元アイドルの男〈5〉
「才能屋本部へようこそ♪こちらで、先ほど話した才能やサイコロを買って頂きます。このエリアなら、端末で出てきた才能、およびサイコロをいくらでも買えますので、心ゆくまで買い物をお楽しみ下さい。」
そんな説明なんか聞けない……いや、聞こうと思わなかったほどにここは美しかった。
薄く青がかかった、半透明のイスやテーブル、軽い軽食なら頂けるそうでお店も数件あった。
何が書いてあるのかさっぱりわからんが……。
「あ、そうだ!お名前伺ってませんでしたよね?教えてください!」
「ああ、そういえばな、お前の方も教えろよ?俺は、早川俊と言う。改めて、よろしく。」
「よろしくお願いします!俊さん!私は、水無月天と言います!こちらこそ、改めてよろしくお願いしますね!」
いきなり名前にさん付けで呼ぶとはいささか情緒にかけると思うが、まあこいつは役に立つ(現在進行形で立っている)し、まあ、寛容でいてやるか。
「よろしく、水無月。あっちにあるのは何だ?店の様に見えるんだが、何が書いているかさっぱりわからん。」
「ああ、あれは俊さんが言った通りお店……というか、フードコートですよ?」
なるほど……。確かに、多くの店が連なっているし、前にはいくつものイスとテーブルがある。
少し視野が狭くなっていたのか?
気を付けなくてはな。視野が狭いとろくなことがない……。
とはいえ、さすがに腹は減っているから何か食べたいけれど、何が書いてあるのかわからないところの料理を頼むというのも腰が引ける。
そうか、こいつに聞いてみればいいのか。
「おい、俺はさすがに腹が減っているんだが、フードコートに書いてある文字がなんて書いてあるのかわからないんだが?」
「ああ、教えるのを忘れてました!さっき端末を出した鞄まだ持ってますよね?」
「持ってるけど?」
「その中にこういう、ブローチがあるはずです。出して頂けますか?」
ブローチ?結構きれいで洒落てるデザインなんだな。
まあ、どうでもいいか。えーっと、ブローチブローチと……。
「あったぞ?」
「はい、じゃあそのブローチを貸していただけますか?」
またなんか設定やらがあるんだろう。こいつに従ってみるか。
「ほい。」
「ありがとうございます。えっと……『欲無き者は罰せられず、欲多き者は罰せられたり。』っと。はい、これで設定完了です。これを適当につけといてください。」
「適当にっつうのは?」
「まあ、どこかにつけていたら、文字が読めますよーっていう意味です。」
ふーん、にわかには信じられねえけど、まあ試してみるか。
普通に、首んとこでいいだろう。
……んで?この状態でさっきあった看板を見ると……。
おおすげえ。見えるようになってる。おもしれえ技術だなあ。
「見えるようになりました?軽食をいただきに行きましょう?そのまま端末で才能も買っちゃいましょう?」
「そのまま動かなくていいのか?」
「その端末があれば、いつでもどこでも才能は買えますよ。さあ、何を食べましょうか?」
「ふーん。あ!」
「どうかされました?……なるほど……。あそこのハンバーグが気になってるんですね?意外と味覚はお子様なんですか?」
「ハンバーグが好きで何が悪い!その通りだけどよ。」
「いいですよ。じゃあ、ハンバーグを食べてから才能とその他諸々を買っちゃいましょうか。」
「ん、そうしようか。」
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