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Laugh Chaos  作者: signal.U
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第一話 『変わったの専門』なんでね 〜 マキ探偵事務所 〜

一言でも良いので感想を頂けると嬉しいです。

「ニュースです。昨晩また、謎の猟奇的殺人事件が起きました。今回で五人目の犠牲者となりました。犯人捜査の状況はどうなっているのでしょうか、お話しを伺いたいと思います。警視庁捜……」


ピッ。


都内のはずれにある、小さなビルの一室にあるテレビは、歯切れの悪い場面にも関わらず、一瞬でブラックアウトした。


「あーぁ、誰だか知らねぇが好き放題やってんなー、まっ俺には関係ねぇけど」


全身黒づくめでボサボサの頭に赤い眼をした若い男は、椅子に深座りし背もたれにガッツリもたれかかってつぶやいた。


今日もいつものように何事もなく、ぐでーっとした一日が始まり、ぐでーっとした一日が終わるのが理想であり、それが日常でもあった。


しかし、そんなぐでぐでした生活を阻む唯一のものと言えば仕事であり、これでも探偵事務所を営んでいる。……客はほとんど来ないのだが。


とりあえず月に一人か二人分の依頼をこなせば一ヶ月は過ごせる金額になるのだが、この調子のため、いつでも金欠だ。


黒づくめの男は、金は無いが時間にゆとりある生活が何気に性に合っていて満足していた。金は欲しいがあまり動きたくはないというのも本音である。


結果、ぐでぐでした生活をしながら探偵事務所を文無しスレスレで構えているのが現状だった。


ズズっ。


「……あぁ、やっぱりコーヒーはブラックに限る」


黒づくめの男は至福の一口を飲んだ。その後もいつものようにブラックコーヒーをゆっくりと堪能し、外を眺めてまどろんだ。


窓から差し込む日差しはぽかぽかと気持ちよく、眠りにいざなうには充分な威力を持っていた。

飲んだコップをそばのテーブルに置き、「ふわぁーっ」と、大きなあくびをかます。今日も平和(ヒマ)で結構なこった。


サンサンと降り注がれる眩しい日差しをカットするのに、外出の時にいつも着ている、これもまた真っ黒なコートを頭からかぶった。


そのまま昼寝に直行し、ぐがーぐがーっと、寝息をたてていたのは言うまでもない。





……コンコン、ガチャっ。


「あのぉー、すいませぇーん、どなたかいらっしゃいますかぁー?」


自信なさげなで柔らかな声が、事務所内に響いた。


…………。



しかし反応は返ってこず、ただ辺りには寝息が流れるだけであった。


「あのっ! どなたかいらっしゃいませんかっ⁉︎」


「……んあっ。あぁ、ハイハイ、なんでしょうか」


急に上体を起こした反動で、黒のコートがバサっと床に落ちた。


「きゃっ! そ、そこにいたんですね。はぁびっくりした。あ、あの、ここってマキ探偵事務所であってます……よね?」


まだ覚醒も間もない眼をこすりながら声がした方を見やると、栗色のゆるくふわっとした髪の女が、ドアの隙間からひょっこり顔を出して、不安げな表情でこちらを伺っている。


「え? あぁ。そうだけど」


「やっぱりここであってるんですね⁉︎ よかったー。はい、実はお願いしたいことがありまして」


栗色のゆるふわはどうやらお客のようだ。


黒づくめの男は、正直わざわざ人が気持ちよく昼寝してる時に来なくてもなーっと思ったりもした。


それはさておき、貴重な依頼人だ。ひとまず中に案内し、来客用……というほど全然大層なものではないが、建前上そうしているソファに座らせた。まっ、茶はでませんけど。


「ようこそマキ探偵事務所へ。俺はマキ、『マキアキト』っていうんだがマキでいいぜ。アンタは?」


「私は『アオヤマカオリ』といいます。よろしくお願いします」


二人は軽く自己紹介を済ませた。


アオヤマカオリ……流行りの髪型に茶色いコート、インナーはワンピースでスラっと黒タイツの脚が伸びている。いわゆるイマドキ女子で、見た感じ大学生といったところであろう。そんな女子大学生がこんなところに一体何の用だろうか。


「で、どんなこと?」


マキがどストレートに依頼内容を聞くと、カオリは先ほどまでの雰囲気とは打って変わって、下を向いて俯いた。


ややして、意を決したのか重たく口を開いた。


「あのっ……私の友達がついこの間殺されました。でも犯人がまだわからないみたいで……。どうか見つけてもらえませんか⁉︎ このままじゃサヨが可哀想だし、友達として悔しいんです! うぅっ、なんであんな酷いことを……」


カオリは涙を浮かべ、また俯いた。


うーん。泣いている女子を目の前にこんなことを言うのもアレだが、どうやらこの件はウチの管轄外みたいだ。こういうのは素直に国家権力に訴えかけるか、ウチ以外の通常の探偵に頼るのが最もだ。酷いかもしれないがさっさと追い返そう。


