのジィさんってよくここにくるんですか」
司書は後ろ姿だが、声の抑揚の無さから無表情で応えたと思われる。
「ええそうですね。最近はいらっしゃっていませんが」
さらに無表情のまま続けたと思われる。
「もっとも、出入り禁止ですから無理もありませんが」
えっ出禁⁉︎ 公共の図書館なのに⁉︎
「それはなにか大変なことをしでかしたってことですか? 貸出禁止の大事な本を持ち出したとか⁉︎」
「いえ? ウチの司書たちに度重なるセクシャルハラスメントです。とても迷惑していましたので、しばらく出入り禁止の処置を致しました」
……ああそっちね。これが自分で調べに来ないで俺にやらせた理由か。こんなんじゃ問い詰められたら眼も泳ぐわけだ。はぁやれやれ、裏があると思っていたがこんなくだらねぇことだったなんてな。まったく、呆れたもんだ。
階段で地下に降り、人通りのない図書館の奥手に案内された。そこには『この先非常口』とか『STAFF ONLY』とか何も書かれていない真っ白な扉があった。
司書はポケットから鍵束を取り出し扉を開けると、「奥に他の司書がいますので詳しくはそちらで」と言い先を促した。
それを了解し扉を入ると、後ろでガチャっと鍵を掛ける音がした。この対応を考えるに、やはりここが特別仕様なようだ。コツコツとヒールの音が遠のいたので、眼鏡美人司書はその場を離れて戻って行ったようである。




