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Laugh Chaos  作者: signal.U
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第二話 ただもう一度だけでいいから微笑んでほしかった 〜 死者蘇生 〜

黒いローブを纏い、フードを被った巨大なガイコツと巨大な釜が現れた。……こ、これが冥府の王と呼ばれる大悪魔ハーデスか!


「ほほぅ、これは愉快だ。まさかこのワガハイが呼び出されるとはな。ゲハハハハ。なんだ、キサマのような矮小な者がこのワガハイを呼び出したというのか? フン、まあよい。して、ワガハイに何用だ。んん?」


低い声が唸る。ハーデスは巨大な釜をかき回し始めた。なんておぞましいバケモノ……いや、悪魔なのだろうか。


タカシはその見た目の恐ろしさに怯えず、気を強く持って答えた。


「私には亡くなった妻、タチバナレイコがいます。どうかそのお力で蘇らせてはくれませんか?」


ハーデスは「ふふん」と鼻を鳴らし……いや待て、鼻はない。ガイコツだ。本来なら鼻がある場所を鳴らしたと思われる。釜をかき回しながら言った。


「死者蘇生とな? よかろう。せっかく呼ばれたのだ、その報いにワガハイがその女を蘇らせてやろう。冥府の王たるワガハイにとっては造作もないことだからな」


が、ハーデスは「しかし!」と付け加えた。


「その女の記憶を持つ者を、ワガハイの釜に放り込む必要がある。何故か? 知れたこと。これまで無数の死者がいるというのに、キサマの言うタチバナレイコという者がどれなのか、ワガハイにはわからないからな。釜に入った者の記憶から冥府より探し出すのだ。より深い記憶を持つ者が釜に入った方がより確実に見つかるぞ? 曖昧な記憶では照合に欠けるでな。さて、キサマにその勇気と根性があるというのか?」


なんてことだ。そんなことは『バルドゥス奇書』には書かれていなかった。いや、待てよ。召喚した後のことについては一切記載がなかった。ということは、召喚して生きて帰った者はいないということではないか! なぜそんなことに気がつかなかったんだ‼︎ 当然、あの釜に入ってしまったら……。


「ふ、二つお尋ねしたい。一つは冥府とは地獄のことなのでしょうか⁉︎ レイコは地獄行きだったのですか⁉︎ もう一つは、もし私がその釜に入ったとしたら、生きて出られるのかどうかを教えて頂きたい!」


ハーデスはまた「ゲハハハハ!」と大笑いし、すんなりその問いに答えを出した。


「違う違う、冥府とは死者が必ず行き着く場である。生前の行いなど関係ないのだ。次は釜のことだな。もちろん、この釜に入ったらタダでは済まんぞ! 記憶を探るというのは釜の中で『一つ』になるということだ。すなわち釜に入ったら溶けて死ぬというわけだ。ゲハハハハ!」


ハーデスはゲハゲハ笑いながら釜をかき回すのを止めない。


なにっ死ぬだと‼︎ それだったら蘇生の意味がないではないか。私はレイコに逢いたいのだ。どちらかが欠けては駄目なのだ!


すると入り口が勢いよく開き、誰かが部屋に侵入してきた。二人だ、二人いる。


「お父さん! こんな所で何をしているの⁉︎ えっ……この大きいガイコツは何なの⁉︎」


ユイはたじろきながら言った。


ゆ、ユイ……なぜここに。それに隣の男は誰だ⁉︎


「ちっ、間に合わなかったか! おい、アンタ! とんでもねぇもの呼び出してくれやがったな! どうしてくれんだ、このクソボケ!」


なんだ、このイキがった男は。私の邪魔をするというのか⁉︎


「うるさいっ! お前達には関係ないだろっ! さっさとここから出て行け!」


ユイが来るなんて微塵にも考えていなかった。この召喚の儀式が知られてしまい、さすがに気が動転した。ユイ……いや、待てよ。そうかユイ! でかしたっさすが我が娘!


「偉大なる冥府の王ハーデスよ。この我が娘ユイを釜に放り込むがいい! レイコの記憶を鮮明に、より深く持っているぞ!」


タカシはビシッとユイを指差した。


すまん、ユイ。しかしこれで、レイコは間違いなく蘇る! 期待と興奮で胸が高鳴った。


しかし、ハーデスは釜をかき回す手をピタリと止め、その低い声で雷鳴のような怒声を轟かせた。


「キサマ! 自分の娘を犠牲にしてまで、その欲を叶えようとするか! この大馬鹿者が! キサマは鬼畜生(おにちくしょう)にも劣るクズだ!」


腹に響く凄まじい怒鳴り声だった。ガイコツのため表情はわからないが、かなりのご立腹な様子であることは誰にでもわかる。


「やめだ。死者を蘇らせるのはもうやめだ。その代わりにキサマのような愚か者に罰を与えるとしよう!」


ハーデスはその巨大な腕を勢いよく振り降ろし、タカシの身体をガッチリと掴んだ。


「うぉっ⁉︎ なんだ、やめろっ! 離せ‼︎」


「ゲハハハハ! キサマはワガハイの釜の中で踠き苦しみ、新たな生命として生まれ変わるが良い。そして、これまでの行いを悔い改めるが良かろう」


タカシはそのままハーデスの巨大な釜の中へ放り込まれた。


あっ熱い! 息が出来ない! があぁぁぁぁ‼︎


「お父さぁぁぁぁぁん!」






……やがて視界はなくなり、真っ暗の中で独りぼっちになった気分だった。私はいったいどうなってしまったんだ、やはり死んでしまったのだろうか。


ひとしきりすると、おぼろげに女の姿が見えてきた。


見覚えがあるような気がするが、誰であっただろうか……。ん、そうか。あれは先ほど手にかけた若い女だ。血塗れで苦悶の表情を浮かべこちらにズルズルと近づいてくる。他にも脳を取り出された老人、血液を根こそぎ奪われミイラのようになった神主、その他にも……


タカシが知らないのもたくさんいて、「痛い」や「苦しい」や呻き声の「オォォ」と声を上げながら、不気味にゆっくりと近づいてくる。かなりおぞましい光景であった。


やめろっ! 来るなっ! こっちにこないでくれぇぇぇ‼︎


しかし、その肉塊達はタカシに向かって進むのを止めることはなかった。何故かはわからないがタカシの身体は言うことを聞かず、逃げように逃げれず、そもそも動くことすらも出来なかった。


ついに肉塊達はタカシの下に辿り着き、服や脚や手を引っ張りしがみついた。タカシはその力に耐えきれず、その場に倒れてしまった。


それを見計らっていたように、もはや誰かもわからない一人の肉塊が背中を覆うように被さり、身体を重ねてきた。


するとその者の悲痛な叫びや、味わった恐怖、苦しみ、それに対する怨みが頭に流れ込んでくる。

あぁぁぁぁ! やめろっ! 頭が割れるように痛いぃぃぃっ! やめてくれぇぇぇ‼︎


一人、また一人と重なっていきそれは何度も繰り返された。そして私と肉塊は一人ずつのペースだが『一つ』となっていき、やがて私は『私達』となった。

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