第二話 もう一度だけでいいから微笑んでほしかった 〜妻の死 〜
「レイコ! レイコ! なんでなんだ‼︎」
妻のレイコが他界した。死因は心臓発作だそうだ。
「我々も最善の処置は施しましたが、なにしろ死後時間が経過していたというのもあり、蘇生はまず難しかったと思われます。大変申し訳ございません、ご冥福をお祈り致します」
医師がそう告げた。
そんなバカな、今日の朝も普通に見送ってくれたのに、突然死んでしまうなんて……。今、目の前で横たわっているレイコにいったい何が起こったのか。
「お悔やみのところ申し訳ございません、当院の入り口でも行いましたが、もう一度遺族確認をさせていただきます。ご主人様は『タチバナタカシ』様でよろしかったですね? この場にはまだいらしていませんが、ご息女様が『ユイ』様でお間違いないですね? 奥様が運び込まれた経緯をお話し致しますので、よろしければ聞いてくださればと思います」
医師はレイコが病院に緊急搬送された経緯を説明した。
どうやら妻の異変に気付き救急車を呼んでくれたのは、会う約束をしていた友人だそうな。
時間になっても現れず電話しても繋がらなかったため、いつもそのあたりはきちんとしているレイコに限っておかしいと思い、わざわざ自宅まで来てくれたそうだ。もちろんチャイムを鳴らしても反応がなく、やはりおかしいと思い裏手にまわってみると、庭先から見える居間でレイコが倒れているのに気付き、すぐに救急車を呼んでくれたとのことだ。だがもうその時には結構時間が経っていたようで、医師のいう蘇生の難しい状態になっていたようだ。自分も仕事だし、娘のユイも学校だったため、その時間は他に誰もいなかった。病院に搬送され、出来得る全ての処置を試みたが、結果はこの通りとのことであった。
経緯はだいたいこんなところで、医師は説明を終えると静かに処置室から立ち去った。残された遺族への配慮であろう。
「レイコ、うぅっ、レイコ……」
納得がいかない。突然死なんて、そんなので納得がいくかっ! 私のレイコを返せ! 返せっクソっ! ……うぅっ、私をおいていかないでくれ。
タカシがレイコのベッドにしがみつき泣き崩れているところに、娘のユイも到着した。レイコの遺体の所までくると「お母さん、どうして……」と言い、手を口に当てぽろぽろとたくさんの涙がこぼれ落ちた。
もうどれくらいの時間、こうしていただろうか。涙が枯れるまでと言ってもいいくらいに二人は泣き続けていた。やがてそれも一旦落ち着くと、室内の近くの椅子に腰を掛け、宙を仰ぎぼぅっとした。ユイもタカシも、まさにうわの空であった。
とりあえず、タカシはギラギリのところで繋がっている意識で、娘のユイにもレイコが運び込まれた経緯を話した。ユイは隣で力無くうんうんと頷いて静かに聞いていた。
説明も終わり、またしばらくぼぅっとしていると、先程の医師が数名のスタッフを引き連れ「これから霊安所に移りますので一緒にお願いします」と言った。
タカシにとって霊安所に移動させるというのは、レイコが死んだということを完全に認めたことになる。しかし、このままここにレイコを置いておくのも気が引ける。
そんな複雑な気持ちだったのであまり気は進まないが、医師の言う通りに妻も含め霊安所に移動した。
霊安所に着くと、医師から「この後ご遺体を葬儀場に移すことになりますが、どちらかお決まりでしょうか」と聞かれた。もちろんそんなのは決めていない。考える時間はあったが、ショックのあまり考える頭はなかった。それでもレイコのためを思えば、ちゃんと葬儀をあげなければかわいそうだ。……まだ心の底からレイコの死に納得したわけではないが。
タカシは自分の真なる想いを押し殺し、辛いのを我慢して葬儀の段取りを行った。ユイの協力もあり、タチバナ家の葬儀は無事に終えることが出来た。
しかし、やはりタカシは未だにそのことがショックでたまらなかった。愛する妻が火葬される時は、いったいどれだけの絶望に打ちのめされたことだっただろうか。




