第二話 ただもう一度だけでいいから微笑んでほしかった 〜 召喚 〜
儀式に必要なモノを集めていくうちに、気がおかしくなっていくのがわかる。殺生してもだんだんなんとも思わなくなってきたからだ。
これは北極熊の精巣、こっちはとある高名な神主の血液を凝血させ調合した血石、そしてこれは一世紀を生きた老人の脳……あれから半年の間、材料集めに奮闘したおかげで、あと少しで私の願いも叶う。
この巨大な魔法陣を描くのに使う、メキシカン・マホガニーから作られた特殊な炭をくれたあの教団員さんは元気だろうか、純木蝋燭を分けてくれた教団員のお婆さんは今頃どうしているだろうか。色々な教団員にお世話になった。
ようやくハーデスの召喚まであと少しというところまできた。あとは若い女の心臓だけだ。一人若い娘を捕まえてくればレイコは蘇る。クックック、あぁどうしても笑いが込み上げてきてしまう。あと少しでレイコが蘇る……。
朧月の霞む空の下、静かにそよぐ微風はは、床にいくつも立てられた蝋燭をユラユラと揺らしていた。
これまで苦労して集めた『材料』を部屋の中央にある祭壇に置き、まるでそこにレイコがいるかのように語りかける。「もうすぐ逢える」と。
ジャラジャラ、ジャラジャラ。
部屋の隅に鎖で手を繋がれた女が、タカシに向かって自己主張をした。
安心してくれ、君の協力のおかげでハーデスを呼び出し、レイコを生き返らせることができる。さぁこれで最後だ。
「君も私のレイコのために、喜んでその身を捧げてくれるね? クックック……いいんだよ、わかっている。涙を流して、そんなに嬉しいのかい? ありがとう、きっとレイコも喜んでくれるよ」
タカシが手にしている血錆びの斧が鈍く光った。
「い、いやっ! こっちにこないで! いやぁぁぁぁっ‼︎」
ブシャっと飛び散った鮮血は、蝋燭の灯火をかき消し部屋を真っ暗にした。しかし、もう手慣れたもので月明かりだけでも解体が出来るのだった。
「さぁ、揃った……ついに揃ったぞ! レイコ! 待っていろ、すぐにこの世に呼び戻してやるからな!」
タカシは再び蝋燭に火を灯し、魔法陣のそばに立って両手を広げた。そして沸き立つ興奮を抑え、ハーデスを呼び出す呪文を唱えた。
すると魔法陣が紫色に光り、もの凄い威圧感が周囲に拡がったかと思うと、祭壇上部の空間がねじれ無数のイカズチが走った。
「出でよ冥府の王ハーデスよ! 我が願いを聞き入れたまえっ!」
ねじれた空間の向こうから「ゲハハハハ」という低い笑い声が聞こえ、待ちわびた冥府の王がついにその姿を現すのだった。