「あー、ごめん、殺人事件ね。だったらウチじゃなくて警察か、他の探偵に掛け合った方がいいよ。絶対にウチに頼むより、そっちの方が確実だから」


これ、正論。マキはさらに「と言うのは」と付け加えた。


「警察でわかんないようなの、俺にもわかんないわけよ。探偵事務所って謳ってるけど、ぶっちゃけ俺、探偵でもなんでもないからね」


右手をヒラヒラさせながら、半分笑い混じりで言った。


自分で言っててなんだが、かなりむちゃくちゃな探偵事務所だ。だがしかし。


「悪いけど、ウチは『変わったの専門』なんでね」


ここはキッパリと言い切った。


そう、ウチは普通の依頼は請け負わない。その代わりに『変わった依頼』は引き受け、どこよりも確実に仕上げる……そういう場所なのだ。カオリの依頼は、我が探偵事務所の掲げる『変わったの』ではないと判断したわけだ。


しかし、カオリは何故かほっと一息ついた。


「マキさん、ニュース見てますか? 最近、連続猟奇的殺人事件が起きてるのご存知ですか?」


そういえば、さっきテレビでそんなのが流れていたのをふと思い出した。


カオリは続けた。


「サヨはその被害者なんです。警察でも全然犯人がわからないみたいで、もう被害者が五人もでてるんです。……思い出したくないけど、左肩から右の脇腹まで真っ二つですよ⁉︎ 普通の人間にそんなこと出来ると思いますか⁉︎ 私はあり得ないと思います! だから私が思うに、マキさんのいう『変わったの』ではないかと思うんですがっ‼︎」


事務所に入ってきたときの自信なさげな雰囲気や、先ほどまでのどんよりとした雰囲気はどこにいったのやら、カオリは勢いよく言い放った。


まぁ、言われてみれば確かにそうかもしれない。天下の警察が犯人を挙げれず、五人も犠牲者を出してしまっているのは、あまりにも不自然だし、ましてやそんな芸当が出来るのは人間離れしたバケモンだろう。……たぶん。


「わかったわかった、そこまで言うなら引き受けてやるよ。もしかしたら、この件はウチの管轄になるかもしれんからな」


「本当ですか⁉︎ ありがとうございます!」


カオリの顔に、パァっと満面の花が咲いた。

しかし、仕事の話はまだ大事なところが残っている。


「で、いくらだ? ウチは安くはないぜ」


「え⁉︎ ……やっぱりお高いんですか?」


もちろん依頼にはそれ相応の報酬が必要だ。ましてや普通じゃない依頼を請けるわけで、当然普通より相場が上がるのが自然だ。


とはいえ、実は料金設定も変わった設定だったりするのは、これまでのカオリの口振りから推測するに絶対に知らないであろう。


「まっ、とりあえずどんなもんか言ってみ?」


満面の花が見るからにしおれていった。


「えーっと……逆においくらですか?」


カオリは持ち合わせに相当自信がないのだろうと思われる。しかし、ウチの料金設定に定数はない。カオリにとってはその点においてはきっと好都合だと思う。


「基本的に本人の気持ち次第かな。その依頼をどのくらい自分の財産を圧迫してでもやってほしいのか、だね」


マキは後頭部をカリカリ掻きながら続けた。


「まっ、要するに全財産の何割出すかってこと。なにせ『変わったの』の依頼だからね。他じゃ請けてくれないだろうし、仮に請けたとしてもウチほどの成果は絶対に上げられないよ?」


しおれた花は梅干しになり、沈黙。


さすがにちょっと言い過ぎたかと心配になってきた。ムチを打ってしまったので、次はアメを思わせるが如く優しく言った。


「まぁ、そんな足元みたりしないからさ。でもほら、報酬はさ、決めなきゃならんだろ?」


「私、大学生でそんなにお金なくて……仕送りとバイト代で少しずつ貯金しながら生活しています。今私が出せるのはこれが限界です」


カオリはガサゴソとバックから、平坦より(ほんの)少し厚みのある茶封筒を取り出し、申し訳なさそうに机の上に置いた。


「これでなんとかやってくれませんか……お、お願いします!」


ガバッと立ち上がり頭を下げた。そしてそのままの姿勢で続けた。


「これ、私の貯金のうちの半分なんです! お願いですっ! これでサヨの無念を晴らしてください!」


カオリの強い想いはしっかりと届いたし、死んだ友達のために全財産の半分を使うというのなら上等か。厚みからしてたいして入ってなさそうだが、しょうがない。大きな声では言えないが、こちらの財布も依頼人を突っぱねるほどの余裕なんてさらさらないし、背に腹はかえられない。やれやれ、いっちょ弔い合戦と行きますか。


「わかった、それでいこう。おしっ、じゃあこれで依頼成立ってことで」


「わぁ、よかった! 断られたらどうしようかと思ったぁ」


下げた頭の状態から浮上した顔には、再び満面の花が咲いていた。


「あぁっ、それとその金はまだしまっとけ。本当に『変わったの』なのかどうかわからんから、解決したらもらうわ」


カオリは「わかりました!」と嬉々として言い、茶封筒をバックに戻した。


「んじゃカオリちゃん、早速事件現場に案内してくれる? 現場、見に行ってみたいから」


「はいっ、おまかせくださいっ!」


満面の花は太陽が当てられたかのように、元気いっぱいにまでなっていた。


マキはカオリに起こされた時に落ちた、黒いコートを拾い上げさっと袖に腕を通し、二人は車に乗り事務所をあとにするのだった。


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