第三話 ワタシ達『ディザイア・シスターズ』‼︎ 〜 アンタ自称『悪魔博士』だろ 〜
「マキよ、色々と大変じゃったの。でもやっぱり、おぬしはいざという時にはアッチの力を使えるからいいのう。どうじゃ? ワシに一つ、ちと身体を預けてはみんか?」
「断るっ‼︎」
アッチの力とは悪魔融合のことだ。ジィさんも前例のない俺の特異体質に興味深々で、解明のためにいろんな実験をして身体をいじくりまわさせてほしいと言っている。もちろんそんなことはお断りだ。断じてな。
「そうか、もったいないのぉ。せっかくおぬしの身体の秘密を暴けると思ったのに……」
残念そうに「はぁー」と溜め息をついて俯むきつつ、近くの『なにか』を手に取った。
「ところでマキよ。この『バクの溜息』はいらんかの? これを使えば相手を確実に悪夢に直行させることができるぞ。どうじゃ、欲しいじゃろ⁉︎ 今なら特別に十万でいいぞ」
「いるか! だいたいそんなもん誰に使うんだよ!」
さっきまでの残念そうな素振りはいったいどこにいったのやら。
「ほーか。じゃ、これはまたの機会にということでこっちはどうじゃ。『オーガの浄血』じゃ。これを飲めば一時的に力が湧き溢れてくるんじゃ。味は保証せんがの」
「だからいらないっつーの!」
隙があればすぐに売り込んでくるところは抜かりがない。
それにしてもどれもこれも胡散臭過ぎるし、危険極まりない物ばかりだ。気が付けばすっかりまたジィさんのペースになってしまっている。はやく話題を変えなければ。
「そうだジィさん。ハーデスを召喚したヤツがこれを持ってたんだが、何かわかるか?」
ユイの親父さんが持っていたエンブレムを見せた。ジィさんはエンブレムを手に取り、眼鏡をかけ直して目を凝らした。
「ほう……これは……」
「これは⁉︎ ジィさんわかるのか⁉︎」
「わからん」
……椅子に座っていたら後ろにずっこていたところだろう。
それはさておき、ジィさんが知らないとなると余程の物か、まったく意味のない物かのどちらかであろう。とりあえず前者であれば、また情報収集を一からやり直さなければならない。しかし、もう他に情報のツテはない。ジィさんに一旦預けて調べておいてもらおう。
「ジィさん。それ、とりあえず預けとくから何かわかったら教えてくれよ」
「うむ。調べておくがあまり期待せんでくれよ。はて、見覚えがあったようななかったような……」
ジィさんは「これはなんじゃろうなぁ」とボヤきながら、頭上で光を色々な角度で当てて眺めつつ、奥に消えて行った。
……なにか大事なことを忘れているような気がする。
「ジィさーん! 頼みごとってなんだぁ⁉︎」
マキはその場で声を張り上げた。
すると奥から、ジィさんが手をちょいちょいと手招きをするような仕草をしながら、小走りで現れた。
「そうじゃった、そうじゃった! すっかり忘れとった」
照れ隠しのような笑みを浮かべていた。おいおい、頼むぜ。
「マキよ、ちとこっちにきてくれんか?」
ジィさんの後について会計用のカウンターに向かうと、なにやら縦長の箱を取り出した。そして静かにそっとフタを開けた。
「えーっと、なんだこれ。ドラムスティックか?」
「これはのう、『ディオニューソスのバチ』といっての。それはもうすごいもんなんじゃ」
色が緑色という以外は普通のドラムスティックにしか見えないが……。色が変なこと以外の凄さはまったくわからない。
「へぇー。で、何がすごいんだ?」
「ん? んー。なんじゃろうな。わからん」
……椅子に座っていたら、またまた後ろにずっこけていただろう。いい加減にしてほしい。
「冗談じゃ。神とも悪魔とも呼ばれるディオニューソスの加護を受けたバチといわれておるんじゃ。ほれ、もうなんかその時点ですごいじゃろ⁉︎ しかし、使い方や効果はわからん。ワシ、使ったことないしの」
結局ほとんど何もわからないじゃないか。他にも色々とツッコミどころ満載だが、そこは我慢して黙って聞いてみよう。
「での、元々は店先に並べてたんじゃが、最近になってたまーに、このバチが急に振動することがあるんじゃ。短い間だけじゃがの。どうじゃ、不気味じゃろ?」
「そうだな。不気味だな」
なんだか先が読めてきた。
「そこでやはり、おぬしの出番というわけじゃ。ほれ、あとは頼んたぞ」
バチを箱に戻し、ジィさんは長年連れ添った弟子に免許皆伝の証を授けるかのように、片手でひっ掴み胸の前にぐっと突き出した。
アンタ自称『悪魔博士』だろ、自分でどうにかしろよ……。
魔刀の件もあるので、嫌だとも言えず仕方なく受け取ることにした。一応、顔には『嫌だ、めんどくさい』と貼り付けておいたが。
「ほれ、急に悪魔が飛び出してきたりしたらワシ、死んでしまうかもしれんじゃろ? そしたら人類の大損失じゃ。なにせワシは『ヘルメス・トリスメギストス23世』じゃからのー」
ヘルメストリ……なんだって? なんでもいいがどうせまた自称だろう。さっき店の前で見た郵便受けには『マエダタダオ』と書いてあったし。まぁいいか。
「わかったわかった。とりあえず預かって様子見るよ。何も起きなかったら返すからな」
「いいとも。ほれ、これやるから機嫌なおせ」
いきなり札束を渡された。これが小遣いということだろう。うん、十枚あるな。ジィさん、こんな額がヒョイッと出るなんて、伊達に変なもん高額で売りつけてないな。
さっ、気が変わって「返せ」と言われても困るのでとっとと帰ろう。
「マキっ! ちと待てい、最後にこれだけ答えとくれ‼︎」
「あぁ⁉︎ なんだよ」
「その十万と『バクの溜息』、額は一緒じゃがどちらがいいんじゃ⁉︎ 今なら『バクの溜息』と交換してやってもいいんじゃぞ⁉︎」
「いらん! 現金で結構だ‼︎」
……やれやれ。要は実験台が欲しいだけなのだろう。十万を渡すよりか『バクの溜息』を試させてデータも取れれば、金も減らなくて一石二鳥だと考えているのだろう。
するとジィさんはあきれながら溜息混じりで言った。
「まぁったく、おぬしは物の価値ってもんが全っ然わかっとらんのぉ。いいかマキよ、もし十万で『バクの溜息』を調達してこいって言われたらおぬしにできるか? 金がいくらかかってもまぁず無理じゃろ。そんな逸品を破格の値段でワシは提供しているんじゃぞ? それでもいらんというのかの⁉︎」
でも売れるかどうかはまた別の話だろう。
「いらんもんはいらん! なにがなんでも現金で結構だ‼︎」
「おぬしは若いからまだわからんのかもしれんが、もう少しのぉ、商売魂があればのぉ」
なにが言いたいのだろうか。よくわからん。
「ふむ。まあそれはいいとして、バチについてじゃが、たしか前に都立図書館に行った時にその資料があったはずじゃ。そこで調べてみるといいぞ」
「ジィさん、知ってるなら自分で行けよ。なんで俺に押し付けんだよ」
ジィさんはバツが悪そうなうえ、アセアセと答えた。
「ほれ、あれだ。あのー、ほらワシ、色々と忙しいんじゃ。わかったらさっさと調べに行っとくれ!」
「はいはい行ってきますよ。じゃ、また今度ぉ」
ジィさんの眼が泳いでいたので何か裏がありそうだ。用心して取り掛かろう。
マキは骨董屋『萬マ殿』をあとにし、都立図書館に向かうのだった。




